この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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13.失う怖さ。

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「コリン? 」
 一方、シークはいつまでたっても帰ってこないコリンに首を傾げていた。
 そろそろ小半時(30分)だ。いくらなんでも長すぎる。
 ‥もしかして、迷子?
 いや、迷子になる程入り組んだ森でもなかった。
 まさかね‥。
 でも‥。もしかして‥。
 ‥やっぱり、ペアなんて組むんじゃなかった、って思う。
 失う怖さを知っている。
 これも、ペアを組んでこなかった理由かも‥って思う。
 心配したり、失う怖さにおびえたり‥ペアを組むってことは、怖いこと、苦しいことしかない。
 自分一人なら無理も出来る。だけどペアを組んだら、相手の事を気にかけなければいけない。守らなければいけない。
 自分の意思で組んだわけじゃないけど、‥無理矢理ペアを組ませたコリンに今更ながら怒りの感情が沸き起こってくる。
 しかし、遅い。
 こんな何にもない森で‥。迷子とか有り得ないだろ。
 こんな何にもない森‥
 寧ろ‥って気がする。
 余りにも‥なんてことが無い‥なさすぎる森なんだ。
  入口には警備兵が「ちょっとやり過ぎじゃない? 」って位いて、人の出入りを禁止していた。‥でも、コリンの転移移動であっさり抜けられた。
 厳しく警備しているのであれば、入り口でなくとも、どこかに「敵」が侵入すれば、察知されそうなのに‥今のところ、(察知した)警備兵が動いているという気配もない。
 あるいは‥入ったのは知っているが、取るに足りない‥と放置されているかもしれない。
それは、分からないが確かなのは、この森が何かを隠しているということだ。
 この森は‥見た目通りではない。

 俺は、戦意も殺気もこの森から何も感じなかった。だから、中級以上の魔物はおろか、魔獣もいない‥って思った。
 俺たち「ファイター」が、戦意や殺気で人や魔獣・魔物の居場所を察知するのに対して、コリンは
「魔術士は、魔力で人その他の居場所を察知します。魔術師同士であれば、魔力量も大体わかります。分かるというか‥自分より上、とか下とかわかるって感じですね」
 と言っていた。
 俺が
「じゃあ、居場所が察知出来るのは魔術士‥魔力がある者だけか? 」
 と聞いたら、首を振って
「魔術士が分かりやすいのは確かです。だけど、魔術士以外は分からないわけじゃないですよ。人には、例えそれが僅かでも‥それぞれ魔力がありますから。魔力を持た無い人間っていうのはいないんです」
 って言った。驚く俺に、コリンは魔力についての説明をしてくれた。
「魔法を使える使えないは別にして‥ですけどね。量が少なすぎて使えない人もいるし、量が十分でもそれを使う術を持たない人もいる。‥魔力量が十分にあるけど、魔術士の職紋が出ないって人は、それですね。その人は、その代わり怪我の治りが人より早かったりしますよ。シークさんもこのタイプですね、多いって程ではないですけど、シークさんにも魔力はありますよ」
 その話に更に驚いた。
 今まで誰からもそんな話聞いたことが無かったから。
 でも、魔術士と組んでいるファイターなら常識として知っていたことなのだろう。
 ‥父とは、そんな話をするまでに死に別れた。
 俺が、視線だけで話の続きを促すと、小さく頷いたコリンが
「人だけじゃなく、それは、野生動物でも同じです。魔力があるから、居場所がわかるんです。
 ましてや魔物や魔獣なんかは魔力が豊富だからいたらすぐわかりますね。‥魔力の種類で種族なんかも分かりますよ。あとは‥大体の魔力量なんかも種族によって決まっていますよ」
 と話を続けた。
 そんなコリンが
「ここにはいない」
 って言ったんだから、ここにはいないんだろう。

 でも‥本当はどうだったんだろうか。

 魔力を感じない人間や魔物、魔獣って本当にいないのだろうか?
 いないじゃなくて、‥いるけど分からないってこと、本当にないんだろうか?
 あの魔術も使える剣士‥あいつはどうだったんだろうか?
 あいつは、‥全然戦意も殺気も出していなかったと思う。父さんが、「魔法使い」だって思っていたから。そうでなければ、母さんを前衛に出したりしない。
 そして、‥母さんも迷うことなく、「対魔法使い」の対応をした。
 母さんもコリンみたいに、‥魔法使いとしてどっちが上か‥みたいなのが分かった‥とっさに、察知しただろう。
 同等もしくは、ちょい下位。
 母さんはそう判断した。。
 ‥格上の魔法使いだって分かったら、母さんは手を出さなかった。
「これは、‥危ない。兎に角相手の出方を見ましょう」
 っていって、長期戦に移行するってのが、いつものパターンだった。
 とにかく相手の様子を見て、隙を突きましょうって。先制攻撃を仕掛けるのを辞めただろう。
 先制攻撃‥あの、味方に魔術士の場所を知らせるために投げるカラーボールは、コリンによると
「魔力差があり過ぎると、相手に当たりもしない」
 らしいから。
 きっと(確認したこともないし、今からも確認する術はないが)母さんもその辺りの事を知っていただろう。
 母さんは、どちらかというと用心深い方だった。
 母さんが迷わず先制のカラーボールを投げたってことは‥。

 魔力量を偽れて、戦意も殺気も消せる戦士がいる‥(今はまだ推測だが、だ)。
 ‥父さんや母さんたちの戦士や魔術士としてのレベルは‥今となっては分からない。今の俺が、父さんのレベルを超えているだろうってことは‥でも、分かる。そして、コリンが母さんよりずっとレベルが上の魔術士だろうってことも。
 だけど、それでも‥当たりたくない敵だ。
 コリンと当たらせたくない敵だ。

「コリン‥一体どこに行ったんだ‥」
 俺は、視線をざわざわと葉擦れの鳴る森の奥に移して、もう一度呟いていた。

「? 僕を呼びました? 」
 ひょこ、っと繁から金茶の髪が頭を出した。
「コリン! 」
 つい、頭に血が上った。
「心配しただろうが!! 」
 目を吊り上げて思わずさけんでしまった俺に、コリンはキョトンとする。
「え? ちゃんと言って出ましたよ? それに、僕無敵だからそうそう危ない目になんて遭いませんよ? 」
 コリンが首を傾げる。
 キョトンとした‥心外っていう風な顔をしている。
 ‥甘い!
「何を言ってるんだ! 」
 かっとなった俺が叫ぶと、
 コリンは、額に皴を寄せて、苦しそうにふ、っと微笑んだ。
「自分の身位自分で守りますって。それは、寧ろお願いします。変に心配とかしないでください」
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