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第15話

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 軽く酒を入れてからのセックスの後、シャワーを浴び自分の部屋のものとは異なる香りのバスタオルで身体を拭く。
 この部屋の風呂の使い方にも、バスタオルの香りにもいつの間にか違和感を覚えなくなった。真也が濡れた髪を拭きながらリビングに戻ると、赤松がソファに座りビールを飲みながら寛いでいる。こんな景色を眺めるのもいつの間にか自然な事になった。
「俺も何か飲んでいいっすか?」
「ああ。ビールなら冷えてんのあと二、三本あると思うけど。つか、俺にも一本」
 一応了承は得るが、勝手知ったこの家の冷蔵庫を開けビールを取り出し赤松の前に立つ。
「なんか、アレっすね。週末は酒飲んでエッチしてー、また酒飲んで寝る。みたいなのデフォになってますよね」
 冷蔵庫から取りだした二本の缶ビールのうち一本を赤松用にテーブルに置き、もう一本を自分用に開けた。
「……はは。確かにな。何か不満かよ?」
「不満、つうか」
 不満というわけではないが、いまのこの状態を自分の中でどう説明づけていいのか心がモヤモヤしているというだけ。
「なんなのかな、コレって思い始めてるんすよ」
「ふ。今頃かよ」
「赤松さんは、何で俺と寝んの」
「今更だな。おまえが俺を利用してんだろ?」
 利用──か。確かにきっかけはそうだった。けれど今となってはどちらがどちらを利用しているのか疑問に思う。
 自分だけがそう、ではなく。赤松の方にも、真也を利用するだけの理由があるのではないか、と。
「随分一方的なんすね。俺だけがあんたを欲しがってると?」
 真也が訊ねると、赤松が少し目を細めて眉を寄せる。
「何だよ。おまえ、そういう面倒なこと言うヤツだっけ?」
 面倒とか。そういう事言い始めたら、この曖昧かつ快適な関係は終わり、って事か?
 一緒にいる時間が心地よくて、相手からも割と高い頻度で誘いがあって、やることやって。
 俺たち、って一体なんなんだろ? って疑問を持つことがそんなにおかしな事なのだろうか。 
「おまえが嫌なら、もう止めればいい」
 そう言って、赤松が缶ビールを飲み干してテーブルの上に静かに置いた。
「……べつに嫌、ってわけじゃ。ただ、あんたにとって俺ってどういう存在なんだろなっていう疑問?」
 少し茶化して訊ねると赤松が腕を組みながら考え込み適当な言葉を探す。
「飲み友? ──わりとお気に入りの部類の」
 ただの“飲み友”という言葉に軽く失望し、“わりとお気に入りの”という言葉に口元が緩む。  そもそも俺はこの男にとってどんな存在でありたいというのだろう。
「おまえといると、なんかラクなんだよね。……だからなのか、部屋に出入りしてても嫌じゃねぇのは」
「うっわ。俺の存在価値ってそれだけっすか?」
 不満げな言葉を漏らした真也を見て、赤松が楽しそうに笑う。
「けっこう褒めてるぜ? これでも」
「もっとあるでしょ。若い割に気が利くとか、一緒にいると楽しいとか、床上手なのが堪んないとか」
 真也がソファに座ったままの赤松の膝の上に向かい合わせに跨ると、赤松が俺の手にある缶ビールを取りあげてテーブルに置いた。
「はは。気が利くとか、床上手とか自分で言うのか」
「あれ。何か間違ってます?」
「ま、いいや。一緒にいるの楽しいと、床上手っつーのは認めてやる」
「ほら! ……なんだかんだ俺の身体に嵌ってきてんでしょ?」
 そう言って真也がニヤと笑いながら軽くキスをすると、赤松も同じ要領でキスを返して来る。なのにこの男の言葉は案外冷たい。
「違うだろ。おまえが嵌ってんだろ、俺に」
「自意識過剰かよ」
「何とでも言え」
 正直に言えば、多分嵌っているのは自分の方だ。
 ここで、そうだよ。そう認めてしまったら俺たちの関係はどうなるのだろうか。
 駆け引きとか腹の探り合いが性に合わないなどと言っておきながら、俺はいま滑稽なほど赤松の気持ちを探っている。
 この男を取り巻く多くの人間の中、それなりに重要なポジションに位置付けられていたいと思うこの気持ちはもう立派な独占欲。
 もっと、近づきたい。もっと知りたい。この男が何を考え、何を求めるのか。







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