この度、押しかけ女房に押し切られました。 ~押しかけ女房はレア職でハイスペックな超美人でした~

文月

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2.少年のありえない職業と世間一般の「誓約士」の認識。

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「う‥。あの‥、その‥。僕、誓約士のコリンっていいます! 僕と‥お付き合いしてください!! 」
 がっと膝をつくと、シークの右手を両手でぎゅっと握りしめ、コリンが真っ赤な顔でシークを見上げた。
「へ?! え!? 」


 少年のありえない言葉に‥
 シークは、‥更に固まった。
 さっきとは違う意味で、固まった。
 目の前には、盛大に赤面している、美少年。
 大きな目を潤ませて、シークを見上げる美少年の破壊力は半端じゃない。一瞬で脳のなんかの線を焼き切られそうになる。
 が、そこは、あれだ。百戦錬磨のSランク冒険家ってのは伊達じゃない。そこは、ぐっと踏ん張った。
 でも。
 え?? 何? この美少年‥コリンは、誓約士で、俺と‥付き合いたい?? 
 もしかして、それを言う為に「誓約」して、俺を拘束した??
 いや、そんなわけはない。落ち着け。
 心の中は、目下大混乱中だった。

 状況を整理しよう‥。(さっきのあれは置いといて‥)
 現在俺は、氷結の魔法によって固められて‥つまり攻撃されていて‥??
 攻撃‥ではないな。破壊力は凄かったけど。
 精神攻撃と言えるほどの悪口を言われた‥とかいうわけでもないな。
「お付き合いしてください! 」
 って‥。
 ‥え? どういうこと?
 そもそも、‥君、男でしょう? 僕とか言ってたしね。「実は女なんです」ってことでも‥無いんだよね??

「え? ‥ごめんなさい‥無理です」

 思わず、何も考えずに‥考えるまでもなく即答していた。
 目の前の真っ赤な顔した美少年が焦る。
 ばっと、慌てて、握っていたシークの手を離す。
「あ‥すみませんっっ、そうですよね。すみません、ホントに‥そうですよね‥。僕は一体何を‥頭に血が登っちゃって‥とんでもないことを‥ホントにすみません。出来れば忘れて下さい‥っ」
 真っ赤な顔のまま、泣きそうな声で嘆願している。
 ‥ええ‥そんなに、恐縮しないでも‥。
 そんなに恐縮されたら、なんか‥悪い気すらしてくる。
 コリンの庇護欲をそそる可愛らしい容貌も合わせて、自分が物凄くとんでもない悪者で、少年を虐めている‥様に見えて来る。
 そして、今までやけに警戒して来た自分がおかしいような気にもなった。
 誓約なんておっかないこと言ってくるから身構えたけど‥なんだ、怖い子じゃないじゃないか?
 ‥なんだか、身体の力が一気に抜けた気がした。
「‥ホント‥僕何言っちゃってるんだろ‥」
 コリンがもう一度呟いて、力なく、へにゃりと眉を寄せる。
 コリンの氷結の力も緩んだから‥だろう。シークの身体が急に自由が利くようになった。
 まるで、金縛りが一気に溶けたように、
 身体の力が抜けた。
「はは! なんだ、気が動転してしまったのか。で、君の本当の用は何だったの? 」
 身体の自由が利くようになると、自然に顔の筋肉の緊張も綻んだ。シークは、ふわ、っと自然に微笑むと、コリンにさっきよりも優しい口調で言った。
 ‥言って、はっと我に返った。
 そうだ、「誓約」
 俺はさっき、この少年に「誓約」権を行使されたんだ。
 そういえば、氷結の魔法は解けたが、「誓約」によって、自分の身体は完全には自由に動けない。
 ‥ごくり
 思わず再び唾をのみ込んだ。
 この子は、‥確かに凄腕の誓約士で、恐怖に値するほどの魔術士なんだろうけど‥本当に怖いのは、誓約士じゃない。誓約士と契約している者だ。
 誓約士と契約して、自分を拘束することを希望している者が、コリンの後ろにいるのだ。‥何の用事だろうか‥。
その用事とは何で、自分を呼び出した相手とは誰なんだろうか。
 しかし、さっきのシークの笑顔でコリンの顔は、ぱっと明るくなった。

「え! あ! はい。そうなんです! あの‥シークさん!
 僕の‥インタビューに答えてもらえませんか? 」

「え? 」
 ‥? 再び思考がフリーズした。
 シークは首を傾げて
「インタビュー? 」
 恐る恐る反芻する。
 ‥なんだろ。俺は聞き間違えたのか?
 コリンは大きく頷いて
「はい! 僕、インタビュアーなんです。今回、シークさんにはインタビューの為の時間を貰う為、誓約を行使させてもらってます! 」
「へ!? 」
 インタビュアー?
 インタビュアーってなんだ? ‥もしかして、あの、政府ご用達の密偵か!?
 コリンは、シークが誤解しているのを分かったのだろう
「あ、‥政府の用事じゃないです。僕、雑誌社に今日から勤めることになったコリン・オーカーです。あ、これ名刺です」

 コリン・コーナー
 雑誌社「冒険者たち」編集局所属

 ‥なにこれ、怪しい‥。
 その雑誌‥一体誰が読むの??
 冒険者? 冒険者向けの情報雑誌? ‥読まないと思うよ?
「え‥君は誰かに頼まれたとかではないの‥? その、‥何か理由があって‥」
 ‥誰か、って例えば警察とか神殿関係者とか‥。って、俺には全然やましいところなんてないんだけど‥。
 コリンはきょとんとした顔になる。
 そして、すぐに「ああ、相棒の事ですね」って納得した顔になる。「誓約士が出てきたら普通はそう思いますよね」「すみません」って。
「えっと。誓約権の執行の理由は、シークさんにインタビューするために、シークさんに足を止めてもらうこと、です! ただの、雑誌社に勤めてる僕には、誓約権っていう大層なものは無しですよ。誓約施行後も‥あくまでも、任意で、シークさんにインタビューに答えてもらえたらなって。‥まず話を聞いてもらおうと、拘束させてもらいました! 」
 ふわっと柔らかく微笑んで、コリンが明るい口調で言った。
 ‥任意だのに、取り敢えず捕まえようってのが、嫌だな。
 それにしても、誓約士として働いているけど、別に誰かと相棒を組んでいるわけでもない‥。
「じゃあ、君はソロってことか? 」
 ‥ソロで動く誓約士って聞いたことない。いや、いるのは知ってるけど、‥見たのは初めてだ。
 というか‥ソロで動けると教会に認定される魔術レベルにこの子は到達しているってわけか‥。
 それも恐ろしいな。
 いくら本人が希望しようが、魔術や剣術のレベルが「一瞬の拘束しか出来ないレベル」しかない、と教会が判断したなら、教会からソロで活動する許可が下りない。
 誓約士が捕まって、悪人の手に渡ると被害を被るのは誓約士本人だけではない。寧ろ、誓約者本人に損はない場合も多い。‥被害を全面的に被るのは、雇用者‥国であり、責任問題の責任を取らされる誓約者協会だ。
 だから、ソロで活動を許可することは、そうない、‥というか、今までは無かった。
「ええ、そうですよ? 」
 コリンは、ケロッとした顔で、頷いた。
 ‥自慢するでもなく、ケロッとしてる‥。
 それにしても、だ。

「仕事は‥誓約士で、‥インタビュアーで、‥雑誌社勤務? 」

 そんな、希少中の希少なソロ誓約士が‥インタビュアーで‥それだったら分かるが‥雑誌社で働く?
「ええ。そうです。珍しいんですよ~。今現在僕だけなんです! 」
 訝しそうに眉を顰めるシークに、コリンは胸を張って笑顔で答えた。
「‥‥」
 インタビューするために、目的の人物の時間を拘束する誓約士‥。
 ‥聞いたことない‥!! そんな、誓約士、聞いたことない!!

 誓約士とは、契約者となるターゲットと「(一方的に)誓約する」のを職業とした者である。
 一方的に誓約し、その時間を拘束する。
 ただ、それだけ。その後尋問したりするのは誓約士の仕事ではない。
 誓約士は、ターゲットの一瞬の隙を見極めてターゲットの時間を拘束する「だけ」が仕事なのだ。
 そう、普通の誓約士はそれだけ単体では、仕事として意味をなさない職業なのだ。
 需要もなさそうな‥しかも、そう難しくもない職業と馬鹿にすることなかれ。
 相手の一瞬の隙をついて、どんな相手だろうがその動きを止めさせるのは、並大抵の事ではない。
 剣術の達人なら、隙のない剣先を相手に突き付ける‥なんてこともするかもしれない。魔術士なら、魔法だろう。だけど、そんなことは何の分野にしろ‥達人にしか出来ない技なのだ。
 ただ、身柄を拘束するなら「警察です、少々時間よろしいですか」ですむ。誓約士が出て来るのは、‥そんなレベルの話ではない。
 例えば、警察が犯人逮捕の為に、まだ証拠も揃ってないし、逮捕の決め手にもかける‥だけど、完全に怪しいと刑事の勘が叫ぶ容疑段階の一般人の身柄を一時的に確保する必要がある時。
 その際、「容疑が晴れるまで、身柄を拘束するのを(一方的に)誓約させる」のが誓約士の役割である。
 誓約士の誓約は、一度(一方的に)交わされたら、その目的が果たされる(つまり、さっきの件だったら、容疑が晴れるもしくは、有罪が確定して、その身柄が警察機関に移される)まで、決して解除されない。
「こいつは、怪しい」
「そうですね」
 相棒と意見が合えば、誓約するため動く。
「責任は総て俺が取る! 」
 誓約士と相棒の契約を結ぶのは、そういう、熱いタイプ‥「刑事の勘」‥タイプの刑事が多い。
 誓約士は、神職だ。
 契約士には、神の加護があり、そう犯人やなんかに殺されたりしないし、また、神に誓って私利私欲では動かない。そういう信頼がある。だから、誓約権が与えられている。
 誓約士は、誓約士である以前に、「神官紋」をもっている神官だ。
 しかしながら、敬虔な神官なら、誰でも「誓約士」になれるわけではない。自己防衛能力に問題が無いこと‥「誓約士」として、十分なレベルの魔術力を有していることが第一の条件になってくる。
 他人の動きをまず強制的に止めるのだ。契約を結ぶ以前に、物理的に契約者の時間を止める必要がある。そして、それは、武力ではなく魔力であるという決まりがある。
 無傷で、目標人物の行動を制止させる。
 武力は、多少なりともターゲットを傷つける恐れがある。
 だから、魔力の秀でた者のみが、誓約士になれる。
 相手の一瞬の隙をついて、拘束する。
 それは、一瞬の判断力とセンスと瞬発力を要する。
 そして、誓約士に必要な条件は、そういう技術面のみではない。
 「誓約士」は、人物的に問題がないこと、本人に邪心が無いこと、また、その能力を悪用しない公序良俗に反しない‥等細かい決まりが沢山ある。
 専門職にして、品行方正を求められる希少職。
 ほんの一握りの選ばれた人間。
 誓約紋を持っている者は、その人柄をも神殿に保障された人物といえよう。

 まさに花形。

 警察や司法と組んで犯人確保に協力する、憧れの職業。
 ‥そんな誓約士がソロでインタビュアー?
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