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エンター3「逃げ出せないのエスケープキー」
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――そう、炎理は『フィニッシュエンター』の使い手、河西悟からタイピング部を取り戻したいとずっと考えていた。
本当なら今すぐにでも勝負を挑みたかった。
だけど、タイピングバトルは二対二がルール。
炎理は、持ち前の行動力で、
「一緒にタイピングしよー!」
と、全校生徒に頼みに行ったが、辺鄙な学園で、生徒数自体が少なく、タイピングを部活としてやりたいと思う生徒は、もう一人も残っていなかった。
一緒に戦ってくれる仲間がいなかったのだ――。
その、もどかしさの反動なのか、憧れからなのか、桃菜を誘う距離がどんどんと近づいていった。
「ねぇ、タイピングしよー、ねぇ、一緒にタイピングしよー!?」
キッスを迫るくらいに顔が近づいていく。
桃菜は必死に顔を背けるが、両手は握られ、身体は密着し、後ろは黒板、逃げ道はない。
クラスメート達は、突然始まったタイプの違う美少女二人の絡みにソワソワしだした。
だが、真横で見ていた先生は、
「コラッ」
炎理に本日二回目のポカン。
「あぅ……」
「HR中だ!」
先生はがっつきすぎだと炎理に注意して、席に戻らせる。
炎理のその名残惜しそうな姿を見て、クラスメイトたちは笑みを浮べた。
いつもの炎理の暴走で教室の緊張した空気はいつの間にか無くなっていた。
「えーと、じゃぁ、桃原の席は……」
「先生、ここ、ここ、ここはー!?」
諦めきれない炎理が、小さな身体を全部使って手をふり、ちょうど空いていた自分の席の後ろを指さす。
先生はしばらく考えて、
「じゃぁ桃原、すまないが石豪華の後ろの席でしばらく頼む。うるさくて困ったら私に言いなさい」
「……はい」
桃菜は頷き、クラスメイト達の好奇の視線を縫って、炎理の後ろの席に着いた。
炎理は身体ごと振り帰ってニコリ。
「よろしくねっ!」
「よ、よろしくおねがいしますっ……」
戸惑いながらも、桃菜も笑顔を返した。
先生は、おもいきり後ろを向いたまま、前を見ない炎理にため息をついて、HRを終わらせたのだった。
休み時間になると、早速炎理は机を乗り越えるくらいに桃菜に詰め寄った。
「ねぇ、タイピングしよーよー!?」
「え、ぇぇ……えーと……」
炎理の突然の誘いに、桃菜はついていけない。
椅子が倒れそうなくらいに身体を引いて困った笑みを浮べていると、クラスメイトの二村崎 之乃美(にむらざき ののみ)が近寄ってきた。
「炎理、しつこい女は嫌われるわよ?」
情報通で炎理の幼馴染の女の子、二村崎之乃美、通称ののみん。
川西悟の情報も之乃美から教えてもらったのだ。
黒髪の坊主頭で、空手も黒帯なのに、何故かずんぐりむっくりな体系をしている。
助けに来てくれた! 桃菜は一瞬そう思ったが、それはすぐに改めさせられた。
「ののみん……! だって、タイピング部が……うぎゅぅ」
「はいはい、そんなことよりね、私が聞きたいのは、桃原さんの胸のサイズよ! 大きすぎるわ!」
之乃美は、炎理の頬っぺたを、むぎゅうと押しのけて、もう片方の手で桃菜の胸を指差す。
指さされた桃菜は、顔をリンゴのように真っ赤にして俯き、胸を両手で押さえた。
「それで男を誘惑してるんでしょ? いやらしっ!」
之乃美は膨れてる頬をさらに膨らませて、まるで獲物を狙う狩人のような瞳で、桃菜の胸を睨みつける。
「……そ、そんなことしてませんっ! それに、私は小さいほうが……」
桃菜は否定するが、転校初日で、まさかこんなこと言われると思っていなかったので、動揺を隠せない。
「じゃあ、小さくしなさいよ、生意気なのよ!」
之乃美の言いがかりはいつものことだ。
ちょっとでも、男子の気を引いてそうな女子にはいつも突っかかってくる。
「女々しいと思われたくない」
と、自分は言ってるくせに男子の視線を人一倍気にしているのだ。
もちろん、炎理の暴走も、之乃美の言いがかりもクラスメイトたちはもう全員慣れていた。
だが、初めての桃菜はそうはいかない。
慣れないの教室の中で、俯きもじもじすることしかできない。
男子生徒はそんな桃菜を見て頬を染めるだけだし、女子生徒は之乃美と関わりたくないのか近づいてこない。
「ののみん、今はそんなことより、タイピングだよ!」
「ちがうわ! 胸よ! 女々しくて見てられないのよ! あ、べ、別に大きくしたいとか思ってるわけじゃないからね、女々しくて見てられないだけだからっ!」
「ターイーピーンーグーググーグー!」
「胸ー! 胸ー! 胸よー!!」
二人の言い合いは授業開始のチャイムまで続いた。
桃菜の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた――。
本当なら今すぐにでも勝負を挑みたかった。
だけど、タイピングバトルは二対二がルール。
炎理は、持ち前の行動力で、
「一緒にタイピングしよー!」
と、全校生徒に頼みに行ったが、辺鄙な学園で、生徒数自体が少なく、タイピングを部活としてやりたいと思う生徒は、もう一人も残っていなかった。
一緒に戦ってくれる仲間がいなかったのだ――。
その、もどかしさの反動なのか、憧れからなのか、桃菜を誘う距離がどんどんと近づいていった。
「ねぇ、タイピングしよー、ねぇ、一緒にタイピングしよー!?」
キッスを迫るくらいに顔が近づいていく。
桃菜は必死に顔を背けるが、両手は握られ、身体は密着し、後ろは黒板、逃げ道はない。
クラスメート達は、突然始まったタイプの違う美少女二人の絡みにソワソワしだした。
だが、真横で見ていた先生は、
「コラッ」
炎理に本日二回目のポカン。
「あぅ……」
「HR中だ!」
先生はがっつきすぎだと炎理に注意して、席に戻らせる。
炎理のその名残惜しそうな姿を見て、クラスメイトたちは笑みを浮べた。
いつもの炎理の暴走で教室の緊張した空気はいつの間にか無くなっていた。
「えーと、じゃぁ、桃原の席は……」
「先生、ここ、ここ、ここはー!?」
諦めきれない炎理が、小さな身体を全部使って手をふり、ちょうど空いていた自分の席の後ろを指さす。
先生はしばらく考えて、
「じゃぁ桃原、すまないが石豪華の後ろの席でしばらく頼む。うるさくて困ったら私に言いなさい」
「……はい」
桃菜は頷き、クラスメイト達の好奇の視線を縫って、炎理の後ろの席に着いた。
炎理は身体ごと振り帰ってニコリ。
「よろしくねっ!」
「よ、よろしくおねがいしますっ……」
戸惑いながらも、桃菜も笑顔を返した。
先生は、おもいきり後ろを向いたまま、前を見ない炎理にため息をついて、HRを終わらせたのだった。
休み時間になると、早速炎理は机を乗り越えるくらいに桃菜に詰め寄った。
「ねぇ、タイピングしよーよー!?」
「え、ぇぇ……えーと……」
炎理の突然の誘いに、桃菜はついていけない。
椅子が倒れそうなくらいに身体を引いて困った笑みを浮べていると、クラスメイトの二村崎 之乃美(にむらざき ののみ)が近寄ってきた。
「炎理、しつこい女は嫌われるわよ?」
情報通で炎理の幼馴染の女の子、二村崎之乃美、通称ののみん。
川西悟の情報も之乃美から教えてもらったのだ。
黒髪の坊主頭で、空手も黒帯なのに、何故かずんぐりむっくりな体系をしている。
助けに来てくれた! 桃菜は一瞬そう思ったが、それはすぐに改めさせられた。
「ののみん……! だって、タイピング部が……うぎゅぅ」
「はいはい、そんなことよりね、私が聞きたいのは、桃原さんの胸のサイズよ! 大きすぎるわ!」
之乃美は、炎理の頬っぺたを、むぎゅうと押しのけて、もう片方の手で桃菜の胸を指差す。
指さされた桃菜は、顔をリンゴのように真っ赤にして俯き、胸を両手で押さえた。
「それで男を誘惑してるんでしょ? いやらしっ!」
之乃美は膨れてる頬をさらに膨らませて、まるで獲物を狙う狩人のような瞳で、桃菜の胸を睨みつける。
「……そ、そんなことしてませんっ! それに、私は小さいほうが……」
桃菜は否定するが、転校初日で、まさかこんなこと言われると思っていなかったので、動揺を隠せない。
「じゃあ、小さくしなさいよ、生意気なのよ!」
之乃美の言いがかりはいつものことだ。
ちょっとでも、男子の気を引いてそうな女子にはいつも突っかかってくる。
「女々しいと思われたくない」
と、自分は言ってるくせに男子の視線を人一倍気にしているのだ。
もちろん、炎理の暴走も、之乃美の言いがかりもクラスメイトたちはもう全員慣れていた。
だが、初めての桃菜はそうはいかない。
慣れないの教室の中で、俯きもじもじすることしかできない。
男子生徒はそんな桃菜を見て頬を染めるだけだし、女子生徒は之乃美と関わりたくないのか近づいてこない。
「ののみん、今はそんなことより、タイピングだよ!」
「ちがうわ! 胸よ! 女々しくて見てられないのよ! あ、べ、別に大きくしたいとか思ってるわけじゃないからね、女々しくて見てられないだけだからっ!」
「ターイーピーンーグーググーグー!」
「胸ー! 胸ー! 胸よー!!」
二人の言い合いは授業開始のチャイムまで続いた。
桃菜の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいた――。
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