怯える猫は威嚇が過ぎる

涼暮つき

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溢れる感情

溢れる感情③

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「ほんと、すみません……っ」
 暁人が目を伏せると、葉山がようやく首元から手を離した。
「心配させんなよ……。おまえは俺のことウザイくらいにしか思ってねぇかもしんねぇけど。俺は、正直おまえのやってること意味分かんねぇし、我慢もできない。おまえが、どこの誰とも分からないやつとそういうことして、危ない目にあってるのを見て見ぬふりとかできないんだよ」
 葉山が自分を心配してくれているその言葉に、暁人は堪えきれず唇を噛んだ。
「おまえのことかわいいんだよ。かわいい後輩に何かされて平気でいられる自信なんてないし、おまえの言う“割り切った関係”ってのだって、全然理解できねぇ……」
 そう言って「はぁ」と小さく溜息をついて頭を抱えた葉山の姿に胸が締め付けられた。
「……とりあえず、よかった。今度は守れたか?」
「え」
「まえ、ちゃんと守ってやれなかったから」
 以前、創立記念パーティーで暁人が前の職場の上司に遭遇して酷いことを言われたときのことだ。
 ──守ってやれなかったなんて。
 そんなことはない。あの時だって、葉山に守って貰っていた。彼が現れなかったら、岸川に何をされていたか分からない。
 葉山が自分を大事にしてくれていることは、痛いほど伝わって来る。もちろん、そこには愛だの恋だのはなく、ただ純粋に職場の後輩を大切に思う気持ちしかないということも分かっている。
 それでも、これまで誰にも大事にされたことがない暁人にとって、葉山の言葉は他の何にも代えがたいものだった。
 ──こんなの、好きにならないわけない。
 厳しいところもあるが、面倒見がよくて朗らかで。暁人がトラブルに遭うたびに、いつだって傍にいて優しく寄り添ってくれる。
 暁人がゲイだと分かっても否定するようなことはしなかったし、人と距離を取ろうとするばかりに皆の輪から浮きがちになる暁人を以前にも増して気に掛けてくれるようになった。
 優しくされればされるほど彼に惹かれてしまうのに、その気持ちをどうにか誤魔化そうと彼を避け、敢えてそっけなく振舞ってみても、結局は同じところに行きついてしまう。限界だと思った。




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