4 / 25
4 恋人設定※
しおりを挟む物心ついた頃から私はとても可愛がられていた。
伯爵家の次女として生まれ優しいお父様お母様に可愛がられ、周囲の使用人も温かく接してくれた。
5つ歳上のお姉様もとても優しく、いつも一緒に遊んでくれて幸せだった。
私にとって世界が優しいのは当たり前のことで、誰もにとってもそうだと思っていた。
その日までは。
『お姉様今日もお勉強?』
『ええ、ミリアレナ』
その日もお姉様の部屋に行くと教本を抱えたお姉様が授業の準備をしていた。
『遊んでくれないの?』
『ごめんなさい、今日はダメなの』
その日は後でねとは言ってくれなかった。
どうしてもお姉様と遊びたかった私はヤダとわがままを言った。メイドが別のことをして遊びましょうと促すのに駄々をこねて首を振る。
『イヤ、お姉様と一緒がいいの!』
困った顔を浮かべるお姉様にお願い!と言い募る。
『何の騒ぎだ』
外に声が聞こえたのか通りがかったお父様が入ってくる。
メイドが事情を説明するとお父様の表情が変わった。
『遊んでやればいいだろう。
妹の願いを無碍にするとはなんて冷たい奴だ』
『ですがお父様、今日の教師の方はわざわざ遠方から招いて時間を取っていただいているのです』
ですから今日は……、と続けるお姉様の言葉を遮り怒りの形相を浮かべる。
『だからなんだ!
また改めて呼べばいいだろう!
なぜ妹に優しくできない、自分の都合ばかり優先しようとして。
利己的なのもいい加減にしろ!』
大きな怒鳴り声でお姉様に迫るお父様。
そんな大きな声を聞いたことのなかった私は怖くなって後退る。
どうしてそんなに怒るのかわからず、潤んだ目で豹変したお父様を見つめた。
『お父様、怖い……』
そう訴えると一転して笑顔に変わる。
その変化が余計に恐ろしく感じる。けれど私を見つめる目はいつもと同じ優しいお父様のものだった。
『とにかくもう少し妹に優しくしてやりなさい』
『……承知しました』
悲しそうに眉を寄せ手を握りしめるお姉様。
私のせいだ。私がわがままを言ったから。
いいな、と念を押してお父様は部屋を出て行った。
静かになった部屋でどうしようと思っているとすっと息を吸う音が聞こえた。深呼吸をしたお姉様が微笑んで私を見つめる。
『何をして遊びたかったの、ミリアレナ?』
優しい声で聞いてくれるお姉様に胸がずきんと痛んだ。
『……やっぱりいい』
『ミリアレナ?』
お姉様と遊びたいけど、それをしちゃいけないんだと思った。
お姉様を困らせたくない。
『遊ばなくていい』
『ミリアレナ……』
困った顔で名前を呼ぶお姉様に別のお願いをしてみる。
『でも、お勉強が終わったら一緒にケーキ食べてくれる?』
これなら良いって言ってくれるかなと思いながらお姉様を窺う。
『いいわ、終わったら一緒にお茶にしましょう』
にっこりと微笑んでそう言ってくれた。
うれしくって満面の笑みを浮かべる。
『でも夕食の前だから小さいケーキね。
ミリアレナが好きな小さくて可愛いケーキよ』
ふふっと笑うお姉様につられてミリアレナも笑顔になる。
手のひらよりも小さいケーキは料理長の特製だ。
きゅっと絞ったクリームも乗せたフルーツも全部小さくてとっても可愛い。
お茶の時間ならいくつも食べていいけど今日は夕食前だからひとつだけ。
そう約束してお姉様の部屋から出た。
自分の部屋に戻って一人で遊ぶ。お姉様が怒ってなくて良かった。お勉強は大事、お姉様の部屋にあるたくさんの本を思い浮かべて頷く。
お人形やおもちゃでいっぱいの私の部屋と違ってお姉様の部屋には本やお勉強するための物がいっぱいある。
だからお姉様はお勉強が好き。
好きなことをしちゃダメって言われるのが嫌なのはミリアレナにもわかった。
それからはお勉強のときは邪魔しないように側で見てるか近づかないようにした。
お姉様に嫌われたくなかったし、お父様が怒るのも怖い。
一度お姉様が勉強している横で一緒に聞いていたらお父様にすごいと褒められた。
難しくてよくわからないところもいっぱいあったけど、褒められたのは嬉しい。
お姉様はもっとすごいのよと自慢したらお父様はミリアレナよりたくさん勉強しているんだから当たり前だって。本当にすごいのに。
私の頭を撫でて褒めてくれたお父様はお姉様の先生と少しだけ話をして出て行く。
お姉様の頭は撫でてくれてない。
出て行くお父様を見つめるお姉様を見てたら、なんだか苦しくて不安になる。
けれど私を向いたお姉様は笑顔に戻っていて、優しく頭を撫でてくれて。
二人で授業に戻ったときには不安はどこかに行っていた。
些細なこと、けれど確かな違和感は幾度も繰り返し不和を起こしていた。
それが見える形で問題になったのはお姉様の10歳の誕生日パーティでのことだった。
10
お気に入りに追加
147
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

うるせぇ!僕はスライム牧場を作るんで邪魔すんな!!
かかし
BL
強い召喚士であることが求められる国、ディスコミニア。
その国のとある侯爵の次男として生まれたミルコは他に類を見ない優れた素質は持っていたものの、どうしようもない事情により落ちこぼれや恥だと思われる存在に。
両親や兄弟の愛情を三歳の頃に失い、やがて十歳になって三ヶ月経ったある日。
自分の誕生日はスルーして兄弟の誕生を幸せそうに祝う姿に、心の中にあった僅かな期待がぽっきりと折れてしまう。
自分の価値を再認識したミルコは、悲しい決意を胸に抱く。
相棒のスライムと共に、名も存在も家族も捨てて生きていこうと…
のんびり新連載。
気まぐれ更新です。
BがLするまでかなり時間が掛かる予定ですので注意!
人外CPにはなりません
ストックなくなるまでは07:10に公開
3/10 コピペミスで1話飛ばしていたことが判明しました!申し訳ございません!!

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない
てんつぶ
BL
連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。
その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。
弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。
むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。
だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。
人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…
月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた…
転生したと気づいてそう思った。
今世は周りの人も優しく友達もできた。
それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。
前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。
前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。
しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。
俺はこの幸せをなくならせたくない。
そう思っていた…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる