【BL】動画令息~ざまぁ回避の悪役令息はエロ動画を配信して稼ぎます!~

雫谷 美月

文字の大きさ
上 下
10 / 25

9 重なる唇2※

しおりを挟む
ゲートルームに入って、壁面の表示が変わっているのに気がついた。
一から十までの表示になってる。これは階層を表してるんだな。
一を選んでタップする。

転移時の浮遊感と共に、見慣れた一階層の小部屋に立っている。
ダンジョンの出入り口はすぐ傍だ。
念のために壁に手の平を当てる。すぐに二から十までの数字とGの文字が浮かび、床が青白く光る。うん、チュートリアル通りだ。これでいつでも行き来できる。

ダンジョンの出口には見張り番のおじさんが立ってて、訝しそうに僕を見る。
僕が一人で、何も持ってないのに気がつくと、何とも気の毒そうな顔をした。
ポーターが置き去りにされるのは良くある事なので、それを察したんだ。
「坊主、良く無事だったな」
「うん、何とか逃げられたよ」わざと弱々しい声で答えておく。

僕たちのねぐらは街を通って流れる川に渡った橋の下。
端切れ板を組み合わせて、何とか雨風を凌げるようにしたオンボロだ。
入り口のぼろ布をかき分けて中に入る。
「ただいまー」
「アッシュ!」一斉に声がかかる。

「パーティーが全滅したって聞いて。もう駄目かと思ってたよお!十日もどうしてたの?」
カティが抱きついてきた。十歳の女の子。痩せてガリガリだ。食べ物がお土産だって言ったら喜ぶだろうな。

でも、十日って?潜って三日、管理者ルームに居たのは一日くらいだったぞ?
一番ありそうなのは、僕が亜空間に入ってゲートに出現するまで、何日か掛かっていたんだと思う。多分、ダンジョンが僕を解析するのに必要な時間だったんだろう。その間の記憶が無いのは、おそらく感覚が遮断されていたんだ。

「うん、囮にされたんだけど、うまく逃げられた。あれ、ターニャはまだ?」
カティを抱き返しながら、周りに聞く。
「ギルドに行ってるよ。アッシュがどうなったか確かめるって」
オルトは帰ってるか。僕より二つ上の兄貴分。僕より頭一つ高い。ひょろひょろだけど。
「あいつら、全滅か。自業自得だな」
僕には何の感慨も浮かばない。バックパックに入ってた筈の装備が無くて焦っただろうな。

「怪我してない?治癒魔法掛けようか?」
ミルカが駆け寄ってくる。七歳なのにもう魔法が使える。天才の女の子。
奥の方で眠そうに目を擦っているのはダイン。九歳の男の子。なぜか料理は一番うまい。
「あれ?アッシュ?幽霊?ゾンビ?」
「殺すなよ、ダイン。あ、そうだ、皆に良い土産があるよ」
僕は亜空間から、パーティーから預かっていた食料を取り出す。
「あいつら全滅したんだからもう要らないよね?」

全員が目を剥く。そして一斉に舌なめずり。
うん、僕たちはいつも空腹だ。食料が足りていない。
ポーターは、まあ、そこそこ稼ぎになる。でも途切れなく仕事にありつける訳でもない。
ターニャは今年十六。もう冒険者登録して稼いでいる。まあ、F級なのでポーターよりは良いけど、それ程の稼ぎはない。今でも僕らを見捨てないで稼ぎを入れてくれる。それでもギリギリ。

ダインが早速、食材を見繕って料理を始めた。
川縁に組んだ石のかまどに拾い集めた木材を燃やし、どこかでくすねてきた鍋で色々放り込んで煮ている。良い匂いがしてきた。
出来上がるまで、保存食の干し肉を皆でかじる。

「アッシュ!」
ターニャが帰ってきて、いきなり僕を胸に抱きしめる。
いや、ターニャはもう十六なんだからね。色々育ってきて当たるんだからね。
「心配掛けたね、ターニャ。でも大丈夫だから」
軽く髪を撫でる。感謝を込めて。

「今回の仕事は無駄足だったねえ。気を落とさず今度頑張ろうぜ」
優しいターニャは慰めようとしてくれる。パーティー全滅ならポーター料は未払いになるからだ。ほんとに僕たちの頼りになる姉御だ。
「いや、無駄足でもないさ。お土産たっぷりだよ」
僕はにやりとして、亜空間から全滅したパーティーの装備と、討伐した魔物の素材を出してみせる。

ターニャは目を丸くして、すぐに悪い笑みを浮かべる。
「お前も悪よのう、エチゴヤ」
「いえいえ、お代官ほどでも」
これは僕の前世話から、皆がお気に入りになったやり取り。

「この装備、売ったら結構な金になるね」
オルトが早速品定め。
僕がここの仲間になってから、皆に読み書きと計算を教えるようになっていた。
出来るのが八歳まで王子だった僕だけだったから。五才頃から教師が付いていたからね。読み書きとか魔法とか剣術とか。これで他の浮浪児グループより生きやすくなる。

一緒に生きてきた子供達。生き延びるための手段として身につけて欲しかった。
最初は面倒がってたけど、知識があると騙そうとした相手を見破られるのに気づいて、段々熱心になり始めた。ミルカには魔法の基礎を教えた。これで上達が早くなるだろう。
ターニャにも剣術の型を教えた。すぐに僕より強くなったのには参ったな。
教えた子供達の中でオルトが図抜けて優秀だった。彼なら結構良い商店で雇って貰えるだろう。

「こっちの素材、売れるかなあ」
ダインが首を傾げる。食材になる物はとっておく気満々だ。
「まあ、その前に小細工しないとね。そのままホイホイって訳にはいかないさ」
ターニャの言う通り、普通のポーターが素材屋に持って行ったら怪しまれる。
「どうするの?」
ミルカが首を傾げる。うん、その仕草、可愛いな。

「【腐肉漁りスカベンジャー】をやった振りをするのさ」
ターニャがウィンクして、ニヤリと笑った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...