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#5 最愛に気づく男
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しおりを挟む「そっか……」
一生懸命に誤魔化す今江さんをそれ以上追求しても無駄だと思った。
「分かった……入館証ありがとう。渡しておくね」
「ありがとうございます」
用件は済んだと思ったけれど、今江さんはこの場から動こうとしなかった。
「今江さん?」
「あの……私……浅野さんが好きでした」
こんなところでの思わぬ告白に息を呑んだ。
「でも諦めました。足立さんには敵いません」
「え……どうしたの?」
突然の告白の次は突然の敗北宣言だ。今江さんと争うつもりも、そんな予兆もなかったのに。
「私を足立さんと間違えるなんて、負けたようなものです。体調不良だからこそ本音が出る」
「…………」
「弱ったときに頼りたいのは足立さんってことです」
「そうかな……」
だって修羅場を迎えて別れたばかりなのだ。
「はい! 間違いないですよ」
困惑する私に対して今江さんはニコニコしている。
「だから仮眠室でのことを聞いても怒らないであげてくださいね」
「え?」
「お二人を応援しますね! お疲れ様です」
私に軽く頭を下げた今江さんはエレベーターに向かって歩いていった。
仮眠室でのことって何だろう……。
『応援します』か。そういえば優磨くんにも言われた言葉だ。
手の中の入館証を見た。浅野さんの名前が印字されたカードはなるべく早く本人に返さなければいけないものだ。それは良いのか悪いのか、浅野さんの家に行く理由ができてしまったということだ。
浅野さんのマンションの前まで来てもなかなか入ることができない。合鍵をもらっていたわけではないし、オートロックのマンションに入るには浅野さんを呼び出さなくてはいけない。体調が悪いのに起こすのは申し訳ないのと、インターフォン越しに追い返されたら立ち直れない。
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