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出会い  3

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船内をうろつくことにも飽きた俺は最上階にある、展望デッキにいた。



日差しは強いけど、潮風が吹いていて思ったよりは涼しかった。そして何よりも見晴らしがいい。

大小様々な島の間をフェリーは進んでいた。

 時々波間に小さな漁船やジェットスキーの姿も見えた。

空調の効いて涼しい船内の方が人気があるからか、こんなにいいロケーションなのに他の乗客はあまりいない。

船の後方側に空いているベンチを見つけ、どっかりと座る。

ここからだと高松方面が見える。

サンポート高松の高層建物がまだはっきりと見えていた。

きっと小豆島からでも天気が良ければ見えるような気がする。

特徴的な形をした屋島や宮脇書店総本店の観覧車も、まだよく見える。



俺が景色を楽しんでいる間に、ゆき兄はいつの間にやらどこかへ行った。

さっきまで近くにいたけど。どこで暇を潰しているんだろうか。

まあ到着前に車に戻れば合流できるし、気にしないでいいか。



さすがに景色を見続ける事に飽きてきた俺は、スマホをボディーバックから取り出した。

電波は海上でも問題はないみたいだ。

画面をタップし、You Tubeを起動させる。絡んだイヤホンを丁寧に解いてからスマホに接続する。

しかしなんでイヤホンはカバンに入れておくと、こんなに絡むんだろう。

履歴から昨日の夜に見ていた動画を探して再生する。



撮影者が子猫を拾ってからの毎日の日常を撮影しただけの動画だけど、出てくる子猫がめっちゃ可愛かった。当初は小さい体を目一杯大きく膨らませて飼い主を威嚇していた。その威嚇する姿すら可愛い。

昨日見た動画だと、少し飼い主に懐いてきていたようだった。。

まだ時々「シャーッ」って威嚇はするんだけど、直接飼い主の手からご飯をもらうようになっていた。

昨日の続きが終わり、次の動画へ移動しようとした時だった。

俺は自分を見ている視線に気づいた。

と言うか、俺の前に立ってこっちを見ている人に気づいた。

【ゆき兄が戻ったのかな?】



顔を上げて確認すると、どうやら女性が俺に何か話しかけてきている。

聞こえづらかった為、俺は右耳のイヤホンを外した。



「あ、やっと気づいた」

一瞬逆光になり、顔が見えなかった。少し目を細めて確認する。

「何よ、睨まくてもいいじゃない」

「いや、そこに立たれたら太陽が眩しいんだけど」

「そうなの?ごめんね」

声の主が横に移動する。

俺に声を掛けてきたのはクラスメートの女子だった。

名前は確か、今野こんの 美里みさと

背は少し高めで体型も標準くらい、髪はショートボブが少し伸びていて色白。

どこかの島から学校に通ってるって聞いたことがある。

少し大きめの黒縁メガネが特徴的だ。

確か彼女はクラス委員をしているはずだ。何度かクラスでも話したことはあった。

「おっす」



どう挨拶するのが最適か考えた結果、俺は軽く挨拶をした。

特別、仲の良い相手でもない。

「ていうかさ、ばったりと旅先で同級生と出逢って何の感動もないわけ?何その普通な感じは…」

どうも返答に失敗したようだった。



「まあいいけどさ。それより何の動画を見てるん?」

そう言うと体を乗り出して俺のスマホを覗き込んできた。

学校でもそこまで親しく話したことないはずだけど、意外とこいつ馴れ馴れしい。

それに高い声でよく喋る。



俺は無言でスマホの画面を今野の方に向けて見せる。

「へぇ、意外やね。そういうの見るんやね」

「意外とはどういう意味や」

「興味ないとか言いそうだし、ねえ夏向かなたもそう思わん?」



今野は隣にいる人に同意を求めた。

その時俺はもう一人いることに気づいた。

背は今野より結構低くて小柄で細め。

長い髪をピンクのシュシュで縛りポニーテールにしていた。

少し日焼けしている。

誰だっけ。見覚えがあるような無いような。後輩だろうか…

俺の表情に気づいた、今野が喋りだす。

「佐藤くん、ひょっとして柏本夏向かしもとかなたの事を覚えてないってことは無いよね?」

この言い方だと俺と同級生って事だよな。



「いや……確か1年か2年の時に一緒のクラスだったよな」

「今、一緒のクラスです……」

消え入るような声で柏本が敬語で反論してきた。



あれ?これはやばい…やらかしてしまったか…



「ちょっと、3年が始まってもう何ヶ月経ってんのよ!やっぱ無関心男やん。夏向かなたがフェリーの待合室で佐藤を見かけたって言うからわざわざ探してここまで来てあげたのにさ。まあ佐藤は背が高いからすぐに見つけるんは簡単やったけど」



息継ぎもせずに一気に今野は囃し立てる。

そして今野は俺を呼び捨てにしやがった。しかし同級生を覚えていないのはやばい。

そういや待合室で見たことあるような顔があったけど、こいつらだったか。

なんとかこの場でフォローしておかないと、夏休みが明けて学校が始まった時に何を言われるかわからん。まあ、あまり気にはしないけど。

「いや、ほら今まで話した事は無かったやろ?だから咄嗟に名前が出んかっただけで」

「何回か話したことはあったけん…球技大会の時にうちの体操服を見て柏本って名前なんだって言ってくれた…うちからは話しかけたことはないけど…」



ああ駄目だ。

俺は今、泥沼にはまり込んでしまっている…



「あはははは」

突然大きな笑い声が聞こえた。

今後は聞き覚えのある声の主を見る。



大北祐治おおきた ゆうじだった。ガッチリとした体型は一見運動部に見える。

背は俺より少し低くて170の後半くらいだが、筋肉質でガッチリした体格で大きく見える。

見かけによらず、大北は写真部に所属していた。



「佐藤は人の名前をなかなか覚えてくれんよ。俺だってけっこう覚えてくれるまで掛かったし」

「大北もいるのかよ!」

大北とは球技大会などを通じて仲良くなり、クラスでは話す方だった。

中学の時はバスケ部で活躍していた。サッカーしか球技をしたことのない俺にクラスマッチなどの時に、いろいろバスケの事をアドバイスしてる優しい男だった。

見た目は怖いけど。



「俺ら、今日から合宿なんよ。8月の終わりに最後の大会があるからそれに向けてのな。下には森本もいるで、顧問だしな」



森本博もりもと ひろしは数学の教師で俺らのクラス担任だった。

細かい事を指摘するタイプの教師の為、大雑把な俺とは相性悪く苦手だった。

「まじかよ。下にいなくて正解だったわ…」

「俺達も逃げてきたわけよ。佐藤が船にいるって聞いたから探してきますって言い訳してな」

笑いながら大北は俺に言う。

大北の登場でこの場はなんとか切り抜けれそうだ。



「佐藤は一人で島に行くん?」

今野がまた話しかけてきた。

「そんな訳ねーだろう。どれだけ俺は寂しい人なんよ」

「じゃあ誰と?彼女と一緒とか?それにしては一人でベンチっておかしいよね」



なんで女ってどうでもいいことに興味を持つんだろ?

一々説明するのが面倒くさい。



「兄貴と二人でよ。泊まりで遊びに行くよ」

「兄さんいるんだ!どこにいるん?みてみたい!」

今度はゆき兄にも興味を持ったようだ。

「いや、さっきまで近くにいたんだけどさ…」

それはそうとしてゆき兄はどこ行ったんだろう。そろそろ探すかな。



その時、船内放送が流れ出す。



「まもなく本船は目的地、土庄港に・・・」

急にざわざわと船内が騒がしくなる。

俺もそろそろ行かないとだ。探すより直接車庫へ戻った方がいいか。



「そろそろ車に戻るわ。合宿頑張ってな!」

俺はベンチから立ち上がると3人に声を掛けた。

軽く手を振り挨拶して、俺は船内の階段へと向かった。

後ろから柏本が話掛けてくる。

「ねぇ・うちの名前、覚えてくれた?」

「当たり前やろ、柏本」

俺は少し笑いながら答えた。

柏本はほっとした表情を浮かべ、俺に手を振ってくれた。

「じゃあまたな!」

俺も手を振り返し、狭い階段を降りて行った。単語ルビ

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