魂色物語

ガホウ

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第一章 燻る火種と冒険の始まり

第八話 秘密の探索

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 あの老夫婦が起きる前になんとか秘密を探らないと。おれはまず1階を探索することにした。食事場や応接室は昨日も見たので細かくは調べずに階段へと向かった。階段を上ると左側には老夫婦が眠っている寝室がある。

 そして、右側には肝心の”入ってはいけない”と言われた部屋がある。その部屋の扉の前に立ち、ドアノブに手をかける。ドアノブを捻るとドアは鍵がかかっておらず簡単に開いた。部屋に入り、静かに扉を閉める。

 部屋の中は……なんだこれ?何もないぞ。言葉通り何もない。家具の一つも置いておらずただ、窓から朝陽が差し込んでいるだけだ。
 ”入るな”と言ってたのに何もないことなんてありえるのか?考えろ……観察するんだ……そうだ!この部屋、ほんの少しだけ狭い気がする。

 おれは一度扉を開けてこの部屋の奥行きを見てみる。確かに廊下の奥行きとこの部屋の奥行きが一致していない。おれの予想は正しかった。急いで部屋の奥の壁をノックしてみると一部だけ音が軽かった。つまりこの奥に謎の空間があるってことになる。けど入り口が分からない。壁を一面触っていると感触が違う部分があったので押してみるとガコンッと壁に正方形のくぼみができた。すると、壁の一部が動いて謎の空間に続く穴が現れた!
 
 中に入ってみると穴からの光だけなので薄暗くてよく見えない。少しずつ目が慣れてくると部屋の壁にはおびただしい数の写真が飾ってあった。近くで写真を調べるとそこにはあの老夫婦とおれたちと同じ年頃の子供が写っていた。別の写真には他の子供が写っており、どの写真も見る限りでは同じ老夫婦と異なる子供が写っている。

 ただの写真好きであってくれ。…………ダメだ……おれが手に取った写真は色が褪せてかなり古いものだ。なのに全く同じ姿の老夫婦が変わらぬ笑顔で写っている。これはどうポジティブに考えても無理がある。あの老夫婦は普通じゃない!急いで逃げないと。
 
 おれが謎の写真部屋を出ようとすると背後でガチャンと金属のような音がした。部屋の奥に一歩ずつゆっくりと近づくとそこには立方体型の檻があって人が……おれたちと同い年ぐらいの子供が入れられていた……。子供が何かを話しているが声が掠れていて聞き取れない。おれは更に近づくと子供は怯えた様子で狭い檻の中で後ずさる。

「おい、お前大丈夫か?なんでこんなところにいるんだ?」
「あなたは……誰ですか……。あの化け物は……」
「化け物って何のことだ?あの老夫婦のことか?!」
「あれは……化け物です。優しい人たちなんかじゃなかったんだ。子供を食べる化け物なんだ……」
「子供を食べるだって!詳しいことを教えてくれ」
「写真を撮ろうとしたら急に身体が動かなくなって。そして、ぼくの友達が……目の前で食べられて……ウッ……おぇぇ……」

 目の前の子供は話の途中で吐いてしまいまともに会話できる状態ではなくなってしまった。これ以上ここにいるのはマズい。助け出せないのが悔しいがおれは仕方なくその部屋を出た。

 何もない部屋から出ると目の前の老夫婦……いや、化け物が寝ている寝室の扉がゆっくりと開き始める。おれは急いで階段の途中の段で突っ伏して寝たふりをかます。
 足音が近づいてくる。バレたらおれもただじゃ済まないだろう。息が苦しい。正直言ってかなり怖い。だってこんな近くに人喰いの化け物がいるんだから。

「あらまぁあらまぁ、こんなところで何をしてるのかしら?」
「zzz……」
「ほらぁほらぁ起きなさい」
「うぅ……あれ、なんでおれこんなところで寝てるんだ?すいませんお婆さん、おれ寝相が本当にひどくって」
「そうなのねぇ。ところであの部屋には入ってないかしら?」

 婆さんの姿をした化け物がこちらを睨みつけるように見てくる。ここは騙すしかない。

「ごめんなさい!じつはあの部屋のこと気になってしまって……昨夜トイレに行ったついでにすこしだけ覗いたんです。でも何もなくて」

 婆さん型の化け物はこちらをかなり疑っている様子だが、何度か首を傾げた後。

「あらまぁあらまぁそうだったのねぇ。坊やは正直者だから許してあげるわよぉ」
「ありがとうございます」
「そうだそうだ。もう一人の坊やも起こして来てくれるかしら。みんなで朝ごはんにしましょう」
「分かりました。起こしてきます」

 助かった――――――!とりあえずここで食べられなかっただけ安心だ。おれはレイを起こしに行く。

「レイ、おーいレイー?起きろ!朝だぞ」
「もうちょっとだけ眠らせてよ……」
「のんきなこと言ってじゃねえよヤバイことが起きてる。とにかく話を聞け」
「なんなのさ」
「時間がないから手短に説明するぞ。まずあの老夫婦はな……」

 おれはできるだけ分かりやすく短くしてついさっきまでの出来事を話した。実はあいつらは人喰いの化け物だってこと。立ち入り禁止の部屋の奥には子供が監禁されていたこと。レイは説明の途中で自分たちの状況のヤバさに気づいてベッドから跳び起きた。

「今のディールの話が本当だとしたら僕たち相当不味い状況じゃないか!この後はどうするつもりだい?」
「とりあえず化け物はおれたちを確実に食おうとするだろうな。だけど逆に言えばあいつらは写真を撮るまでは襲わないはずだ。何の趣味だかは知らないがあいつらが油断するとしたらその写真撮影の時だと思う」
「つまりその時にできる隙を突くってことだね。作戦はどうする?」
「爆破石は……もう3つしかない。小瓶は何が入ってる?」
「今は何も入ってないよ」

 おれはとりあえず考えうる限りで最善の作戦をレイに伝える。あとは運命に任せるしかない……。
 おれたちは荷物を揃えた状態で食事に向かう。食事場には今日も昨日と同じスープが食卓に並べられており、婆さんと爺さんが既に食事をとっている。おれは席につく。

「あらまぁあらまぁ。もう一人の橙の坊やは一緒じゃないのかしら?」
「レイならトイレに行ってますよ。すぐに来るんじゃないですか」
「そうじゃのそうじゃの。ほれ灰の坊やは先にお食べなさい」
「いただきます」

 おれはスープを飲もうとしてわざと皿を落としてスープをこぼす。

「あらまぁあらまぁ。こぼしちゃってぇ、爺さんや雑巾で拭いておいてくださいな。私はスープを持ってきます」
「そうじゃのそうじゃの。坊やは服が濡れていないかの?」
「おれの方は大丈夫ですけど。すいません”せっかくの特別な”スープこぼしてしまって……」

 おれの挑発ともとれる言葉に婆さんの方は持ってきた雑巾を強く握りしめているのが見える。爺さんの方も少しだけイラついているようだ。作戦のために追い打ちをかけるならここしかない!おれは更に謝罪の言葉を並べる。

「爺さんは休んでてください。もう”年”でしょう無理しないで、こぼしてしまった分はおれが拭きますよ。婆さん、雑巾貨してください」
「あらまぁあらまぁ優しいのねぇ。じゃあお願いしようかしら。スープの方もすぐ持ってくるからねぇ」

 おれがスープを拭き終わるころには婆さんが新しいスープを持ってきた。そこへ、レイがやってくる。

「すいません。お手洗いが長引いてしまって。あれ……今日も同じスープなんですね……」

 あれで演技しているのか疑問になるぐらい棒読みだがレイの悲しそうな言葉に演技だと気づいていない婆さんは怒りを堪えている様子だ。ここまで挑発すればあとは老夫婦からあの言葉を引き出すだけだ。

「ごめんなさいねぇ。昨日、あんなに美味しそうに食べてくれたから今日もこれがいいと思ったんだけどねぇ。別の食事を用意しましょうかねぇ」

 婆さんがそう言って爺さんの方を向くと爺さんは首を小さく横に振ってなにやら合図を出した。そして、爺さんが話し出す。

「食事は後にしようかのぉ。それよりも坊やたちと一緒に”写真撮影”がしたいんじゃが撮らせてくれんかのぉ?」

 キタ!この言葉を待っていた。さっき檻の中にいた子供が言っていたことが引っかかっていたんだ。急に体が動かなくなったのは何かしらの毒を食事に盛られたからに違いない。それ故にこのスープは飲んだらヤバイと思っていたから順番が変わったのはラッキーだ。

 多分婆さんが言ってたようにおれたちが昨日たくさん食べていたのを見て警戒されないとでも思ってたんだろう。引っかかってたまるか!
 だが、おれたちは知らないふりをしないといけないので質問をする。

「写真撮影ですか?いきなりですね、なんで撮るんですか?」
「ここには坊やたち以外にも迷い込んでくる子がおってのぉ。その子たちを助けてあげてまたここから出ていくときに思い出づくりとして撮らせてもらってるんじゃのぉ」
「そうだったんですね。それなら僕らもせっかくだから撮らせてもらおうよ!いいよねディール」
「そうだな。写真撮りましょう」

 まずは作戦の第一段階は成功だ。だけど勝負はこれからだ……。
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