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第25話 夜襲
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夜道には気をつけろと、よく言ったものだ。
カナデが学生寮に戻ろうとすると、数人に取り囲まれているのに気づいた。実際には、カナデから少し距離をおいた場所に点在する木々の裏に何者かが隠れていたが、それでも溢れ出る殺気を、カナデだけに向けられた殺意を隠すことは出来なかったようだ。
――どこのクラスの男子だろうか。
今のカナデなら、AクラスであってもDクラスであっても、その他のクラスの男子であっても、恨みを買っていてもおかしくはない。漫画などの少年誌や少女コミック、そしてアニメでも、主人公がまず入学して先輩たちの洗礼を浴びるのは、よくある流れだ。しかも、度が過ぎるほどの騒ぎを起こしてしまったカナデだから、全てを受け入れる必要があると弁えているつもりだ。
――さて、どうしよう。
素直にやられるか、反撃をするか。それとも何か他の方法でこの場を凌ぐか。まずは気づかないふりをして、カナデは学生寮への一本道をゆっくりと歩くことにした。
「ほう、坊主。流石に気づいたか」
寮への道の真ん中に、制服姿の男子が1人、悠然とした姿勢で立っている。カナデよりはるかに背が高く、金色の短髪、引き締まった身体が特徴的だった。
カナデには見覚えがあった。いや、忘れもしない。そのシルエットは、カナデがこの魔法学校に到着した際に、ユリイナと共に、門を守っていたあの男のものだった。
「不意打ちをしないだけ、感心したよ、ヒュウマ」
「てめえにはこの間の借りを返さないといけないからな」
ヒュウマは笑っていた。戦えることがまるで喜びであるように。そしてヒュウマは、指を鳴らし、周囲の人間に合図をした。
「もういいぞ」
その瞬間、カナデを襲っていた、あのいくつもの殺意の眼差しは、一気に消え去っていった。
「いいのか、他の奴らは?」
「ああ、かえって邪魔になるしな」
それはヒュウマが1対1を望んでいるということであり、そして自分の力に自信を持っている証でもあった。
「勝手なことをして、またユリイナに怒られるんじゃないか?」
「安心しろ。俺は殴られ慣れているから大丈夫だ。それにお前が心配すべきなのは、お前自身の身体だけだ。違うか?」
笑っていたはずのヒュウマの顔は、いつのまにか真顔になっていた。やる気に満ち溢れていて、カナデは少し困惑してしまう。
――まだ迷っていた。
戦うべきか否かを。
周囲では誰が見ているかわからない。2人の力の差があるのはわかってはいるが、入学したてのカナデが、そう易々とヒュウマの自信を折るわけにはいかない。しかし、どうしたら良いのだろう。
「てめえが色々考えているのは俺にもわかる。そしてここは学校だ。俺としてもあまり目立つような真似はしたくない」
彼も彼なりに考えてくれているようだ。
「だから、お互いに最高の一撃でケリをつける。それでどうだ?」
――なるほど。
「夜道を襲う割には、男らしいところがあるんだな。でも、レベル1の相手にそこまでする理由はなんだ? 仮にもヒュウマはAクラスだろう? そこまでリスクを背負う意味なんて、お前にはない気がするけど」
「なあに、先輩として後輩の力は見極めておかないといけないからな。戦場で頼りになるのか、それともお荷物になるのか。自分の命を守るためにも、最低限の力は知っておきたい。それに――」
――それに?
「聖ラファエリアが選んだ人間が、どれほどの力を持っているのか、純粋に好奇心が芽生えたんだよ。いくら連れの女の子が特殊な魔法を使えようと、それだけでてめえが選ばれるはずはないからな」
選ばれる? やはり意味がわからない。ユリイナにしても、ラファエリアがと言った。まるで魔法学校自体が生き物であるかのように。
「じゃあ、とっとと終わらせるか。邪魔が入る前にな」
そう言ってヒュウマは、両手の拳を胸の前に突き出した。ヒュウマは他の魔法使いのようにステッキやロッドを使わないようだ。どうするのだろう。カナデが不思議そうに見つめていると、ヒュウマはニッと白い歯を見せた。
「魔法剣、双剣」
彼が言い放つと、彼の手には、異なる二つの光の剣が握られた。右手には火がほとばしる赤い光の剣。左手には、キラキラ光る白い冷気が靄のように包む白い光の剣。そんな魔法の剣を握りしめ、どうだと言わんばかりに、ヒュウマはカナデに対し、挑戦的な笑みを浮かべた。
「魔法の剣か、それも二刀流とか、大人げないというか、えげつないな」
「たはっ、えげつないのは見た目だけじゃないぜ。威力だって、超級魔法クラスだからな。残念ながら、手加減は出来ない」
そう両手の剣を構えるヒュウマ。超級魔法クラスというと、影魔導士の魔法を思い出す。確かにあの威力は、周りの景色、全てを飲み込むほど、圧倒的なものだった。果たしてカナデはそれを受け流すことが出来るのか。完全に真っ黒になった、木製のナイフを鞘から抜き、カナデは大きく息を吐いた。
大気中の空気が、2人の間から、逃げ出すように道をあける。お互いの呼吸がシンクロするみたいに、より緊張感を募らせる。靴が地面の土をジリジリと踏み締める。
やがて――。
その音が甲高いものに変わったと思ったら、ヒュウマは一瞬で間合いを詰め、カナデに向かい、氷の剣を振り下ろしてきた。
――キイーン!
白い光の刃が、木製のナイフを襲う。カナデは瞬きすることなく、それを受け止める。黒いナイフは、みるみる白く凍りついていき、それはカナデの手にまで広がっていった。
――追加攻撃か。
基本的に攻撃魔法はダメージを与えるだけのものだ。しかし、ヒュウマの魔法剣は、それプラスで、武器を通じて氷結などの追加効果を発動することがあるようだ。このままでは、カナデの身体も凍りついてしまう。焦りながらヒュウマの顔を見上げると、ニヤッと不気味に笑っていた。
「冷気解放」
彼は最初からそれを狙っていた。徐々に身体を包む冷気。パリパリと、身体が隅々まで凍りついていく。そして彼の本当の狙いは――。
右手に構えた炎の剣。カナデは青褪める。中学生でも知っていることだ。冷やしたコップに熱湯をかけると、膨張し、歪みが生じ割れてしまうといことを。
「俺の勝ちだな」
振り下ろされる赤い炎の剣。彼を甘く見ていたことを、今カナデは後悔したのだった。
カナデが学生寮に戻ろうとすると、数人に取り囲まれているのに気づいた。実際には、カナデから少し距離をおいた場所に点在する木々の裏に何者かが隠れていたが、それでも溢れ出る殺気を、カナデだけに向けられた殺意を隠すことは出来なかったようだ。
――どこのクラスの男子だろうか。
今のカナデなら、AクラスであってもDクラスであっても、その他のクラスの男子であっても、恨みを買っていてもおかしくはない。漫画などの少年誌や少女コミック、そしてアニメでも、主人公がまず入学して先輩たちの洗礼を浴びるのは、よくある流れだ。しかも、度が過ぎるほどの騒ぎを起こしてしまったカナデだから、全てを受け入れる必要があると弁えているつもりだ。
――さて、どうしよう。
素直にやられるか、反撃をするか。それとも何か他の方法でこの場を凌ぐか。まずは気づかないふりをして、カナデは学生寮への一本道をゆっくりと歩くことにした。
「ほう、坊主。流石に気づいたか」
寮への道の真ん中に、制服姿の男子が1人、悠然とした姿勢で立っている。カナデよりはるかに背が高く、金色の短髪、引き締まった身体が特徴的だった。
カナデには見覚えがあった。いや、忘れもしない。そのシルエットは、カナデがこの魔法学校に到着した際に、ユリイナと共に、門を守っていたあの男のものだった。
「不意打ちをしないだけ、感心したよ、ヒュウマ」
「てめえにはこの間の借りを返さないといけないからな」
ヒュウマは笑っていた。戦えることがまるで喜びであるように。そしてヒュウマは、指を鳴らし、周囲の人間に合図をした。
「もういいぞ」
その瞬間、カナデを襲っていた、あのいくつもの殺意の眼差しは、一気に消え去っていった。
「いいのか、他の奴らは?」
「ああ、かえって邪魔になるしな」
それはヒュウマが1対1を望んでいるということであり、そして自分の力に自信を持っている証でもあった。
「勝手なことをして、またユリイナに怒られるんじゃないか?」
「安心しろ。俺は殴られ慣れているから大丈夫だ。それにお前が心配すべきなのは、お前自身の身体だけだ。違うか?」
笑っていたはずのヒュウマの顔は、いつのまにか真顔になっていた。やる気に満ち溢れていて、カナデは少し困惑してしまう。
――まだ迷っていた。
戦うべきか否かを。
周囲では誰が見ているかわからない。2人の力の差があるのはわかってはいるが、入学したてのカナデが、そう易々とヒュウマの自信を折るわけにはいかない。しかし、どうしたら良いのだろう。
「てめえが色々考えているのは俺にもわかる。そしてここは学校だ。俺としてもあまり目立つような真似はしたくない」
彼も彼なりに考えてくれているようだ。
「だから、お互いに最高の一撃でケリをつける。それでどうだ?」
――なるほど。
「夜道を襲う割には、男らしいところがあるんだな。でも、レベル1の相手にそこまでする理由はなんだ? 仮にもヒュウマはAクラスだろう? そこまでリスクを背負う意味なんて、お前にはない気がするけど」
「なあに、先輩として後輩の力は見極めておかないといけないからな。戦場で頼りになるのか、それともお荷物になるのか。自分の命を守るためにも、最低限の力は知っておきたい。それに――」
――それに?
「聖ラファエリアが選んだ人間が、どれほどの力を持っているのか、純粋に好奇心が芽生えたんだよ。いくら連れの女の子が特殊な魔法を使えようと、それだけでてめえが選ばれるはずはないからな」
選ばれる? やはり意味がわからない。ユリイナにしても、ラファエリアがと言った。まるで魔法学校自体が生き物であるかのように。
「じゃあ、とっとと終わらせるか。邪魔が入る前にな」
そう言ってヒュウマは、両手の拳を胸の前に突き出した。ヒュウマは他の魔法使いのようにステッキやロッドを使わないようだ。どうするのだろう。カナデが不思議そうに見つめていると、ヒュウマはニッと白い歯を見せた。
「魔法剣、双剣」
彼が言い放つと、彼の手には、異なる二つの光の剣が握られた。右手には火がほとばしる赤い光の剣。左手には、キラキラ光る白い冷気が靄のように包む白い光の剣。そんな魔法の剣を握りしめ、どうだと言わんばかりに、ヒュウマはカナデに対し、挑戦的な笑みを浮かべた。
「魔法の剣か、それも二刀流とか、大人げないというか、えげつないな」
「たはっ、えげつないのは見た目だけじゃないぜ。威力だって、超級魔法クラスだからな。残念ながら、手加減は出来ない」
そう両手の剣を構えるヒュウマ。超級魔法クラスというと、影魔導士の魔法を思い出す。確かにあの威力は、周りの景色、全てを飲み込むほど、圧倒的なものだった。果たしてカナデはそれを受け流すことが出来るのか。完全に真っ黒になった、木製のナイフを鞘から抜き、カナデは大きく息を吐いた。
大気中の空気が、2人の間から、逃げ出すように道をあける。お互いの呼吸がシンクロするみたいに、より緊張感を募らせる。靴が地面の土をジリジリと踏み締める。
やがて――。
その音が甲高いものに変わったと思ったら、ヒュウマは一瞬で間合いを詰め、カナデに向かい、氷の剣を振り下ろしてきた。
――キイーン!
白い光の刃が、木製のナイフを襲う。カナデは瞬きすることなく、それを受け止める。黒いナイフは、みるみる白く凍りついていき、それはカナデの手にまで広がっていった。
――追加攻撃か。
基本的に攻撃魔法はダメージを与えるだけのものだ。しかし、ヒュウマの魔法剣は、それプラスで、武器を通じて氷結などの追加効果を発動することがあるようだ。このままでは、カナデの身体も凍りついてしまう。焦りながらヒュウマの顔を見上げると、ニヤッと不気味に笑っていた。
「冷気解放」
彼は最初からそれを狙っていた。徐々に身体を包む冷気。パリパリと、身体が隅々まで凍りついていく。そして彼の本当の狙いは――。
右手に構えた炎の剣。カナデは青褪める。中学生でも知っていることだ。冷やしたコップに熱湯をかけると、膨張し、歪みが生じ割れてしまうといことを。
「俺の勝ちだな」
振り下ろされる赤い炎の剣。彼を甘く見ていたことを、今カナデは後悔したのだった。
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