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愛を誓うお巡りさん
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しおりを挟む「実弥を守るって言ったことは嘘じゃないし、誤魔化したり見栄を張って言った言葉じゃない。一生かけて守るよ」
「嬉しい。なんだかプロポーズみたい……なんてね」
思わずプロポーズなんて言葉が出てしまった。だって父へのお見舞いとして持ってきたのだろうけど、花束を抱え私を守ると宣言されてはまるでプロポーズされたかのようだ。シバケンを急かしてしまうのは嫌だから、結婚を匂わすことは言わないでおこうと思っていたのに。
「あーもう……プロポーズするときに言おうと思ったことを今言っちゃった。こんなはずじゃなかったのに……」
シバケンは片手で頭を抱えた。
「ちゃんと考えてくれてたんだ?」
「当然! だからこんなシチュエーションは予想外だ」
焦るシバケンに対して私は安心したのと嬉しさで耳まで紅潮する。
「指輪は一緒に選んでくれる?」
「うん。もちろん!」
そう言うとシバケンに体を引き寄せられ腕に包まれた。片腕に花束を抱え、もう片方の腕で抱き締められたから顔のすぐ目の前に色とりどりの花がある。
「俺は実弥が思う警察官じゃない。万人のヒーローじゃない。でも実弥の前ではヒーローでいたい。そうあり続けるよ」
シバケンが守ってくれるなら私は絶対に幸せでいられるじゃないか。
「じゃあ私はそのヒーローを支えるヒロインになります」
この言葉に微笑んだシバケンのキスが額から目頭、頬へと降り注ぎ、焦らしながら唇に優しくて深いキスをした。唇が離れると見つめ合って笑った。
「お見舞いに来たんだけどな。こんな展開はマジで予想外だよ」
「じゃあお父さんに会ってあげて。っていっても、今は寝てるんだけど」
病室のドアを開けると寝ていると思っていた父は体を起こし、ノートパソコンと書類を広げて再び仕事をしていた。
「お父さん!? 起きてたの?」
いつから起きていたのだろう。病室の外でのやり取りが聞こえていたのではと気恥ずかしくなる。
「騒がしくて病院なのにゆっくり寝てもいられない」
少しイライラした声でこちらを一切見ずに答えた。
「こんにちは。お元気そうで安心しました」
顔が引きつったシバケンが父に歩み寄った。
「実弥が色々と世話になったそうだね。ありがとう」
父から出た言葉とは信じられない。シバケンにお礼を言うなんて絶対にないと思っていた。
「まだ君を実弥の結婚相手として認めた訳じゃない。早く納得できるくらいに出世して私を認めさせてみなさい。実弥も、いつか生まれるかもしれない孫だって恵まれた生活をさせなきゃ君を許さないよ」
どこまでも上から目線の発言に呆れたけれど、シバケンと付き合うことは認めてくれたと受け取れる言葉に肩が軽くなった気がした。いつもの父と比べればシバケンへの態度はかなり柔らかい。
「はい。必ず」
シバケンは父に向かって力強く言うと頭を下げた。私は二人を見て目が潤むのを止められなかった。
◇◇◇◇◇
社員全員に送られたメールにて部署異動や昇格が発表された。その中に私の名前を見つけ、異動は本当に叶ったのだと安心した。
『総務部 総務課 黒井実弥 レストラン事業部 店舗管理課への異動を命ずる』
何度も読み返して間違いがないことを確認する。総務部からの異動は珍しいけれど、心機一転レストラン事業部で挑戦してみたい。新しい環境に期待して胸が高鳴る。
あれから結局退職願を部長に渡すことはなかった。その替わりに部署異動を願い出た。総務部での仕事をするうちにレストラン事業部の仕事内容を知る機会が増えた。既存の店舗の運営管理に興味を持ち、新規店舗の書類を作成するうちに新しい案を私まで自然と考えるようになっていた。それならば企画の段階から関わってみたいと強く思うようになった。
思ったより早く異動が決まったけれど、私の後任は既に見つかっていた。代わりはいくらでもいるのだと思い知らされて気持ちが沈んだけれど、ならば尚更私にしかできないことを新しい部署で探していきたい。こんな私でも会社に貢献できるように。
メールを閉じる前に退職者の名前をもう一度確認した。
『レストラン事業部 店舗管理課 小橋優菜 12月10日付で退職』
事前に知ってはいても寂しさを覚えた。
あれほど転職したいと言っていた優菜は、高木さんと付き合い始めたと思ったらあっさりと結婚を決めて寿退社することにしたようだ。付き合い始めてから結婚までが早すぎて驚いた。まさか妊娠したのかと思ったけれどそうではないらしい。高木さんと付き合うことにしたと聞いて、その次に会った時にはもう結婚するのだと嬉しそうに報告された。同期の中で誰よりも仲が良かった友人は、同期で一番早く結婚して辞めていく。
嬉しいはずなのに寂しい。優菜の結婚相手はシバケンの同期でパトカーに乗る相方だ。全く関係がなくなるわけではないけれど、私がレストラン事業部に異動したら一緒に働くはずだったのだから今は寂しさの方が勝った。
引継ぎを円滑に行うために資料をまとめ、定時になると早々に会社を出た。早足で家の前に着くとちょうど母の運転する車がガレージに停車した。
「ああ実弥おかえり。手伝ってよ」
「えー、仕方ないな」
口では文句を言いつつも母を手伝うために助手席側に回った。ドアを開け中にいる父に手を伸ばした。
「お父さん、おかえりなさい」
「ただいま」
松葉杖を地面につけた父は腕に力を入れて腰を車内から外へ向け、松葉杖を支えに足を地面につけた。よろけることのないように私が父の体を支え、玄関まで父の横について一緒に歩いた。
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