【BL】動画令息~ざまぁ回避の悪役令息はエロ動画を配信して稼ぎます!~

雫谷 美月

文字の大きさ
上 下
23 / 25

20【番外編】予知夢1 〜未来のクジマ〜

しおりを挟む
 クジマは肩を激しく揺さぶられて、無理矢理に起こされた。

「うーん……リネーくん……今日は休みだよ……」
「いいから起きろ、この若造!!」

 頭を殴られて起きると、そこはクジマが王都の外れで父から受け継いだ店内だった。引き払ったはずだが、売り物の魔術の品物や本が乱雑に置かれていた。まるで、リネーと会う前に戻ったようだった。

「ここは……って誰?!」

 クジマの眼の前には、かなりボロボロのローブを身にまとい、長い白髪はざっくばらんに伸び、杖をつき右目に眼帯をしている顔に皺を深く刻んだくたびれた男がそこに立っていた。

「誰って、私は未来のお前だ!」
「えっ?未来の私?」

 言われてクジマはマジマジと、その男――未来の自分と言った男を見る。言われてみると、死んだ自分の父親に似ている気がすると思っていると再び頭を殴られた。

「何、アホ面で見ているんだ!本当だぞ!秘術を使い今、未来からお前に警告に来た!」
「痛い……殴らなくても……秘術?警告?」 

 涙目でクジマは言うと、男は顔を鼻先まで近づけ目をカッと見開き言い放つ。息が酒臭かった。

「いいか、クジマ、お前は冴えない人生を送りたくなければ王都を抜け出せ!!でないと一生、冴えないど底辺、いや底辺ですらない底が抜け続ける人生を送ることになる!」
「ええっ?……えっ、でも私は今、王都に住んではいないんだ」
「なんだって?」
「王都に住んでなくて、かわいい恋人のリネーくんとテイハサーという辺境で仲良く暮らしてます」
「なんだと?!私が苦難の人生を送っているのに貴様は恋人を作って暮らしてるだと?!」

 激高した男はクジマの襟元を力強く掴みかかるその時、別の声が聞こえた。

「ちょっとまて!」
「「?」」

 クジマと男が声をする方を見ると、男そっくりの男が息を切らして立っていた。

「私は別の未来から来た。王都に行くな!破滅するぞ」
「えっ?!どういうこと?」
「何を言ってるんだお前は?話が見えんぞ」

 クジマと最初に来た男が驚いていると、その男が話し始めた。

「私は秘術を使ってここに来た!いいか、よく聞け!リネーくんと王都に戻るな!戻ったが最後、お前と引き離されてしまう!」
「どういうこと?リネーくんと引き離されるって?!」
「話が見えないんだが?リネーくんって誰?」

 クジマは、リネーの名前が出たことに驚き、二番目に現れた男に近づく。二番目の男はクジマの目を見て話し始めた。

「私とリネーくんは仲良く暮らしていたが、あることで王都に戻ることになり、そこでリネーくんの家族の高位貴族に見つかって引き離されてしまったんだ。助けに行こうとしたが、私は袋叩きにされて二度と魔術が使えぬ身体にされた……」
「そんなっ……」

 クジマは鈍器で頭を殴られたようなショックを受けた。

「ちょっと待て、魔術使えないのにどうやってここに来たんだ?」
「おい、黙ってろ、別世界の汚い私」
「なんだとこの野郎?お前のほうが汚いぞ」

 最初の男と、二番目に来た男が険悪になっているので、クジマが二人を止めようとする。

「喧嘩はやめてくれ、えーと未来の私と私の人」
「そうだ私!私同士で喧嘩はやめるんだ」

 クジマと未来から来た男二人が、声がする方を見るとそこには新たなくたびれたローブの男が立っていた。

「また未来から来たクジマわたしが?!」

 クジマは絶望の声をあげた。

「そうだ!いいかよく聞け過去の私よ!絶対に王都に行くな!リネーくんを守れるのはお前だけなんだ」
「そうだ絶対に行くな!警告したぞ!お前がリネーくんを守るんだ!」
「私だけリネーくん知らないんだが?他の私、ズルくない?私は人生で恋人いたことなかったぞ?」

 眼の前で三人のくたびれた男――未来の自分から警告をされたクジマは、遠くから声が聞こえて意識がそちらに引っ張られると眼前の男達と店内の景色が消えた。

「クジマ、大丈夫?」
「うっううっ……」

 リネーの声で目を開けると、心配そうなリネーの顔がクジマをのぞき込んでいた。どうやらベッドで寝ていて夢を見ていたらしい。

「クジマ、かなりうなされていたけど……」
「う、うん、大丈夫、きっと疲れが溜まっていただけだから。ごめんね」
「そう、無理しないでね。おやすみ」

 リネーはそう言うと、クジマの身体にピッタリくっついてすぐ眠りに入ってしまった。リネーの寝顔を見つつベットに身体を沈め、クジマは先程見ていた夢を思い出していた。

(私は底辺魔術師だが、あの夢はおそらく予知夢のようなものだと言うことはなんとなく感じる……おそらく、あの男達、いや未来の私が言っていたことは真実かもしれない……)

 秘術を使ってクジマに警告に来てくれたのだろう。だが、今は王都から離れた場所で二人で慎ましく暮らしているので、王都に近づかなければいい。そう考えながらクジマは眠りについた。

 +++++++++++

「王都に移動?」
「ああ、クジマ、お前は働きがいいし若いから王都の本社に行ったほうがいいんじゃないかって話をしていたんだ」

 広大な広さの畑の水やりを終えてから、上司に呼び出されて王都に転勤を提案された。

「……私は今の仕事がやりがいがあって性に合ってるので、王都に行きたいとは思わないんです。申し訳ありません」

 クジマは内心の動揺を悟られないように上司に伝える。上司は残念そうな顔をして書類をクジマに渡す。

「そうか、だがすぐに決めることはない。無理にとは言わないが考えておいてくれ」

 上司の部屋を出てから、クジマは外のベンチで渡された書類を読んでいた。待遇は申し分ないが、昨日見た夢を思い出すと、王都に戻ったことでリネーと別れてしまうのはクジマにとって耐え難いことだった。

「断ろう!そして私は絶対に王都にいかないぞ!」

 決意を新たにクジマはベンチから立ち上がり、本日の業務は朝番で終わったので愛しいリネーがいる家に早く帰った。

(私にとってはリネーくんが一番大切なんだ。出世も名誉もいらない。二人で慎ましく暮らしていければいいんだ。あっでも、多少のお金は必要だから頑張って働かないと)

 家の玄関の前でドアを開けようとすると、中から子供の泣き声らしき声が聞こえた。クジマはドアを開けると、いきなりクジマの身体に何かがぶつかるというよりは抱きついてきた。

「うわーん!クジマー!」
「師匠から追い出されちゃったよ!えーん」
「ニアスとオットー!?お前たち、追い出されたってどういうことだ?」
「クジマ、おかえり」

 クジマを迎えたリネーが困ったような顔をしながら、クジマの仕事用のバッグを受け取った。

「二人ともさっきから泣いてて、僕もわからないんだ……。さあ、ニアスとオットー、クジマも帰ってきたしお菓子とお茶を用意するから詳しく話を聞かせて」
「「お菓子!!!」」

 一瞬で泣き止んだニアスとオットーに、クジマはなにか嫌な予感を感じていた。


+ + +

 テーブルの椅子に座りニアスとオットーは、お菓子をバクバク食べながら説明を始めた。

「実は、師匠の逆鱗に触れて追い出されて、転移魔法でここに飛ばされてきたんだ。モグモグ」
「逆鱗に触れるって……何をしたんだ?」

 ニアスとオットーは、色々あって王都のエリート魔術師に弟子にしてもらっていた。ニアス達からくる手紙には、魔術師として頑張っていると書いてあったのだが、その師匠を怒らすことをしてしまったのであろうか?とクジマは思った。

「モグモグ。師匠の奥さんが作ったお菓子を、俺とオットーが知らないで食べちゃったんだ」
「えっ?!それだけ?!」

 ニアスの説明に、リネーが驚いた。

「師匠は、師匠の奥さんが大好きなんだ。だから怒っちゃったんだ」
「あと『師匠、普通にお店のお菓子のほうが美味しいですよ』っていったら更に怒っちゃって……」
「それは怒るよ……」
「お前たち、その食べ物に意地汚いところをなんとかしたほうがいいぞ……」

 ニアスとオットー兄弟は、スラム出身でゴミ拾いをして生計を立てていたので、満足に食べられる時がなかった。そのためか、かなり食べ物に執着があり悪く言えば意地汚いところがあった。

「で、師匠からは『許してほしければ、クジマ夫夫ふうふのエロ動画を盗撮してこい!それまで帰ってくるな!』って言われちゃって……」
「ええっ?!僕たちのエロ動画が許される条件なの?!なんで?!」
「……お前ら……」

 リネーはまたまた驚いてしまい、クジマは言葉を失った。そういえば、まだ夫夫ふうふじゃなかったと。

+ + +

 リネーは普段二人が寝るベッドへ、ニアスとオットーを寝かせると疲れていたのか幼い兄弟はすぐに寝てしまった。二人を起こさないように寝室のドアを閉めて、リネーはクジマとソファーに並んで座り小声で相談をし始めた。

「どうしようか?エロ動画を撮影しないと、あの二人は追い出されたままだよ?僕とクジマが育てるって手もあるけど……」
「リネーくん、あの二人、ニアスとオットーは魔術師としての素質があるんだ。僕なんかより」
「そうなの?すごいね」

 まだ王都にいた頃、クジマが暇だったときにニアス達に魔術文字を教えると砂漠の砂が水を吸収するような勢いで覚えていった。二人はかなり素質はあるが、クジマは自分のような底辺魔術師よりも王都のエリート魔術師の元で弟子として学んだほうが何倍もいいと思っていた。だが、クジマはエロ動画を撮ることに抵抗があった。

(王都にいた頃はリネーくんと動画を撮っていたとはいえ、今はリネーくんの裸や淫らな姿を他の誰にも見せたくない……どうすれば……)

 クジマは苦悩していた。しかしリネーはそうではなかった。

「仕方ないか……僕とクジマのエロ動画を撮影して、ニアス達の師匠に許してもらおう」
「えっ、でも……だめだよリネーくん、私は……」
「クジマの言いたいこともわかるよ」

 リネーは隣に座っているクジマの膝の上に座り、首に手を回しそっと抱きしめる。

「クジマは優しいから、僕にエロ動画をもうさせたくないんだよね。でも僕はあの二人に助けてもらった恩もあるから、今度は僕が助けてあげたいんだよね」
「……確かにそうだけど……」

 リネーはクジマの唇にそっと触れるだけのキスをして笑う。

「エロ動画撮るだけで、二人の師匠は許してくれるんでしょ?ならお安い御用だよ。」
「そうだけど……私は納得がいかないな……」

 いまいち、納得がいかないクジマにリネーは耳元でこっそりとささやく。

「僕、クジマとなら動画撮影してもいいよ?……むしろしたいかな?」
「……ッ!リネーくん、そういうこと言われると私は弱いんだ……うっ、私の愚劣なチンチンが勃起してきちゃった……」
「フフフ、弱いの知ってるよ。口と手、どっちでしようかな?」
「どっちも、お願いします……」

 次の日、起きてきたニアスとオットーに、エロ動画を取るから二人の師匠に話させてほしいと言ったら、ニアスが眼の前で携帯魔導板を取り出して、連絡を始めた。

「あっ、師匠!おはようございます!例の件ですが、クジマからOKもらいましたので!あっそれで、クジマが師匠と話したいそうで。ええ、はい、はい」

 眼の前で連絡しているニアスを見て『まさか、お前らグルなんじゃないか……はめられたのかも……』とクジマはニアス達に疑心暗鬼になっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!

かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。 その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。 両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。 自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。 自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。 相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと… のんびり新連載。 気まぐれ更新です。 BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意! 人外CPにはなりません ストックなくなるまでは07:10に公開 3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

処理中です...