魂色物語

ガホウ

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第二章 魔法の衆と禁じられた書

第七話 旅にトラブルはつきものだ

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 おれたちが旅を始めてから5日目の出来事。順調に旅を進めてきたと思っていたが。
 
「「うわぁぁぁぁぁぁぁ‼」」
 
「ディール、この状況どうするのさ!」
「今考えてるよ!」
 
 おれたちは今、とんでもない危機に直面している。なぜなら100匹は優に超えるであろうゴブリンの群れに追い掛け回されているからだ。なぜこんなことになったのかを説明するには昨日まで遡らないといけない。

 ロオの街を出発してから野宿が続いていたので何とかして泊めてもらおうと寄ったのがツタボの村だ。この村も外見上は普通の村と一緒で木造の家が7~8軒に村の真ん中には井戸、村の奥には畑が広がっていた。おれたちは村の中で一番大きい家に向かった。

「ねえディール。泊めてもらうってどうするんだい?」
「そりゃあ、もちろん一番大きい家の人に頼んでみるんだよ!部屋の一つぐらい空いてるだろ」

 一番大きい家の前に立ち扉をノックする。すると、村の村長らしき口元に白いひげを蓄えた爺さんが出てきた。

「ホホホ。随分とかわいらしいハンターさんが来たもんだの~。儂が村長のズプコフじゃ。よろしくの」

 おれたちは村長の口から出たハンターという言葉が理解できなかった。

「えっ?おれたちはハンターじゃないですよ」

 おれが訂正すると村長はようやくおれたちがハンターではないことに気づいたようだ。

「ホホ?……確かにこんなに幼い子たちをよこすわけないの~。何の用じゃの?」
「僕たちを一晩だけ泊めてほしいんです」
「ホホホ。そんなことならお安い御用じゃの~。使っていない部屋を貸してあげよう」

 爺さんに導かれて部屋まで移動した。部屋の中はベッドが二つあり、村長曰く来客用の部屋らしい。おれたちは荷物を降ろしてから一旦話し合うことにした。

「ディール、これからどこに向かうんだい?エルフの里に向かうのか、それともシスターの話を頼りに聖白教に向かうのか」
「おれの魂色について知りたいと思うけどあまりに情報の糸が細すぎるんだよな。だったら困っているかもしれないエルフの里に向かうべきだろ」

「エルフが実在するというのは聞いたことあるけれど実際に会ったことある人は少ないだろうね」

 フォルワはとてつもなく広い大陸で今から1000年前に決められた条約によって西側が人間たちの住む土地となって今はエイリレ王国やカミオン帝国その他諸国が版図を持っている。その反対の東側が人間以外の種族が住む場所とされている。だけど実際は凶暴な魔物が出現するし調査隊が帰還しないことからその実態は明らかになっておらず本当に他種族が住んでいるのかも分からない。

 だからこそ300年前のお話とはいえ唯一事細かに東の大地のことが記載されているリッパとベイランドの冒険は狂気的な人気を博しているんだ。

 おれたちが向かうべき東の大地はアルテザーン地方と呼ばれている。そこの中のどこかにエルフの里があるはずだ。

「でもさ、今のところ世界樹に住んでいるということしか知らないんだよね」
「かと言ってこっち側の大地の誰に聞いても知らないだろうな」

「「う――ん……」」

 二人でしばらく考えてみても何も思いつかなかった。おれたちはとりあえず村長に聞いてみることにした。階段を下りて村長のいる部屋に向かうと会話が聞こえてくる。気になって二人で覗いてみるとそこには村長と革の鎧を着た戦士のような格好の中年男がいた。

「ホホホ。あなたがトゥルリヤ協会の派遣してくれたハンターさんかの」
「ええ、依頼があったので参りました。依頼内容は畑を荒らすゴブリンの群れの討伐でよろしいでしょうか」
「ホホホ。ゴブリン共に収穫間近の野菜を荒らされましてね。このままでは残りの畑も荒らされて冬を越せなくなってしまいますの~」

 どうやらゴブリンの群れに困っているらしい。ハンターが席を立って玄関へと向かっていく。その時におれたちと目が合ったらハンターは軽く会釈をした。おれたちは村長に話を聞いてみることにした。

「村長、ゴブリンに困っているって本当なんですか?」

 レイの問いに村長は髭を撫でながら答える。

「ホホホ、その通りじゃ。ここ最近魔物が増えてきたような気がしての~。少し値は張るがハンターに依頼するのが一番なんじゃ」

 このフォルワ大陸には魔物の討伐や人助けを稼業としている団体がいる。それがさっきのトゥルリヤ協会と呼ばれるハンターの集団だ。詳しいことは知らないが本部を中枢としてフォルワ大陸の各地に支部が存在しているようだ。それに正式名称はトゥルリヤ協会なのだが多くの人々は呼びやすさや親しみを込めてハンター協会と呼んでいる。

「ところで村長。話は変わるんだが、エルフの里がどこにあるか知らないか?」
「ホホホ。それは流石に知らないの~」

「そりゃ知るわけないですよねー。すいません、変なこと聞いて」

 その日は疲れていたので眠ることにした。次の日、村長は何やら慌ただしくしていた。おれが話を聞いてみるとどうやら昨日、ゴブリン討伐に向かったハンターが戻ってこなかったらしい。

 本来こういった状況になるとハンター協会から応援を要請してハンターを捜索をしなければならないがその応援が来るまで何日もかかるそうだ。その間にもゴブリンの被害は出るはずだ。

 おれたちは泊めてもらった恩に報いるために自らハンターの捜索とゴブリンの観察を申し出ることにした。

「村長、おれたちがハンターとゴブリンの事を調べてきますよ。せっかく泊めてもらっておいしい食事も恵んでもらったんだから恩返しの一つぐらいさせてくださいよ」
「ホホホ。しかし、危険な仕事ですぞ。いくらゴブリンとはいえ侮ったらいけませんぞ」

 村長は子供に頼るのを拒んでいるが、その様子を見たレイが説得する。

「構いませんよ。僕たちこれでも結構な修羅場を潜り抜けていますから」

 村長はしばらく悩んだ末におれたちの提案を承諾してくれた。
 
「……では、お任せしますかな。場所はこの村から北西に進んだ森の中ですぞ」

 おれたちは準備を終えてから村長の言う森の中に入っていった。森の奥へ進んでいくと山の崖に洞穴のようなものが見えてきた。それも一つだけじゃない。いくつもの数の洞穴が存在していた。

 近くの木の幹に隠れて様子を窺っていると洞穴からゴブリンが数匹出てきた。どうやらここがゴブリンたちの住処らしい。そしてあいつらが引きずっている”何か”は損傷が激しいが革製の鎧を身に着けているのを見るに多分ハンターの遺体だろう。

 ゴブリンたちはハンターの遺体を雑に放り投げて捨てた。

 相変わらずゴブリンはおれたちの膝下までしかなく醜悪な顔に緑色の肌、ボロい布切れを着ている。そしておれがかつて愛用していた懐かしい手作り棍棒を所持している。

「ねえ、ディール。ハンターの人があそこまで無惨にやられるなんて変じゃない?」
「多分、数はあれだけじゃないんだ。もっと大勢いるんだと思う」
「ここは一度撤退するかい?」
「いや、あいつらを野放しにしてたらハンターの応援が来る前にあの村が襲われるかもしれない。今ここで倒そう」

 おれの決意にレイもうなずいてくれた。おれはまずゴブリンの数を確認するためにおびき出してみることにした。

 最初に近くの洞穴の一つに小石を投げ込んでみる。すると中からゴブリンが2~3匹程顔を出して様子を確認していた。少しの間不思議がっていたがすぐに洞穴の暗闇に顔を引っ込めてしまった。別の洞穴でも小石を投げ込んでみたが同じようにゴブリンが顔をだしてきただけだった。

「レイ、これはかなりヤバいかもな」
「そうだね。すべての洞穴に同じ数だけいるんだったら計算すると100匹以上はいるよ……」
「これだけいると多分アイツがいるだろうな……」
「アイツって?」

 おれはレイに説明した。

「ゴブリンは基本的に7~8匹の群れで生活するんだけど、この規模になると必ずゴブリンを束ねる村長みたいな存在の”ゴブリンヘッド”がいるはずなんだ。それを倒せればゴブリンたちは逃げるしかなくなって村を襲わずに散るはずだ」
「ということはそのゴブリンヘッドの位置を割り出すのが優先だね」
「簡単には顔を出さないだろうけどな…………ん?」

 やけに背後から荒い息遣いが聞こえてきて首元に生暖かい風が当たっている。恐る恐る振り返ってみるとそこには目が血走り口元からよだれを垂れ流したゴブリンがいた。

 おれが振り返るとすぐにゴブリンは仲間を呼ぶために叫んだ。おれは急いで剣で開いた口元から横に斬り頭を落とした。剣についた魔物の紫色の血液を振って落としているとレイが洞穴の方を指さして後ずさりしていた。

「あ、あ……これ不味い状況だよディール。どうしよう、全員にバレちゃったみたいだよ!」
「なんだって!」

 おれも洞穴の方を見てみると鳴き声に呼ばれてぞろぞろとゴブリンが飛び出してきた。

「これは……ダメだ!逃げるぞレイ!」
「分かった!」

 おれたちは一斉にゴブリンの群れに背を向けて走って逃げだした。

「「うわぁぁぁぁぁぁぁ‼」」
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