【BL】動画令息~ざまぁ回避の悪役令息はエロ動画を配信して稼ぎます!~

雫谷 美月

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10 お互いの想い

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鳥のさえずりが聞こえ空気が冴える朝、リネーは店の前をほうきで掃除をしながら、昨日のことを考えていた。

(クジマ……大丈夫かな……)
(閨での失敗は、相手の心のダメージが大きいと座学で習った)
(ということは、今はとても落ち込んでいるはずだね)
(そっとしておくべきだ。決して、腰抜けなどとは言ってはいけない。とにかく優しく接するべきだ)

脳内で、令息のリネーと前世の人格が会話をするかのように思考していた。クジマには優しく接しようと思って気合いを入れたが、クジマは朝から仕事部屋から出てこなかった。部屋からはクジマの呻く声が聞こえるので生きているはずだが……

(クジマ、どうしたのかな。落ち込んでるのかな)
(泣いてるのかもしれない……今はそっとしておこう……)

脳内でそう考えが纏まり、リネーはクジマの仕事部屋のドアの前に立ちノックをして中にいるであろうクジマに声をかけた。

「クジマ、食事用意してあるからお腹すいたら食べて。僕、店番してるからね」
「…………」

そっとドアの前から離れたリネーは、一階に降りて店内の掃除を始めた。

(僕が動画を協力してくれるクジマに甘えたばかりにこんなことになったのかもな……)
(彼も協力してくれてるだろう。僕のせいではない)
(罪悪感を感じるよ……)
(性交に失敗したのに罪悪感を感じる必要はないと思う)

掃除をしながら、リネーはますます考えがまとまらなくなる。当初はエロ動画でお金を儲けて国外脱出が目的だったが、クジマと一緒に住み店番をし一緒に買い物に出かけ家に帰り食事をし夜は共に寝る、そんな生活が心地よく最近は国外脱出しなくてもいいのではとも考えていた。

(実家の公爵家から捜索がされてないんだよなあ……何故だろう)
(おそらく婚約破棄された僕が乱心して行方不明のほうが王家や元婚約者のマケール殿下の責任を問うた方が家の格が守れると公爵の父上は踏んだのだろう。つまり僕は行方不明のままのほうがいい。戻ってもろくな扱いにならないだろう)
(貴族って怖いなあ……逃げられてよかったかも)

脳内で公爵令息のリネーの記憶により、捜索が来ない理由がわかったのでリネーは多少ホッとする。

(逃げても地獄だが逃げなくても地獄。どちらの地獄を選ぶかだ)
(僕は今は地獄だとは思わないけどね。ここらへんの治安は悪いけど)

掃除が終わり、リネーは店を開ける準備を始めた。すっかりこの店番の仕事も慣れたなとリネーは苦笑した。

+ + +

「よし、今度こそ弱く術をかけるぞ…………ぐああぁぁっ!!……っ、……また強すぎた……」

リネーが掃除をしながらクジマを心配している同じ時、クジマは自分の仕事部屋で魔術書で覚えたばかりの雷魔術を自分の陰茎に流し、違う意味で身悶えていた。

「これで本当に早漏が治るのだろうか……」

クジマは魔導ウェブで「早漏を治す方法」を調べたら、電流を流す方法がいいという情報を読み早速実践をしていた。しかし雷属性魔術の力加減が上手く行かずにセルフ拷問状態となっていた。

「……このままでは私のチンチンが黒焦げになってしまう……しかし昨夜のような失態はもうしたくない……」

昨夜はリネーとの初めての体験で失敗してしまったことに、クジマは自己嫌悪に陥っていた。リネーの腹に精を放ってしまい、その後はまったく勃たずにリネーに恥をかかせてしまったことにクジマは激しく後悔していた。

「もう、あんな失態をするわけにはいかない……もう一度だ……ぐあああっ……あぁっ!?下の毛がチリチリにっ!!!わっ、私はここで負けるわけにはいかないッ!もう一度だ!……ぎゃああぁっ!!」

部屋でクジマは一人で自身の陰茎に魔術で電流を流す早漏対策をして悲鳴を上げていたが、その声が階下のリネーに聞こえていて、それを知らないリネーはクジマが泣いていると勘違いをして店番をしなから落ち込んでいた。

+ + +

昼を過ぎたがクジマは昼食の時間にも部屋から出てこなかった。早漏対策で陰茎に電流を流しすぎたせいで悶絶して仕事部屋から出られないのだが、リネーはそんなことは知らないので、いまだ落ち込んでいると思っていた。

「今日はお客さん全然来ないし、外の掃除でもしようかな」

外に出てほうきを掃き始めるが、クジマの店兼家の周りはスラム街寸前のような下町なので、店の前をちょっと掃除しただけではすぐに元に戻ってしまう。今にも潰れそうな建物がひしめき合い乱雑とした通りをリネーは見てから遠くを見ると王城が遠くにそびえ立ち、リネーが通っていた学園の時計塔が見えた。

(ここから見るとかなり遠いし完全に別世界だな。捜索されてても、僕がここにいるってわからないだろうなあ)

ほうきを掃きながらぼんやりと考えていると、ふいに服を掴まれそちらを見ると、リネーより年下の兄弟らしき少年が二人いた。

「なあ、このボロい魔術店の店員だろ?」
「そうだよ」

ボロいとはっきり言われてしまいリネーは苦笑いしてしまうが、少年はリネーの前に新聞らしき紙を出してきた。

「魔術店の店員なら字が読めるだろ。読んでほしいんだ」
「拾ったんだけど、なんて書いてあるかわからなくて」
「まだ汚れてないし、買ってくれる人がいるかもしれないから。頼むよ店員さん」
「いいよ。でも、落ちてた新聞売るの?」

リネーは少年に聞くと、少年はそんなこともわからないのかとリネーの顔を見て答えてくれた。

「新聞は高いし、買うのは字が読めるやつだけだ。まあ、俺たちはたまに拾うと絵を見るのが楽しみだけどな」
「絵は楽しみだよね。この新聞はなんて書いてあるの?新聞にも種類があるみたいで人気があるのとないのもあるんだ」

リネーは渡された新聞を見るが、記憶にはない新聞だった。

「んーちょっとまってね。一面には王城での夜会のことが書いてあるね……えっと、こっちは地方の貴族の浮気のことが書いてある……」
「なにそれ」
「どういう新聞なんだ?」

少年二人はリネーの答えを待っているが、リネーは言葉に詰まってしまう。

(これ、貴族のゴシップ新聞だ……こんな新聞が市井にはあるんだ……)

ゴシップ新聞を読むのは初めてな上に、この少年二人になんて説明をすればいいのかと考えていると、リネーの目にある記事が入ってきた。

【マケール王子殿下、王籍離脱か?愚かな婚約破棄の代償】

「ねえ、君たち、この新聞は僕が買ってもいいかな?」

リネーがそう少年たちに言うと、「本当?」「やった!店員さん、ありがとう」と嬉しそうに言われ、リネーは手元にあった小銭を少年たちに多めに渡した。

「これと同じ新聞で新しいのがあったら売って欲しいんだ」
「いいよ。でも俺たち、字が読めないから新しいとか古いとかはわからないよ」
「教えるよ。数の文字ってのがあってそれで判断するんだ。ここを見て」

少年達に簡単に数字を教えてから、急いで店に戻ると店内でその記事を読み始めた。
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