現代百鬼夜行 短編集

遺書

先週、叔父が亡くなっていたと親類から連絡があった。



死因は自殺だった。ドアノブにタオルを巻き、そこに首を掛けて死んだらしい。
一人で生活していた叔父。
遺体は腐敗し異臭を漂わせていた。
その異臭が周辺まで広がり、ようやく近所の人からの通報で発見された。
重みで首はちぎれタオルに残り、胴体部分は床に落ちてていたようだ。



私はその叔父が大嫌いだった。
子供の頃から思い出すのも悍ましい、セクハラ行為を会うたびにされていた。

ずっと我慢してきた。
幼かった私には抗う方法すら思いつかなかった。
ただひたすら耐えてきた。
私が我慢すれば全て丸く収まるんだ。そう思ってきた。

だけど…

先月、法事で集まった際にまた叔父に別室に連れ込まれ、同様な行為をされそうになった。

それを私を探しにきた母が見つけて助けてくれた。

私は泣き崩れながら、今までの事を全て両親と親戚一同の前で打ち明けた。

叔父は私の両親から顔の形が変わるまで殴り続けられ、親戚一同から罵られ、縁を切られてその場で追い出された。

私はそれを冷めた目で見続けていた。

全然可哀想だとは思わない。
慈悲の気持ちなんてこれっぽっちも沸かない。
私はずっと苦しんできたんだ。いい気味だ。

あの日以来、私は悪夢の中にいた。

叔父の顔が殴られ歪んでいく様を見て、少し心が晴れたのを覚えている。



その叔父が亡くなった。

私の家族も親類も葬儀には行ってない。
引き取りての無い遺体は、無縁仏として処理されると小耳にはさんだ。



全て終わったんだと私は思った。



今日、私宛にメールが届いていることに気づいた。

送信者に心当たりはない。

見ずに削除するかどうか考えた。嫌な予感がした。見ないほうがいいに決まっている。



だけど私はメールを開いてしまった。







あれから少しの時間が過ぎた。

なぜ私が君にこのメールを書いたか、理解に苦しむだろうね。

ただ、わかってほしい。私は君のためにだけ生きていた事を。

のぞむものは君の幸せだけだったんだよ。

後はもうどうでもいんだ。今はこの身が朽ち果てるのを待つだけだ。

ロウソクの火が消える前の灯りが私の命だ。今は強く輝いているがもう尽きる。

にんげん、誰もが幸せになれるわけじゃない。

いつも君の父が私に言っていた言葉だ。

まるで今の私の状況を見てたかのようだ。

すべてがもう終わる。闇が私達を包んでくれる。さあ、一緒に逝こう。







画面を見たまま私は硬直してしまった。



悪夢は終わっていなかった。