5 / 7
エンター5「思い出してスクロールロック」
しおりを挟む
――次の日。
炎理は、授業が始まっても、そわそわして落ち着けなかった。
たまに振り返ったり、あくびをするふりして大きくのけぞったりして、桃菜の様子を伺っていた。
その度に、桃菜は視線を逸らして、怯える小動物のようにピクピク震えていた。
炎理は何度も話しかけようとするのだが、結局桃菜とは一度も話せないまま本日最後の授業を迎えることになってしまった。
最後はパソコン教室での授業。
炎理は、そこで桃菜のタイピングが見れるかもしれないと、ワクワクして授業なんか耳に入らなかった。
パソコン教室は、遮光の黒カーテンで仕切られていて、昼間なのに蛍光灯の光で照らされている。
クラスメイト達がカチャカチャとキーボードを叩く音が聞こえる。
桃菜はどうしてるのだろうと、振り返ると、なんだかとても打ちにくそうにタイピングをしていた。
姿勢がぎこちなかった。
だんだんパソコンに近づいていって、それに気がついたのか急にパソコンから体を離したりしていた。
でも、またじょじょに近づいていって――また思い出したかのように離れる。
それの繰り返しだった。
炎理は見ていられず声に出してしまった。
「桃菜ちゃん、キーボードから逃げないで」
その言葉を聞いた瞬間、桃菜はレンジでチンしたエビのように顔を真っ赤に染めて、
「……っ!! わ、私のこと、なにもわかってないくせに……勝手なこと言わないでくださいっ!」
転校してからのストレスに続き、タイピングの事を言われた桃菜は、声を荒げて、両手をダランと下ろしタイピングすらやめてしまった。
教室はシンッと、静まり返った……。
桃が大声を出すところなんて想像できなかったからだ。
だが炎理は、そんなのお構いなし。
「わかる! あの優しい打ち方をする桃菜ちゃんが、タイピングをやめるはずなんてない」
「……ぅっ、も、もうやめてください……もぅ、私はやめたんだから……うぇぇ、ん、えーんっ、もう放っておいてください……えぇぇん! もうやだよー!」
桃菜の綺麗な瞳からは、ついに涙がぽろぽろと流れ始めた。
教室に桃菜の泣き声が響く。
授業中にそんなやりとりをしていると、当然注目されるが、先生もクラスメイトも、
「また石豪華か……」
と、各自勝手に納得して、授業はゆるやかに再開した。
「ひっく……ぐすん……ぅぅ、私だって……うぅぅ……もう、放っておいて……」
一度流れでた涙を止めることは難しい。
止め処なく流れる涙は、スカートから出した綺麗に折りたたまれた白のハンカチだけでは拭ききれない。
赤い目をしてる桃菜に、炎理は大声で言う。
「放っておかない! 私にはわかるっっ!!」
「デリートキーでも消せない思いが、桃菜ちゃんの中にはある!!」
炎理の強い眼差しが、桃菜の思考をストップさせた。
そして、そのまま見詰め合ったまま、授業終了のチャイムが響いたのだった――。
炎理は、授業が始まっても、そわそわして落ち着けなかった。
たまに振り返ったり、あくびをするふりして大きくのけぞったりして、桃菜の様子を伺っていた。
その度に、桃菜は視線を逸らして、怯える小動物のようにピクピク震えていた。
炎理は何度も話しかけようとするのだが、結局桃菜とは一度も話せないまま本日最後の授業を迎えることになってしまった。
最後はパソコン教室での授業。
炎理は、そこで桃菜のタイピングが見れるかもしれないと、ワクワクして授業なんか耳に入らなかった。
パソコン教室は、遮光の黒カーテンで仕切られていて、昼間なのに蛍光灯の光で照らされている。
クラスメイト達がカチャカチャとキーボードを叩く音が聞こえる。
桃菜はどうしてるのだろうと、振り返ると、なんだかとても打ちにくそうにタイピングをしていた。
姿勢がぎこちなかった。
だんだんパソコンに近づいていって、それに気がついたのか急にパソコンから体を離したりしていた。
でも、またじょじょに近づいていって――また思い出したかのように離れる。
それの繰り返しだった。
炎理は見ていられず声に出してしまった。
「桃菜ちゃん、キーボードから逃げないで」
その言葉を聞いた瞬間、桃菜はレンジでチンしたエビのように顔を真っ赤に染めて、
「……っ!! わ、私のこと、なにもわかってないくせに……勝手なこと言わないでくださいっ!」
転校してからのストレスに続き、タイピングの事を言われた桃菜は、声を荒げて、両手をダランと下ろしタイピングすらやめてしまった。
教室はシンッと、静まり返った……。
桃が大声を出すところなんて想像できなかったからだ。
だが炎理は、そんなのお構いなし。
「わかる! あの優しい打ち方をする桃菜ちゃんが、タイピングをやめるはずなんてない」
「……ぅっ、も、もうやめてください……もぅ、私はやめたんだから……うぇぇ、ん、えーんっ、もう放っておいてください……えぇぇん! もうやだよー!」
桃菜の綺麗な瞳からは、ついに涙がぽろぽろと流れ始めた。
教室に桃菜の泣き声が響く。
授業中にそんなやりとりをしていると、当然注目されるが、先生もクラスメイトも、
「また石豪華か……」
と、各自勝手に納得して、授業はゆるやかに再開した。
「ひっく……ぐすん……ぅぅ、私だって……うぅぅ……もう、放っておいて……」
一度流れでた涙を止めることは難しい。
止め処なく流れる涙は、スカートから出した綺麗に折りたたまれた白のハンカチだけでは拭ききれない。
赤い目をしてる桃菜に、炎理は大声で言う。
「放っておかない! 私にはわかるっっ!!」
「デリートキーでも消せない思いが、桃菜ちゃんの中にはある!!」
炎理の強い眼差しが、桃菜の思考をストップさせた。
そして、そのまま見詰め合ったまま、授業終了のチャイムが響いたのだった――。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。





I’m 無乳首少女。
緩街◦璃名
青春
地に垂直な胸と三段腹が特徴的な女子高生‘’部稜 痴舞美”(べそば ちまみ)は、ことごとく純情だった。その平らな胸の内には、ある男への復讐心がふつふつと燃え続けていた。
ちょっと見して…。…。
やっぱりあいつに…食われたのね!!
そう、彼女には片乳首が無いのである。
少女が好きになった男は、"逐西 七麻"(ちくにし びちお)。彼は端正な顔立ちから、数多の女が彼の腕中で鳴いたという。
だが彼には、乳首を食らうことが好きな
異常性癖の持ち主で━━!?
乳首を巡る復讐×青春の究極アタオカ・ラブストーリー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる