怯える猫は威嚇が過ぎる

涼暮つき

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いびつな心

いびつな心②

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「それじゃ、お疲れさまです。お先に失礼します」
 更衣室を出ようとしたところで、後ろから葉山に呼び止められた。
「余計なお世話かもしんねぇけど、そういうの危なくないのか」
「はい?」
「だから。適当な相手とって……」
「そこまで危険でもないですよ。たまに変なのもいますけど、稀ですし」
 暁人が答えると、葉山が何かに気付いたように暁人を見た。
「もしかして……この間あった男もそういう? おまえの知り合いにしちゃ歳も離れてるし、なんとなく違和感が……」
「だとしたらなんですか? べつに俺がそういうことしてたとして葉山さんになにか迷惑でもかかりますか」
「迷惑とかじゃなくて、心配してんだろ」
 心配なんて──。
 暁人はギュッ唇を噛んだ。心配なんてしなくていい。いっそ、呆れてくれたらいい。軽蔑してくれたらいい。葉山が自分を気に掛けてくれるのが苦しい。
「俺が誰となにしようと、葉山さんに関係ないことです。それに、特定の相手つくらないでそういうことするの、そんなに悪いことですか?」
「そうじゃない……。ただ、心配なんだよ。変な奴とトラブルにでもなったらどうすんだ」
「だったら、どうしろって?」
 ゲイだからって、同じゲイを好きになるとは限らない。好きになった相手がたまたまゲイだったなんて偶然はそう滅多に起きるはずもない。
「俺はずっと一人でいなくちゃならないんですか? 普通の人と違ってそういう手段とらなきゃ出会いさえ難しいんですよ。さすがにそれくらいの想像つきますよね? それとも──葉山さんが相手になってくれるんですか?」
 そう勢いで口に出してしまってからはっとした。葉山があまりに真っ当であることに苛立って感情的になってしまった。
 思わず口走ってしまったこととはいえ、彼がどんな顔をしているかを確かめる勇気はなかった。
「……すみません。いまのは冗談です。忘れてください」
 そう言い残すと、暁人は後悔の念に駆られながら更衣室をあとにした。





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