この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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36.アンバーだって、自分を誤魔化す。 アンバーside

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「ふうん」
 ちらっとシークを見たけど‥
 あの、無表情野郎が何を考えてるかまでは分からないし、‥別に分かりたいとも思わない。
 どうせ、分かったところで「そうなんだ~」ってだけの事。
 俺には、無関係の話だ。
 人を好きだとか‥そうじゃないかって、‥当事者意外どうでもいい。

 コリンはシークを好き。
 それは、ずっとコリンが主張していることだ。隠すつもりもない様だし、‥言葉とか表情に隠すことなく‥出してきてる。
 シークも‥コリンを好きなんだろう。
 両想い。良かったね~。って話。
 ‥ま、シークは‥どうなんだろ。素直に言うつもりないって感じかな?
 そもそも、‥自分の気持ちに気付いてるんだろうか? もしくは、‥気付いてるけど素直になれないってことかな?
 ‥ヘタレ、ってことかな?
 つい、あいつ見てたら、揶揄いたくなる。
 シークなんてぶっちゃけ怖くないけど、シークの事悪く言うと、‥コリンが怖い。
 コリンは、‥あんな頼りなさそうでふわふわ~ってしてるのに、‥魔術が桁違いだから。しかも、それを使うのに一切の躊躇が無い。冷酷とかそういうカッコいい奴じゃない。あいつは恋愛お花畑脳のハートフル野郎だ。しゃれにならないフルボッコだって「愛の鉄槌」とか、‥前向きでハートフルな言葉に変換するタイプだ。(俺はそこまでされてないが、‥一歩間違えば間違いなくその目に遭っていただろう)
 ‥何言ってるかって、つまり、コリンはヤバい奴だってこと。
 そんな、ヤバい奴が目を光らせてるシークに喧嘩売る‥とか、そんな命知らずなことはしない。
 それにまあ、‥他人の恋路なんか興味ない。
 ‥別にコリンとシークが上手くいこうが行くまいが俺には関係はない。
 関係ないから、手助けする気はないってだけ。別に、上手くいって欲しくないから邪魔したい‥とかじゃない。
 だって、コリンとか‥別にどうでもいい。

 確かに顔はかなり可愛いけど、自分より明らかに格上の魔術士で、誓約士で、性格がかなりアレな奴だ。

 ‥とにかく、性格がかなりアレなのは問題だ。

 俺が付き合うんだったら、‥恋人にするんだったら、顔はまあ、‥いいに越したことはないが、ぶっちゃけ一番重要事項ってわけでもない。
 ‥一緒にいて、落ち着く‥って子がいい。‥笑顔が可愛くって、俺のことがとにかく大好きで、俺に優しくって、俺に甘くって、料理上手で、家庭的な子がいい。あんまりおしゃべりなのは‥ちょっと苦手だな。口が軽い‥とか、もっての外だ。口数は多くないけど、‥今日あった楽しいことなんかをちょこっと、ニコニコしながら嬉しそうに話したりするの。俺の話をキラキラした目で見上げて聞いてくれるんだけど、余計なこと‥仕事の事とか聞いてこない子‥これも、重要だな。
 ‥思えば、けっこう細かい希望がある‥。
 いや、いい子、とかじゃなくてもいいんだ。
 俺にとってかわいい子。俺にとって大事な子。‥俺だけが好きって‥その方が価値があるじゃん?
 人気者で、皆にいい顔見せてる子なんて、‥なんか信用できないし、俺がヤキモチ焼く‥とか‥イヤだ。そんな、俺はイヤだ。

 人のもんとかにも興味ないしね。
 誰かと取り合う‥とかにも興味ない。
 そもそも、そんなに人に対して執着とかない。
 恋人ができても、誰かが横恋慕してきたら、「じゃあ、もういいか~」って思っちゃうかも‥。
 だから、俺が横恋慕とか、有り得ない。

 だけど、ま、今はシークがコリンの事「俺のもん」って主張してないわけだし、横恋慕ってわけじゃないわけだ。コリンに恋愛感情はないけど、‥シークを揶揄ったら面白いし、暫く遊ぼうかな、って思う。

 ‥にしても、

「‥腹減った。‥コリン、お前、料理とか‥出来るのか? 」
 誤魔化そう誤魔化そう‥って思ってたけど‥流石にもう限界って気がする。
 なんか、機嫌悪くなりそうなレベル。‥空腹は人の冷静な思想能力を奪う大きな要因になり得るね、
 ‥そういえば、‥いつから飯食ってないんだろう。
 捕まってから、今までそういえば飯も出てない‥。牢屋だっていっても、普通食事位出るだろう。
 ‥どうせ今から死ぬ奴に、飯なんかいらねえだろう‥って奴だったのか?
 恐ろしいな‥。
 そんなこと考えて青くなっていたら、
「料理‥出来るってどういう意味か‥にはよるけど。不味くても食べられたらいいっていう程度でもいいって言うなら、‥出来る」
 コリンが首を傾げながら、苦笑いした。
 何か? ここは贅沢言わず
「そんなのいいんだ、食えれば」
 って言うべきなのか? ‥俺の立場的にはそうなんだろうけど‥
 いや、いつ死んでもおかしくない「俺の立場」だからこそ‥
「旨い方がいい」
 死ぬ前には、せめてうまいもの食いたい。
 俺が断言すると、
「なら、出来ません」
 何故か丁寧語でコリンが断言した。
 返しが、早い。
「そっか」
 ため息ついた。
 なんか、すげえ、落胆した。
 いつ死ぬか知れない今、最後の食事になるかもしれないものが、旨くない飯。
 そんな自分の不運に、落胆した。
 旨くない飯しか作れない、って断言したコリンに‥落胆した。

 ‥ほら、コリンは俺の理想とはかけ離れている。

 コリンは、‥俺の理想とはだいぶ違う。
 がさつで、料理がヘタで、性格がアレ。
 無いわ~。
 でも、笑顔は‥かなり可愛いわな。一緒にいて‥落ち着かないってこともないし、むしろ楽だし‥。一途でたった一人の事が好き。たった一人に一番の笑顔を向けて、好きって素直に伝えてる。一生懸命で、明るくって‥、けっこういい奴。家庭的‥でないこともない。
 理想と全く違うとは‥実は言い切れない。
 その「たった一人」が俺じゃないってだけ。

 俺のこと一番好きってのが、‥とどのつまり、一番の理想だったってわけだ。

 ‥いや、ないない。横恋慕とか、絶対にない。コリンとか‥絶対にない。
 睨むような目でコリンを見ていたら、コリンは‥だけど、俺なんかもう見ていなかった。
 愛しのシークに
「あ、でもシークさん。僕は進歩する意思は持ってますからね。別に、包丁持ったら手を切る、とかじゃないですし。舌に自信はないですけど、レシピさえ手に入れれば、無敵ですよ。僕、材料の分量を量って、その通りつくるのは大の得意なんです。そういうの、魔術の基本ですからね」
 変なアプローチをしている。
 そういうの、料理と言わない。実験とか調剤って言うんだ‥。
 調剤なら、俺も得意だぞ。‥きっと、コリンより得意だぞ。

「‥色気ねえなあ‥」
 ザッカが苦笑いして、
「ないですね‥」
 ふふ、とシークが微笑む。
 ‥凄い優しい顔で。
 け、なんか見てられないや。
 腐りそうになってたら、
「ナナフルなら、「こんな感じかな」って小皿片手に味見しながら、ぱぱっとあり合わせで料理してくれるぞ? 」
 ザッカの顔が、‥ふわっと優しくなった。
 誰、ナナフル。
 ザッカの彼女か?
 コリンの顔もぷーって膨れて
「‥ナナフルさんと比べないでください。そ‥それに、ありあわせ料理は‥シークさんが上手だからいいんです! 僕は、これからシークさんが食べたことのない様な料理を作って、シークさんに食べてもらうんです! 」
 拗ねてるんだけど、
 なんか嬉しそうだ。
 ‥ナナフル効果? ザッカとコリンがナナフルって人の事好きってことが‥
 なんか、もう無遠慮に伝わってくる。
 なんだろ、こいつら。
 俺なんかこんなところに連れて来ちゃって、自分たちから危機を招き入れちゃってるっていうのに‥何呑気にしてるんだろ。
 ‥なんか、拍子抜けする。
 「拍子」なんて絶対、‥抜けないはずなのに、一番抜いちゃダメなのに‥。
 ‥なんか気が抜けてしまう。

「はい」
 突如、目の前に皿が置かれた。
 湯気が出て、‥なんかとてつもなくいい匂いがした。
「え? 」
 驚いて顔を上げると、相変わらず仏頂面のシークだった。
 いつも通り、無表情、
 憐み‥とかそういう表情を浮かべるわけでも、「どや? 」って顔するでもない、
 いつも通りの、無表情のシーク。
「‥腹減ってるんだろ。ありあわせのもんだけど」
 なんていいながら、他の二人にも皿を配っている。
 スープだ。
 じゃがいもと人参かなんかが入ったスープ。シンプルなスープだ。
 だけど、‥とてつもなく旨そう‥。
「シークさんのご飯!! 」
 コリンが、はしゃいでいる。「美味しいんですよ! シークさんのご飯は! 」ってザッカに自慢してる。‥お前がつくったんじゃないだろうに‥。
 思わず笑ってしまう。

 皿から上がってくる旨そうな匂いに耐えられなくなって、一口

「うまい‥」
 涙が出る程、‥うまかった。
 喉を通ると食事の温かさだけじゃないなんか、「あったかいもの」が身体に染みこんで行くような気がした。
「おいし~い! 」
「うまいな」
 皆に大好評だっていうのに‥
「‥そうか」
 シークは相変わらず不愛想なんだ。
 褒められたら、嬉しそうな顔位してみろってんだ。

 ‥にしても。
「俺、見た目はアレだけど、‥性格がアレなコリンより寧ろシークの方が嫁にしたいかも‥」
 空になった皿をしみじみ眺めて‥幸せを噛み締めながら言った言葉は、でも、なんかちょっと本気。
 このご飯が毎日食べられるとか、ありかも。
 ご飯だけで、‥ありかも。
 いや、‥寧ろご飯だけでいいかも。
 それは嫁じゃないな。‥お抱え料理人?
 ただの魔術士がお抱え料理人とか、ないか。
 色々変なこと‥取り留めも無いことを考えてたら、
「‥あげないけど。‥あげるわけないけど」
 ‥コリンの絶対零度の視線が怖かった。
「‥‥‥‥」
 ‥いや、だから、横恋慕とかないから! 絶対!
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