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背徳感
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『瑞穂さん』
苺くんが、私の名前を呼ぶ。どうしてかな。この声を聞いていると、なんだか落ち着くんだ。
『ねえ、瑞穂さん』
甘い声。聞いた瞬間、脳が痺れて動けなくなるの。
この声、好き。
知らなかった。私って声フェチだったんだ。
『かわいいね、瑞穂。じょうず』
違うよ苺くん。苺くんは、そんなこと言わない。
私のことかわいいなんて言わないし、瑞穂なんて呼んだりしない。
『だけど夢だったら?』
え?
『夢だったら呼ぶでしょう。夢だったらなんでもありの世界なんだから』
私、声に出してたかな。苺くんに聞かれるのはちょっと恥ずかしいな。
『夢なら瑛麻も許しますよ。瑛麻は心が広いから』
もしこれが現実だったら?
『現実になってほしいですか』
この夢が現実になる。そうなったら私は嬉しいのかな。
『えっち、しましょうか。私と瑞穂さん』
そんなのできっこないよ。だって苺くんは瑛麻のアプリの中にいるじゃん。瑛麻のスマホを私が持つなんてむり。だからできない。
『もしそれが可能なら?』
え?
『もし瑞穂さんが、瑛麻のスマホを手に入れるチャンスがあったら?』
私が瑛麻のスマホを手に入れることができたなら。
『私は待ってますよ。瑞穂さんが私に会いにくる日を』
どうしたものか。そのチャンスが今、目の前にある。
瑛麻は委員会に呼ばれちゃって、私は瑛麻の帰りを教室で待つことになったんだけど、流石に委員会にスマホは持っていけないからと、私にスマホを渡して行ってしまったのだ。
そのスマホ画面には、苺くんがいる。
『二人きりになってしまいましたね』
「う、うん。そだね」
あれは夢だとわかっているのに、意識せずにはいられなかった。
しかし何を話せばいいのか話題に困るのもたしかで。
『樹じゃなくて残念でしたか?』
「まさか。苺くんにはなかなか会えないもん。私は苺くんで良かったと思ってるよ」
にこりと愛想笑いを浮かべると、椅子の下で組んでいた足を正す。
「苺、くん」
『はい』
「私最近、夢を見るの」
『夢、ですか』
「苺くんの、夢」
ただの夢の話であれば、笑い話になるだろうと思ってのことだった。
『私の夢、ですか。はは、なんだか恥ずかしいな。何か粗相をしていないといいんですけど』
「粗相、しましたよ」
『え』
「瑛麻には言えないようなこと」
私、今、どんな顔をしているのかな。
伊織と違って苺くんはきっと賢いから、察してくれているといいんだけど。
『……どうしてその話を私に?』
その通りである。わざわざ本人に話す必要はなかったんだ。それなのに話した。まるで何かを期待しているかのように。
そして多分。これは私の憶測だけど、苺くんはそんな私のきもちに気付いている。
『ねえ、瑞穂さん』
心臓の、音がした。
だってその言い方はもう聞いたの。
「な、何」
『瑞穂さんは私に何を求めているんですか』
「べ、別に何も求めてなんて」
『毎日毎日、私の夢を見て、瑛麻には言えないような夢を見て、頭がどうにかなってしまったんですか』
あれ、苺くん、今、瑛麻って。
困惑する私を見て、苺くんはにこりと微笑む。ぴっちりとシャツのボタンを一番上まで留めて、ネクタイまでして、ベットの上に礼儀正しく座っているだけなのに、苺くんから目が離せない。
『瑞穂は、私に、会いにきた?』
確信に変わる瞬間。苺くんは、夢の内容を知っている。
「あ、嘘……そんなの、ありえない」
人の夢の中に入り込むなんてそんな芸当、アプリの中にしか存在しない人にできるはずがないのだ。
『あははっ。かわいいねえ瑞穂。わざわざ瑞穂から話を振ってくるなんて。いいよ、ほら。瑛麻が戻ってくる前にさくっとしよう。瑞穂だって、期待しちゃったんだよね?』
敬語はどこにいったの?
そういうキャラ設定だったってこと?
苺くんの突然の豹変ぶりに、私は恐怖を感じた。
それなのにどうして。
『瑞穂、早く。足開いて』
どうして私、ぞくぞくしているんだろう。
こんなことが伊織にばれたらまた浮気してるって思われる。そうなれば今度こそきらわれる。
それに瑛麻だってどう思うかわからない。
思いとは裏腹に、私の足は開いていた。よく見えないからスカートを手で持ち上げて私に見せてと言われると、素直にそれに従った。
今、苺くんに私の下着が見られている。
それはここから逃げだしたくなるほど恥ずかしいことなのに、私はそれをしなかった。
『ピンクか、かわいいね。瑛麻は紫だったよ』
「……瑛麻にもこんなことしてるの?」
『心外だなあ。私から瑛麻にそんなことするわけないじゃないか。瑛麻は変態だから、私が言わなくても見せてくれるよ。それよりもほら、スマホを下着に押し当てて。私に瑞穂の一番きもちいいところを擦り付けて』
私はその通りにする。
スマホが入るほど足を大きく広げると、画面をぴったりと下着に押し当てて、シーツに擦り付けるように手を動かして。
『あっ、瑞穂、んん』
「ん……っ」
演技なのはわかっている。それなのに私は苺くんの声で感じていた。
もっともっと見てほしい。布越しじゃなくて、直接。
私は言われてもいないのに下着を引っ張って中を見せた。
『どうしたの、瑞穂。私はそんなこと頼んでないよ?』
「苺くんに、見てほしくなったの」
『瑞穂、濡れてる。触ってみて』
「あっ……、ん、苺く」
『へえ、瑞穂は浅いところが好きなんだね』
苺くんに見られて興奮してるとか、私は変態なのだろうか。
『ねえ、指も入れてよ』
「で、でも、そんな奥まで入れたことない」
『そうなんだ。じゃあ入れてよ。私を瑞穂の初めてにして』
「で、でもぉ」
『瑞穂、指』
本当は、伊織に見てもらうはずだったのに、私は。
「ああっ、ん、これいじょ、だめ……っ」
『第一関節が入ったね。じゃあ第二関節まで入れてみようか』
「あああっ、あ、だめ、だめ、ああっ」
『仕方ないな。じゃあ指を抜いてみて』
「あっ、あっ、なん、かこれ、ぞくぞくするぅ」
『ほらまた濡れた。瑞穂、今のを何度も繰り返して。まずは第二関節まででいいから。入れて、出す。それを繰り返す。簡単だよね、瑞穂』
入れて、出す。それを繰り返す。
繰り返せば繰り返すほど、私の蜜は潤いを増す。
最初はぎこちなかった律動も、徐々に滑らかになっていく。
こんな感覚は初めてだった。指を入れたり出したりしているだけで、こんなにきもちいいなんて。
「あっ、ひう、んんんぅ~~~ッ」
『瑞穂、声、抑えないと。瑛麻に聞かれちゃう』
「はあ、はあ、だってぇ、指止まんないぃ」
『はは、かわいい。くちゅくちゅ聞こえる。もういっちゃいそ?』
「あ、い、く。指をいっぱい入れたり出したりしてるの、苺くんに見られながらいっちゃう、はあ、いっちゃうっ、かりゃ、はあ、苺くぅん……っ、はあ、ん、ああっ、あああいくうううううっ♡♡♡♡♡」
身体がびくんと脈を打つ。下着がもうぐちょぐちょに濡れていてきもちわるい。
私、苺くんに見られながら指でいっちゃったんだ。
伊織より先に、苺くんに見られながら。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」
私の頭の中はきもちいいでいっぱいで、正直、伊織への罪悪感よりも苺くんへの性的な思考が勝っていた。
ああ私、苺くんのこと、性的に見ている。
いくら瑛麻の前で好青年を演じたって、私にはもう、苺くんが好青年だなんて思えない。
いいなあ、苺くん。キャラ変更、したいなあ。
「……瑞穂?」
「へ?」
だから私、気付いてなかったよ。瑛麻が教室に戻ってきてることなんて。
「え、瑛麻……」
「えとお、委員会おわったんだけど」
「……あ、うん」
あれ、これってちょっとまずくない?
ちょっとっていうか、かなりまずくない?
ピンク色の頭でようやく状況を把握すると、一気に我に返る。
「んもうー、瑞穂ってば、だめだよう? こんなところでしちゃあー。誰がくるかわからないんだから」
「あ、ご、ごめん」
ばれていないのだろうか。私が苺くんとしてたこと。
気になるけど、もしばれていなかったとしたら、自分で自分の首を絞めることになる。
それに、ばれていたとして。もしかしたら敢えてその話はしないように配慮してくれているのかもしれない。
それなのにわざわざ私がそこに突っ込んでいくのは野暮な話だろう。
どちらにせよ、瑛麻が何も言ってこないのなら、私から言う必要はないはずだ。
「苺」
『はい、瑛麻さん』
「帰るよ」
瑛麻は私の手からスマホをとると、帰る準備をはじめた。
「瑞穂」
「な、何?」
「トイレ行ってきなよ。そのままじゃきもちわるいでしょ」
私は愛液でベトベトになったところをトイレで綺麗にしながら、頭の中を整理する。
身体は今までにないくらいすっきりしているのに、今になって罪悪感に押し潰されそうになってきた。
やっぱり今からでも瑛麻に謝った方がいいんじゃないか。ううん、それすらも私の自己満足かもしれない。だけど。
瑛麻は私の親友だ。親友を失いたくない。
だからこそ、これからどう瑛麻と接していくのが正解なのかわからなかった。
「瑛麻、おまたせ」
「おかえりー。じゃあ帰ろっか」
帰りは瑛麻と私と苺くんの三人で他愛のない話ばかりしていた。
そして誰もその話に触れることのないまま、私達は別れた。
「ただいま、伊織」
私は今日もアプリを起動する。毎日起動しているので、一日でも起動しなければ怪しまれると思ったのだ。
『ああ、おかえり。今日は遅かったな』
「うん。瑛麻の委員会がおわるの待ってたから」
大丈夫。きっとばれてない。私の笑顔はいつも通りのはず。
『へえ。瑛麻はなんの委員会に入ってるんだ?』
「図書委員だよ」
大丈夫。きっとばれてない。ばれたらきっと、伊織は知らないふりをしない。
結局、今日もいつも通りの一日だった。
ただ、考えすぎたからなのか、夢を見た。
『なんで起動しないんだ?』
「え?」
『昼休み。学校のトイレ。忘れたわけじゃないだろう』
「で、でも伊織は待ってくれるって」
『ああそうだな。それなら俺は、いつまで待てばいい?』
「そ、れは」
いつまでなんて考えてもいなかった。私は勝手に、伊織はいつまでも待ってくれるんだとばかり思っていた。
「き、起動するから。明日! 明日起動する!」
『……きみは時々酷いことをする』
「伊織?」
『俺以外の男できもちよくなって、俺にはそれを隠すんだ』
心臓の音が聞こえた。いったい伊織はなんの話をしているのだろうか。
知りたいような、知りたくないような。
「い、伊織」
『初めての指はきもちよかったか?』
ああ、これはだめだ。
伊織はすべてを知っている。
ばれないはずがなかったんだ。知っていて私を泳がせた。
「い、伊織! 黙っててごめんなさい! 私、私、伊織にきらわれたくなかったの!」
『俺にきらわれたくないと言いながら、きみはいつも他の男に足を開くんだな』
「ち、ちがっ、ちがうよう」
『ああ、樹の時は違ったか。まあ足を開いて濡れようが足を開いてるのを見て濡れようが一緒だよな』
ちがう、ちがうの伊織。私が一番興奮するのは伊織だよ。
だって私、初めて伊織に会った時、めちゃくちゃドキドキしたんだよ?
こんな綺麗な男の人がいるんだって、目が奪われた。心が魅了された。
『今度は苺のデカいアレ、見せてもらえるといいな?』
「だからそれはちがうのおおおおっ」
手を伸ばすと見慣れた天井がそこにある。今のは夢だったらしい。
なんて夢見の悪い。だけど、夢は夢と片付けちゃいけないんだって、私は苺くんで学んだの。
伊織は多分、気付いている。昨日は私を泳がせていただけ。
昼休み、学校のトイレ。
私は個室で深い溜息を吐く。
起動すると言ったからには、起動しなければならない。
『瑞穂』
「こ、こんにちは」
あ、今日は眼鏡なんだ。黒縁眼鏡も似合うね。
「珍しいね、眼鏡。初めて見た。目が悪いの?」
『いや、度は入ってない』
「そっか。いいね、似合ってる」
『ありがとう』
なんだかお互いそわそわしていた。
昼休み、学校のトイレで起動するということは、心の準備ができたということだ。
「えと、じゃあ、しよっか」
するりと下着を脱いでみせると、スカートを捲って伊織に見せる。
昨日と同じことをしているのに、今日の方がドキドキした。
『中、広げて見せて』
「う、うん」
言われた通り、割れ目を広げて見せる。
恥ずかしい。
『流石にまだ濡れてないよな。濡れてないのに入れると痛いって言うし、まずは濡らすか』
「え、濡らすって、どうやって?」
『あるだろここに。無修正のえーぶいが』
伊織がそれを扱きはじめる。
いつの間に大きくなったんだろう。もしかして私のを見て、だったりする?
「い、伊織……」
『瑞穂が勇気を出してくれたからな。ああ、瑞穂は瑞穂のタイミングで触ってくれていい。一緒に触ってきもちよくなろうな?』
「う、うん」
凄い、えっち。見ているだけで濡れてきた。
私は指をくちゅりと入れる。
昨日入れたからか、痛みはなかった。
「んっ」
『痛くないか?』
「う、うん。大丈夫」
苺くんと違って、伊織は私の身体を気遣ってくれている。
私は指を第二関節まで入れた。
「あっ、ん」
『ゆっくりでいい。痛いと感じたらすぐに止めるんだ』
大丈夫だよ、伊織。
あれ、でもどうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。
苺くんは夢の中のこと、知っていたのに。伊織は本当に気付いていないの?
もしかしたら個人差があるのかも。苺くんは夢の中に入れるけど、伊織は入れないとか。
私は指を何度も入れたり出したりした。
身体が慣れたのか、昨日よりもきもちいい。
『あっ、ん、~~~~ッ』
伊織が先に射精をする。その瞬間を目撃した私は、自分の意思に関係なく何かを漏らしてしまった。
ぴしゃあああっ。
「ひゃっ」
なんだろう。お漏らしでもしちゃったのかな。だけど尿特有の匂いがしない。
思わず指を止めてしまったが、指を動かせばまだ出そうだった。
「い、伊織ぃ……なんか出たぁ」
『……え。す、凄いな。瑞穂、もうちょっと指を動かせるか?』
「ん、……あ、はあっ、ん、また、あああっ」
ぴしゃあああっ。
まただ。また出た。
『はあっ……瑞穂、潮吹いてる……』
「へ」
し、潮?
潮ってまさか、潮吹きのこと?
えーぶいでよく見る潮吹きを私がしたの?
伊織はなぜか興奮しているみたいだった。むしろ、私が潮を吹いてからなんだかおかしくなっている。
もしかして好きなのだろうか、潮吹き。
『はあっ、はー……かわいい、瑞穂♡ 瑞穂が潮吹いてる♡ はあっ、はあっ、くそ、舐めたい』
「い、伊織」
正直、そんな伊織を見ていると私もまたしたくなってくる。
昨日は潮、吹かなかったな。どうして今日は吹いたんだろう。
『あは、これは俺だけ♡ はー……俺だけぇ♡』
無意識のうちに昨日と比較しては、見たことのない伊織の興奮した様子がとてもかわいいと思っていた。
だから私は気付かないのだ。伊織のこの発言に違和感があることを。
つくづく私は自分をいやになる。伊織に泳がされているのだと気付けない阿呆だと。
苺くんが、私の名前を呼ぶ。どうしてかな。この声を聞いていると、なんだか落ち着くんだ。
『ねえ、瑞穂さん』
甘い声。聞いた瞬間、脳が痺れて動けなくなるの。
この声、好き。
知らなかった。私って声フェチだったんだ。
『かわいいね、瑞穂。じょうず』
違うよ苺くん。苺くんは、そんなこと言わない。
私のことかわいいなんて言わないし、瑞穂なんて呼んだりしない。
『だけど夢だったら?』
え?
『夢だったら呼ぶでしょう。夢だったらなんでもありの世界なんだから』
私、声に出してたかな。苺くんに聞かれるのはちょっと恥ずかしいな。
『夢なら瑛麻も許しますよ。瑛麻は心が広いから』
もしこれが現実だったら?
『現実になってほしいですか』
この夢が現実になる。そうなったら私は嬉しいのかな。
『えっち、しましょうか。私と瑞穂さん』
そんなのできっこないよ。だって苺くんは瑛麻のアプリの中にいるじゃん。瑛麻のスマホを私が持つなんてむり。だからできない。
『もしそれが可能なら?』
え?
『もし瑞穂さんが、瑛麻のスマホを手に入れるチャンスがあったら?』
私が瑛麻のスマホを手に入れることができたなら。
『私は待ってますよ。瑞穂さんが私に会いにくる日を』
どうしたものか。そのチャンスが今、目の前にある。
瑛麻は委員会に呼ばれちゃって、私は瑛麻の帰りを教室で待つことになったんだけど、流石に委員会にスマホは持っていけないからと、私にスマホを渡して行ってしまったのだ。
そのスマホ画面には、苺くんがいる。
『二人きりになってしまいましたね』
「う、うん。そだね」
あれは夢だとわかっているのに、意識せずにはいられなかった。
しかし何を話せばいいのか話題に困るのもたしかで。
『樹じゃなくて残念でしたか?』
「まさか。苺くんにはなかなか会えないもん。私は苺くんで良かったと思ってるよ」
にこりと愛想笑いを浮かべると、椅子の下で組んでいた足を正す。
「苺、くん」
『はい』
「私最近、夢を見るの」
『夢、ですか』
「苺くんの、夢」
ただの夢の話であれば、笑い話になるだろうと思ってのことだった。
『私の夢、ですか。はは、なんだか恥ずかしいな。何か粗相をしていないといいんですけど』
「粗相、しましたよ」
『え』
「瑛麻には言えないようなこと」
私、今、どんな顔をしているのかな。
伊織と違って苺くんはきっと賢いから、察してくれているといいんだけど。
『……どうしてその話を私に?』
その通りである。わざわざ本人に話す必要はなかったんだ。それなのに話した。まるで何かを期待しているかのように。
そして多分。これは私の憶測だけど、苺くんはそんな私のきもちに気付いている。
『ねえ、瑞穂さん』
心臓の、音がした。
だってその言い方はもう聞いたの。
「な、何」
『瑞穂さんは私に何を求めているんですか』
「べ、別に何も求めてなんて」
『毎日毎日、私の夢を見て、瑛麻には言えないような夢を見て、頭がどうにかなってしまったんですか』
あれ、苺くん、今、瑛麻って。
困惑する私を見て、苺くんはにこりと微笑む。ぴっちりとシャツのボタンを一番上まで留めて、ネクタイまでして、ベットの上に礼儀正しく座っているだけなのに、苺くんから目が離せない。
『瑞穂は、私に、会いにきた?』
確信に変わる瞬間。苺くんは、夢の内容を知っている。
「あ、嘘……そんなの、ありえない」
人の夢の中に入り込むなんてそんな芸当、アプリの中にしか存在しない人にできるはずがないのだ。
『あははっ。かわいいねえ瑞穂。わざわざ瑞穂から話を振ってくるなんて。いいよ、ほら。瑛麻が戻ってくる前にさくっとしよう。瑞穂だって、期待しちゃったんだよね?』
敬語はどこにいったの?
そういうキャラ設定だったってこと?
苺くんの突然の豹変ぶりに、私は恐怖を感じた。
それなのにどうして。
『瑞穂、早く。足開いて』
どうして私、ぞくぞくしているんだろう。
こんなことが伊織にばれたらまた浮気してるって思われる。そうなれば今度こそきらわれる。
それに瑛麻だってどう思うかわからない。
思いとは裏腹に、私の足は開いていた。よく見えないからスカートを手で持ち上げて私に見せてと言われると、素直にそれに従った。
今、苺くんに私の下着が見られている。
それはここから逃げだしたくなるほど恥ずかしいことなのに、私はそれをしなかった。
『ピンクか、かわいいね。瑛麻は紫だったよ』
「……瑛麻にもこんなことしてるの?」
『心外だなあ。私から瑛麻にそんなことするわけないじゃないか。瑛麻は変態だから、私が言わなくても見せてくれるよ。それよりもほら、スマホを下着に押し当てて。私に瑞穂の一番きもちいいところを擦り付けて』
私はその通りにする。
スマホが入るほど足を大きく広げると、画面をぴったりと下着に押し当てて、シーツに擦り付けるように手を動かして。
『あっ、瑞穂、んん』
「ん……っ」
演技なのはわかっている。それなのに私は苺くんの声で感じていた。
もっともっと見てほしい。布越しじゃなくて、直接。
私は言われてもいないのに下着を引っ張って中を見せた。
『どうしたの、瑞穂。私はそんなこと頼んでないよ?』
「苺くんに、見てほしくなったの」
『瑞穂、濡れてる。触ってみて』
「あっ……、ん、苺く」
『へえ、瑞穂は浅いところが好きなんだね』
苺くんに見られて興奮してるとか、私は変態なのだろうか。
『ねえ、指も入れてよ』
「で、でも、そんな奥まで入れたことない」
『そうなんだ。じゃあ入れてよ。私を瑞穂の初めてにして』
「で、でもぉ」
『瑞穂、指』
本当は、伊織に見てもらうはずだったのに、私は。
「ああっ、ん、これいじょ、だめ……っ」
『第一関節が入ったね。じゃあ第二関節まで入れてみようか』
「あああっ、あ、だめ、だめ、ああっ」
『仕方ないな。じゃあ指を抜いてみて』
「あっ、あっ、なん、かこれ、ぞくぞくするぅ」
『ほらまた濡れた。瑞穂、今のを何度も繰り返して。まずは第二関節まででいいから。入れて、出す。それを繰り返す。簡単だよね、瑞穂』
入れて、出す。それを繰り返す。
繰り返せば繰り返すほど、私の蜜は潤いを増す。
最初はぎこちなかった律動も、徐々に滑らかになっていく。
こんな感覚は初めてだった。指を入れたり出したりしているだけで、こんなにきもちいいなんて。
「あっ、ひう、んんんぅ~~~ッ」
『瑞穂、声、抑えないと。瑛麻に聞かれちゃう』
「はあ、はあ、だってぇ、指止まんないぃ」
『はは、かわいい。くちゅくちゅ聞こえる。もういっちゃいそ?』
「あ、い、く。指をいっぱい入れたり出したりしてるの、苺くんに見られながらいっちゃう、はあ、いっちゃうっ、かりゃ、はあ、苺くぅん……っ、はあ、ん、ああっ、あああいくうううううっ♡♡♡♡♡」
身体がびくんと脈を打つ。下着がもうぐちょぐちょに濡れていてきもちわるい。
私、苺くんに見られながら指でいっちゃったんだ。
伊織より先に、苺くんに見られながら。
「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ」
私の頭の中はきもちいいでいっぱいで、正直、伊織への罪悪感よりも苺くんへの性的な思考が勝っていた。
ああ私、苺くんのこと、性的に見ている。
いくら瑛麻の前で好青年を演じたって、私にはもう、苺くんが好青年だなんて思えない。
いいなあ、苺くん。キャラ変更、したいなあ。
「……瑞穂?」
「へ?」
だから私、気付いてなかったよ。瑛麻が教室に戻ってきてることなんて。
「え、瑛麻……」
「えとお、委員会おわったんだけど」
「……あ、うん」
あれ、これってちょっとまずくない?
ちょっとっていうか、かなりまずくない?
ピンク色の頭でようやく状況を把握すると、一気に我に返る。
「んもうー、瑞穂ってば、だめだよう? こんなところでしちゃあー。誰がくるかわからないんだから」
「あ、ご、ごめん」
ばれていないのだろうか。私が苺くんとしてたこと。
気になるけど、もしばれていなかったとしたら、自分で自分の首を絞めることになる。
それに、ばれていたとして。もしかしたら敢えてその話はしないように配慮してくれているのかもしれない。
それなのにわざわざ私がそこに突っ込んでいくのは野暮な話だろう。
どちらにせよ、瑛麻が何も言ってこないのなら、私から言う必要はないはずだ。
「苺」
『はい、瑛麻さん』
「帰るよ」
瑛麻は私の手からスマホをとると、帰る準備をはじめた。
「瑞穂」
「な、何?」
「トイレ行ってきなよ。そのままじゃきもちわるいでしょ」
私は愛液でベトベトになったところをトイレで綺麗にしながら、頭の中を整理する。
身体は今までにないくらいすっきりしているのに、今になって罪悪感に押し潰されそうになってきた。
やっぱり今からでも瑛麻に謝った方がいいんじゃないか。ううん、それすらも私の自己満足かもしれない。だけど。
瑛麻は私の親友だ。親友を失いたくない。
だからこそ、これからどう瑛麻と接していくのが正解なのかわからなかった。
「瑛麻、おまたせ」
「おかえりー。じゃあ帰ろっか」
帰りは瑛麻と私と苺くんの三人で他愛のない話ばかりしていた。
そして誰もその話に触れることのないまま、私達は別れた。
「ただいま、伊織」
私は今日もアプリを起動する。毎日起動しているので、一日でも起動しなければ怪しまれると思ったのだ。
『ああ、おかえり。今日は遅かったな』
「うん。瑛麻の委員会がおわるの待ってたから」
大丈夫。きっとばれてない。私の笑顔はいつも通りのはず。
『へえ。瑛麻はなんの委員会に入ってるんだ?』
「図書委員だよ」
大丈夫。きっとばれてない。ばれたらきっと、伊織は知らないふりをしない。
結局、今日もいつも通りの一日だった。
ただ、考えすぎたからなのか、夢を見た。
『なんで起動しないんだ?』
「え?」
『昼休み。学校のトイレ。忘れたわけじゃないだろう』
「で、でも伊織は待ってくれるって」
『ああそうだな。それなら俺は、いつまで待てばいい?』
「そ、れは」
いつまでなんて考えてもいなかった。私は勝手に、伊織はいつまでも待ってくれるんだとばかり思っていた。
「き、起動するから。明日! 明日起動する!」
『……きみは時々酷いことをする』
「伊織?」
『俺以外の男できもちよくなって、俺にはそれを隠すんだ』
心臓の音が聞こえた。いったい伊織はなんの話をしているのだろうか。
知りたいような、知りたくないような。
「い、伊織」
『初めての指はきもちよかったか?』
ああ、これはだめだ。
伊織はすべてを知っている。
ばれないはずがなかったんだ。知っていて私を泳がせた。
「い、伊織! 黙っててごめんなさい! 私、私、伊織にきらわれたくなかったの!」
『俺にきらわれたくないと言いながら、きみはいつも他の男に足を開くんだな』
「ち、ちがっ、ちがうよう」
『ああ、樹の時は違ったか。まあ足を開いて濡れようが足を開いてるのを見て濡れようが一緒だよな』
ちがう、ちがうの伊織。私が一番興奮するのは伊織だよ。
だって私、初めて伊織に会った時、めちゃくちゃドキドキしたんだよ?
こんな綺麗な男の人がいるんだって、目が奪われた。心が魅了された。
『今度は苺のデカいアレ、見せてもらえるといいな?』
「だからそれはちがうのおおおおっ」
手を伸ばすと見慣れた天井がそこにある。今のは夢だったらしい。
なんて夢見の悪い。だけど、夢は夢と片付けちゃいけないんだって、私は苺くんで学んだの。
伊織は多分、気付いている。昨日は私を泳がせていただけ。
昼休み、学校のトイレ。
私は個室で深い溜息を吐く。
起動すると言ったからには、起動しなければならない。
『瑞穂』
「こ、こんにちは」
あ、今日は眼鏡なんだ。黒縁眼鏡も似合うね。
「珍しいね、眼鏡。初めて見た。目が悪いの?」
『いや、度は入ってない』
「そっか。いいね、似合ってる」
『ありがとう』
なんだかお互いそわそわしていた。
昼休み、学校のトイレで起動するということは、心の準備ができたということだ。
「えと、じゃあ、しよっか」
するりと下着を脱いでみせると、スカートを捲って伊織に見せる。
昨日と同じことをしているのに、今日の方がドキドキした。
『中、広げて見せて』
「う、うん」
言われた通り、割れ目を広げて見せる。
恥ずかしい。
『流石にまだ濡れてないよな。濡れてないのに入れると痛いって言うし、まずは濡らすか』
「え、濡らすって、どうやって?」
『あるだろここに。無修正のえーぶいが』
伊織がそれを扱きはじめる。
いつの間に大きくなったんだろう。もしかして私のを見て、だったりする?
「い、伊織……」
『瑞穂が勇気を出してくれたからな。ああ、瑞穂は瑞穂のタイミングで触ってくれていい。一緒に触ってきもちよくなろうな?』
「う、うん」
凄い、えっち。見ているだけで濡れてきた。
私は指をくちゅりと入れる。
昨日入れたからか、痛みはなかった。
「んっ」
『痛くないか?』
「う、うん。大丈夫」
苺くんと違って、伊織は私の身体を気遣ってくれている。
私は指を第二関節まで入れた。
「あっ、ん」
『ゆっくりでいい。痛いと感じたらすぐに止めるんだ』
大丈夫だよ、伊織。
あれ、でもどうしてこんなに優しくしてくれるんだろう。
苺くんは夢の中のこと、知っていたのに。伊織は本当に気付いていないの?
もしかしたら個人差があるのかも。苺くんは夢の中に入れるけど、伊織は入れないとか。
私は指を何度も入れたり出したりした。
身体が慣れたのか、昨日よりもきもちいい。
『あっ、ん、~~~~ッ』
伊織が先に射精をする。その瞬間を目撃した私は、自分の意思に関係なく何かを漏らしてしまった。
ぴしゃあああっ。
「ひゃっ」
なんだろう。お漏らしでもしちゃったのかな。だけど尿特有の匂いがしない。
思わず指を止めてしまったが、指を動かせばまだ出そうだった。
「い、伊織ぃ……なんか出たぁ」
『……え。す、凄いな。瑞穂、もうちょっと指を動かせるか?』
「ん、……あ、はあっ、ん、また、あああっ」
ぴしゃあああっ。
まただ。また出た。
『はあっ……瑞穂、潮吹いてる……』
「へ」
し、潮?
潮ってまさか、潮吹きのこと?
えーぶいでよく見る潮吹きを私がしたの?
伊織はなぜか興奮しているみたいだった。むしろ、私が潮を吹いてからなんだかおかしくなっている。
もしかして好きなのだろうか、潮吹き。
『はあっ、はー……かわいい、瑞穂♡ 瑞穂が潮吹いてる♡ はあっ、はあっ、くそ、舐めたい』
「い、伊織」
正直、そんな伊織を見ていると私もまたしたくなってくる。
昨日は潮、吹かなかったな。どうして今日は吹いたんだろう。
『あは、これは俺だけ♡ はー……俺だけぇ♡』
無意識のうちに昨日と比較しては、見たことのない伊織の興奮した様子がとてもかわいいと思っていた。
だから私は気付かないのだ。伊織のこの発言に違和感があることを。
つくづく私は自分をいやになる。伊織に泳がされているのだと気付けない阿呆だと。
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