この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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6.コリンだって「悪いな」と、思ってはいる。

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 自分に背を向けてナイフの手入れをする、見るからに不機嫌そうなシークの背中を見て、コリンは

『流石にあれは酷かったな‥』

 と、反省していた。
 また、やっちゃった。僕って、猪突猛進っていうか‥なんか、思い込んだらつい突き進んじゃうんだよな‥。
 その度に度誰かに迷惑をかけて‥。
 
 それが、今回はシークだったってわけだ。
 でも、
 ‥咄嗟に‥どうしても、一緒に行きたくって、‥自分が止められなかったんだもん‥。

 ふう、とため息が出る。
 ゴロリ、とベッドに横になると、暫く旅支度をしていたシークは、コリンが寝ていると思ったのか、枕元のサイドテーブルに置かれたランプの灯を落とした。
 魔力が無いものでも灯が付けられる、魔道具だ。
 隣のベッドで、シークは自分に背を向けて横になっている。
 その背中を見ていると、今になって初めて、冷静になった。今までの自分の言葉や行動を思い出し、自分の顔がこれ以上ない程熱くなってくのを感じた。

 冷静になると、‥今日一日の事が思い出された。
 ‥思えば‥暴走することは時々あっても、こんなことは、初めてだ。
 告白したのも初めてだし、
 (今日会ったばかりの人に)「一緒に連れて行って欲しい」って泣いて(※実際に、泣いてはいない)我が儘言ったり。
 ‥どうしても止められなかったし、どうしても諦めたくなかった。
 自分の人生を左右すること‥こんなに衝動的に決めてしまうなんて。それも、相手があることを、自分本位にぐいぐいと‥。
 思えば、この頃の自分は変だった。
 いつも、何かに焦っていた。
 就職を決めた時も、思えば‥そうだった。
 それは‥偶然見つけた‥って感じだった(思えば、ね)。幸運な出会いだったとは思うが、‥自分が探し求めて‥って感じでもないし、「どうしてもここじゃなきゃ嫌だ」って思ったわけでもない。

 ここは、他に比べて、まだいいかもしれない。

 あの仕事を決めた当初は、正直こんな感想でしかなかった。
 あの職場だって、僕が良かったってわけじゃない。誓約紋を持っている人を求人に出してみた。‥まさか、ホントに来るとは思ってなかったんだろう。‥凄く驚いていたから。
 誓約紋持ちは、好条件の職場を選び放題だからわざわざ、こんな聞いたこともない小さな雑誌社に入社を希望するとは思わなかった‥って職場の人たちもいってたし、就職課の人にもそう言われた。だけど‥両親にも反対されたから、余計に僕は「絶対ここに入ってやる」って‥却って思った。

 ‥あれって、意地を張ってたんだよね。‥今気付いたら(嘘「今」じゃない。「絶対ここに行きたいです」って就職課の人に言ってる地点で自分で気付いてた。「あ、僕今、張らなくてもいい意地張ってる」って)

 誓約紋は、珍しい紋だ。そして、専門職である青色の紋章の一つだ。
 進化前の魔術紋自体は、割とメジャーな紋だ。
 だけど、紋持ちのなかで割合が高いというだけで、‥紋持ちというのがまず珍しい。
 ある程度遺伝が関わってくるので、やっぱり血筋正しい貴族に多く、平民に珍しい。
 遺伝によらないものも‥珍しくはあるが、ないこともない。
 時々、ほんの時々突然変異で、職業紋持ちの子供が平民に生まれる。
 コリンの家ではコリンも含めて、男ばかり3人の子供がいたが、職業紋持ちはコリンだけだった。両親共職業紋持ちではないし、彼らの両親にも、職業紋持ちはいない。彼らが知っている限りの親戚にもいないらしい。
 だけど、彼らは皆そのことに舞い上がったりもしなかった。貴族から養子の話もあったみたいだが、断ったらしい。
「身の丈に合った生活を、自分の力で」
「幸福と言うのは、努力の先にあるものだ」
 二人の口癖だった。そして、その言葉通り、二人は堅実な生活をしていた。
 他の二人の兄さんたちは、揃って勉強ができたし、手先も器用だった。だけど、コリンは‥本当に職業紋が出ただけで‥特に何も出来なかった。
 ‥寧ろ、頭の出来は普通よりちょっと劣った。
 のんびり、ぼんやり‥の天然タイプだった。
「ホントに天使みたいだね」
 って知らない人には言われるタイプ。
 だけど、コリンは兄弟三人の中では、本当に目立たなかった。
 コリンの兄さんたちも同様に顔がよくって(なんなら性格がしっかりしてる分、顔にも締まりがあった)、こっちは勉強もできで、手先も器用‥。なんなら人付き合いも上手くって人気者だったもんだから‥「コリン天使!! 」って崇め立てて来るようなそんな者たちは彼の周りにはいなかった。
 完全に、兄さんたちの劣化版。「兄さんたちは立派なのにな」「可哀そうに‥」そんな扱いを受けて育ってきた残念な子供だった。
 幸運なことに、両親はそんなコリンを見捨てなかった。
「職業紋を生かして就職出来れば‥」
 と、決して安くはない支度金を用意して神殿にコリンを預けてくれた。
 コリンは、そんな両親に感謝して毎日真面目に勉強した。そして、魔術紋を神官紋に進化させ‥更によりレアな誓約紋に進化させたのだ。
 努力したからと言って、魔術というものは上手くなるというものではない。
 コリンには、勉強の才能も運動の才能もなかったが、魔術の才能はあったのだ。
 誓約紋と魔術士紋が現れた時、
「おめでとう、コリン! 君はこれで誓約士になれる。魔術にも優れているから、ソロで活動するのだって問題はない。将来の就職は選び放題だよ! 」
 いつもは物静かな先輩が珍しく頬を高揚させて喜んでくれて、コリンも誇らしく思ったことを覚えている。
 嬉しくて、‥心が焦ったんだ。
 次に‥次にって。
 資格が出来たなら、次は就職をって。
 早く‥早くって。
 職業の斡旋も勿論、神殿が手伝ってくれる。だけど、コリンは自分で職業を決めた。
 神殿は、‥先輩はコリンに合った就職先を探してくれようとしてたんだ。‥でも、コリンはそれを待っていられなかった。ただ、早く一人前になりたかった。
 兄さんたちにちょっとでも追い付きたい、‥早く両親に仕送りをしたい、って。
 幸い、誓約士に需要はあった。
 というか、‥特に、コリンの容姿に‥だった。
 先輩たちは、コリンを心配していた。
 その容姿の為、彼が嫌な思いをしないかって‥。だから、就職先探しにも色々協力してくれたし「時間をかけてじっくり探すように」って再三忠告もしてくれた。

 焦らない様に。ゆっくりでいいんだよ。
 
 言われる度に、自分の実力不足を言われているような気持になり、悔しかった。
 先輩たちは只の後輩を心配する好意にすぎなかったのに、だ。
 焦っていたコリンには、その好意が分かっていなかったのだ。

 ‥こうして、ちょっと冷静になったから‥分かった。先輩たちは本当に心配してくれてたんだって。
 頭の回転が遅めな自分が‥憎い。

 周りに相談もせずに、コリンが得た就職先は、インタビュアーという特殊職だった。
 それも、民間の二人しか社員がいない小さな雑誌社の、だ。
 両親の落胆ぶりは‥まあ、想像に難しくないだろう。
 落胆というか、‥驚き、呆れてた? ‥よくわかんないけど、止められた。
 せっかく誓約紋が出たのに、専門職の安定した職を得られるのに、だ。
 「インタビュアー」という職種だけを聞いて、友達は、一気に顔面蒼白した。
「辞めておけよ! コリンみたいなもやしっ子、いくら魔術が得意でも、体力で反撃されたら、ひとたまりもないぞ」
 言っている言葉は、悪口の様だが、皆コリンの事を本当に心配している。
 気のいい奴らなんだ。
「あんな危ない仕事! 」
 二人の兄も大反対だった。
 別に過保護気味でもない。当たり前に喧嘩なんかもする兄弟なんだけど、やっぱり普通に弟は可愛い。
 わざわざ、危険な仕事を選ぶのは反対だ。
 友人たちは、顔面蒼白のまま
「インタビュアーって、あれだろ? 皇立機関の‥広報課の便利屋だろ? 」
 ぼそり、と呟いた。
 皇立機関‥つまり、国家公務員であるらしい。それだけ聞いたら、花形と言えないでもないが、インタビュアーは、花形から程遠い、隠密職の‥便利屋だ。
 情報を、「国民の関心を満足させる為」「国民を安心させるため」という大義名分でインタビュアーに収集させる。
 情報‥つまり、自白その他を強要する組織だ。
 その対象がえげつない。他国の要人だとか、大会社の偉いさんだとか‥どう考えても命の危険を冒さないと近づけない人たちばかり。
 ‥護衛だとか、警備だとかをかいくぐらないといけない。‥危険度は、ある意味、犯罪容疑者に近づくどころではない。
 「強制的に」インタビューする、自白強要屋‥。だけど、「それでは人聞きが悪いので」通称は「インタビュアー」と呼ばれている。
 必死に力説する友達や兄弟に面食らいながら、コリンは苦笑する。
「う~ん。というか‥違う。
 皇立機関で働くんじゃなくて、僕が働くのは、民間の雑誌社。
 なかなか情報として世に出ていかない、冒険者の貴重な生の意見やなんかを本にして、将来冒険者になりたい人なんかに読んでもらおうっていうのが創刊の目的‥っていう雑誌のインタビュアーさん」
 そういえば、両親以外兄さんたちにも話してなかったね。
 って付け加えて、てへへって笑う。

 ‥え。
 なにその
 怪しい雑誌。

「いい仕事だよね。平和的で」
 ニコニコとコリンが笑う。
 その可愛い笑顔が‥寧ろ憎らしい。
 何なら、「こいつ、絶対アホだよね」って思ってしまう。
 可愛い子ってアホっぽく見えるよね、ってアレだ。

「ってか、誓約士って何? 」

 そもそも、誓約士自体知らない者も多かった。
 子供の頃からの友人の中には、勿論そんな者も沢山いた。
 所詮、自分たちには縁遠い話だ。

「なあ、時間を止めるって‥どんなだ? 何のためにそんなことするんだ? それって、犯罪じゃね? 」
「例えば、女の子の時間を止めて‥何か‥イヤラシイな」
「お前は発想がイヤラシイ」
 ああ、時間を止めて‥その間に女の子に「イヤラシイことしちゃったりする」のかって? 
 やんないよ~。
 ‥てか、そんなの全然興味ないよ。
 ‥平和だなあ、って思って、別に何も説明はしなかった。
 平和に誤解しててくれたらいいやってね。
 まあ、誓約士なんて関わらないで済む方が人生平和だからね。

「その、雑誌社でお前は何をするんだ? ってか、なんで雑誌社が誓約士を求めているんだ? 」
「だって、Sランク冒険家って、忙しいじゃない? それに、お話をじっくり聞いてくれるってフランクな人ばっかりじゃないだろうし? 誓約士がいるっていうか、‥突撃取材の出来るちょっと器用な魔術士がいるっていう感じ、かな~」
 コリンがにこ、っと両親と兄弟に説明した。
 平和的に、冒険者の時間を拘束して‥「インタビュー」する??

「いやいやいやいや、それおかしいだろ!! 」
「絶対おかしいって!! 」
「今すぐ言って、断ってこい! そんな怪しい職業!! 」
 二人の兄さんたちと父さんが次々と説得してくる。
 でも、
「え~、やだ」
 ニコニコ笑ったまま、コリンは意見を変えない。
 それどころか、‥全然聞いてないみたい。
 コリンは、変なとことで頑固なんだ。
「絶対 や だ! 」
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