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20【番外編】予知夢1 〜未来のクジマ〜
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クジマは肩を激しく揺さぶられて、無理矢理に起こされた。
「うーん……リネーくん……今日は休みだよ……」
「いいから起きろ、この若造!!」
頭を殴られて起きると、そこはクジマが王都の外れで父から受け継いだ店内だった。引き払ったはずだが、売り物の魔術の品物や本が乱雑に置かれていた。まるで、リネーと会う前に戻ったようだった。
「ここは……って誰?!」
クジマの眼の前には、かなりボロボロのローブを身にまとい、長い白髪はざっくばらんに伸び、杖をつき右目に眼帯をしている顔に皺を深く刻んだくたびれた男がそこに立っていた。
「誰って、私は未来のお前だ!」
「えっ?未来の私?」
言われてクジマはマジマジと、その男――未来の自分と言った男を見る。言われてみると、死んだ自分の父親に似ている気がすると思っていると再び頭を殴られた。
「何、アホ面で見ているんだ!本当だぞ!秘術を使い今、未来からお前に警告に来た!」
「痛い……殴らなくても……秘術?警告?」
涙目でクジマは言うと、男は顔を鼻先まで近づけ目をカッと見開き言い放つ。息が酒臭かった。
「いいか、クジマ、お前は冴えない人生を送りたくなければ王都を抜け出せ!!でないと一生、冴えないど底辺、いや底辺ですらない底が抜け続ける人生を送ることになる!」
「ええっ?……えっ、でも私は今、王都に住んではいないんだ」
「なんだって?」
「王都に住んでなくて、かわいい恋人のリネーくんとテイハサーという辺境で仲良く暮らしてます」
「なんだと?!私が苦難の人生を送っているのに貴様は恋人を作って暮らしてるだと?!」
激高した男はクジマの襟元を力強く掴みかかるその時、別の声が聞こえた。
「ちょっとまて!」
「「?」」
クジマと男が声をする方を見ると、男そっくりの男が息を切らして立っていた。
「私は別の未来から来た。王都に行くな!破滅するぞ」
「えっ?!どういうこと?」
「何を言ってるんだお前は?話が見えんぞ」
クジマと最初に来た男が驚いていると、その男が話し始めた。
「私は秘術を使ってここに来た!いいか、よく聞け!リネーくんと王都に戻るな!戻ったが最後、お前と引き離されてしまう!」
「どういうこと?リネーくんと引き離されるって?!」
「話が見えないんだが?リネーくんって誰?」
クジマは、リネーの名前が出たことに驚き、二番目に現れた男に近づく。二番目の男はクジマの目を見て話し始めた。
「私とリネーくんは仲良く暮らしていたが、あることで王都に戻ることになり、そこでリネーくんの家族の高位貴族に見つかって引き離されてしまったんだ。助けに行こうとしたが、私は袋叩きにされて二度と魔術が使えぬ身体にされた……」
「そんなっ……」
クジマは鈍器で頭を殴られたようなショックを受けた。
「ちょっと待て、魔術使えないのにどうやってここに来たんだ?」
「おい、黙ってろ、別世界の汚い私」
「なんだとこの野郎?お前のほうが汚いぞ」
最初の男と、二番目に来た男が険悪になっているので、クジマが二人を止めようとする。
「喧嘩はやめてくれ、えーと未来の私と私の人」
「そうだ私!私同士で喧嘩はやめるんだ」
クジマと未来から来た男二人が、声がする方を見るとそこには新たなくたびれたローブの男が立っていた。
「また未来から来たクジマが?!」
クジマは絶望の声をあげた。
「そうだ!いいかよく聞け過去の私よ!絶対に王都に行くな!リネーくんを守れるのはお前だけなんだ」
「そうだ絶対に行くな!警告したぞ!お前がリネーくんを守るんだ!」
「私だけリネーくん知らないんだが?他の私、ズルくない?私は人生で恋人いたことなかったぞ?」
眼の前で三人のくたびれた男――未来の自分から警告をされたクジマは、遠くから声が聞こえて意識がそちらに引っ張られると眼前の男達と店内の景色が消えた。
「クジマ、大丈夫?」
「うっううっ……」
リネーの声で目を開けると、心配そうなリネーの顔がクジマをのぞき込んでいた。どうやらベッドで寝ていて夢を見ていたらしい。
「クジマ、かなりうなされていたけど……」
「う、うん、大丈夫、きっと疲れが溜まっていただけだから。ごめんね」
「そう、無理しないでね。おやすみ」
リネーはそう言うと、クジマの身体にピッタリくっついてすぐ眠りに入ってしまった。リネーの寝顔を見つつベットに身体を沈め、クジマは先程見ていた夢を思い出していた。
(私は底辺魔術師だが、あの夢はおそらく予知夢のようなものだと言うことはなんとなく感じる……おそらく、あの男達、いや未来の私が言っていたことは真実かもしれない……)
秘術を使ってクジマに警告に来てくれたのだろう。だが、今は王都から離れた場所で二人で慎ましく暮らしているので、王都に近づかなければいい。そう考えながらクジマは眠りについた。
+++++++++++
「王都に移動?」
「ああ、クジマ、お前は働きがいいし若いから王都の本社に行ったほうがいいんじゃないかって話をしていたんだ」
広大な広さの畑の水やりを終えてから、上司に呼び出されて王都に転勤を提案された。
「……私は今の仕事がやりがいがあって性に合ってるので、王都に行きたいとは思わないんです。申し訳ありません」
クジマは内心の動揺を悟られないように上司に伝える。上司は残念そうな顔をして書類をクジマに渡す。
「そうか、だがすぐに決めることはない。無理にとは言わないが考えておいてくれ」
上司の部屋を出てから、クジマは外のベンチで渡された書類を読んでいた。待遇は申し分ないが、昨日見た夢を思い出すと、王都に戻ったことでリネーと別れてしまうのはクジマにとって耐え難いことだった。
「断ろう!そして私は絶対に王都にいかないぞ!」
決意を新たにクジマはベンチから立ち上がり、本日の業務は朝番で終わったので愛しいリネーがいる家に早く帰った。
(私にとってはリネーくんが一番大切なんだ。出世も名誉もいらない。二人で慎ましく暮らしていければいいんだ。あっでも、多少のお金は必要だから頑張って働かないと)
家の玄関の前でドアを開けようとすると、中から子供の泣き声らしき声が聞こえた。クジマはドアを開けると、いきなりクジマの身体に何かがぶつかるというよりは抱きついてきた。
「うわーん!クジマー!」
「師匠から追い出されちゃったよ!えーん」
「ニアスとオットー!?お前たち、追い出されたってどういうことだ?」
「クジマ、おかえり」
クジマを迎えたリネーが困ったような顔をしながら、クジマの仕事用のバッグを受け取った。
「二人ともさっきから泣いてて、僕もわからないんだ……。さあ、ニアスとオットー、クジマも帰ってきたしお菓子とお茶を用意するから詳しく話を聞かせて」
「「お菓子!!!」」
一瞬で泣き止んだニアスとオットーに、クジマはなにか嫌な予感を感じていた。
+ + +
テーブルの椅子に座りニアスとオットーは、お菓子をバクバク食べながら説明を始めた。
「実は、師匠の逆鱗に触れて追い出されて、転移魔法でここに飛ばされてきたんだ。モグモグ」
「逆鱗に触れるって……何をしたんだ?」
ニアスとオットーは、色々あって王都のエリート魔術師に弟子にしてもらっていた。ニアス達からくる手紙には、魔術師として頑張っていると書いてあったのだが、その師匠を怒らすことをしてしまったのであろうか?とクジマは思った。
「モグモグ。師匠の奥さんが作ったお菓子を、俺とオットーが知らないで食べちゃったんだ」
「えっ?!それだけ?!」
ニアスの説明に、リネーが驚いた。
「師匠は、師匠の奥さんが大好きなんだ。だから怒っちゃったんだ」
「あと『師匠、普通にお店のお菓子のほうが美味しいですよ』っていったら更に怒っちゃって……」
「それは怒るよ……」
「お前たち、その食べ物に意地汚いところをなんとかしたほうがいいぞ……」
ニアスとオットー兄弟は、スラム出身でゴミ拾いをして生計を立てていたので、満足に食べられる時がなかった。そのためか、かなり食べ物に執着があり悪く言えば意地汚いところがあった。
「で、師匠からは『許してほしければ、クジマ夫夫のエロ動画を盗撮してこい!それまで帰ってくるな!』って言われちゃって……」
「ええっ?!僕たちのエロ動画が許される条件なの?!なんで?!」
「……お前ら……」
リネーはまたまた驚いてしまい、クジマは言葉を失った。そういえば、まだ夫夫じゃなかったと。
+ + +
リネーは普段二人が寝るベッドへ、ニアスとオットーを寝かせると疲れていたのか幼い兄弟はすぐに寝てしまった。二人を起こさないように寝室のドアを閉めて、リネーはクジマとソファーに並んで座り小声で相談をし始めた。
「どうしようか?エロ動画を撮影しないと、あの二人は追い出されたままだよ?僕とクジマが育てるって手もあるけど……」
「リネーくん、あの二人、ニアスとオットーは魔術師としての素質があるんだ。僕なんかより」
「そうなの?すごいね」
まだ王都にいた頃、クジマが暇だったときにニアス達に魔術文字を教えると砂漠の砂が水を吸収するような勢いで覚えていった。二人はかなり素質はあるが、クジマは自分のような底辺魔術師よりも王都のエリート魔術師の元で弟子として学んだほうが何倍もいいと思っていた。だが、クジマはエロ動画を撮ることに抵抗があった。
(王都にいた頃はリネーくんと動画を撮っていたとはいえ、今はリネーくんの裸や淫らな姿を他の誰にも見せたくない……どうすれば……)
クジマは苦悩していた。しかしリネーはそうではなかった。
「仕方ないか……僕とクジマのエロ動画を撮影して、ニアス達の師匠に許してもらおう」
「えっ、でも……だめだよリネーくん、私は……」
「クジマの言いたいこともわかるよ」
リネーは隣に座っているクジマの膝の上に座り、首に手を回しそっと抱きしめる。
「クジマは優しいから、僕にエロ動画をもうさせたくないんだよね。でも僕はあの二人に助けてもらった恩もあるから、今度は僕が助けてあげたいんだよね」
「……確かにそうだけど……」
リネーはクジマの唇にそっと触れるだけのキスをして笑う。
「エロ動画撮るだけで、二人の師匠は許してくれるんでしょ?ならお安い御用だよ。」
「そうだけど……私は納得がいかないな……」
いまいち、納得がいかないクジマにリネーは耳元でこっそりとささやく。
「僕、クジマとなら動画撮影してもいいよ?……むしろしたいかな?」
「……ッ!リネーくん、そういうこと言われると私は弱いんだ……うっ、私の愚劣なチンチンが勃起してきちゃった……」
「フフフ、弱いの知ってるよ。口と手、どっちでしようかな?」
「どっちも、お願いします……」
次の日、起きてきたニアスとオットーに、エロ動画を取るから二人の師匠に話させてほしいと言ったら、ニアスが眼の前で携帯魔導板を取り出して、連絡を始めた。
「あっ、師匠!おはようございます!例の件ですが、クジマからOKもらいましたので!あっそれで、クジマが師匠と話したいそうで。ええ、はい、はい」
眼の前で連絡しているニアスを見て『まさか、お前らグルなんじゃないか……はめられたのかも……』とクジマはニアス達に疑心暗鬼になっていた。
「うーん……リネーくん……今日は休みだよ……」
「いいから起きろ、この若造!!」
頭を殴られて起きると、そこはクジマが王都の外れで父から受け継いだ店内だった。引き払ったはずだが、売り物の魔術の品物や本が乱雑に置かれていた。まるで、リネーと会う前に戻ったようだった。
「ここは……って誰?!」
クジマの眼の前には、かなりボロボロのローブを身にまとい、長い白髪はざっくばらんに伸び、杖をつき右目に眼帯をしている顔に皺を深く刻んだくたびれた男がそこに立っていた。
「誰って、私は未来のお前だ!」
「えっ?未来の私?」
言われてクジマはマジマジと、その男――未来の自分と言った男を見る。言われてみると、死んだ自分の父親に似ている気がすると思っていると再び頭を殴られた。
「何、アホ面で見ているんだ!本当だぞ!秘術を使い今、未来からお前に警告に来た!」
「痛い……殴らなくても……秘術?警告?」
涙目でクジマは言うと、男は顔を鼻先まで近づけ目をカッと見開き言い放つ。息が酒臭かった。
「いいか、クジマ、お前は冴えない人生を送りたくなければ王都を抜け出せ!!でないと一生、冴えないど底辺、いや底辺ですらない底が抜け続ける人生を送ることになる!」
「ええっ?……えっ、でも私は今、王都に住んではいないんだ」
「なんだって?」
「王都に住んでなくて、かわいい恋人のリネーくんとテイハサーという辺境で仲良く暮らしてます」
「なんだと?!私が苦難の人生を送っているのに貴様は恋人を作って暮らしてるだと?!」
激高した男はクジマの襟元を力強く掴みかかるその時、別の声が聞こえた。
「ちょっとまて!」
「「?」」
クジマと男が声をする方を見ると、男そっくりの男が息を切らして立っていた。
「私は別の未来から来た。王都に行くな!破滅するぞ」
「えっ?!どういうこと?」
「何を言ってるんだお前は?話が見えんぞ」
クジマと最初に来た男が驚いていると、その男が話し始めた。
「私は秘術を使ってここに来た!いいか、よく聞け!リネーくんと王都に戻るな!戻ったが最後、お前と引き離されてしまう!」
「どういうこと?リネーくんと引き離されるって?!」
「話が見えないんだが?リネーくんって誰?」
クジマは、リネーの名前が出たことに驚き、二番目に現れた男に近づく。二番目の男はクジマの目を見て話し始めた。
「私とリネーくんは仲良く暮らしていたが、あることで王都に戻ることになり、そこでリネーくんの家族の高位貴族に見つかって引き離されてしまったんだ。助けに行こうとしたが、私は袋叩きにされて二度と魔術が使えぬ身体にされた……」
「そんなっ……」
クジマは鈍器で頭を殴られたようなショックを受けた。
「ちょっと待て、魔術使えないのにどうやってここに来たんだ?」
「おい、黙ってろ、別世界の汚い私」
「なんだとこの野郎?お前のほうが汚いぞ」
最初の男と、二番目に来た男が険悪になっているので、クジマが二人を止めようとする。
「喧嘩はやめてくれ、えーと未来の私と私の人」
「そうだ私!私同士で喧嘩はやめるんだ」
クジマと未来から来た男二人が、声がする方を見るとそこには新たなくたびれたローブの男が立っていた。
「また未来から来たクジマが?!」
クジマは絶望の声をあげた。
「そうだ!いいかよく聞け過去の私よ!絶対に王都に行くな!リネーくんを守れるのはお前だけなんだ」
「そうだ絶対に行くな!警告したぞ!お前がリネーくんを守るんだ!」
「私だけリネーくん知らないんだが?他の私、ズルくない?私は人生で恋人いたことなかったぞ?」
眼の前で三人のくたびれた男――未来の自分から警告をされたクジマは、遠くから声が聞こえて意識がそちらに引っ張られると眼前の男達と店内の景色が消えた。
「クジマ、大丈夫?」
「うっううっ……」
リネーの声で目を開けると、心配そうなリネーの顔がクジマをのぞき込んでいた。どうやらベッドで寝ていて夢を見ていたらしい。
「クジマ、かなりうなされていたけど……」
「う、うん、大丈夫、きっと疲れが溜まっていただけだから。ごめんね」
「そう、無理しないでね。おやすみ」
リネーはそう言うと、クジマの身体にピッタリくっついてすぐ眠りに入ってしまった。リネーの寝顔を見つつベットに身体を沈め、クジマは先程見ていた夢を思い出していた。
(私は底辺魔術師だが、あの夢はおそらく予知夢のようなものだと言うことはなんとなく感じる……おそらく、あの男達、いや未来の私が言っていたことは真実かもしれない……)
秘術を使ってクジマに警告に来てくれたのだろう。だが、今は王都から離れた場所で二人で慎ましく暮らしているので、王都に近づかなければいい。そう考えながらクジマは眠りについた。
+++++++++++
「王都に移動?」
「ああ、クジマ、お前は働きがいいし若いから王都の本社に行ったほうがいいんじゃないかって話をしていたんだ」
広大な広さの畑の水やりを終えてから、上司に呼び出されて王都に転勤を提案された。
「……私は今の仕事がやりがいがあって性に合ってるので、王都に行きたいとは思わないんです。申し訳ありません」
クジマは内心の動揺を悟られないように上司に伝える。上司は残念そうな顔をして書類をクジマに渡す。
「そうか、だがすぐに決めることはない。無理にとは言わないが考えておいてくれ」
上司の部屋を出てから、クジマは外のベンチで渡された書類を読んでいた。待遇は申し分ないが、昨日見た夢を思い出すと、王都に戻ったことでリネーと別れてしまうのはクジマにとって耐え難いことだった。
「断ろう!そして私は絶対に王都にいかないぞ!」
決意を新たにクジマはベンチから立ち上がり、本日の業務は朝番で終わったので愛しいリネーがいる家に早く帰った。
(私にとってはリネーくんが一番大切なんだ。出世も名誉もいらない。二人で慎ましく暮らしていければいいんだ。あっでも、多少のお金は必要だから頑張って働かないと)
家の玄関の前でドアを開けようとすると、中から子供の泣き声らしき声が聞こえた。クジマはドアを開けると、いきなりクジマの身体に何かがぶつかるというよりは抱きついてきた。
「うわーん!クジマー!」
「師匠から追い出されちゃったよ!えーん」
「ニアスとオットー!?お前たち、追い出されたってどういうことだ?」
「クジマ、おかえり」
クジマを迎えたリネーが困ったような顔をしながら、クジマの仕事用のバッグを受け取った。
「二人ともさっきから泣いてて、僕もわからないんだ……。さあ、ニアスとオットー、クジマも帰ってきたしお菓子とお茶を用意するから詳しく話を聞かせて」
「「お菓子!!!」」
一瞬で泣き止んだニアスとオットーに、クジマはなにか嫌な予感を感じていた。
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テーブルの椅子に座りニアスとオットーは、お菓子をバクバク食べながら説明を始めた。
「実は、師匠の逆鱗に触れて追い出されて、転移魔法でここに飛ばされてきたんだ。モグモグ」
「逆鱗に触れるって……何をしたんだ?」
ニアスとオットーは、色々あって王都のエリート魔術師に弟子にしてもらっていた。ニアス達からくる手紙には、魔術師として頑張っていると書いてあったのだが、その師匠を怒らすことをしてしまったのであろうか?とクジマは思った。
「モグモグ。師匠の奥さんが作ったお菓子を、俺とオットーが知らないで食べちゃったんだ」
「えっ?!それだけ?!」
ニアスの説明に、リネーが驚いた。
「師匠は、師匠の奥さんが大好きなんだ。だから怒っちゃったんだ」
「あと『師匠、普通にお店のお菓子のほうが美味しいですよ』っていったら更に怒っちゃって……」
「それは怒るよ……」
「お前たち、その食べ物に意地汚いところをなんとかしたほうがいいぞ……」
ニアスとオットー兄弟は、スラム出身でゴミ拾いをして生計を立てていたので、満足に食べられる時がなかった。そのためか、かなり食べ物に執着があり悪く言えば意地汚いところがあった。
「で、師匠からは『許してほしければ、クジマ夫夫のエロ動画を盗撮してこい!それまで帰ってくるな!』って言われちゃって……」
「ええっ?!僕たちのエロ動画が許される条件なの?!なんで?!」
「……お前ら……」
リネーはまたまた驚いてしまい、クジマは言葉を失った。そういえば、まだ夫夫じゃなかったと。
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リネーは普段二人が寝るベッドへ、ニアスとオットーを寝かせると疲れていたのか幼い兄弟はすぐに寝てしまった。二人を起こさないように寝室のドアを閉めて、リネーはクジマとソファーに並んで座り小声で相談をし始めた。
「どうしようか?エロ動画を撮影しないと、あの二人は追い出されたままだよ?僕とクジマが育てるって手もあるけど……」
「リネーくん、あの二人、ニアスとオットーは魔術師としての素質があるんだ。僕なんかより」
「そうなの?すごいね」
まだ王都にいた頃、クジマが暇だったときにニアス達に魔術文字を教えると砂漠の砂が水を吸収するような勢いで覚えていった。二人はかなり素質はあるが、クジマは自分のような底辺魔術師よりも王都のエリート魔術師の元で弟子として学んだほうが何倍もいいと思っていた。だが、クジマはエロ動画を撮ることに抵抗があった。
(王都にいた頃はリネーくんと動画を撮っていたとはいえ、今はリネーくんの裸や淫らな姿を他の誰にも見せたくない……どうすれば……)
クジマは苦悩していた。しかしリネーはそうではなかった。
「仕方ないか……僕とクジマのエロ動画を撮影して、ニアス達の師匠に許してもらおう」
「えっ、でも……だめだよリネーくん、私は……」
「クジマの言いたいこともわかるよ」
リネーは隣に座っているクジマの膝の上に座り、首に手を回しそっと抱きしめる。
「クジマは優しいから、僕にエロ動画をもうさせたくないんだよね。でも僕はあの二人に助けてもらった恩もあるから、今度は僕が助けてあげたいんだよね」
「……確かにそうだけど……」
リネーはクジマの唇にそっと触れるだけのキスをして笑う。
「エロ動画撮るだけで、二人の師匠は許してくれるんでしょ?ならお安い御用だよ。」
「そうだけど……私は納得がいかないな……」
いまいち、納得がいかないクジマにリネーは耳元でこっそりとささやく。
「僕、クジマとなら動画撮影してもいいよ?……むしろしたいかな?」
「……ッ!リネーくん、そういうこと言われると私は弱いんだ……うっ、私の愚劣なチンチンが勃起してきちゃった……」
「フフフ、弱いの知ってるよ。口と手、どっちでしようかな?」
「どっちも、お願いします……」
次の日、起きてきたニアスとオットーに、エロ動画を取るから二人の師匠に話させてほしいと言ったら、ニアスが眼の前で携帯魔導板を取り出して、連絡を始めた。
「あっ、師匠!おはようございます!例の件ですが、クジマからOKもらいましたので!あっそれで、クジマが師匠と話したいそうで。ええ、はい、はい」
眼の前で連絡しているニアスを見て『まさか、お前らグルなんじゃないか……はめられたのかも……』とクジマはニアス達に疑心暗鬼になっていた。
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