恋人から性欲処理は浮気じゃないとキレられた僕はクラスメートに寝取られる

雫谷 美月

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25 後悔と打算

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マクシムは目を覚ますと学園の救護室のベッドで寝ていたことに気づく。身体を起こすと、制服を脱がされて寝かされていた。救護室の人気ひとけのなさから寝ているのは自分だけで、あの実験に参加していた他の騎士クラスの者はいないようだった。自分だけが気を失って寝かされていたということらしい。

「なんだったんだ……あれは……」

実験に呼ばれて気づいたらロジェは自分たち騎士クラスに羽交い締めにされ犯される寸前で、正気に戻ったものの自分はロジェと性行為をしてしまった。それよりもあの気取った魔術クラスの男だ。ロジェの主人?所有物?信じられないようなことが起こっていたが、わかるのはロジェの唇と肌の感触は生生しくマクシムの身体に残滓のように残っていた。

自分が魔術師の男に魔術で拘束されて、目の前でロジェと男と愛を交わしていた。まるで恋人同士のようにロジェは肌を許して情交をしていた。


―― 君は性欲処理は浮気じゃないと言ってたけど、ロジェくんと別れたならもう関係ないね ――

カラスバの言葉が頭に響く。

ロジェが騙されていたらどんなに良かっただろうか。ロジェの目にはもうマクシムは映っていなかった。これではまるで自分が性欲処理の相手にされただけだ。いつの間にかマクシムのほうが浮気相手、いや招かねざる客だった。

――僕はもう、身も心もカラスバくんの、御主人様のモノなんだ――

「俺は……」

色んな感情が渦巻き思考が混乱してマクシムはベッドのシーツを強く握りしめた。その時にベッドを仕切るカーテンがゆっくりと気遣うように開いたので、音がする方に顔をやると騎士団長の息子であるマクシムと同じ騎士クラスのサレイユがいた。

「マクシム、気がついたか。良かった。具合はどうだ」
「……サレイユ様……」

自分を運んできたのがサレイユなら、礼を言わなければいけないがマクシムは黙ったままだった。サレイユはベットサイドの椅子に座り、マクシムに言葉をかける。

「……その、マクシム、すまなかった。カラスバは俺の友人なんだが、その、まさかこんなことになるなんて……知らなかったとは言えお前には悪いことをした……」
「…………」

『カラスバ……あいつがロジェを……』

マクシムの心の奥から怒りがふつふつと湧いてきた。ロジェをあんな風にしたカラスバへの怒りと憎悪が全身を巡って血が沸騰しそうなほどの殺意が身を染める。

「サレイユ様……サレイユ様は悪くありません……アイツが……」

マクシムはベッドから降りようとしてサレイユに止められる。

「もう少し休んでおけ」
「行かなきゃいけないんです……」
「どこにだ?」

サレイユは思い詰めた顔のマクシムを見て言いようのない不安を感じ、ベッドから降りようとするマクシムの肩を手で止める。

「……カラスバの所に行ってあいつを殺します。俺のロジェを……」
「……なっ……?!そんなこと止めるんだ!君は今、精神状態が不安定なんだ!」
「殺すのがだめってわかってます。騎士らしく決闘を申し込んであいつを殺す……」
「マクシム!」


これは大変なことになったとサレイユは思った。カラスバに頼まれたから、マクシムに実験の被験者になってくれと依頼したのは自分だ。救護室に来る前にカラスバに顛末を聞いた時は、サレイユはカラスバと友人関係を解消しようと思った。しかし、サレイユは好意を抱いていた男爵令息をカラスバに協力してもらい体の関係になって今では恋人同士になった。これをもしも世間にバラされたら、自分の立場だけでなく騎士団長の父の立場も危うい。恋人とも別れることになるだろう。サレイユは保身に走るために、マクシムの両肩を持ち説得する。

「やめろ!マクシム!お前の為にはならない!」
「サレイユ様……止めないでく……」
「いや!お前はあんなクズ男のためにお前の未来を潰すのか?お前は才能がある!あんなクズ野郎のために人生を棒に振ることはない!!頼む……!」
「サ…サレイユ様……」

サレイユは必死に説得を続ける。

「そうだ!俺は今度、カイナードに行かされ…行くことになったんだ。お前も辺境のカイナードで生徒を募集してたのを知ってるだろう?それに一緒に行こう!」
「えっ……カイナードに……?」

サレイユの説得と寝耳に水の提案に、頭に血が登っていたマクシムは怒りが消え、止めようと必死の形相のサレイユの目を見た。

「マクシムは才能がある。剣も上手いじゃないか。私は前からお前は見どころがあると思っていた!」
「えっ?そうだったんですか……!」

マクシムの目が見開かれる。サレイユはマクシムは騎士クラスの学生の中では凄いとは思っていたが、学生レベルでの話だった。しかし、ここでマクシムを止めないとサレイユがカラスバに頼んだことがバレてしまう可能性が高い。それだけは絶対に避けたかった。

「お前の辛い気持ちはわかった。一緒にカイナードに行こう!そして立派な騎士を目指そう」
「サ……サレイユ様……俺の為に……そこまで言ってくださって……うっううっ……」

マクシムは感情が決壊したかのようにマクシムがいるのも構わずにボロボロと大粒の涙を流して泣き出した。

「おっ、おれ、カイナード行きます……サレイユ様のために立派な騎士になります……」
「おっ、おい泣くな。あと俺の為にじゃなくていいからな」

なんとか説得をできてよかったと内心でホッとするサレイユだった。しかし、マクシムの恋人だった魔術クラスの生徒が間接的にサレイユのせいでカラスバに捕まったと知ったら……と思うと罪悪感と恐怖が混じった感情がサレイユの胸を重くした。

『絶対にバレないようにしなければ……』

サレイユは号泣するマクシムを宥めながら、カラスバとの悪縁は切れないだろうと思って更に気分が沈んだ。
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