14 / 30
想い 1
しおりを挟む
海に向かう前に俺は日課にしているウォーキングを先に済ますことした。
コテージから道の駅に向かう外周道路を歩く。
そこそこのアップダウンがあり、あっという間に俺の体から汗が吹き出す。
膝の怪我の影響で、まだ走る事は出来なかった。
以前のようにサッカーグラウンドを全力で駆け抜けるようになるまで、どれくらい時間が掛かるのだろう。
場合によっては受験終了後に左膝靭帯の再建手術をするかもしれなかった。
それでも3キロ程の周回道路を30分くらいででバンガローの管理室前まで戻ってきた。
体力的には以前と比べてそんなに落ちてはいない。
汗をかいた為に喉の渇きを覚えた俺は、管理室前にあった自販機でドリンクを買おうとしていた。
思案の結果、麦茶を選んでボタンを押す。やっぱ夏は冷えた麦茶でしょ。
「ガコンッ」と音を立て取り出し口に商品が転がってきた。
しゃがんでドリンクを取り出そうとした時に、誰かがこちら側に歩いてくる足音が聞こえてきた。
足音の主が外灯の下に差し掛かり、姿が確認できた。
柏本夏向だった。
しゃがんていた為か、俺には気づいていないようでそのまま海側へと通り過ぎて行く。
普段の俺ならそのまま声を掛けたりはしないんだろうけど、この時俺はしゃがみこんだままで柏本に声を掛けていた。
「おーい!柏本!」
「ひやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
飛び上がりながら、悲鳴に近い大きな声を柏本はあげた。俺が呼びかけた声より遥かに大声だった。
反応が予想外過ぎて、俺は大笑いしてしまった。
「あははは。なんつう声を出すんよ」
「え?誰なん?」
ゆっくりと、しかも恐る恐るって感じでこっちを振り返り、俺の顔を繁々と見ている。
暗さに慣れたのか、ようやく俺と認識出来たようだ。
「え?えええ?さっ佐藤君?」
「そうよ、こんな夜中に何してんの?」
薄暗い中でも顔が紅潮しているのがわかった。目には少し涙も溜まっているように見えた。
どんだけ驚いたんだよ。
「顧問を探すついでに散歩しようと思ったんやけど、思ってたより外が暗くて…急に声が聞こえたけん、ほんまにびっくりした…」
「柏本の叫び声でこっちが逆にびっくりしたわ。先生ならおる場所知っとるよ」
「怖いのほんま苦手やけん…ほんまに?みんな探しよんやけど…」
「うちのコテージで兄貴と呑んでるよ。」
「そうなんね!よかったらコテージの場所教えてくれん?うち見に行くけん」
「それやったら俺が案内するわ。その方が早いやん」
ウォーキング前に自販機の横に置いておいた釣り道具を抱えて立ち上がった。
よく考えたら俺、不用心な事をしてんな。
まあ世の中悪い人ばかりじゃないはずだ。
「こっちやで」
俺があるきだすと小走りに柏本が駆け寄ってきて、俺の右側に並んだ。
そして一度俺の方を見てうれしそうに歩き出した。
「佐藤君、聞いていい?」
「うん?。いいけど何?」
「そのさ、どうして佐藤君のお兄さんと顧問が一緒に呑んでるん?全然知り合いっぽくはなかったんやけど」
もっともな疑問だった。どう答えたらいいんだろう。
「えーっと簡単に説明すると、先生が兄貴のファンみたいで、んで先生の方から誘ってきたっぽいんよね。さっきのバーベキューが終わったあとしばらくしてコテージまで来たんよな」
説明しながら柏本の顔を見た。懸命に理解しようと努力しているようだった。
「要するに、顧問が佐藤君のお兄さんを訪ねてコテージにいるってことだよね?」
「うん、間違いではないな!」
どうやら半分は伝わったようだった。と同時にコテージに到着した。
玄関を開けるともう二人の声が聞こえてきた。靴を脱ぎ捨ててリビングに向かう。
「先生おる~?」
「幸太、もう釣れたのか!」
少し顔が赤くなっているゆき兄がソファーに座っていた。
「まだ海に行ってねーよ。それより先生は?」
「今トイレに行ったよ」
しばらくすると水が流れる音がして、トイレの扉が開いた。
「おお~そこにいるのは優等生の幸太君じゃないか~」
白地あからさまに酔っ払った威厳の感じられない数学教師が現れた。
酒臭い……あれからも相当呑んでいたようだ。
「先生、柏本が探してたから連れてきたで」
「え?柏本さん来てるのか」
先生よりも先にゆき兄が反応した。
「幸太、あがってもらえよ」
玄関口にいる柏本の方をリビングから顔を出して見る。
俺は笑顔で首を少し傾げて合図した。
「お邪魔します!」
割と大きな声で柏本は挨拶をして上がってきた。
「夜遅くにすみません」
ぴょこんとお辞儀をして柏本はゆき兄に声を掛ける。
「全然構わないよ。こちらこそ遅くまで先生を引き止めて迷惑を掛けてしまったかな」
「どうしたね柏本君、何かあったのかね?」
俺の様子から緊急の要件では無いことはわかっていたのだろう。
少しおどけた感じで先生は柏本に話しかけた。
完全に酔っ払った森本先生はソファーに戻り、ニコニコ笑っている。
いつも仏頂面で、あまり感情を表に出さない学校でのイメージとは大違いだ。
「何人かはもう課題作品の選定が決まったので先生に提出する段階になったんですが」
「じゃあUSBに入れて…」
「もう入れてあります」
「と、いうことは…」
「先生待ちの状態です」
それと聞くと、森本先生はがっくりと肩を落とした。そして大きくため息をした。
「お兄さん、楽しい時間が今終わりを告げました。今日は本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそ有意義な時間を過ごせました。是非またゆっくりと呑みましょう」
森本先生が立ち上がる。が、かなりふらついている。
「先生、危ねーわ」
後ろから俺は先生を支える。
「大丈夫大丈夫!これくらい余裕だし!」
ものすごい大きな声で先生は話す。やっぱ酔ってるなこれは。
ふらつきながらなんとか玄関まで先生は辿り着いた。
そして裸足のまま玄関から出ようとする。
「先生、あの靴を…」
柏本が少し引き気味に先生に知らせる。
「おお、柏本さすがによく気がつくな」
いや、誰でも気づくだろう。これは少しやばい状態なのかもしれない。
俺はゆき兄の方を見た。ゆき兄は笑いながら頷く。
「じゃあ、二人を送ってくるわ。んでそのまま行ってくる」
「頼むわ、幸太。俺も結構酔ったから先に休んでおくわ。お前の事だから大丈夫だろうけど、一応夜の海は気をつけてな」
「了解よ、んじゃ行ってくるな」
俺は先生の左側を、柏本は先生の右側をそれぞれ支えてコテージを出た。
「先生は酔ってないんだぞ~!」
無駄に上機嫌の先生を引きずるように、俺達は写真部の宿舎を目指した。
コテージから道の駅に向かう外周道路を歩く。
そこそこのアップダウンがあり、あっという間に俺の体から汗が吹き出す。
膝の怪我の影響で、まだ走る事は出来なかった。
以前のようにサッカーグラウンドを全力で駆け抜けるようになるまで、どれくらい時間が掛かるのだろう。
場合によっては受験終了後に左膝靭帯の再建手術をするかもしれなかった。
それでも3キロ程の周回道路を30分くらいででバンガローの管理室前まで戻ってきた。
体力的には以前と比べてそんなに落ちてはいない。
汗をかいた為に喉の渇きを覚えた俺は、管理室前にあった自販機でドリンクを買おうとしていた。
思案の結果、麦茶を選んでボタンを押す。やっぱ夏は冷えた麦茶でしょ。
「ガコンッ」と音を立て取り出し口に商品が転がってきた。
しゃがんでドリンクを取り出そうとした時に、誰かがこちら側に歩いてくる足音が聞こえてきた。
足音の主が外灯の下に差し掛かり、姿が確認できた。
柏本夏向だった。
しゃがんていた為か、俺には気づいていないようでそのまま海側へと通り過ぎて行く。
普段の俺ならそのまま声を掛けたりはしないんだろうけど、この時俺はしゃがみこんだままで柏本に声を掛けていた。
「おーい!柏本!」
「ひやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
飛び上がりながら、悲鳴に近い大きな声を柏本はあげた。俺が呼びかけた声より遥かに大声だった。
反応が予想外過ぎて、俺は大笑いしてしまった。
「あははは。なんつう声を出すんよ」
「え?誰なん?」
ゆっくりと、しかも恐る恐るって感じでこっちを振り返り、俺の顔を繁々と見ている。
暗さに慣れたのか、ようやく俺と認識出来たようだ。
「え?えええ?さっ佐藤君?」
「そうよ、こんな夜中に何してんの?」
薄暗い中でも顔が紅潮しているのがわかった。目には少し涙も溜まっているように見えた。
どんだけ驚いたんだよ。
「顧問を探すついでに散歩しようと思ったんやけど、思ってたより外が暗くて…急に声が聞こえたけん、ほんまにびっくりした…」
「柏本の叫び声でこっちが逆にびっくりしたわ。先生ならおる場所知っとるよ」
「怖いのほんま苦手やけん…ほんまに?みんな探しよんやけど…」
「うちのコテージで兄貴と呑んでるよ。」
「そうなんね!よかったらコテージの場所教えてくれん?うち見に行くけん」
「それやったら俺が案内するわ。その方が早いやん」
ウォーキング前に自販機の横に置いておいた釣り道具を抱えて立ち上がった。
よく考えたら俺、不用心な事をしてんな。
まあ世の中悪い人ばかりじゃないはずだ。
「こっちやで」
俺があるきだすと小走りに柏本が駆け寄ってきて、俺の右側に並んだ。
そして一度俺の方を見てうれしそうに歩き出した。
「佐藤君、聞いていい?」
「うん?。いいけど何?」
「そのさ、どうして佐藤君のお兄さんと顧問が一緒に呑んでるん?全然知り合いっぽくはなかったんやけど」
もっともな疑問だった。どう答えたらいいんだろう。
「えーっと簡単に説明すると、先生が兄貴のファンみたいで、んで先生の方から誘ってきたっぽいんよね。さっきのバーベキューが終わったあとしばらくしてコテージまで来たんよな」
説明しながら柏本の顔を見た。懸命に理解しようと努力しているようだった。
「要するに、顧問が佐藤君のお兄さんを訪ねてコテージにいるってことだよね?」
「うん、間違いではないな!」
どうやら半分は伝わったようだった。と同時にコテージに到着した。
玄関を開けるともう二人の声が聞こえてきた。靴を脱ぎ捨ててリビングに向かう。
「先生おる~?」
「幸太、もう釣れたのか!」
少し顔が赤くなっているゆき兄がソファーに座っていた。
「まだ海に行ってねーよ。それより先生は?」
「今トイレに行ったよ」
しばらくすると水が流れる音がして、トイレの扉が開いた。
「おお~そこにいるのは優等生の幸太君じゃないか~」
白地あからさまに酔っ払った威厳の感じられない数学教師が現れた。
酒臭い……あれからも相当呑んでいたようだ。
「先生、柏本が探してたから連れてきたで」
「え?柏本さん来てるのか」
先生よりも先にゆき兄が反応した。
「幸太、あがってもらえよ」
玄関口にいる柏本の方をリビングから顔を出して見る。
俺は笑顔で首を少し傾げて合図した。
「お邪魔します!」
割と大きな声で柏本は挨拶をして上がってきた。
「夜遅くにすみません」
ぴょこんとお辞儀をして柏本はゆき兄に声を掛ける。
「全然構わないよ。こちらこそ遅くまで先生を引き止めて迷惑を掛けてしまったかな」
「どうしたね柏本君、何かあったのかね?」
俺の様子から緊急の要件では無いことはわかっていたのだろう。
少しおどけた感じで先生は柏本に話しかけた。
完全に酔っ払った森本先生はソファーに戻り、ニコニコ笑っている。
いつも仏頂面で、あまり感情を表に出さない学校でのイメージとは大違いだ。
「何人かはもう課題作品の選定が決まったので先生に提出する段階になったんですが」
「じゃあUSBに入れて…」
「もう入れてあります」
「と、いうことは…」
「先生待ちの状態です」
それと聞くと、森本先生はがっくりと肩を落とした。そして大きくため息をした。
「お兄さん、楽しい時間が今終わりを告げました。今日は本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそ有意義な時間を過ごせました。是非またゆっくりと呑みましょう」
森本先生が立ち上がる。が、かなりふらついている。
「先生、危ねーわ」
後ろから俺は先生を支える。
「大丈夫大丈夫!これくらい余裕だし!」
ものすごい大きな声で先生は話す。やっぱ酔ってるなこれは。
ふらつきながらなんとか玄関まで先生は辿り着いた。
そして裸足のまま玄関から出ようとする。
「先生、あの靴を…」
柏本が少し引き気味に先生に知らせる。
「おお、柏本さすがによく気がつくな」
いや、誰でも気づくだろう。これは少しやばい状態なのかもしれない。
俺はゆき兄の方を見た。ゆき兄は笑いながら頷く。
「じゃあ、二人を送ってくるわ。んでそのまま行ってくる」
「頼むわ、幸太。俺も結構酔ったから先に休んでおくわ。お前の事だから大丈夫だろうけど、一応夜の海は気をつけてな」
「了解よ、んじゃ行ってくるな」
俺は先生の左側を、柏本は先生の右側をそれぞれ支えてコテージを出た。
「先生は酔ってないんだぞ~!」
無駄に上機嫌の先生を引きずるように、俺達は写真部の宿舎を目指した。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
姉と薔薇の日々
ささゆき細雪
ライト文芸
何も残さず思いのままに生きてきた彼女の謎を、堅実な妹が恋人と紐解いていくおはなし。
※二十年以上前に書いた作品なので一部残酷表現、当時の風俗等現在とは異なる描写がございます。その辺りはご了承くださいませ。
夕陽が浜の海辺
如月つばさ
ライト文芸
両親と旅行の帰り、交通事故で命を落とした12歳の菅原 雫(すがわら しずく)は、死の間際に現れた亡き祖父の魂に、想い出の海をもう1度見たいという夢を叶えてもらうことに。
20歳の姿の雫が、祖父の遺した穏やかな海辺に建つ民宿・夕焼けの家で過ごす1年間の日常物語。
仮初家族
ゴールデンフィッシュメダル
ライト文芸
エリカは高校2年生。
親が失踪してからなんとか一人で踏ん張って生きている。
当たり前を当たり前に与えられなかった少女がそれでも頑張ってなんとか光を見つけるまでの物語。
海神の唄-[R]emember me-
青葉かなん
ライト文芸
壊れてしまったのは世界か、それとも僕か。
夢か現か、世界にノイズが走り現実と記憶がブレて見えてしまう孝雄は自分の中で何かが変わってしまった事に気づいた。
仲間達の声が二重に聞こえる、愛しい人の表情が違って重なる、世界の姿がブレて見えてしまう。
まるで夢の中の出来事が、現実世界へと浸食していく感覚に囚われる。
現実と幻想の区別が付かなくなる日常、狂気が内側から浸食していくのは――きっと世界がそう語り掛けてくるから。
第二次世界恐慌、第三次世界大戦の始まりだった。
劇場の紫陽花
茶野森かのこ
ライト文芸
三十路を過ぎ、役者の夢を諦めた佳世の前に現れた謎の黒猫。
劇団員時代の憧れの先輩、巽に化けた黒猫のミカは、佳世の口ずさむ歌が好きだから、もう一度、あの頃のように歌ってほしいからと、半ば強制的に佳世を夢への道へ連れ戻そうとする。
ミカと始まった共同生活、ミカの本当に思うところ、ミカが佳世を通して見ていたもの。
佳世はミカと出会った事で、もう一度、夢へ顔を上げる。そんなお話です。
現代ファンタジーで、少し恋愛要素もあります。
★過去に書いたお話を修正しました。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
短編つまみ食い
おっくん
ライト文芸
作品がとっ散らかってきたので短編集として編集しなおしました。
「ロボ」を書き直しました。
各話とも読みやすくなるように工夫しました。
新しい作品はこちらに載せていこうとおもいます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる