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20 契約解除の方法
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「校舎の上の方からロジェくんがバラ園に歩いていくのが見えたんだ。研究の続きするから研究室に行こうよ」
バラ園の歩道を歩いてきたカラスバは様になっていた。マクシムがいるのをまったく気にせず、ロジェに近づいてロジェの手を取る。
「あれ?ロジェくん、泣いてる。どうかしたの?」
マクシムと別れると言った後、ボロボロと泣いてしまったので隠しようもなくまだ濡れている顔を手で拭う。
「なんでもないよ……」
「なんでもなくないよ!こんなにしょげてて捨てられた犬みたいなロジェくん始めて見たよ。大丈夫じゃないでしょ」
「おい、テメー、邪魔なんだが。今は俺とロジェが話し合ってるんだ」
不機嫌さを隠さず、マクシムはカラスバはの腕を掴みロジェの近くから離そうと引っ張るが、カラスバはびくともせず涼しい顔をしてマクシムを見る。
「ロジェくんに振られて元カレになったんでしょ?しつこい男はますます嫌われるよ。ロジェくん忘れるために新しい恋の相手でも探したら?」
「はあ?!てめえ、好き勝手なこと言いやがって…!まだ別れてねえ!」
「あー」
カラスバは憐れむような目でマクシムを見つめると、肩をすくめる。
「ストーカーくんと話しても無駄だね。じゃ、ロジェくん行こうか。今日は研究って雰囲気でもなくなったし、どこかに行ってゆっくりしよう」
「おい待て!メガネ野郎!」
カラスバはロジェの手を掴むと一瞬で二人は消え失せた。
「消えた……?あの野郎、転移魔術が使えるのか畜生……」
マクシムは呆然としたが、そう遠くには行ってないと考え、学園を周りロジェのいる魔術クラスの寮まで行ったが二人はいなかった。
「ロジェ……」
マクシムは、ロジェに別れようと言われたのは自分の自業自得とわかってはいるが、何故かロジェと一緒にいたあの優男が気に食わなかった。
『あの野郎は一体なんなんだ…』
胸になんとも言えない黒い感情が重りごとくマクシムの心情を苛つかせた。
++++++++++++++++++++++++++++
カラスバは移動魔術で飛んだ先は、落ち着いた閑静な建物が並ぶどこかの通りだった。ロジェが住む下町の平民街とは違う上級な雰囲気にのまれてしまう。
「あっ、あの、ここはどこ……」
「ここはタウンハウスが沢山集まってる住宅通り。学園からはちょっと離れてるよ。僕の兄名義で借りてる僕の住んでる家があるって前に言ったと思うけど、そこに行こう」
「ええっ?!」
有無を言わさずカラスバに手を握られて連れて行かれる。魔術師は貴族でない者や家系が多くカラスバの家もそのようだが、高そうな家が並ぶタウンハウスに家を借りてるとは金持ちすぎてロジェの住む世界とは違いすぎた。
『ポーション屋の僕とは住む世界が違いすぎる……今日はもう寮に帰りたい……一人になりたい……』
ロジェが心底そう思った時に、心を読んだのか偶然かカラスバがロジェに向かってニッコリと笑う。
「ロジェくん、今日も一緒にいようね!慰めてあげるよ」
「…………」
そう言ったカラスバに手を引っ張られたロジェは、カラスバと屋敷に入っていった。屋敷は他の建物に比べると落ち着いた趣きがあり、ロジェは豪華絢爛な家でなくてよかったとホッとしたが、全体的に品が良くやはり高級感を醸しだす室内だった。
『よく見ると品のいい家だなあ……やっぱり高級屋敷だこれ……』
玄関のエントランスを見回しているロジェにカラスバが説明する。
「僕の兄さんが夫婦で住むために買ったんだけど、手狭になったから引っ越した後、僕が住んでるんだ。まあ僕ほとんど研究室で寝てるから帰ってないしメイドとかもいないけど」
「え?これで手狭…?」
ロジェは信じられなかった。どう見ても夫婦二人で住む広さの家ではない。感覚と環境のあまりの違いに平民のロジェは驚くばかりだった。
「あー、僕の兄さんも魔術師なんだ。魔道具とか作ってて。だから物が多いからすぐ部屋が足りなくなるみたい」
説明するカラスバがにこやかにロジェに言うが、ロジェの知っている魔道具屋は確かに物は多いが、こんな大きい家が必要な程ではない。やはりカラスバの家は、一般市民のロジェとは感覚が違うようだ。
「……すごいね……」
「こんなところで話してないでお茶でも飲もう?実はロジェくんが来るときの為に密かに掃除をしておいたんだ!」
「掃除するなら研究室の掃除も手伝ってほしいんだけど……」
「アハハ、いつものロジェくんに戻ってきたかな?じゃあ行こうか」
ロジェをカラスバは案内して廊下を歩いていく。壁に絵が飾ってあるが特に見ることも説明されることもなく連れられていく。先程までバラ園でマクシムに別れを告げてきたばかりなのに、無理矢理カラスバに家に連れてこられて、ロジェはもう精神的疲労でヘトヘトだった。
「帰りたい…」
「んー?何か言った?」
カラスバはロジェとは対象的にご機嫌だった。気のせいか、ロジェの手を握る手の力が強まった気がした。
+++++++++++++++++++++++++++++
来客用の部屋は落着いた雰囲気のシンプルな部屋だった。ロジェはソファーに座らされて、カラスバはどこから出したのか、茶器と茶菓子をだして用意している。
「サレイユに美味しいお菓子をもらったんだ。ロジェくんも食べなよ」
「……そうなんだ……あんまり今は食欲はないかな……」
サレイユといえば騎士団長の息子でカラスバの友人とロジェは思い出す。このサレイユが恋人と外でまぐわってたのを目撃してカラスバに脅されたのが始まりだった。
『すっかりカラスバくんに振り回されてる……逃げるにはダメ元でもカイナードの件を申請しようかな……』
ロジェは出されたティーカップに口をつけるが、一口飲んだだけでカップソーサーを机に置いた。
「ロジェくん、大丈夫?お茶もあんまり飲んでないし」
「……う、うん……だ、大丈夫だよ……」
ロジェが曖昧に答えると、カラスバはどこから出したのか一枚の紙を見ていた。
「カイナードの辺境伯が学園の生徒を募集ね。人材いなさすぎじゃないかな?人手不足ってやつ?」
「っ……あっ……えっ……それ僕のやつ……」
カラスバはいつの間にかロジェが持っていたカイナードの募集要項の紙を読んでいた。カラスバに見られてしまい驚いてしまう。
『いつの間に……?逃げたいってバレる……』
カラスバは募集要項をじっくり読んでからロジェの方に顔を向ける。いつもと違って目の奥が笑っていないのでロジェは肝を冷やす。
「カイナード、山も川もあるド田舎だから薬草研究向きの土地だよね」
「そ、そうなんだ……勉強したいから興味があって……」
「カイナード行くより、僕と一緒にいるほうが研究するのにいいと思うけど?僕は自分で言うのも何だけど優秀だよ。温室で薬草研究とかできるし」
「でっ、でも、カラスバくんは僕と専攻が違う……あっ……!」
カラスバにソファーに押し倒されてしまい、いつもとは違う雰囲気のカラスバにロジェは恐怖する。しかし、ここで雰囲気に飲まれてはいけないとロジェは自身を奮い立たせる。
「僕に相談もなしでカイナードに行きたいの?」
「……っ……相談なんかしなくてもいいだろっ!僕はカラスバくんの奴隷じゃない!もう君に振り回されたくないんだ!もうっ…カラスバくんとは……」
ロジェは双眸から涙を流してカラスバに言い放つ。もう奴隷のようにされたくない。マクシムと別れ、クラスメートから陵辱されたりと、振り回されるのはもう嫌だった。
「奴隷じゃない、ねぇ……」
ロジェの肩を掴んでソファーに押し倒しているカラスバは薄く笑ってロジェに言い聞かせるように話し始める。
「確かに僕はロジェくんに確かに奴隷契約の魔術をかけたよ」
「……だから、解除して……」
「ところでこの国では奴隷魔術は法律違反なんだ。でもロジェくんにかけたのは法律違反してないんだよ」
「違反してない……?でも僕は……」
「国の司法が犯罪者にかける奴隷契約があるけど、一般人の魔術師が使えば捕まるよ。僕が君にかけたのは、かけた相手が望まなければすぐに解ける契約魔術さ。これは法律違反にならないよ。だってかけられた人が望まなければすぐに消える魔術だしね」
「……相手が望まない……?」
ロジェは血の気が引くのが自分でもわかってしまった。カラスバが言うことが本当だとすれば…
「僕がカラスバくんの奴隷になるのを望んでいるってこと……?そんなはずは……」
「でもまだ奴隷契約の魔術は解けてないよ?」
そう言うとカラスバはロジェの口を塞ぎ、驚いたロジェの少し開いた唇のあわいから舌を入れてロジェの舌を捕まえて根本から強く吸う。
「んっ?!」
口内を舌で掻き回されカラスバの唇が離れた時は互いの口から糸を引き、ロジェは息も絶え絶えになっていた。
「はぁっ……あっ……僕は……」
「ロジェくん、嫌なら逃げればいいよ。ほらドアも開けたよ」
部屋の扉がひとりでに開き、カラスバがロジェを見つめながら悪巧みするような顔で笑う。
「僕から離れたいなら部屋から出ていくといいよ」
そう言いながらカラスバはロジェの服の上から胸をまさぐるように撫でる。ロジェは心とは裏腹にその感触によってその先を期待して身体が反応するのを感じてしまう。
「……んぅッ……」
「ほら、嫌なら部屋から出ていけばいいよ。このまま僕とセックスしたいのかな?」
「……やっ……やだぁっ……」
逃げなければと頭ではわかっているのに、身体は欲情しつつありロジェは自分の身体と心がわからなくなっていた。
『僕は本当に望んでいるの……?カラスバくんに抱かれることを……』
「フフフ、ここはソファーだしせっかくするなら、ベッドがいいよね。隣の部屋にベッドがあるからそこでしようよ」
カラスバはロジェの身体から離れて立ち上がると入り口とは別のドアの前まで歩き、ソファーに横たわるロジェを見て声をかける。
「隣の部屋で待ってるよ。嫌なら帰ってもいいからね。そうすれば契約が解けるよ」
そう言ってカラスバは隣の部屋に入ってドアを閉めた。ロジェはソファーに横たわったまま、呆然としていた。
「……僕は……」
+++++++++++++++++++++++++
窓から差し込む日差しが夕方になり暗くなりつつある部屋で、一人で寝るには大きいベッドでカラスバは部屋に置いてある魔術書を読みながら寝転んでいた。
『うーん、ロジェくん遅いな。帰った様子はないようだけど』
カラスバはロジェが部屋に来るとは思ってはいたが、なかなか来ないので待つのも飽きてきたところだった。
『お茶とお菓子に細工して媚薬を混ぜとくべきだったかな?でもロジェくんはもうそんなことしなくても僕とのセックスに夢中のハズなんだけどな』
奴隷の契約魔術を望んだのはロジェだ。もうそんなものがなくても散々犯した身体はカラスバから離れられなくなっているはずとカラスバは確信していた。
『様子を見に行こうかな?いや、もうちょっと待つべきかな?』
カラスバが魔術書を枕元に置いて起き上がろうとした時に部屋のドアが開く音がした。
「やっときたね、ロジェくん」
カラスバは身体を起こしてベッドサイドに座ってドアを開けて立っているロジェに微笑む。俯くロジェは後手でドアを閉めると、部屋は夕方から夜に変わる外から明かりだけで薄暗くなり表情はわからなかった。
「……僕……僕は……」
「おいで」
カラスバが両手を軽く広げると、ロジェはゆっくりと歩いてカラスバの目の前まで来ると膝から崩れ落ちた。そんなロジェをカラスバは抱きしめた。
「……帰ろうって思ったのに……出ていけなかった……身体が熱くて……」
「うん」
「……っ……性奴隷なんて嫌なのに……カラスバくんのせいだ……僕をこんなに弄んで……悪魔よりひどい……」
「僕はいつだって真面目だよ」
カラスバはロジェの身体を起こしてベッドに寝かすと、覆いかぶさるようにロジェの上に自身の身体を重ねる。二人の身体の重みでベッドのシーツが少しだけ沈む。ロジェの顔は涙で濡れていた。
「契約解除より僕を選んでくれたんだね。嬉しいよ、フフッ…」
「……うっ、うるさいッ……人の気も知らないで……こんな身体にしておいてひどいよっ……早くいつもみたいに……」
カラスバの首に腕を回してロジェは口づけをする。
「……抱いて……」
「お望み通りにするよ」
カラスバは応えるようにロジェの身体を抱き返した。
バラ園の歩道を歩いてきたカラスバは様になっていた。マクシムがいるのをまったく気にせず、ロジェに近づいてロジェの手を取る。
「あれ?ロジェくん、泣いてる。どうかしたの?」
マクシムと別れると言った後、ボロボロと泣いてしまったので隠しようもなくまだ濡れている顔を手で拭う。
「なんでもないよ……」
「なんでもなくないよ!こんなにしょげてて捨てられた犬みたいなロジェくん始めて見たよ。大丈夫じゃないでしょ」
「おい、テメー、邪魔なんだが。今は俺とロジェが話し合ってるんだ」
不機嫌さを隠さず、マクシムはカラスバはの腕を掴みロジェの近くから離そうと引っ張るが、カラスバはびくともせず涼しい顔をしてマクシムを見る。
「ロジェくんに振られて元カレになったんでしょ?しつこい男はますます嫌われるよ。ロジェくん忘れるために新しい恋の相手でも探したら?」
「はあ?!てめえ、好き勝手なこと言いやがって…!まだ別れてねえ!」
「あー」
カラスバは憐れむような目でマクシムを見つめると、肩をすくめる。
「ストーカーくんと話しても無駄だね。じゃ、ロジェくん行こうか。今日は研究って雰囲気でもなくなったし、どこかに行ってゆっくりしよう」
「おい待て!メガネ野郎!」
カラスバはロジェの手を掴むと一瞬で二人は消え失せた。
「消えた……?あの野郎、転移魔術が使えるのか畜生……」
マクシムは呆然としたが、そう遠くには行ってないと考え、学園を周りロジェのいる魔術クラスの寮まで行ったが二人はいなかった。
「ロジェ……」
マクシムは、ロジェに別れようと言われたのは自分の自業自得とわかってはいるが、何故かロジェと一緒にいたあの優男が気に食わなかった。
『あの野郎は一体なんなんだ…』
胸になんとも言えない黒い感情が重りごとくマクシムの心情を苛つかせた。
++++++++++++++++++++++++++++
カラスバは移動魔術で飛んだ先は、落ち着いた閑静な建物が並ぶどこかの通りだった。ロジェが住む下町の平民街とは違う上級な雰囲気にのまれてしまう。
「あっ、あの、ここはどこ……」
「ここはタウンハウスが沢山集まってる住宅通り。学園からはちょっと離れてるよ。僕の兄名義で借りてる僕の住んでる家があるって前に言ったと思うけど、そこに行こう」
「ええっ?!」
有無を言わさずカラスバに手を握られて連れて行かれる。魔術師は貴族でない者や家系が多くカラスバの家もそのようだが、高そうな家が並ぶタウンハウスに家を借りてるとは金持ちすぎてロジェの住む世界とは違いすぎた。
『ポーション屋の僕とは住む世界が違いすぎる……今日はもう寮に帰りたい……一人になりたい……』
ロジェが心底そう思った時に、心を読んだのか偶然かカラスバがロジェに向かってニッコリと笑う。
「ロジェくん、今日も一緒にいようね!慰めてあげるよ」
「…………」
そう言ったカラスバに手を引っ張られたロジェは、カラスバと屋敷に入っていった。屋敷は他の建物に比べると落ち着いた趣きがあり、ロジェは豪華絢爛な家でなくてよかったとホッとしたが、全体的に品が良くやはり高級感を醸しだす室内だった。
『よく見ると品のいい家だなあ……やっぱり高級屋敷だこれ……』
玄関のエントランスを見回しているロジェにカラスバが説明する。
「僕の兄さんが夫婦で住むために買ったんだけど、手狭になったから引っ越した後、僕が住んでるんだ。まあ僕ほとんど研究室で寝てるから帰ってないしメイドとかもいないけど」
「え?これで手狭…?」
ロジェは信じられなかった。どう見ても夫婦二人で住む広さの家ではない。感覚と環境のあまりの違いに平民のロジェは驚くばかりだった。
「あー、僕の兄さんも魔術師なんだ。魔道具とか作ってて。だから物が多いからすぐ部屋が足りなくなるみたい」
説明するカラスバがにこやかにロジェに言うが、ロジェの知っている魔道具屋は確かに物は多いが、こんな大きい家が必要な程ではない。やはりカラスバの家は、一般市民のロジェとは感覚が違うようだ。
「……すごいね……」
「こんなところで話してないでお茶でも飲もう?実はロジェくんが来るときの為に密かに掃除をしておいたんだ!」
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「帰りたい…」
「んー?何か言った?」
カラスバはロジェとは対象的にご機嫌だった。気のせいか、ロジェの手を握る手の力が強まった気がした。
+++++++++++++++++++++++++++++
来客用の部屋は落着いた雰囲気のシンプルな部屋だった。ロジェはソファーに座らされて、カラスバはどこから出したのか、茶器と茶菓子をだして用意している。
「サレイユに美味しいお菓子をもらったんだ。ロジェくんも食べなよ」
「……そうなんだ……あんまり今は食欲はないかな……」
サレイユといえば騎士団長の息子でカラスバの友人とロジェは思い出す。このサレイユが恋人と外でまぐわってたのを目撃してカラスバに脅されたのが始まりだった。
『すっかりカラスバくんに振り回されてる……逃げるにはダメ元でもカイナードの件を申請しようかな……』
ロジェは出されたティーカップに口をつけるが、一口飲んだだけでカップソーサーを机に置いた。
「ロジェくん、大丈夫?お茶もあんまり飲んでないし」
「……う、うん……だ、大丈夫だよ……」
ロジェが曖昧に答えると、カラスバはどこから出したのか一枚の紙を見ていた。
「カイナードの辺境伯が学園の生徒を募集ね。人材いなさすぎじゃないかな?人手不足ってやつ?」
「っ……あっ……えっ……それ僕のやつ……」
カラスバはいつの間にかロジェが持っていたカイナードの募集要項の紙を読んでいた。カラスバに見られてしまい驚いてしまう。
『いつの間に……?逃げたいってバレる……』
カラスバは募集要項をじっくり読んでからロジェの方に顔を向ける。いつもと違って目の奥が笑っていないのでロジェは肝を冷やす。
「カイナード、山も川もあるド田舎だから薬草研究向きの土地だよね」
「そ、そうなんだ……勉強したいから興味があって……」
「カイナード行くより、僕と一緒にいるほうが研究するのにいいと思うけど?僕は自分で言うのも何だけど優秀だよ。温室で薬草研究とかできるし」
「でっ、でも、カラスバくんは僕と専攻が違う……あっ……!」
カラスバにソファーに押し倒されてしまい、いつもとは違う雰囲気のカラスバにロジェは恐怖する。しかし、ここで雰囲気に飲まれてはいけないとロジェは自身を奮い立たせる。
「僕に相談もなしでカイナードに行きたいの?」
「……っ……相談なんかしなくてもいいだろっ!僕はカラスバくんの奴隷じゃない!もう君に振り回されたくないんだ!もうっ…カラスバくんとは……」
ロジェは双眸から涙を流してカラスバに言い放つ。もう奴隷のようにされたくない。マクシムと別れ、クラスメートから陵辱されたりと、振り回されるのはもう嫌だった。
「奴隷じゃない、ねぇ……」
ロジェの肩を掴んでソファーに押し倒しているカラスバは薄く笑ってロジェに言い聞かせるように話し始める。
「確かに僕はロジェくんに確かに奴隷契約の魔術をかけたよ」
「……だから、解除して……」
「ところでこの国では奴隷魔術は法律違反なんだ。でもロジェくんにかけたのは法律違反してないんだよ」
「違反してない……?でも僕は……」
「国の司法が犯罪者にかける奴隷契約があるけど、一般人の魔術師が使えば捕まるよ。僕が君にかけたのは、かけた相手が望まなければすぐに解ける契約魔術さ。これは法律違反にならないよ。だってかけられた人が望まなければすぐに消える魔術だしね」
「……相手が望まない……?」
ロジェは血の気が引くのが自分でもわかってしまった。カラスバが言うことが本当だとすれば…
「僕がカラスバくんの奴隷になるのを望んでいるってこと……?そんなはずは……」
「でもまだ奴隷契約の魔術は解けてないよ?」
そう言うとカラスバはロジェの口を塞ぎ、驚いたロジェの少し開いた唇のあわいから舌を入れてロジェの舌を捕まえて根本から強く吸う。
「んっ?!」
口内を舌で掻き回されカラスバの唇が離れた時は互いの口から糸を引き、ロジェは息も絶え絶えになっていた。
「はぁっ……あっ……僕は……」
「ロジェくん、嫌なら逃げればいいよ。ほらドアも開けたよ」
部屋の扉がひとりでに開き、カラスバがロジェを見つめながら悪巧みするような顔で笑う。
「僕から離れたいなら部屋から出ていくといいよ」
そう言いながらカラスバはロジェの服の上から胸をまさぐるように撫でる。ロジェは心とは裏腹にその感触によってその先を期待して身体が反応するのを感じてしまう。
「……んぅッ……」
「ほら、嫌なら部屋から出ていけばいいよ。このまま僕とセックスしたいのかな?」
「……やっ……やだぁっ……」
逃げなければと頭ではわかっているのに、身体は欲情しつつありロジェは自分の身体と心がわからなくなっていた。
『僕は本当に望んでいるの……?カラスバくんに抱かれることを……』
「フフフ、ここはソファーだしせっかくするなら、ベッドがいいよね。隣の部屋にベッドがあるからそこでしようよ」
カラスバはロジェの身体から離れて立ち上がると入り口とは別のドアの前まで歩き、ソファーに横たわるロジェを見て声をかける。
「隣の部屋で待ってるよ。嫌なら帰ってもいいからね。そうすれば契約が解けるよ」
そう言ってカラスバは隣の部屋に入ってドアを閉めた。ロジェはソファーに横たわったまま、呆然としていた。
「……僕は……」
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窓から差し込む日差しが夕方になり暗くなりつつある部屋で、一人で寝るには大きいベッドでカラスバは部屋に置いてある魔術書を読みながら寝転んでいた。
『うーん、ロジェくん遅いな。帰った様子はないようだけど』
カラスバはロジェが部屋に来るとは思ってはいたが、なかなか来ないので待つのも飽きてきたところだった。
『お茶とお菓子に細工して媚薬を混ぜとくべきだったかな?でもロジェくんはもうそんなことしなくても僕とのセックスに夢中のハズなんだけどな』
奴隷の契約魔術を望んだのはロジェだ。もうそんなものがなくても散々犯した身体はカラスバから離れられなくなっているはずとカラスバは確信していた。
『様子を見に行こうかな?いや、もうちょっと待つべきかな?』
カラスバが魔術書を枕元に置いて起き上がろうとした時に部屋のドアが開く音がした。
「やっときたね、ロジェくん」
カラスバは身体を起こしてベッドサイドに座ってドアを開けて立っているロジェに微笑む。俯くロジェは後手でドアを閉めると、部屋は夕方から夜に変わる外から明かりだけで薄暗くなり表情はわからなかった。
「……僕……僕は……」
「おいで」
カラスバが両手を軽く広げると、ロジェはゆっくりと歩いてカラスバの目の前まで来ると膝から崩れ落ちた。そんなロジェをカラスバは抱きしめた。
「……帰ろうって思ったのに……出ていけなかった……身体が熱くて……」
「うん」
「……っ……性奴隷なんて嫌なのに……カラスバくんのせいだ……僕をこんなに弄んで……悪魔よりひどい……」
「僕はいつだって真面目だよ」
カラスバはロジェの身体を起こしてベッドに寝かすと、覆いかぶさるようにロジェの上に自身の身体を重ねる。二人の身体の重みでベッドのシーツが少しだけ沈む。ロジェの顔は涙で濡れていた。
「契約解除より僕を選んでくれたんだね。嬉しいよ、フフッ…」
「……うっ、うるさいッ……人の気も知らないで……こんな身体にしておいてひどいよっ……早くいつもみたいに……」
カラスバの首に腕を回してロジェは口づけをする。
「……抱いて……」
「お望み通りにするよ」
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