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もう一度だけあの場所で
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卒業を数日前に控え、俺達3年生はそれぞれの進路をそれぞれに決め間もなくここを旅立とうとしている。
就職、進学・・・まぁ選択肢は他にも色々あるだろう。
でも、俺には一つこの高校でやり残したことが一つあるんだ。
人生という長い視点で見てみればくだらない話になるんだろうが・・・
笑顔で卒業というならこれを済ませておかなければなるまい。
今更だということは分かっている、結局はこんなもの俺の自己満足でしかない。
それでも・・・済ませておきたいんだ・・・。
バンッ!!
勢いよく開いた扉の先には、綺麗な青空が広がっていた。
景色で言えば事故防止のため大きなフェンスが張り巡らされているためあまり良いものではないが
俺達はずっと二人お昼休みはここで過ごしてきた。
他の在校生に見つからないコツはこの大きな貯水タンクの裏に隠れることだ。
「もう、やっと来た・・・遅いよ一輝!」
「あぁ・・・悪い悪いちょっと考え事しててさ。」
こいつは緑川千佳、俺の幼稚園からの幼馴染。
こいつとはいっつもこうやって二人で並んで座って昼飯を食っている。
「この時間も、もうすぐ終わりなんだね…ねぇ、一輝ってどうするんだっけ?就職?」
「まぁな、大学なんて行く金もないしとりあえずは就職だ、内定も貰ってるしな。」
「すごいじゃん!おめでとう!」
突拍子もなく俺の顔を見てパチパチニコニコと拍手をする千佳。
「やめろよ、前にも言ったじゃねえか、俺には進路があってもお前は・・・!」
「そうだねぇ、いやあ私もびっくりだよ、交通事故で死んじゃうなんてさ!」
頭を掻いてあっけらかんと笑う千佳に俺はため息しか出ない。
「あれからもう何か月だ、これは俺の都合のいいお前の幻覚なのか?」
「ううん、ちゃんと私はここに存在してるよ、身体は・・・ないけど。」
「これからどうするつもりなんだ?」
「ちゃんと成仏するよ、でもまだやり残したことがあるから。」
「何だよそれ、やり残したこと?家族のことか?だったら・・・」
「違うよ、でもほら一輝にもあるんじゃない?最近結構悩んだ顔してるよ?」
俺は立ち上がり、躊躇った、これをいったらこいつが消えてしまうかも知れない。
でも、これをなくして俺は卒業できない、だから卒業式が終わったらまたここで言おうとしていたんだ。
俺が何も言えず固まっていると、千佳は言った。
「私のやり残したことはね、一輝に“好き”ってちゃんということだよ!」
「え・・・?」
「聞こえなかった?一輝、好きだよ!大好き!あーあ、ほんとは一輝から言ってほしかったなぁ、でも一輝はわたしのことなんて好きじゃないか!」
笑顔ながら少し泣きそうな千佳の何とも言えない顔に俺は自分が情けなくなった、気が付けば頬を涙が伝っている。
「バカ野郎、俺だってお前のことが好きだよ!俺のやり残したこともこれだよ!生きてた頃のお前に気持ちを伝えられなかった!だから言おう言おうと思いながら言ったらお前が消えちまう気がして言えなかった!俺はお前が、緑川千佳が好きだ!遅くなって・・・本当に・・・ごめんな・・・!」
俺は情けなくも膝から崩れ落ちた
でも、そんな俺の手を取って千佳は俺を抱きしめてくれた
「なーんだ、両想いだったんだ・・・よかった・・・私だけだったらどうしようって・・・ああ・・・」
目の前にいた筈の千佳がなんだか透け始める
「待って、待ってくれよ逝くなよ!卒業式には一緒に出るって約束したじゃねえか!おい!!」
「一輝に会えて・・・本当に幸せだった、あーあ・・・結婚してたらどんなに幸せだったろう?あはは・・・なーんてね・・・一輝、また来世でも会おうね、ずっと・・・ずっと大好きだよ」
どんどん消えていく千佳を抱きしめようにも両腕はもう何も掴めずに俺は地面に倒れる。
「千佳、千佳!俺も・・・俺もずっと・・・大好きだ・・・!」
そう囁いて顔を上げた時には、そこにはもう誰もいなかった・・・。
数日後には卒業式が無事に執り行われた。
少し遠いが誰も座っていない空いたパイプ椅子が一つある。
約束通りならば身体こそないが千佳が座っていたはずだった席だ。
今の俺には何も見えない、だからきっとあいつは成仏したんだろう。
そう信じることしかできない・・・。
やり残したことは済ませた、これでよかったのだろう。
ただ、俺に告白されるというあいつの願いを叶えてやることが出来なかった。
最後まで弱虫だった俺と最期に強くなった千佳。
いつかまた千佳とこんな恋をまたしたいなと、そう思った。
もうそれが叶うことはないがどうかその時は、強い俺でありますように・・・。
卒業式を終えた俺は、胸元のコサージュをそっとあいつの席に置いて別れを告げた。
就職、進学・・・まぁ選択肢は他にも色々あるだろう。
でも、俺には一つこの高校でやり残したことが一つあるんだ。
人生という長い視点で見てみればくだらない話になるんだろうが・・・
笑顔で卒業というならこれを済ませておかなければなるまい。
今更だということは分かっている、結局はこんなもの俺の自己満足でしかない。
それでも・・・済ませておきたいんだ・・・。
バンッ!!
勢いよく開いた扉の先には、綺麗な青空が広がっていた。
景色で言えば事故防止のため大きなフェンスが張り巡らされているためあまり良いものではないが
俺達はずっと二人お昼休みはここで過ごしてきた。
他の在校生に見つからないコツはこの大きな貯水タンクの裏に隠れることだ。
「もう、やっと来た・・・遅いよ一輝!」
「あぁ・・・悪い悪いちょっと考え事しててさ。」
こいつは緑川千佳、俺の幼稚園からの幼馴染。
こいつとはいっつもこうやって二人で並んで座って昼飯を食っている。
「この時間も、もうすぐ終わりなんだね…ねぇ、一輝ってどうするんだっけ?就職?」
「まぁな、大学なんて行く金もないしとりあえずは就職だ、内定も貰ってるしな。」
「すごいじゃん!おめでとう!」
突拍子もなく俺の顔を見てパチパチニコニコと拍手をする千佳。
「やめろよ、前にも言ったじゃねえか、俺には進路があってもお前は・・・!」
「そうだねぇ、いやあ私もびっくりだよ、交通事故で死んじゃうなんてさ!」
頭を掻いてあっけらかんと笑う千佳に俺はため息しか出ない。
「あれからもう何か月だ、これは俺の都合のいいお前の幻覚なのか?」
「ううん、ちゃんと私はここに存在してるよ、身体は・・・ないけど。」
「これからどうするつもりなんだ?」
「ちゃんと成仏するよ、でもまだやり残したことがあるから。」
「何だよそれ、やり残したこと?家族のことか?だったら・・・」
「違うよ、でもほら一輝にもあるんじゃない?最近結構悩んだ顔してるよ?」
俺は立ち上がり、躊躇った、これをいったらこいつが消えてしまうかも知れない。
でも、これをなくして俺は卒業できない、だから卒業式が終わったらまたここで言おうとしていたんだ。
俺が何も言えず固まっていると、千佳は言った。
「私のやり残したことはね、一輝に“好き”ってちゃんということだよ!」
「え・・・?」
「聞こえなかった?一輝、好きだよ!大好き!あーあ、ほんとは一輝から言ってほしかったなぁ、でも一輝はわたしのことなんて好きじゃないか!」
笑顔ながら少し泣きそうな千佳の何とも言えない顔に俺は自分が情けなくなった、気が付けば頬を涙が伝っている。
「バカ野郎、俺だってお前のことが好きだよ!俺のやり残したこともこれだよ!生きてた頃のお前に気持ちを伝えられなかった!だから言おう言おうと思いながら言ったらお前が消えちまう気がして言えなかった!俺はお前が、緑川千佳が好きだ!遅くなって・・・本当に・・・ごめんな・・・!」
俺は情けなくも膝から崩れ落ちた
でも、そんな俺の手を取って千佳は俺を抱きしめてくれた
「なーんだ、両想いだったんだ・・・よかった・・・私だけだったらどうしようって・・・ああ・・・」
目の前にいた筈の千佳がなんだか透け始める
「待って、待ってくれよ逝くなよ!卒業式には一緒に出るって約束したじゃねえか!おい!!」
「一輝に会えて・・・本当に幸せだった、あーあ・・・結婚してたらどんなに幸せだったろう?あはは・・・なーんてね・・・一輝、また来世でも会おうね、ずっと・・・ずっと大好きだよ」
どんどん消えていく千佳を抱きしめようにも両腕はもう何も掴めずに俺は地面に倒れる。
「千佳、千佳!俺も・・・俺もずっと・・・大好きだ・・・!」
そう囁いて顔を上げた時には、そこにはもう誰もいなかった・・・。
数日後には卒業式が無事に執り行われた。
少し遠いが誰も座っていない空いたパイプ椅子が一つある。
約束通りならば身体こそないが千佳が座っていたはずだった席だ。
今の俺には何も見えない、だからきっとあいつは成仏したんだろう。
そう信じることしかできない・・・。
やり残したことは済ませた、これでよかったのだろう。
ただ、俺に告白されるというあいつの願いを叶えてやることが出来なかった。
最後まで弱虫だった俺と最期に強くなった千佳。
いつかまた千佳とこんな恋をまたしたいなと、そう思った。
もうそれが叶うことはないがどうかその時は、強い俺でありますように・・・。
卒業式を終えた俺は、胸元のコサージュをそっとあいつの席に置いて別れを告げた。
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