上 下
19 / 42
第二章 冒険する公爵令嬢

地図と商人

しおりを挟む
 半年あったら何が出来る?
 例えば帝国の王都から逃げ出した公爵令嬢を捕まえるとか?


 エル・デルスター王国で半年も過ごせば、追手に見つかるだろう。
 私を探すのは父であるロベリン公爵、それに皇太子の婚約者でもあるのだから皇族も探しているはずだ。
 つまりはここに留まれば、遠からず帝国側に見つかるし捕まる。

 晩餐会を終えて、普段と同じ衣装に戻り一行とともに馬車に乗っていた。
 夜も遅いからと女王が気を利かせて馬車で送ってくれたのだ。

「どう? ジョーは半年もここで待つ気でいるの?」
「流石に半年は……長いな」
「だろうね、他の方法を探してみようよ」
「……うん、え?」

 カツラギが笑う。

「もちろんボクらも出来る限り手伝うよ。オズの国に連れて行ってくれる約束だろ?」
「え~……」
「アンタ、その反応は約束のこと忘れてたんでしょ?」
「うふふ、ちゃんとエル・デルスター王国まで来ましたし、今度はジョーさんが約束を守る番ですねぇ」

 ニコニコとハーレム一行は微笑んでいる。
 そこまでオズの国に行きたかったのか……。確かに世界で唯一の国を作った4人のうちの魔法使いが存命してる国だ。
 厳しい入国制限で多くが謎に包まれているから多少分からんでもないけれど。


 海路が無理となると考えられるのは陸路だが……しかしそうなると大陸を横断しなければならなくなってしまう。
 途中に例の天元山脈もあるわけで……、一体オズまで辿り着くのにどれほどの時間がかかることやら……。
 お祖母様、貴女に会いに行けるのはもう少し先になりそうです。



 ▲△▲△




 船を使わずオズを目指すなら、どうしたらいいだろう。
 カツラギはレベルアップしたいから天元山脈に登ろう! と血迷ったことを言っているけど。
 実際問題、それが一番手っ取り早くはあるのだけど、それは無理なのである。

「天元山脈は魔物の中でも特に強力な魔物の巣になってるから半端な実力だと近づくことも出来んぞ。死にたいのなら止めんがな」

 飯屋で今後について話し合うのを通りすがりのオッサンにすら忠告される始末だ。
 完全にエル・デルスター王国から出発する船でオズに行く気だったから今後の目的がちっとも定まらない。

「お前さんら、オズの国まで行きたいのか?」
「そうですけど、貴方は?」

 筋骨隆々に金髪に褐色の肌をしたザ・海の男という風体の男が声をかけてきた。
 纏う衣服は腰までのコートに細かな刺繍のされたウェストコートと派手派手である。
 帽子はアイリスの魔女みたいなのとは違って、
 つばの折られたいわゆる海賊の帽子に似ている。
 見た目だけだと海の男(船長)(中世)という感じ。
 中世欧州の世界観なのは百も承知であるのだが、グラナットの温泉といい、女王のエンパイアドレスに加えてタキシードと海賊風である。
 たびたび思うことだけど時代背景や文化がしっちゃかめっちゃかで地球の歴史を掻い摘んだという印象が残るのだ。

「俺はビラーディのガイウスつっーもんさ。海を渡って大陸中に商品を売ってる商人だ」
「商人、ってことはオズの国にも行くのか?」
「いいや、そこまでは行かねえ。だがこのラビ大陸とアフラ大陸の海峡を通り抜けて、内海を進むからラビ大陸を船で一気に進めるぜ?」

 派手派手海賊船長風商人、ガイウスがボロボロの紙をテーブルに広げた。
 どこかで見たことのある形をした手描きの地図だ。
 ゼノ帝国のあるラビ大陸の天元山脈から西半分と、地図上ではほとんど陸続きのように見えるほど近い隣の大陸、アフラの全体が記されている。
 二つの大陸の海峡を通れば内海が大陸の奥まであるのだ。
 確かに商人たちは世界中を渡り歩いている。その伝手を乗り継いでいけるなら、オズの国にも辿り着けるかもしれない。
 しかしそれには出来る限り精密な世界地図が欲しいところだ。
 目的も当てもなくフラフラと商人について行くだけでは大陸を彷徨うだけで決して辿り着けないだろう。
 とはいえ地図は、それこそ各国の最高機密として厳重に保管され管理されている。
 他国の国境や地形の詳細を知れれば、いつか戦争が起こる場合に有利になるからだ。
 だからこそ商人たちの持つ経験により詳細になっていく地図は何より重要な財産にもなる。
 この地図も精密なものには見えるが、恐らくは他に見せるためのもので、細部は実際とわざと変えて記されているはずである。

 用心深い商人がおいそれと大事な財産を誰とも知れぬ旅人に晒すわけがない。
 けれどプリムラとアイリスは地図自体を初めて見るようで偽物であるそれも興味深そうに眺めている。
 反対にカツラギは何かを考えるように真剣な顔で地図を注視する。
 何かを見つけたのだろうか。

「その様子だとグラナットからパーティーを組んでこの国まで来たんだろ。それなりの実力者だと見るがどうだい、護衛として俺の船に乗らねえかい?」
「護衛か……」
「もちろん賃金は弾むぜ」

 どうする? と3人を振り返る。
 私は出来れば遠慮したいところだ。これが信用のおける相手であればいいけれど、生憎初対面の相手に信用もクソもない。
 カツラギにはすぐに着いて行ってたって?
 カツラギはカツラギで早い段階で身元と目的が分かってたでしょ?

 このガイウスの目的が単純なハーレム希望、なんて訳はないだろう。
 そもそもである。
 慎重なはずの商人がわざわざ金を出して素人の護衛を雇うだろうか?
 よく考えてもみてくれよ。私だったら高い金を払ってでもプロの護衛を雇って安心を買う。
 目の前の身なりの派手な商人からはどこかきな臭さを感じてしまうのだ。

「オレは遠慮しとく」
「あ~、うん……僕もかな」
「マサキ様が反対ならば私もです」
「うん、いーんじゃない? 人の話を盗み聞きして割り込んでくるような奴なんて信用できないもん」

 カツラギも何か思うところがあるらしく、私の言葉に同意した。
 アイリスの人の見方は、私ともまた違って面白い。

 満場一致でガイウスの誘いを断ることとなった。

「おおぅ……お前さんらにも悪い話じゃねえと思うんだがよぉ……なら仕方ねえぜ……」

 しょぼんと肩を落としてガイウスは去って行った。
 その背を見送り、ほんの少しも可哀想と思っていない自分に気がついて少し驚いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とある婚約破棄に首を突っ込んだ姉弟の顛末

ひづき
ファンタジー
親族枠で卒業パーティに出席していたリアーナの前で、殿下が公爵令嬢に婚約破棄を突きつけた。 え、なにこの茶番… 呆れつつ、最前列に進んだリアーナの前で、公爵令嬢が腕を捻り上げられる。 リアーナはこれ以上黙っていられなかった。 ※暴力的な表現を含みますのでご注意願います。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

行き遅れたモブは同じく行き遅れた魔王と結婚します

ゆったん子
ファンタジー
私は日本に住んでいる森川 恵美(もりかわえみ)だったはず、、、 交通事故にあいきずいたら、乙女ゲームの世界に 悪役令嬢でもなくヒロインでもなくまさにモブ! でも、全然みんな仲良いし私ともバリバリ仲良い だからきずいたら、婚約者なし!恋人なし! 私、リアナ・ティーナ は同じく行き遅れた人を発見! まさか、その人は魔王でした!?

【完】まだまだ宜しくないヤツだけど、とりあえず婚約破棄しない(確実)

桜 鴬
ファンタジー
【相手が宜しくないヤツだから、とりあえず婚約破棄したい(切実)】(以前連載していた完結済み作品)の後日談となります。 【専属料理人なのに、料理しかしないと追い出されました。】(書籍化作品)の主人公たちと一部コラボしています。どちらもほぼ物語終了後からのお話です。主人公たちの後日談を知りたい方は是非、お読みいただけたら嬉しいです♪ 【まだまだ宜しくないヤツだけど、とりあえず婚約破棄しない(確実)】の主人公エリザベートことエリーは、ヘタレで妙な性癖もちの、皇太子であるエドワードことエドを更正させることが出きるのか?二人は無事に結婚できるのか? この二人の仲に実は……あの二人がかなり関わっていたのです。 たしかに……エドワードもルイスもある意味キケン人物。エリザベートとアリーは恋愛より他に興味深々。似たり寄ったりのカップルなのかもしれません。主人公たちはゴーイングマイウェイ♪一番の被害者は誰? ……なんで僕ばっかり…… 宜しくお願い致します<(_ _*)>

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

処理中です...