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9.意外と「お母さん」なシークと、「お父さん」なコリン。~但し、コリンの理想を基準として、だ~

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 シークはあの後ギルドに行き「気になっていた」依頼を、受けて来た。
 依頼内容は、魔物の討伐。だけど、その魔物の詳細は分かっていない。
 被害者が全員行方不明である為、だれも目撃者がいない‥と言うのだ。
 ただ、襲撃現場の状況から、全員攫われたのだろう。
 何人分かの血痕があったが、人数的に見て少なすぎる。たぶん、中型の魔物が攫って巣に連れて帰ったのだろう‥という所見になった。
 そこら辺が、妥当。まあ、よくあることだし‥そういうところだろう。
 ちなみに、魔物が中型と特定されているのは、小型なら、人数がいれば倒せないこともない、大型の魔物だったら、巣に連れ帰って食べないでも、その場で瞬時に食い殺されるだろう‥ってことらしい。
 ‥間をとって中型‥。

「組む、とは言ったが、別に何もしなくてもいい。寧ろ、邪魔になるから何もしないでくれ。危ない‥邪魔になると俺が思ったら、即ペアは解消で、お前には帰ってもらう。それと‥インタビューだか何だか‥の誓約はさっさと解除して欲しい。
 改めて言う。クエストは遊びじゃない。命がけの危険なものなんだ」
 厳しい顔でシークがコリンに念を押す。
 その顔をキラキラした目で見つめながら、「心配してくれてる‥」ってコリンは感激した。「カッコイイ♡」とも思ったけど、それは流石に不真面目だなって思ったので、鋼の心で封印した。
 仕事中、loveモード禁止!!
 仕事中は、相棒ですからね!!
「魔物の種類は何なんでしょう? 中型って‥えらくアバウトな書かれ方だけど‥」
 キリっとした顔で、コリンがシークに質問した。
 依頼書に魔物の種類は書かれていなかった。
 種類も、巣の位置も、数も‥魔物の規模も。何一つわかっていない。
 不確か過ぎて、誰もこの依頼を受けたがらない‥っていうのも、納得できる。
「でも、被害が出ているなら調べて討伐しないと。また被害が出てからでは遅い」
「そうですね」
 コリンも頷いた。

「とにかく、先ずは、巣の詮索からだな。‥森の奥でまず間違いはないだろう」
 シークはそう言って、森を奥に奥に入って行った。
 コリンもその後に続く。
 華奢なコリンの姿からは想像も出来ないのだが、シークに遅れも取らずついてくる。
 身体強化の魔法をかけているということもあるが、もともとコリンは体力がある。
 運動神経が良くないといって、走る、泳ぐ等の身体能力はそう低くない。ただ、兄たちと比べると劣るというだけ。
 あと、短距離型じゃない。どちらかというと、根性の長距離型。
 瞬発力はぴか一だから、短距離が遅いわけではないんだろうけど、結果が出せない。
 あと、握力があんまりない。重いものは持てないし、ボールを投げさせてもあんまり飛ばせない。
 筋肉がついていない様にみえるのも、そういうところからきているのかもしれない。
 だけど、冒険者にボールを投げる必要性はないし、対魔物には魔術がある。冒険者になるのに、不便じゃないとは言わないが、不可能じゃないと思っている。
 シークの手を煩わせる気は、ない。
 いざとなれば守ってくれる、なんて思わない。
 そんなこと、思ってるって考えられてたらどうしよう、って思う。

 対等が常識だ。
 ‥エッチは、シークさん主導がいいけど‥。エッチ‥したことないけど、シークさんにお任せしよう。‥でも、シークさんが他の人を抱いてたとか考えると、‥すっごいもやもやする。
 どんな人だろ。
「どんな人なんですか? 」
 とか聞いたら、きっと迷惑‥ってか、交際もオーケーしてもらってないのに、やきもちとか‥ないか。
 自分を無理やり納得させようとすると、‥またもやもやして来た。

 途中現れる小さい魔獣は、魔術で倒していく。
 少し前を歩くシークの前に現れるか現れないか‥位に倒していく。まるで‥蚊なんかの小さな羽虫を払うように‥倒していく。
 最初は驚いていたシークも、まるで習慣の様に魔獣を倒していくコリンに首を傾げながらも、何も言わないことにしたようだ。

 ‥もしかして、あれ、無意識かもしれない?

「そろそろ昼にしよう」
 火をおこし、焚火をつくって、コリンが倒した魔獣をさばきながら、シークが言った。
「シークさん、お肉をさばけるんですねえ! 」
 コリンが目を丸くした。
「そりゃあ‥」
「そのお肉って? 」
 キラキラした目で、シークの手元を見つめている。
 ‥まさかのまさかの無意識。
「‥コリンが倒したんだろ」
「あ、‥またやっちゃったかぁ。あれ、自動的に働くんです。半径5メートル以内の敵の察知と討伐」
 えへへ、って照れ笑いで‥とんでもないことをさらっという。
 シークは無関心な様子で焚火に薪を足しながら「へえ、周りの奴は安心できないな」と無理に‥意地悪なことを言った。
 そう、無理に言ったんだけど、言いながら「いや、皮肉とかじゃなくてホントそうじゃん‥」って気付いて‥
‥ぞ~とした。
 敵認識されると、自動的に討伐されるってわけか‥。
 ちょっと黙ったシークに、コリンは「あ! 」って小さく叫んで
「あ、人間は別ですよ。まさか、誰かも確認しないまま敵だからって討伐するわけにはいかないでしょ? 」
 慌てて否定した。
 ‥流石に気付かれたか‥。
 ぼーっとしてるように見えるけど‥案外、‥勘はいいのか?
「‥そうだな」
 シークはコリンに背を向けたまま頷いた。
 その間ずっと、手は動かし続けている。
 焚火の火の様子を見ながら、器用に木の棒を削り、肉を刺して焼くようだ。
 コリンがそれを興味津々に覗き込む。
 肉の塊と出来上がった木の棒を手に持ち、それを交互に見比べながら
「あ、これを火であぶるんですね? この棒に刺して‥それ位なら僕も出来るかな‥。あ、案外硬いんですね‥お肉。あ、でもぐちゃっとなった。筋は避けないといけないな‥」
 料理出来るところをアピールしようとして(アピールも何も、街育ちのコリンは、そんなアウトドア料理やったことすらないんだが‥)
 ‥慣れない肉に悪戦苦闘している。
「‥俺がやる」
 シークがコリンからお肉と木の棒のセットを受け取りながら、平坦な口調で言った。
 だけど、呆れた顔で見たり、ため息ついたりなんかしない。
 出来ないことは、出来る奴がやればいい。そう思うだけだ。
 冒険者生活は長いが、ペアを組んで誰かと協力してきたことも、弟子を取ったこともないシークは誰かに物を任せたり、教えたりするということに考えが及ばない。
 コリンは
「‥ごめんなさい」
 自分の出来なさっぷりに、恥ずかしいやら情けないやら‥なにより、いいとこ見せることが出来なくってがっかりだった。
 ‥料理までさせちゃった。
 そんなことまで出来ないって‥僕、何やってるんだろ。
 何の役にもたたないとか‥カッコ悪い‥。
 それもあるし‥なんか、妻からまた一歩離れた‥。
 初対面で失敗したのをば挽回したいのにい‥。トホホだよ‥。
 で、でも、こういうのは男の料理だよね! 妻は‥アレだ。煮込み料理。そういうのは、やろう。でも、ここは鍋がないから仕方が無いってことで。
 落ち込んだけど、持ち前の前向きな姿勢で、気持ちだけでもアゲていこうとしているコリンに
 他人の気持ちの読めない朴念仁が
「はい、これコップが一つしかないから、一緒に使おう。‥先に飲んで」
 すっとコップを差し出してきた。
 焚火にいつの間にかかかった鍋からスープを入れて。
「‥あ‥アリガトゴザイマス‥」
 もう、コリンのテンション、ダダ落ち。メンタル2%とかだ。
 ‥スープ(←コリンのいうところの妻の料理である煮込み料理)まで作ってもらってしまった‥。
 ‥なんかいい匂いがしてくると思ったら‥。
 一緒に使おう‥。それって‥
「あ、間接キスですね」
 ‥動揺して、どうでもいいこと言っちゃった。あ‥コップ回収しないで‥。

 いや、だって嬉しかったのもあるけど、‥ご飯作ってもらったりとか、それは僕がしたかった‥とか、ね?
 ‥いや、出来ないけどね‥。今はね。いつか覚えるぞ!!
「シークさん。‥そのうち、僕が作れるようになりますからね」
「? ん。そうか? 」
 急にそんなこと言われても‥よく分からない。
 シークは首をかしげて、食事の後片付けをした。
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