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第三幕 7場 カルール村の長い夜

第43話 伝説のエルフ

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「母さん、落ち着いてくれ!」
「大丈夫よユーマ、お母さんに任せなさいッ!」

 母さんは俺の話を聞く耳を持たなかった。
 指の先から青い光線が発射され、ハリィは横にくるりと回転して逃れる。
 光線は連続して発射され、ハリィは更に回転してテーブルから床に着地。
 それを追う光線の連続発射により、テーブルや木の床が焦げていく

 そして最後は入口に立っているアリシアに保護された。

「母さん、あれは俺の仲間だ!」

「あなたは騙されているの。あの人達は魔族よ! あなたを利用しようとしている悪い魔人なの! そして、あの銀髪の女は相当に位が高い魔族――」

 母さんはアリシアを指さした。

「お、お義母さまおかあさま、初めまして。アタシは――」

「黙りなさい、この悪い魔人めがぁぁぁ――!!」

 母さんはアリシアに向けて光線が放とうとしている。
 俺は咄嗟に後ろから抱きしめた。
 
「えっ!? なっ、なにしているのユーマ? 親子の抱擁はあの悪い魔人をたおしてからゆっくりと……」

「アリシアは俺の仲間だ! 俺は魔族の仲間になったんだよ!」

「…………えっ?」

 母さんの体から力が抜けていく。
 同時に空中に広がっていた緑の髪の毛も垂れ下がっていく。
 ゆっくりと振り向いたその顔は、驚きに満ちた表情をしていた。

「魔族の……仲間に……なったって……?」

「そう、俺は俺の意志で魔族の仲間になったんだ!」

「な……んて……ことなの……」

 母さんはその場にしゃがみ込んでしまった。


 *****
  
 人類が誕生するずっと前から、世界にはエルフとよばれる先住民族がいた。大地に神の遣いとして天使が降り立ち、人類は誕生した。しかし人類の寿命は短く、文明の発達は滞っていた。

 やがて、エルフと交わりをもつことのできる人間が出現し、世界を支配するようになった。エルフの寿命は長く200年を超えていた。エルフの血を受け継ぐ人間の寿命は100年足らず。しかし文明の発達には充分な長さだった。

 文明の発達は富の奪い合いに発展し、世界はいくつかの国に分断された。エルフの血を濃く受け継ぐ者は魔力が高く、そうでない者は敗れていく。やがてエルフを巻き込んだ世界戦争が勃発する。戦いを好まないエルフは森の中に結界を張り、異次元の空間に引きこもってしまった。

「それ以来、本物のエルフは地上からいなくなっているはずなのです!」

 カリンが真剣な表情で力強く言った。
 魔王城の中には学校のような場所があり、彼女は優等生なのだそうだ。
 俺たちは焼け跡の残るテーブルを囲んでカリンの解説を聞いている。

「これは地上に悪魔が降臨して、魔族が誕生するよりも昔の話なのです!」

「そうだろ? だから何度も言うが俺の母さんは人間だ。そりゃあ、外見は伝説に残るエルフ族に似ているかも知れないけれど……」

「でも、あまりにもそっくり過ぎるのです! 緑色の髪、緑色の瞳、そして尖った耳、さらにはカリンたちを魔人と一目で見抜いた人間離れした魔力!」

 カリンは人差し指をピッと立てて俺たちに視線を配った。

「偽装魔法が力及ばずで……ごめんなちゃいですユーマちゃま……」

「いいよいいよ、フォクスのせいじゃないから。母さんは昔から勘が鋭い人だったから」

「ユーマ様、現実をしっかり見てください!」

 カリンに怒られてしまった。

 たしかに母さんは手から光線を出すし、俺たち兄弟が危ない目に遭いそうなときは魔法の力で助けてくれたりもした。しかし、魔力のある人間なんて珍しくもないし――

「たまたまエルフの血が濃く生まれる人間もだろう。いわゆる『先祖返り』だ。母さんは伝説のエルフに似ているかも知れないけれど、それはたまたまだ!」

「ユーマの言う通りかも……」

 黙って話を聞いていたアリシアが口を開いた。

「でも、違うかも知れない……だから直接お義母さまおかあさまに訊かなくちゃ。アタシたちがここに来た理由はそれなんだから」

 そのとき、家のドアが開いて母さんが戻ってきた。
 大きな籠に野菜や果物を山積みに乗せて。

「さあ、今夜は久しぶりに腕によりをかけて美味しい物を作るからねッ!」

 籠を流し台にのせ、腕をまくって笑顔で言った。

「あの、フォクスもお手伝いちますのです!」
「おや、それは助かるわァー。何ならあなたたち魔人の口に合う食材を持っていらっしゃい。馬車に置いてあるんでしょう?」
「あ、はい。では下ごしらえが済んだら持ってくるのでちゅっ!」

 二人して並んで作業を始めた。
 何だか楽しそう。
 こうして後ろ姿をみると、まるで……親子?
 見ようによっては年の離れた姉妹?
 母さんは3人兄弟を産んだとは思えないほど外見が若いからな。

「エルフの寿命は200年を超えるのでござるよ……」

 カルバスが意味深げに呟いた。
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