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金木犀の匂いがする
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『うん、これだけ濡れてれば大丈夫そうだね』
「ほ、ほんとぉ?」
『うん。でもゆっくりでいいよ。いきなり入れたら痛いから』
私と伊織は今、この間ネットで注文したディルドを試そうとしている。
いきなり入れるのは痛いので、私が濡れてから入れようということになったのだが、伊織に舐めてもらっただけでだいぶ濡れてしまったらしい。
舐めてもらっただけ、というか、ディルドと一緒に購入したローターというものを突起に少し当てたのだ。
こういう類いの玩具を使うのは初めてで、こんな微弱な振動で本当にいくのかと思っていたが、いざ使ってみるとすぐにいった。
それはもう恥ずかしいほどあっけなく。
なんていうか、当てているだけならなんともないのに、伊織が舌を駆使してくると、急にぞくぞくしてきたのだ。
なので私は一度いっている。だから濡れているのである。
ベットの上にディルドを置いて、そこからずれないよう両手で根本を固定する。
「こ、こう?」
『そうそう。いきなり奥まで入れないで、少しずつ入れるんだ。まずはここまで』
そう言って伊織は自分に触れて教えてくれた。
まずはあの、線みたいなところまで。
つまり先っちょを入れるらしい。
先端がちょん、と触れる。ひんやりしていてきもちがいい。
ちゅぷ。
ほんの少しだけ入れてみる。
なんだか身体がぞわぞわした。
「んっ、は……ぁ」
これ、どのくらい入ってるんだろう。自分では見れないからわからなくて怖い。
「い、伊織、入ったぁ?」
『ん、もうちょっと』
これでもまだ入っていないのか。きもち的にはなんかもう、半分くらいは入れた感じがするんだけど。
私はほんの少しだけ腰を下ろした。
「あっ、あっ、入った! 入ったでしょう、伊織!」
『ん、もうちょっと』
いや入ったでしょ。今のは入ったって。なんかちょっと違ったもん。ねえなんで入ったのに入ってないって言うの。
私はほんの少しだけ腰を下ろした。
「あああっ、入ったって! これ絶対もう入ったって!」
『ん、もうちょっと』
「いやもうどのくらい入ってるかわからないけど、間違いなく先っぽは入ったでしょうが!」
『はは、ごめんね瑞穂。なんかがんばって腰下ろしてるのかわいいからさ』
屈託のない笑顔で言う。これだから憎めない。
『ね、奥まで入りそうなら入れていいよ』
「お、奥までって、どこまでよ」
『見て、瑞穂。ここまで』
伊織が自分ので説明してくれるお陰でよくわかった。だけど多分、そこまで入れたら股が裂けるよ。
「む、むいっ、怖すぎるから……っ」
『しょうがないな。俺が動くから、瑞穂はじっとしてて』
ふいに手にしたそれはいったいなんなのか。私は伊織の手元をじっと見る。
何かはめたなぁ。はめたまま、いつものように上下に動かしてる。
『あっ……はあっ……』
あれ、なんか音が凄いね。ぬっちゅぬっちゅ聞こえるような。
「な、何してるの?」
『んっ、なにって、はあっ、瑞穂とえっちしてる』
「ち、ちがくてぇ……そのおちんちんにつけてるの、なあに?」
『はっ、ん、これぇ? オナホール♡』
「おなほーる?」
またわからない単語が出てきたぞ。あとで検索しないと。
『ほらぁ、瑞穂も……っ、俺に合わせて動かなきゃ』
え、でもさっき、私は動かなくていいって。
ああでもこれはたしかに、じっとしているのはむりかもしれない。
私は浅いところ……つまり先っぽ辺りで上下に腰を動かしてみた。すると、指とは違った感覚が全身を駆け巡るのを感じて、もっとほしいと強請りだす。
なんだろうこれ。これってきもちいいのかな。もっと奥まで入れたらどうなっちゃうんだろう。
私はほんの少しだけ腰を下ろした。
「ひあっ」
なにこれなにこれなにこれ!
まだ奥まで入れてないのに、さっきとは全然違う。
『瑞穂、かわいい』
ちゅ、と伊織にキスをされると、それだけでまたぞわぞわした。
私、濡れてる。さっきよりも早く動けるようになっている。
このまましてたらどうなるんだろう。怖いけど、知りたくなった。
「あっ、ああっ、あああっ、ああああっ♡♡♡♡」
伊織もだいぶ興奮しているようで、ぬっちゅぬっちゅ言わせながら硬くなったおちんちんを扱いている。
『かわいい瑞穂ぉ、かわいっ、はあ~~……っ、瑞穂のまんこぐちゃぐちゃぁ~~♡』
「い、伊織ぃ……恥ずかしいよぉ……」
互いに息は荒く、部屋中に響き渡る猥音ももはやどちらのものかわからなくなっていた。
あ、これ、いく。私、伊織のおちんちんでいく。
そう感じた瞬間には、いっていた。
多分、伊織も。
伊織ときもちいいことしちゃった。
私の頭の中はそればかり。身体が繋がるってこんなに満たされるんだなぁ。
私はこの喜びを早く瑛麻に伝えたくて仕方がなかった。
朝になり支度を済ませ家を出ると、私は学校へとひた走る。ようやく瑛麻の後ろ姿を見つけると、私はすぐに声をかけた。
「瑛麻ぁー!」
「あ、瑞穂、おはよー」
「瑛麻聞いて! 私、伊織と昨日えっちした!」
「へ」
「もう……伊織のったら凄く立派でね、腰の動きもしなやかで、私もう腰がガクガクだよう~~~ッ」
私は両頬に手を添えながら目を閉じてうっとりとする。
「そ、そうなんだ。うーん、でもさぁ、伊織って猫だったんでしょ? 猫とえっちするってどうなの?」
「やだなぁもう~~~、そんなの昔の話じゃん! 今はついてる♡ 伊織はちゃぁんと男の子だったよ♡」
私は瑛麻に惚気ていた。もう会えないと思っていた人に出会えたのだ。それはもう、頭がどうにかなるのもむりはない。
これからは今までとは違った関係を。家族から一歩進んだ関係を二人で築いていくんだ。私と伊織は飼い主とペットなんかじゃない。本物の恋人になるのだから。
私は自分のことばかりで、瑛麻のことすら見えていなかった。
あんなにいつも一緒にいたはずの樹くんがいないなんて。
頭と股のネジが緩んでいなければ、すぐに気付いたはずなのに。
『こら。朝から卑猥な会話しないの』
「あ、伊織い♡」
『恥ずかしいからあんま大声で話すなよ』
「ごめんねえー♡ 伊織と結ばれたことが嬉しくてえ」
『すまんな瑛麻。朝からこちらの性事情を聞かせて』
「い、いえ……あたしは別に」
すべては順風満帆に進んでいる。そう思っていた。あの瞬間までは。
誰かとすれ違うその瞬間、ふわりと香る金木犀の匂い。
その匂いを鼻で感じた時、何かドロッとしたものが溢れたような気がしてはっとする。
「……っ」
生理だろうか。ううん、生理にはまだ早いはず。だけど下着が濡れた感触がある。まさか尿漏れ?
一度気になりだすと、気持ち悪くて仕方がなくて、早足でトイレへと向かう。下着を下げればぐっしょりと濡れていて、無味無臭。どうやら生理ではないらしい。
だとすればいったいなんなのか。それにどういうわけか、触りたくてしょうがない。
伊織の話をしているうちに、身体が昨日のことを思いだして発情でもしたのだろうか。
触りたい。ううん、そうじゃない。どうしようもなく濡れそぼったここを誰かに舐めてもらいたい。画面越しなんかじゃない、熱い舌の熱を感じたい。
そんなの叶うわけがないのに、私は何を期待しているのだろう。
万が一、このトイレのドアが開いて、目の前に生身の伊織がいたらと思うと。
『瑞穂』
「あっ……い、伊織ぃ」
『あーあ、ぐちょぐちょにして。そんなに俺に舐めてほしいのか?』
「あっ、あ~~~……伊織いぃ」
ほしい、ほしい、伊織の舌で私のここを溶かしてほしい。
私は両足を便器に乗せると、恥ずかしいほどに開脚をした。そして鞄の中にこっそり忍ばせていたディルドを手にとり、ゆっくりと中へ入れていく。
「あああああっ♡♡♡♡」
声、出しちゃだめなのに。あまりのきもちよさに勝手に手が動いた。
誰もいない女子トイレ。もうすぐ授業がはじまっちゃう。
出して、入れて、出して、入れて。
繰り返す度に溢れる蜜。
動きは徐々に早さを増していく。伊織に見られていると思うだけで、私はこんなにも感じてしまうのだ。
もう少しでいきそうな時、ふいにコンコン、とドアがノックされる。
震える身体、止まる手の動き。誰かにばれてしまったのかもしれない。
沈黙が続く。それを破ったのはドアのノックの音。
コン、コン。控えめな音。このまま黙っているのも逆に怪しまれてしまうと思い、勇気を出して口を開く。
「は……い……」
不安に色が付いたような声。その瞬間にまた、金木犀の匂いがした。
ぽたり。
また溢れた。
触れていないはずのところから蜜が溢れている。
もしかしたらこの匂いの所為かもしれないと、気付いた時には感じていた。
「あっ、はぁ……っや、なに……これ……っ」
ここを開けてくださいと、頭の中で言われた気がして勝手に手がドアへと伸びていく。
いったい私は何をやってるの。
いくら思ったって身体は言うことを聞いてくれなくて。
カチャン。
鍵を開けてしまった。これではドアが開いてしまう。
開いたドアの先にいたのは、先生でも生徒でもなかった。
開いたドアの先にいたのは、伊織……ではなく。
「い、苺くん……?」
『やあ、こんにちは。瑞穂』
いったい何が起こったというのだろうか。私の頭の中では、ちょっとしたパニックを起こしていた。
だってここにいるはずのない人がここにいる。
ありえないよ。ありえないよ。
「ど、どうして苺くんがいるの?」
あまりの衝撃に普通のことしか言えずにいると、苺くんが一歩こちらに近付いた。
ふわりと香る金木犀の匂い。この匂いは苺くんの匂いだったんだ。
『私は苺くんじゃないですよ』
「う、嘘。声も顔も苺くんそっくりじゃない! そ、それに一人称だって同じ!」
『私は苺くんじゃないですよ』
まるで機械のように一語一句、同じ言葉を紡いでいく。その表情は柔らかいままで、こちらからでは一切感情を読みとれない。
ぱたりとドアが閉まると、小さな個室で二人きりになってしまった。これではもう逃げられない。
苺くんが私に近付く度に金木犀の匂いがして、私の身体は強張った。
ディルドは床に落ちている。流石に開脚はしてないが、スカートの下はとんでもないことになっているので見ないでほしいと願うばかり。
私が座っていると、苺くんに物理的に見下されてしまう。その氷のような瞳から目が離せないでいると、吸い寄せられるようにして私の唇と苺くんの唇が重なった。
「……っふ」
どうしてキスするの。伊織にばれたら今度こそきらわれちゃうのに、どうして。
唇は触れたまま、見つめ合う瞳と瞳。
苺くんが何を考えているのかちっとも読めなくて怖いのに、いやじゃない。
離れた唇が動くと、私に何かを伝えているようだった。
『そんなに舐めてほしいですか?』
「ふぇ?」
『スカートの下、凄いことになってますよね』
やめて。私の下心を透かさないで。
持ち上げられるスカート。濡れたままの私。苺くんの手が私の太股に触れると大胆に開かれて、隠していた場所が暴かれていく。
「…………………………っあ」
恥ずかしいのに、恥ずかしいのに。
見てほしくないのに、見てほしくて。
私は私の右手の中指を軽く噛んだ。
『中と外、どちらを舐めてほしいですか』
そんなの恥ずかしくて言えないから察してほしい。わかっているくせに聞かないで。私は悪者になりたくないの。
これはそう、苺くんが悪いから。
その身に纏う金木犀の匂いが私をおかしくするの。
だからこれは浮気じゃない。もしこれが私の見ている夢だとか幻覚だとしても、私は何も知らないわ。
「……………………どっちも……………………舐め、て」
こんなに顔のいい、苺くんの熱い舌が、私の突起を刺激する。
一度だけでは飽き足らず、二度三度四度五度。
舌全体で下から上へ舐められる度に、中からきもちいいが溢れてくる。
その律動は決して早くはないけれど、確実に私を快楽へと導いていく。
どうして苺くんがここにいるかなんてそんなのはどうだっていい。今はひたすら苺くんの舌の動きに集中していたかった。
「あっ、あっ、ああっ、あっ」
もうとっくに授業ははじまっているだろう。
私はすぐにいってしまった。
こんなの癖になってしまいそうだ。それは困る。困るのに、苺くんの舌はまだ動いている。
「あっ……んん、なかっ、……はぁ、~~~ッァ」
割れ目の浅いところをちろちろと舐めたり、奥深くまで舌を突っ込んでみたり。
そんなふうにされてばかりの私はどうしたっていってしまう。
ようやく口を離すと、とろりと糸を引くのが見えた。なんだかさっきよりも濡れてしまった気がする。
『早いですね、五分で二回ですか』
「や、やだ、数えないで」
『また舐めてほしかったらいつでも舐めますよ』
「ど、どうしてそんなこと言うの」
『貴女がそう望んだから』
私は舐めてほしいと思ったよ。だけどそれは苺くんにじゃないよ。どうせなら伊織の方がよかったよ。
『これ、入れたいですか?』
「ば、ばか……」
『入れませんよ。私のは大きすぎて壊れちゃいますから』
変わらない声色、変わらない表情で淡々と凄いことを言う。
苺くんの大きすぎるアレ。
興味がないと言えば嘘になる。
どうせ一線は越えたのだ。その先に進んだってなんら変わらないはず。
それに匂いがきつくて。
金木犀……苺くんの匂い。
「…………………………壊して」
気付けば私は苺くんの股間に触れながら、その先を強請っていた。
「ほ、ほんとぉ?」
『うん。でもゆっくりでいいよ。いきなり入れたら痛いから』
私と伊織は今、この間ネットで注文したディルドを試そうとしている。
いきなり入れるのは痛いので、私が濡れてから入れようということになったのだが、伊織に舐めてもらっただけでだいぶ濡れてしまったらしい。
舐めてもらっただけ、というか、ディルドと一緒に購入したローターというものを突起に少し当てたのだ。
こういう類いの玩具を使うのは初めてで、こんな微弱な振動で本当にいくのかと思っていたが、いざ使ってみるとすぐにいった。
それはもう恥ずかしいほどあっけなく。
なんていうか、当てているだけならなんともないのに、伊織が舌を駆使してくると、急にぞくぞくしてきたのだ。
なので私は一度いっている。だから濡れているのである。
ベットの上にディルドを置いて、そこからずれないよう両手で根本を固定する。
「こ、こう?」
『そうそう。いきなり奥まで入れないで、少しずつ入れるんだ。まずはここまで』
そう言って伊織は自分に触れて教えてくれた。
まずはあの、線みたいなところまで。
つまり先っちょを入れるらしい。
先端がちょん、と触れる。ひんやりしていてきもちがいい。
ちゅぷ。
ほんの少しだけ入れてみる。
なんだか身体がぞわぞわした。
「んっ、は……ぁ」
これ、どのくらい入ってるんだろう。自分では見れないからわからなくて怖い。
「い、伊織、入ったぁ?」
『ん、もうちょっと』
これでもまだ入っていないのか。きもち的にはなんかもう、半分くらいは入れた感じがするんだけど。
私はほんの少しだけ腰を下ろした。
「あっ、あっ、入った! 入ったでしょう、伊織!」
『ん、もうちょっと』
いや入ったでしょ。今のは入ったって。なんかちょっと違ったもん。ねえなんで入ったのに入ってないって言うの。
私はほんの少しだけ腰を下ろした。
「あああっ、入ったって! これ絶対もう入ったって!」
『ん、もうちょっと』
「いやもうどのくらい入ってるかわからないけど、間違いなく先っぽは入ったでしょうが!」
『はは、ごめんね瑞穂。なんかがんばって腰下ろしてるのかわいいからさ』
屈託のない笑顔で言う。これだから憎めない。
『ね、奥まで入りそうなら入れていいよ』
「お、奥までって、どこまでよ」
『見て、瑞穂。ここまで』
伊織が自分ので説明してくれるお陰でよくわかった。だけど多分、そこまで入れたら股が裂けるよ。
「む、むいっ、怖すぎるから……っ」
『しょうがないな。俺が動くから、瑞穂はじっとしてて』
ふいに手にしたそれはいったいなんなのか。私は伊織の手元をじっと見る。
何かはめたなぁ。はめたまま、いつものように上下に動かしてる。
『あっ……はあっ……』
あれ、なんか音が凄いね。ぬっちゅぬっちゅ聞こえるような。
「な、何してるの?」
『んっ、なにって、はあっ、瑞穂とえっちしてる』
「ち、ちがくてぇ……そのおちんちんにつけてるの、なあに?」
『はっ、ん、これぇ? オナホール♡』
「おなほーる?」
またわからない単語が出てきたぞ。あとで検索しないと。
『ほらぁ、瑞穂も……っ、俺に合わせて動かなきゃ』
え、でもさっき、私は動かなくていいって。
ああでもこれはたしかに、じっとしているのはむりかもしれない。
私は浅いところ……つまり先っぽ辺りで上下に腰を動かしてみた。すると、指とは違った感覚が全身を駆け巡るのを感じて、もっとほしいと強請りだす。
なんだろうこれ。これってきもちいいのかな。もっと奥まで入れたらどうなっちゃうんだろう。
私はほんの少しだけ腰を下ろした。
「ひあっ」
なにこれなにこれなにこれ!
まだ奥まで入れてないのに、さっきとは全然違う。
『瑞穂、かわいい』
ちゅ、と伊織にキスをされると、それだけでまたぞわぞわした。
私、濡れてる。さっきよりも早く動けるようになっている。
このまましてたらどうなるんだろう。怖いけど、知りたくなった。
「あっ、ああっ、あああっ、ああああっ♡♡♡♡」
伊織もだいぶ興奮しているようで、ぬっちゅぬっちゅ言わせながら硬くなったおちんちんを扱いている。
『かわいい瑞穂ぉ、かわいっ、はあ~~……っ、瑞穂のまんこぐちゃぐちゃぁ~~♡』
「い、伊織ぃ……恥ずかしいよぉ……」
互いに息は荒く、部屋中に響き渡る猥音ももはやどちらのものかわからなくなっていた。
あ、これ、いく。私、伊織のおちんちんでいく。
そう感じた瞬間には、いっていた。
多分、伊織も。
伊織ときもちいいことしちゃった。
私の頭の中はそればかり。身体が繋がるってこんなに満たされるんだなぁ。
私はこの喜びを早く瑛麻に伝えたくて仕方がなかった。
朝になり支度を済ませ家を出ると、私は学校へとひた走る。ようやく瑛麻の後ろ姿を見つけると、私はすぐに声をかけた。
「瑛麻ぁー!」
「あ、瑞穂、おはよー」
「瑛麻聞いて! 私、伊織と昨日えっちした!」
「へ」
「もう……伊織のったら凄く立派でね、腰の動きもしなやかで、私もう腰がガクガクだよう~~~ッ」
私は両頬に手を添えながら目を閉じてうっとりとする。
「そ、そうなんだ。うーん、でもさぁ、伊織って猫だったんでしょ? 猫とえっちするってどうなの?」
「やだなぁもう~~~、そんなの昔の話じゃん! 今はついてる♡ 伊織はちゃぁんと男の子だったよ♡」
私は瑛麻に惚気ていた。もう会えないと思っていた人に出会えたのだ。それはもう、頭がどうにかなるのもむりはない。
これからは今までとは違った関係を。家族から一歩進んだ関係を二人で築いていくんだ。私と伊織は飼い主とペットなんかじゃない。本物の恋人になるのだから。
私は自分のことばかりで、瑛麻のことすら見えていなかった。
あんなにいつも一緒にいたはずの樹くんがいないなんて。
頭と股のネジが緩んでいなければ、すぐに気付いたはずなのに。
『こら。朝から卑猥な会話しないの』
「あ、伊織い♡」
『恥ずかしいからあんま大声で話すなよ』
「ごめんねえー♡ 伊織と結ばれたことが嬉しくてえ」
『すまんな瑛麻。朝からこちらの性事情を聞かせて』
「い、いえ……あたしは別に」
すべては順風満帆に進んでいる。そう思っていた。あの瞬間までは。
誰かとすれ違うその瞬間、ふわりと香る金木犀の匂い。
その匂いを鼻で感じた時、何かドロッとしたものが溢れたような気がしてはっとする。
「……っ」
生理だろうか。ううん、生理にはまだ早いはず。だけど下着が濡れた感触がある。まさか尿漏れ?
一度気になりだすと、気持ち悪くて仕方がなくて、早足でトイレへと向かう。下着を下げればぐっしょりと濡れていて、無味無臭。どうやら生理ではないらしい。
だとすればいったいなんなのか。それにどういうわけか、触りたくてしょうがない。
伊織の話をしているうちに、身体が昨日のことを思いだして発情でもしたのだろうか。
触りたい。ううん、そうじゃない。どうしようもなく濡れそぼったここを誰かに舐めてもらいたい。画面越しなんかじゃない、熱い舌の熱を感じたい。
そんなの叶うわけがないのに、私は何を期待しているのだろう。
万が一、このトイレのドアが開いて、目の前に生身の伊織がいたらと思うと。
『瑞穂』
「あっ……い、伊織ぃ」
『あーあ、ぐちょぐちょにして。そんなに俺に舐めてほしいのか?』
「あっ、あ~~~……伊織いぃ」
ほしい、ほしい、伊織の舌で私のここを溶かしてほしい。
私は両足を便器に乗せると、恥ずかしいほどに開脚をした。そして鞄の中にこっそり忍ばせていたディルドを手にとり、ゆっくりと中へ入れていく。
「あああああっ♡♡♡♡」
声、出しちゃだめなのに。あまりのきもちよさに勝手に手が動いた。
誰もいない女子トイレ。もうすぐ授業がはじまっちゃう。
出して、入れて、出して、入れて。
繰り返す度に溢れる蜜。
動きは徐々に早さを増していく。伊織に見られていると思うだけで、私はこんなにも感じてしまうのだ。
もう少しでいきそうな時、ふいにコンコン、とドアがノックされる。
震える身体、止まる手の動き。誰かにばれてしまったのかもしれない。
沈黙が続く。それを破ったのはドアのノックの音。
コン、コン。控えめな音。このまま黙っているのも逆に怪しまれてしまうと思い、勇気を出して口を開く。
「は……い……」
不安に色が付いたような声。その瞬間にまた、金木犀の匂いがした。
ぽたり。
また溢れた。
触れていないはずのところから蜜が溢れている。
もしかしたらこの匂いの所為かもしれないと、気付いた時には感じていた。
「あっ、はぁ……っや、なに……これ……っ」
ここを開けてくださいと、頭の中で言われた気がして勝手に手がドアへと伸びていく。
いったい私は何をやってるの。
いくら思ったって身体は言うことを聞いてくれなくて。
カチャン。
鍵を開けてしまった。これではドアが開いてしまう。
開いたドアの先にいたのは、先生でも生徒でもなかった。
開いたドアの先にいたのは、伊織……ではなく。
「い、苺くん……?」
『やあ、こんにちは。瑞穂』
いったい何が起こったというのだろうか。私の頭の中では、ちょっとしたパニックを起こしていた。
だってここにいるはずのない人がここにいる。
ありえないよ。ありえないよ。
「ど、どうして苺くんがいるの?」
あまりの衝撃に普通のことしか言えずにいると、苺くんが一歩こちらに近付いた。
ふわりと香る金木犀の匂い。この匂いは苺くんの匂いだったんだ。
『私は苺くんじゃないですよ』
「う、嘘。声も顔も苺くんそっくりじゃない! そ、それに一人称だって同じ!」
『私は苺くんじゃないですよ』
まるで機械のように一語一句、同じ言葉を紡いでいく。その表情は柔らかいままで、こちらからでは一切感情を読みとれない。
ぱたりとドアが閉まると、小さな個室で二人きりになってしまった。これではもう逃げられない。
苺くんが私に近付く度に金木犀の匂いがして、私の身体は強張った。
ディルドは床に落ちている。流石に開脚はしてないが、スカートの下はとんでもないことになっているので見ないでほしいと願うばかり。
私が座っていると、苺くんに物理的に見下されてしまう。その氷のような瞳から目が離せないでいると、吸い寄せられるようにして私の唇と苺くんの唇が重なった。
「……っふ」
どうしてキスするの。伊織にばれたら今度こそきらわれちゃうのに、どうして。
唇は触れたまま、見つめ合う瞳と瞳。
苺くんが何を考えているのかちっとも読めなくて怖いのに、いやじゃない。
離れた唇が動くと、私に何かを伝えているようだった。
『そんなに舐めてほしいですか?』
「ふぇ?」
『スカートの下、凄いことになってますよね』
やめて。私の下心を透かさないで。
持ち上げられるスカート。濡れたままの私。苺くんの手が私の太股に触れると大胆に開かれて、隠していた場所が暴かれていく。
「…………………………っあ」
恥ずかしいのに、恥ずかしいのに。
見てほしくないのに、見てほしくて。
私は私の右手の中指を軽く噛んだ。
『中と外、どちらを舐めてほしいですか』
そんなの恥ずかしくて言えないから察してほしい。わかっているくせに聞かないで。私は悪者になりたくないの。
これはそう、苺くんが悪いから。
その身に纏う金木犀の匂いが私をおかしくするの。
だからこれは浮気じゃない。もしこれが私の見ている夢だとか幻覚だとしても、私は何も知らないわ。
「……………………どっちも……………………舐め、て」
こんなに顔のいい、苺くんの熱い舌が、私の突起を刺激する。
一度だけでは飽き足らず、二度三度四度五度。
舌全体で下から上へ舐められる度に、中からきもちいいが溢れてくる。
その律動は決して早くはないけれど、確実に私を快楽へと導いていく。
どうして苺くんがここにいるかなんてそんなのはどうだっていい。今はひたすら苺くんの舌の動きに集中していたかった。
「あっ、あっ、ああっ、あっ」
もうとっくに授業ははじまっているだろう。
私はすぐにいってしまった。
こんなの癖になってしまいそうだ。それは困る。困るのに、苺くんの舌はまだ動いている。
「あっ……んん、なかっ、……はぁ、~~~ッァ」
割れ目の浅いところをちろちろと舐めたり、奥深くまで舌を突っ込んでみたり。
そんなふうにされてばかりの私はどうしたっていってしまう。
ようやく口を離すと、とろりと糸を引くのが見えた。なんだかさっきよりも濡れてしまった気がする。
『早いですね、五分で二回ですか』
「や、やだ、数えないで」
『また舐めてほしかったらいつでも舐めますよ』
「ど、どうしてそんなこと言うの」
『貴女がそう望んだから』
私は舐めてほしいと思ったよ。だけどそれは苺くんにじゃないよ。どうせなら伊織の方がよかったよ。
『これ、入れたいですか?』
「ば、ばか……」
『入れませんよ。私のは大きすぎて壊れちゃいますから』
変わらない声色、変わらない表情で淡々と凄いことを言う。
苺くんの大きすぎるアレ。
興味がないと言えば嘘になる。
どうせ一線は越えたのだ。その先に進んだってなんら変わらないはず。
それに匂いがきつくて。
金木犀……苺くんの匂い。
「…………………………壊して」
気付けば私は苺くんの股間に触れながら、その先を強請っていた。
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