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エンター2「コントロールできないコントロールキー」
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「うぅーっ、許せないっ!」
バンッと両手で自分の机をたたいて立ち上がったのは、石豪華 炎理(いしごうか えんり)。
エイサイド学園指定の女子用制服、白いセーラー服が揺れた。
短いスカート丈の下には、黒いスパッツが見えている。
肌はこんがりと日焼けしていて、手足は柔らかそうにも引き締まっていた。
髪も肌と似たような茶色のショートカット。
お洒落には興味がないのか、頭にはエンターキー型のヘアピンをしているだけだ。
制服を着ていなかったら、わんぱくな小学生に間違えられてもおかしくない容姿だ。
そんな、炎理には、それこそ小学生の頃から楽しみにしていたことがあった。
それはエイサイド学園に入学して、タイピング部に所属することだ。
だが、炎理が入部届けを出しにタイピング部を訪れたときは、もうなにもかもが手遅れになっていたのだった――。
「入部させてくださいー!」
勢いよく扉を開けて視界に入ってきたものは、炎理が幼い頃から想像していたタイピング部とはかけ離れていた。
目の前に映る景色が受け入れられなくて、一瞬教室を間違えたかと思うほどに……。
タイピング部はまるで、お葬式のような雰囲気に包まれていた。
そんな中、タイピング部の部長は、乱れた髪の毛を気にする余裕もなく、頭を抱えて教室の隅っこで震えていた。
「フィニッシュエンター怖い……フィニッシュエンター怖い……」
と、ぶつぶつ呟いている。
副部長は、この世の終わりでも見てきたかのような顔で、備品の整理をしていた。
炎理は、とりあえずまともそうな副部長に声をかけた。
「あ、あの、すいません……」
「ひっ!……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
副部長は突然何度も頭を下げ始めた。
炎理は、慌てながら、説明する。
「えっと……あの、入部希望なんですが!?」
すると、副部長の目に少し生気が戻るが、
「……え? あ、きょ、今日から、ここはNSBが使うから……タイピング部は廃部になったのよ、ごめんなさいね……」
と、最後にもう一度謝ったきり、副部長は口を閉ざしてしまった。
それ以上は新入部員に構う余裕がなかったのだろう、炎理が何度話しかけようとも、部長も福部長にも一切声は届かなかった――。
「ああぁぁーーー!! もう、悔しいぃぃぃぃーーー!!」
炎理は、こぶしを強く握り締めて叫ぶ。
高ぶる感情を抑えられない。
いますぐにでも、NSBからタイピング部を取り戻したいのに!!
「なにが許せなくて、なにが悔しいんだ、石豪華?」
先生が丸めた教科書で、炎理の頭をポカリ。
「「あははははーーー」」
教室に笑いが生まれる。
「あぅ……すいまえん」
炎理は今が朝のHR中だということを思い出した。
叩かれた頭を両手で抑えながら、しずしずと椅子に座る炎理。
炎理は、自分の世界にはいると、まわりが見えなくなってしまうことがある。よくある。
それはもうたくさんあるのだ。
「さてと……今日は転校生を紹介するからな」
先生は、丸めた教科書で肩を叩きながら教壇に戻ると、大きな声で言った。
その言葉で教室中が、ざわ……。
ざわざわ……。ざわ……しだした。
入学式から3週間がたった今に、転校生とは珍しい。
みんなの視線が集まる中、教室の扉がゆっくりと開く。
窓からは、春の風が入り込み、白いカーテンと、桜の花びらが舞い踊る。
一歩、踏み出された脚は、すらりと綺麗で白いニーソックスに包まれていた。
カーテンの隙間からは、日が差し込むと、転校生の長い金色の髪が、風に揺れ輝く。
炎理とは違う、透き通るような白い肌に、セーラー服越しでもわかる、炎理とはこれまた正反対な、存在感がありすぎる胸。
整った顔立ちに、優しそうな瞳。
新品の上靴で歩いてくる姿は、あまりにも上品だった。
一歩一歩がスローモーションのように見えて、女子生徒達は同性でありながらも、そのあまりの可愛さに見蕩れて目をまわす。
男子生徒たちは、優しくておとなしそうな雰囲気とは真逆な身体(特に胸)から目を離せずにいた。
炎理も同様に固まったままだった。
だが、理由は違う。
炎理には、転校生の姿に見覚えがあったのだ。
――いや、見覚えどころか、憧れそのものといってもよかった。
「は、はじめ、はじ、めめ、はじ、痛、舌噛んじゃった……。は、は、はじめまして、も、桃原 桃菜(ももはら ももな)です」
どもつきながらも、透き通るような声で挨拶を終えて、頭を下げると、胸もプルンと遅れて挨拶した。
名前を聞いた瞬間――炎理は飛び出していた。
さっき注意されたことや、固まっていたことが信じられないくらいのダッシュ!
キノコで加速したカートのような速さで、いまだに放心状態の生徒達の横をすり抜けていく。
そして、体当たりするかのように、炎理は桃菜の白い手を握った。
「中学タイピングチャンイオンの桃原桃菜さんっ!」
「ふ、ふぇ……」
中学生のタイピング大会で何度もチャンピオンに輝いたことがある実力の持ち主。桃原桃菜。
タイピング有名高、三神打高校に通っていたはずの桃菜が、こんな辺鄙なエイサイド学園に編入してくるなんて、炎理にとっては嬉しすぎるできことだった。
桃菜は恥ずかしそうに俯き、もぞもぞと白ニーソの両足を寄せる。
緊張と戸惑いで軽くパニックになっていた。
だが、炎理はお構いなし。
自分の言いたいことを言いたいときに言うだけだ。
「一緒にタイピングしよー!?」
「えっ……」
タイピングと聞いた瞬間に、桃菜の表情が曇る。
だが、炎理はこれが最後のチャンスだというばかりに迫りまくる。
「NSBからタイピング部を取り戻したいのっ!!」
バンッと両手で自分の机をたたいて立ち上がったのは、石豪華 炎理(いしごうか えんり)。
エイサイド学園指定の女子用制服、白いセーラー服が揺れた。
短いスカート丈の下には、黒いスパッツが見えている。
肌はこんがりと日焼けしていて、手足は柔らかそうにも引き締まっていた。
髪も肌と似たような茶色のショートカット。
お洒落には興味がないのか、頭にはエンターキー型のヘアピンをしているだけだ。
制服を着ていなかったら、わんぱくな小学生に間違えられてもおかしくない容姿だ。
そんな、炎理には、それこそ小学生の頃から楽しみにしていたことがあった。
それはエイサイド学園に入学して、タイピング部に所属することだ。
だが、炎理が入部届けを出しにタイピング部を訪れたときは、もうなにもかもが手遅れになっていたのだった――。
「入部させてくださいー!」
勢いよく扉を開けて視界に入ってきたものは、炎理が幼い頃から想像していたタイピング部とはかけ離れていた。
目の前に映る景色が受け入れられなくて、一瞬教室を間違えたかと思うほどに……。
タイピング部はまるで、お葬式のような雰囲気に包まれていた。
そんな中、タイピング部の部長は、乱れた髪の毛を気にする余裕もなく、頭を抱えて教室の隅っこで震えていた。
「フィニッシュエンター怖い……フィニッシュエンター怖い……」
と、ぶつぶつ呟いている。
副部長は、この世の終わりでも見てきたかのような顔で、備品の整理をしていた。
炎理は、とりあえずまともそうな副部長に声をかけた。
「あ、あの、すいません……」
「ひっ!……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
副部長は突然何度も頭を下げ始めた。
炎理は、慌てながら、説明する。
「えっと……あの、入部希望なんですが!?」
すると、副部長の目に少し生気が戻るが、
「……え? あ、きょ、今日から、ここはNSBが使うから……タイピング部は廃部になったのよ、ごめんなさいね……」
と、最後にもう一度謝ったきり、副部長は口を閉ざしてしまった。
それ以上は新入部員に構う余裕がなかったのだろう、炎理が何度話しかけようとも、部長も福部長にも一切声は届かなかった――。
「ああぁぁーーー!! もう、悔しいぃぃぃぃーーー!!」
炎理は、こぶしを強く握り締めて叫ぶ。
高ぶる感情を抑えられない。
いますぐにでも、NSBからタイピング部を取り戻したいのに!!
「なにが許せなくて、なにが悔しいんだ、石豪華?」
先生が丸めた教科書で、炎理の頭をポカリ。
「「あははははーーー」」
教室に笑いが生まれる。
「あぅ……すいまえん」
炎理は今が朝のHR中だということを思い出した。
叩かれた頭を両手で抑えながら、しずしずと椅子に座る炎理。
炎理は、自分の世界にはいると、まわりが見えなくなってしまうことがある。よくある。
それはもうたくさんあるのだ。
「さてと……今日は転校生を紹介するからな」
先生は、丸めた教科書で肩を叩きながら教壇に戻ると、大きな声で言った。
その言葉で教室中が、ざわ……。
ざわざわ……。ざわ……しだした。
入学式から3週間がたった今に、転校生とは珍しい。
みんなの視線が集まる中、教室の扉がゆっくりと開く。
窓からは、春の風が入り込み、白いカーテンと、桜の花びらが舞い踊る。
一歩、踏み出された脚は、すらりと綺麗で白いニーソックスに包まれていた。
カーテンの隙間からは、日が差し込むと、転校生の長い金色の髪が、風に揺れ輝く。
炎理とは違う、透き通るような白い肌に、セーラー服越しでもわかる、炎理とはこれまた正反対な、存在感がありすぎる胸。
整った顔立ちに、優しそうな瞳。
新品の上靴で歩いてくる姿は、あまりにも上品だった。
一歩一歩がスローモーションのように見えて、女子生徒達は同性でありながらも、そのあまりの可愛さに見蕩れて目をまわす。
男子生徒たちは、優しくておとなしそうな雰囲気とは真逆な身体(特に胸)から目を離せずにいた。
炎理も同様に固まったままだった。
だが、理由は違う。
炎理には、転校生の姿に見覚えがあったのだ。
――いや、見覚えどころか、憧れそのものといってもよかった。
「は、はじめ、はじ、めめ、はじ、痛、舌噛んじゃった……。は、は、はじめまして、も、桃原 桃菜(ももはら ももな)です」
どもつきながらも、透き通るような声で挨拶を終えて、頭を下げると、胸もプルンと遅れて挨拶した。
名前を聞いた瞬間――炎理は飛び出していた。
さっき注意されたことや、固まっていたことが信じられないくらいのダッシュ!
キノコで加速したカートのような速さで、いまだに放心状態の生徒達の横をすり抜けていく。
そして、体当たりするかのように、炎理は桃菜の白い手を握った。
「中学タイピングチャンイオンの桃原桃菜さんっ!」
「ふ、ふぇ……」
中学生のタイピング大会で何度もチャンピオンに輝いたことがある実力の持ち主。桃原桃菜。
タイピング有名高、三神打高校に通っていたはずの桃菜が、こんな辺鄙なエイサイド学園に編入してくるなんて、炎理にとっては嬉しすぎるできことだった。
桃菜は恥ずかしそうに俯き、もぞもぞと白ニーソの両足を寄せる。
緊張と戸惑いで軽くパニックになっていた。
だが、炎理はお構いなし。
自分の言いたいことを言いたいときに言うだけだ。
「一緒にタイピングしよー!?」
「えっ……」
タイピングと聞いた瞬間に、桃菜の表情が曇る。
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