怯える猫は威嚇が過ぎる

涼暮つき

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受け入れられること

受け入れられること②

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 仕事を終えて竹内に連れられてこられたのは、彼が──というより宴会課の連中が行きつけにしている焼き肉屋だった。平日というのもあるが、自分たちの他に三組ほどの客がいる程度だ。
「あれ、柴くん。もう食わねぇの?」
「や。けっこう食べましたよ」
「遠慮せずにもっとガッツリ食いなよ。どーせ、奢りだし。あ、すいません。上カルビとビール追加で」
 竹内が通りかかった店員を呼び止めて追加の注文をすると、すぐさま注文したものが運ばれてきた。
「竹内おまえ……人の財布だとさらによく食うなぁ」
 電話だと言って席を外していた葉山が、戻って来るなりテーブルの上に並んだ新たな肉の盛られた皿を見て苦笑いをした。あのあと竹内が事務所で仕事をしていた葉山に声を掛け、その時点でまだ仕事が残っていた葉山は三十分ほど遅れて暁人たちに合流した。
「柴は? 飲み物追加するか? それとも飯モノでも頼む?」
 葉山が暁人のほとんど空に近いグラスと止まった箸を見て訊ねた。
「あ、大丈夫です。もう、だいぶお腹もいいんで。久々にアルコール入れたんで、なんか腹いっぱいで」
「そういや、珍しく顔赤いな。竹内に無理矢理飲まされたか?」
「ちょ、葉山さん、無理矢理とかなんすか。失礼な! 俺だって柴くん酒弱いの知ってますから。あ、じゃあウーロン茶でも頼む?」
「ありがとうございます……お願いします」
 職場の人間と個人的に食事に行くということが久しぶり過ぎて、少し緊張していたのかいつもよりほんの少しだけ多く酒を飲んだ。気遣い屋の竹内があれこれ気を遣ってくれることがなんだか申し訳なくて、気の利いた話や冗談の一つくらい言えればいいのにとぐるぐる考えているうちにピッチが速くなってしまっただけなのだ。
「相変わらず固いな、柴は。もっと“素”出してけって言ったのに」
「ですよねー! クソ生意気なのは勘弁だけど、柴くんはよそよそし過ぎ。遠慮し過ぎ」
「そんなことはないと思いますけど……」
 どの程度が適度な距離感なのかが正直よく分からない。元々人付き合いが得意ではないうえに、前の職場の上下関係が特殊過ぎた。過剰過ぎる上下関係に揉まれたきた暁人にとって、竹内や葉山のような上司と部下でありながら遠慮のない関係が特殊に思えてしまう。
「あ、葉山さん。デザートのアイスも食っていいすか」
「好きにしろよ。つうか、おまえはもう少し遠慮を覚えろ」
「遠慮? 何言ってんすか。俺と葉山さんの仲じゃないすかー!」
「……どんな仲だよ」
 二人のポンポンと弾むような会話のやり取りを見ていると、本当に仲がいいのだということが分かる。彼らを見ていて、初めてこういう対等な関係を羨ましいと思う感情が生まれた。人と深く関わることを避け続けて来た暁人には、自分の全てを晒け出せるような友人が一人もいない。






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