魂色物語

ガホウ

文字の大きさ
上 下
12 / 36
第一章 燻る火種と冒険の始まり

第十二話 秘策と再出発

しおりを挟む
 この場所は既に大混乱といった状況だ。壁は吹き飛んできたし、鳥野郎はずっと飛び回っている。だが、どちらももう虫の息だ。タイミングさえあれば倒すことが出来るはずだ。おれはレイと連携する。

「レイ、猿野郎を階段で抑えといてくれ」
「分かった。ディールはどうするんだい?」
「鳥野郎を猿野郎にぶつけるんだよ!」

 おれは急いでレイが戦っている横をすり抜けて階段を駆け上がり飛び回っている鳥野郎が近づくのを待つ。鳥野郎は一見適当に飛んでいるようだが実際はホールの中を円を描くように飛んでいた。鳥野郎が接近した絶好のタイミングでおれは飛び移る。暴れまわる鳥野郎に振り落とされないように必死でしがみつくがただしがみついているだけじゃ意味がない。こいつを操作して猿野郎にぶつけてやらなければいけない。階段ではレイが猿野郎と戦闘している。

「この鳥野郎め言うこと聞きやがれ!」
「あらまぁあらまぁ~目が回るわぁ」

 こうなれば無理やりにでもぶつけてやる。おれは鳥野郎が猿野郎に向いていることを確認した上で鳥野郎が曲がる瞬間をうかがう。少しづつ近づいていく。…………今だ。おれは鳥野郎が曲がる直前に蹴り飛ばして無理やり軌道を変えさせる。

「レイ、伏せろ!」

 おれの声でレイは咄嗟に階段に伏せた。鳥野郎は真っ直ぐ猿野郎へと向かって突進するがおれは蹴り飛ばした勢いで空中から床へと落下してしまった。何とか受け身を取ったがそれでも怪我続きの身体には堪える。

「ギャァァァッ!!!」

 どうやら土壇場の作戦が成功したみたいだ。化け物同士でぶつかった。あんな威力の突進をまともに食らったんだしばらくは動けないだろ。と思っていたがなんと鳥野郎が今の衝突でぐるぐるの混乱状態が治ってしまったようだ。少しづつだが身体を起こし始める。

「…………あらまぁあらまぁ。まさかここまで追いつめられるとはねぇ。基礎魔法も魂色の適正魔法も使えないような子供のくせにィ」
「これだけやってもまだ足りないのか。もうあれでしか倒せない!レイー頼む」
「分かった!任せて」

 レイは階段の上の方から最後の爆破石を手に取って起き上がろうとする鳥野郎に向かって投げる。

「そんなノロい石ころに当たるわけないでしょぉ!」
「外しちゃった!どうしよう………………何てね」
「あらまぁあらまぁ。死ぬのはお前からよぉ。自称青の子供ォ‼」

 鳥野郎はこちらに突進してくる。
 
「そいつはどうかな?おれたちの勝ちだよ……”ボミット”!!!」
「何ィィィッ⁉」

 ドッカ――――ン!!!

 あの時爆破石を避けられた瞬間。実はあいつが避けたんじゃなくておれが魔法の小瓶で吸い込んだんだ。爆破石が直撃した鳥野郎は煙を上げながら落下した。爆破石の爆発は猿野郎も巻き込んでいた。

「私たち”煌魔族”が負けるなんてぇありえないわぁ。絶対に許さないわよォォォ!」

 そう言い残すと化け物たちはたちまち灰となって消滅した。
 おれたちはその場に倒れ込むようにして座る。息もとっくに切れてるし身体中が痛い。だけどおれたちは確かに勝ったんだ、人喰いの化け物に!おれたちは腕を高く掲げて勝利を喜んでお互いに無事を確認する。痛みが酷くて立ち上がれないおれを見かねてレイがこちらにやって来た。

「ひどい傷じゃないか!急いで手当をしよう」
「あいつら強かったからな」
「そうだね、肩貸すよ」
「ありがとうな」

 道中で拾っていた薬草や家の中の物を使って応急手当をする。ようやく立ち上がれるようになったのでおれたちは2階の何もない部屋の奥にいる捕らわれた子供を助けに行くことにした。
 檻の中で子供は相変わらず怯えていたがおれたちの姿を確認すると少しだけホッとした表情を見せた。

「この子が捕まっていたという子だね」
「そうさ。この子がいなかったらあいつらの正体に気づけなかった」
「あの……すごい音がしていたんですが何があったんですか?」
「あの化け物たちはおれたちが倒したよ。お前の友達の仇はしっかりとったから安心しな」
「本当にありがとうございます。もう助からないかと思いました」
「すぐに檻から出してやるから待っててくれ」
「ディール、鍵ってこれじゃないかな」

 レイが部屋の中から見つけた鍵を使って捕らわれていた子供を檻から解放した。子供は随分と弱っていたのでおれたちは下の食事場へと運ぶ。調理場を使って野草やキノコを使ったスープを作っておれたちは食事をとった。この子供は見る限りおれたちと同じぐらいの年だろう。おれたちは会話の中で彼の素性を聞いた。名前はオーケンでこの森の近くの村に住んでいることや亡くなってしまった友達のことまで話してくれた。辛いことを話す彼の瞳からは枯れてしまったのか涙は流れていなかった。食事を終えた後オーケンは応接室で横になってぐっすりと眠った。おれたちは2階の謎の空間に何か使えそうなものがないか探索することにした。

「写真ばっかりで何もなさそうだね」
「これ使えるんじゃないか?」
「それは……使えそうだね」

 おれは正に相”棒”として使っていたゴブリンの手作り棍棒がボロボロになってしまったもんだから代わりに今後使えそうな武器を見つけた。腰から踝程の長さの片手剣だ。おれが扱うには大ぶりな気がしたがあんまり重くはないし他に使えそうなものがなかったので従来の片手剣としてではなく両手剣として使うことにした。
 武器のほかにも旅に使えそうなものがいくつかあったので拾っておいた。拾ったものの中にまだ新しい帽子があったので拾うと名前が書いてありその名はオーケンの友達の名前であった。

「これってもしかしてオーケンの友達の遺品かな」
「そうだろうな。持って行ってあげようぜ」

 応接室に行くとオーケンは目を覚ましていた。おれが帽子を差し出すとオーケンは手に取って名前を見るまでもなくそれが友人の物であることを理解した。
 オーケンは大粒の涙を流して感謝の言葉を述べる。

「これは……あいつのお気に入りの帽子なんです。誕生日にぼくがプレゼントしてから毎日被ってくれていて……見つけてくれてありがとうございます」
「そうか、じゃあ村に持って帰ってあげないとな。準備したらこの森を抜けるために出発するぞ」

 おれたちは3人で屋敷を出た。そして来た時とは反対側に向かって森の中を進んでいくことにした。

「そういえばあと半分ぐらいって言ってたよな」
「そうだね。ということはあともう数日はかかるかもね」

 オーケンはおれたちとは少し距離を取って歩いていた。やっぱり一人で考える時間が欲しいんだろうか。友人を失う気持ちなんておれは知りたくないし理解したくもない。だからこそオーケンに寄り添ってやることはできなかった。その分レイが気にかけてくれていた。
 何日か野宿を繰り返しながら進んでいるとようやく森の出口が見えてきた。おれたちは出口が見えると一斉にそこに向かって走り出す。森を抜けると美しい青空が広がっていた。

「やっと出られたぞ!」
「大変だったねディール、オーケン」
「そうですね。村はここからそう遠くない南東の方角にあります」
「よし、じゃあ陽が落ちない内にたどり着こう」

 おれたちは地図でおおよその位置を把握して言われた通りの方角へと進んでいった。歩きすぎでもう足がパンパンだった。昼頃にはオーケンの住む村に到着できた。オーケンの姿を確認した村人たちが一斉に集まりオーケンの心配をしている。

「今までどこに行っていたんだオーケン!もう何日もいなくなってて両親が心配して何度も村を飛び出してお前を探していたんだぞ。今は家にいるだろうからすぐに顔を見せてあげなさい」
「分かったよ。それと、ヨリスのことなんだけど……うぅ……」
「ヨリスがどうかしたのか?そういえばここにはいないようだが」

 オーケンは何とか話そうとしているが言葉が詰まって話すことが出来ていないようだ。おれは助け舟を出すことにする。

「オーケン、親の所に行って来いよ。説明ならおれたちがしておくから」

 オーケンはうなずくと走って自分の家へと向かっていった。それからおれたちはあの屋敷で戦った化け物のこと、オーケンの友人であるヨリスが亡くなってしまったことを包み隠さずにすべて話した。村人たちは皆顔を伏せて悲しそうな表情をしていたが、その中で膝から崩れ落ちる二人の男女がいた。多分、ヨリスの両親だろう。

「すべて話してくれて、何よりオーケンを救っていただき村人一同感謝する。本当にありがとう」

 村長らしき人がそう言うとその場にいた村人全員が頭を下げてお礼の言葉を述べていた。

「まさかあの”神隠しの森”に入って生きて帰ってさらにはその神隠しの元凶まで倒してしまうとはいったい何者なんじゃ!」
「運が味方しただけですよ」
「何と謙虚な!」

 村人たちに一生分のお礼を言われた辺りで村長が皆の話を遮って会話に入ってきた。
 
「ところで話は変わるがこれから先はどうするおつもりかの?」
「おれたちは……旅を続けようと思ってます」
「でしたら今日一日は泊っていってくだされ。礼を言い足りないのでな」

「どうするんだい?ディール」
「できれば休みたいけど、ここに居たってのがバレたらカミオン帝国が来た時に危険だろ。だから先に進もうと思う」
「僕もそれがいいと思うよ。村のみなさんのご厚意はありがたいけどね」

 おれたちは泊れないということを告げた。村人たちは残念そうな顔をしていたが危険に巻き込むわけにはいかない。村人たちから見送られて村から出発しようとするとオーケンが追いかけてきた。

「本当に、ほんっとうにありがとうございました。ディー……」
「何かな?オーケン」

 おれたちの名前を言おうとしたオーケンの口を手でふさぎこみ小声で伝える。
 
「オーケン、僕たちの名前は誰にも教えないでいて欲しいんだ。僕たちのことはそうだな……リッパとベイランドということにしておいてくれないかい」

 オーケンはもごもごとしながら首を縦に振った。

「じゃあ皆さん、食料とか色々とありがとうございました」
「お二人ともどうかお元気で」
「じゃあなーオーケン!また会おうなー」

 オーケンは両親らしき人と話している。
 
「オーケン、あの二人と何を話していたんだい?」
「ああ!名前を聞いていなかったから聞いてきたんだ。リッパとベイランドだってさ」
「リッパ?ベイランド?って……ハハハそれは昔からあるおとぎ話の登場人物じゃないか。愉快な二人だな」

 おれたちは村人たちに手を振られながら今度こそロオの街に向けて出発した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

処理中です...