この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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10.ご褒美があれば頑張れる‥って思うんです。

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 辺りが暗くなってくると、焚火の周りで毛布にくるまって、座る。
 今まで薪を集めたり木の実や山菜を集めていたコリンも、真剣な顔になって、焚火の前に座っている。
 魔獣が出るから、野宿では火の傍を離れないのが常識だ。
 獣は火を嫌うからだ。
 だけど、火を囲んでいるといっても安心はできない。シークは剣を直ぐに握れるところに置いているし、もやしっ子に見えるコリンだって、魔獣の気配に常に気を張っている。
 コリンには半径5メートル自然に敵を排除のチートシステムがある訳なんだけど、実はあれは、術者が寝ているときは働かない。‥寝ているときほど働けよ、と思うが、そう都合よくはいかない。
 実は自動‥ではなく、術者が常に気配に気を配り、敵‥殺気を発する者を発見したら反射神経で攻撃しているに過ぎないのだ。あまりに条件反射なので、コリン自体殆ど無自覚で攻撃してるから、まるで自動だなって仲間が揶揄って言ってたのが、まるで‥部分が省略され、今に至っている。
 そうやって、警戒しまくっているわけなんだけど‥(さっきコリンが狩りつくしたからか)さっきから魔獣が襲ってくるという気配はない。‥狩りつくすということはしない。そういうのは、食物連鎖だ。バランスが崩れれば、人間に被害が出る。
 中型の魔獣を狩りつくす→敵がいなくなった小型の魔獣が増える→餌である獣がたりなくなって、人里に降りてきて、家畜や人を襲う。単純に分かることだ。だから、森の魔獣討伐は、専門家の支持の下で依頼が出される。
 バランスよく狩る‥とかそういうことだろうか?
 小型で、森でウサギやシカに会う頻度位、中型で、森でイノシシに会う頻度。大型は熊かな。それ位が、丁度いいバランスなのだという。
 ‥今日は、ちょっと多すぎるって感じだったから、‥その分を狩ったくらい‥だと思う。いや、そうに違いない。
 コリンは心の中でこっそりいいわけした。

「‥静かすぎますね」
 ぽつり、コリンが呟いた。
 シークが薪を焚火にくべながら、無言で頷く。気を張っているのだ。今までずっと自分一人で依頼を受けて来た。その度、魔獣に襲われる夜を気を張り巡らせて乗り越えた。今日は、二人いると言いながら、‥シークはまだコリンの腕を信用しきれてはいなかった。‥否、信用しても、シークは絶対に今までのスタイルを変えることはないだろう。自分と、そして同行者を守るために、シークはもっと気を張るのだろう。
 だけど、確かにそのシークにしても‥今日は静かすぎた。ちっとも、魔獣の気配が無いのだ。
 いないと言うか、‥警戒して近くに寄ってこない。コリンが強いから‥とかそういうのはない。魔獣‥特に、小型魔獣はそんなに知恵がない。だけど、結界には弱い。結界さえ張っていたら近寄れない。
 例えて言うならば、蚊みたいなもんだ。蚊は、人がいるから隠れるって感覚はない。人がいる=餌がある の感覚だ。だけど、蚊取り線香に弱い。
 コリンは、結界は張れない。神殿で習ったけれど、まったく向いていなかった。それこそ、あんなに向いていない奴もいないっていう程‥。因みに、あれが、凄く向いてる奴が、神官や聖女になるんだ。(聖女や神官になるための資格は、結界だけじゃないけどね)
「小型の魔獣の気配すらしないですよ」
魔獣の上位の存在である魔物の気配どころか、だ。
「‥ホントに中型の凶暴な魔物なんているんでしょうか」
 コリンが毛布に更に潜り込みながら呟いた。
 夜になってくると更に、冷える。
 辺りには、夜行性の鳥の鳴く声と葉擦れの音以外、何の音もしない。
 時々吹く風が冷たい。
 「人とくっつけば少しは温くなるでしょう? 」‥って、格好のloveチャンスだけど、‥コリンは仕事中にそういうことはしない。しつこい様だが、仕事中、loveモード禁止!! なのだ。
 気配をよむには集中力がいる。別の事を考えている時ではない。
「‥そうだな」
 シークも頷く。
 彼も、さっきから真剣な顔をして周りを警戒している。
 だけど
 周りは、思わず首を傾げる程
 静かだ。
 今は活動時間ではないから‥といっても、「いる」という気配位するだろう。
 商人を跡形もなく消し去る位の魔物‥そんなものが24時間ずっと完全に気配を消して森の奥に潜んで入れる者なのだろうか。
 食事をする為に、野生動物を狩る。
 その際に、多少なりと殺気を発することもあるだろう。
 寝れば、流石に警戒心が薄れる。そしたら、いること位分かるかもしれない。
 だけど、それが全くないのだ。
 一日中、ずっとだ。
 魔物の気配は、絶対に、ない。
「「今日一日、そんな気配はない」ですよね」
 シークとコリンの声が重なった。
「そもそも、‥中型の魔物って誰が報告したんですか? それに、この依頼は調査した騎士団からじゃなかったですよね。普通なら、討伐依頼‥協力依頼位かかってもおかしくないのに」
 コリンが毛布の端を自分の首まで引き上げながら首を傾げた。
 丸い大きな瞳がシークを見上げる。
 相変わらずの美貌に‥シークはまだ慣れることができずにいる。
 さっきまで羽織っていたローブも今は布団代わりにかぶっている。夜、一目はないし、日差しが熱いわけでもないのに、視界と動きが悪くなるローブを着ている必要は無い。
 もっとも、コリンは魔術士だから、そう動かない。
「そうなんだ。依頼は、近所の住民だった。そんな怖いモノがいるなんて、一時も油断が出来ないって。
危ないから閉鎖されてるもんだから、あの道を使っていた商人からは、調査を早く終わらせて、討伐なりなんなりして、閉鎖を解いて欲しいって要望が出ている。‥騎士団が閉鎖しているから、不満も‥言いにくい。だから、ギルドに極秘で依頼をいて来たってわけだ。それが一人じゃなかったから‥まとまって、素人の依頼にしてはいい報酬になっている」
 紳士なシークが毛布をコリンの方に被せてやりながら、「そういえば」とさっきの依頼書の内容を思い出していた。
「だけど、受ける人はいない」
 報酬は高いのに、だ。
「ああ。命を懸ける程でもないからな」
 つまり、素人が出す依頼にしては高いが、ってことなのだろう。
 他人に命を懸ける程の額でもないってこと。まあ、その気持ちは普通に分かる。
 たとえ、普通の報酬の二倍だろうが、命を懸けるには及ばないだろう。それなら、普通の依頼を二つ受ける。
「‥それに、どうもこの依頼を消そうとしている者もいるようだ」
 そして、‥受けない様に何処からか圧力がかかっている気がした‥?
「それって‥」
 ふう、とコリンが小さく一つ息を吐く。
「「調べられると都合が悪い人間がいるから」」
 コリンとシークの声が被る。
「それしか考えられない」
「‥僕もそう思います」
 コリンが頷き
「魔物はホントにいるのかいないのか。いるなら討伐する。いないなら‥魔物をでっち上げた者を探す‥ですかね」
 難しい顔をして話を続けた。シークも頷く。
「‥でっち上げた者は、正直どうでもいい。ただ、魔物がいなければ‥近隣の住人に危険が無ければそれでいい」
「‥まあ、それは一番需要ですね」
「俺は正直‥大商人やら貴族‥金持ちの汚い策略だとか、そんなのはどうでもいい。ただそれに平民が巻き込まれるのが嫌なんだ」
「‥そうですね‥」
 コリンは神妙な顔で頷き、同意した。
 本当にその通りだ。
 金持ちの金もうけなんかの為に、誰かが犠牲になっていいわけがない。
 ふ、とシークが微かに微笑み
「まあ、‥俺がそういうのが嫌だからってだけの理由で、誰かを守りたいとか、そういう大層な理由でもないんだけどな。ただの自己満足だよ」
 と話を締めくくった。
 暫くの沈黙の後、
「‥素敵です」
 ぼそ、っとコリンが呟く。
「ん? 」
 シークがコリンを振り向くと。
 コリンはキラキラした目でシークを見ていた。
「そういうの‥素敵です。シークさん」
「‥うん? 」
 シークが首を傾げる。
 コリンのきらきらした目の意味が分からない。
 なんか、素敵って言われるようなこと言っただろうか?
「嘘っぽい正義を掲げるんじゃなくって、「自己満足」なんて謙虚なこと言っちゃう、シークさんが‥素敵‥。顔も素敵だし、声も‥さっきから、もう‥」
「ん?? 」
 さっきから、なんだ??
 そして、ちょっと引いてるシークにぐいっと詰め寄ると、
「解決したら、お祝いにチューしましょう」
 コリンがシークに向き合い、「ん」っと顎を上げる仕草をした。

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