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第三章 海を渡る公爵令嬢
シーゴブリン=海坊主
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甲板に出ると、人だかりが出来ていた。
ザワザワと騒ついていて、先ほどまで晴れ渡っていた空もどんよりと雲が広がっている。
あまりに突然な変化に面食らう。
「ディヴィス! 何かあったの?」
人だかりの中から私を呼び出した相手を探し出して、声をかけた。
ディヴィスは能面のように抜け落ちた表情で振り返る。
そっと海の方を指さして、顔を顰めた。
指の先には真っ白な……?
白く塗りつぶされて何も見えなくなってしまっている。海面すらも見えない。
一面の白だ。
「どうしたのこれ」
「シーゴブリンだ。やられた、船が乗り上げちまってる」
苦虫を噛み潰したようにディヴィスが言った。
シーゴブリン。
すると白のとある部分が開いた。
パチパチと開いた部分から真っ黒な丸が覗いて、ギョロリと目があった。
目玉だ!
それの正体に気がついて、思わずディヴィスの背中に隠れる。
「うわっ!!!? 何これ!?」
「だからシーゴブリンだっつの。全く俺としたことが……コイツの気配に気づけねえとは……情けねえぜ」
海の代わりに広がる一面の白は、どうやらシーゴブリンという魔物の体であるらしかった。
船が一隻、丸ごと乗り上げてしまうような大きな大きな魔物だ。
何でも外洋では害意こそないが、ときおりこういう船乗り泣かせの魔物が現れるらしい。
だからこそ遠乗りの船には魔術師が絶対に必要なのだそうだ。
「というわけだ、頼めるか。魔術師」
「あぁ……わかった。任せて!」
「シーゴブリンは臆病な魔物だから、なるべく刺激しないように頼む」
ジョンに追加で注文を受け、魔術をかけやすいように船全体が眺められる場所へ、空中へと移動する。
上から見れば、状態がよくわかった。
船を頭に乗せて、巨大な白い魔物が海から顔を出しているのだ。
魔物がいる海にはこんなトラブルもあるのかと、不謹慎だけど少しだけ愉快な気持ちもある。
『浮遊』
浮遊魔術を船全体にかけていく。
船一隻ともなれば流石の重量で、魔力の消費も著しい。
なるべく揺らさないように、ゆっくりと船を浮かばせて海面に降ろした。
「こんなものでどう?」
「完璧だ! ジョー!」
「こんな魔術じゃなきゃどうしようもない状況、前までどうしてたの? この船に私以外の魔術師は乗っていないんだよね?」
「そら、船長が……」
「馬鹿お前、黙っとけ」
ふと抱いた疑問を口にすれば、海賊の1人が答えかけすぐに口を塞がれた。
船長が……、なに?
「あー、まあなんだ。普段は俺が魔物の気配を察して避けてたってわけだよ。今回はうっかりしてたぜ。手間かけて悪かったよ」
「それは構わないけど、魔物の気配なんて分かるものなんだ」
「分かるぜ? 海上でならな」
とはいえシーゴブリンは、海の気配に溶けるものらしくディヴィスも気付けなかったそうだ。
魔物の気配が分かるなんて、聞いたこともないけれど、もしかしたらディヴィスの血統魔術なのかもしれない。
以前、ディヴィスはアヴァル島出身だと言っていたし、それなら貴族でなくても魔術が使えても不思議じゃない。
アヴァル島は別名妖精国とも呼ばれる魔力の高い一族が暮らすのだから、……今じゃ海賊島とも言われているらしいけど。
そう、龍の血を引くというジウロンの民ジンジャーのように。
その時だ。
微かに空気が揺れた。
ドンッ、ドンッ。
続けざまに、耳をつんざく大砲の音。
「なんだ!? 海軍か!?」
「テメエら! 持ち場につけ!!!」
顔色を変えたディヴィスの号令が船に響いた。
ザワザワと騒ついていて、先ほどまで晴れ渡っていた空もどんよりと雲が広がっている。
あまりに突然な変化に面食らう。
「ディヴィス! 何かあったの?」
人だかりの中から私を呼び出した相手を探し出して、声をかけた。
ディヴィスは能面のように抜け落ちた表情で振り返る。
そっと海の方を指さして、顔を顰めた。
指の先には真っ白な……?
白く塗りつぶされて何も見えなくなってしまっている。海面すらも見えない。
一面の白だ。
「どうしたのこれ」
「シーゴブリンだ。やられた、船が乗り上げちまってる」
苦虫を噛み潰したようにディヴィスが言った。
シーゴブリン。
すると白のとある部分が開いた。
パチパチと開いた部分から真っ黒な丸が覗いて、ギョロリと目があった。
目玉だ!
それの正体に気がついて、思わずディヴィスの背中に隠れる。
「うわっ!!!? 何これ!?」
「だからシーゴブリンだっつの。全く俺としたことが……コイツの気配に気づけねえとは……情けねえぜ」
海の代わりに広がる一面の白は、どうやらシーゴブリンという魔物の体であるらしかった。
船が一隻、丸ごと乗り上げてしまうような大きな大きな魔物だ。
何でも外洋では害意こそないが、ときおりこういう船乗り泣かせの魔物が現れるらしい。
だからこそ遠乗りの船には魔術師が絶対に必要なのだそうだ。
「というわけだ、頼めるか。魔術師」
「あぁ……わかった。任せて!」
「シーゴブリンは臆病な魔物だから、なるべく刺激しないように頼む」
ジョンに追加で注文を受け、魔術をかけやすいように船全体が眺められる場所へ、空中へと移動する。
上から見れば、状態がよくわかった。
船を頭に乗せて、巨大な白い魔物が海から顔を出しているのだ。
魔物がいる海にはこんなトラブルもあるのかと、不謹慎だけど少しだけ愉快な気持ちもある。
『浮遊』
浮遊魔術を船全体にかけていく。
船一隻ともなれば流石の重量で、魔力の消費も著しい。
なるべく揺らさないように、ゆっくりと船を浮かばせて海面に降ろした。
「こんなものでどう?」
「完璧だ! ジョー!」
「こんな魔術じゃなきゃどうしようもない状況、前までどうしてたの? この船に私以外の魔術師は乗っていないんだよね?」
「そら、船長が……」
「馬鹿お前、黙っとけ」
ふと抱いた疑問を口にすれば、海賊の1人が答えかけすぐに口を塞がれた。
船長が……、なに?
「あー、まあなんだ。普段は俺が魔物の気配を察して避けてたってわけだよ。今回はうっかりしてたぜ。手間かけて悪かったよ」
「それは構わないけど、魔物の気配なんて分かるものなんだ」
「分かるぜ? 海上でならな」
とはいえシーゴブリンは、海の気配に溶けるものらしくディヴィスも気付けなかったそうだ。
魔物の気配が分かるなんて、聞いたこともないけれど、もしかしたらディヴィスの血統魔術なのかもしれない。
以前、ディヴィスはアヴァル島出身だと言っていたし、それなら貴族でなくても魔術が使えても不思議じゃない。
アヴァル島は別名妖精国とも呼ばれる魔力の高い一族が暮らすのだから、……今じゃ海賊島とも言われているらしいけど。
そう、龍の血を引くというジウロンの民ジンジャーのように。
その時だ。
微かに空気が揺れた。
ドンッ、ドンッ。
続けざまに、耳をつんざく大砲の音。
「なんだ!? 海軍か!?」
「テメエら! 持ち場につけ!!!」
顔色を変えたディヴィスの号令が船に響いた。
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