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第二章 冒険する公爵令嬢

足止めってコトね

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「ご、ごめん! 怖がらせるつもりはなかったんだけど! ホントごめんね!」

 素っ頓狂な声に目を開ける。困ったように笑う女王の顔が見えた。

「へ、」
「あー、あー! 泣かすつもりはなかったんだって! ごめんよ、ジョーちゃん!」

 肩を掴んでいた女王の硬い手のひらが、私の目元を拭う。
 恐ろしいほどの美女がアワアワと慌てている。一転した空気に目を白黒とさせるしか出来なかった。

「ウルバノ様が怖がらすからですよ」
「ちがうの! ちょっとだけお話ししたかっただけなの!」
「わ、私、聖剣を抜いたから、殺されるんじゃ……」
「殺さないよ!? なにそれ! 野蛮! そんなんしないって!!」

 呟きはすぐさま否定された。

「じゃあ、どうして……」
「あーうん、あのね。ジョーちゃんは男装してる。で、聖剣を抜いた、よね?」

 女王の問いに頷く。
 女王の顔が耳元に近づけられた。

「実はあの聖剣って、かなりの女好きでさ。女の子なら誰でも抜けるんだよ。これ、秘密ね?」
「は、」

 とんでもない内容を囁かれた。
 思わず振り返りメイドの顔を窺う。メイドは無言で頷くだけだ。
 事実らしい。
 え、私もしかして担がれてる?

「事実ですよ。ただし、人間の娘に限りますがね」
「そ、そんなことってある?」
「あるんだよねぇ。これまではさ、聖剣伝説に夢を見て挑戦するのは大体男の子たちだったから特に問題はなかったんだけど、たまに君みたいに女の子が抜いちゃうんだよ」

「この大陸はまだまだ王位は男児のものっていう価値観が根深いからね~、私も王位を継ぐときに色々とあったし」と女王がしみじみと呟く。
 とても嘘をついているようには見えないが、仮にも王位を定める聖剣が? そんな適当でいいんですか?

「そういうときにはこうして個別で会って一応ね、話を聞いてるのよ。ジョーちゃん、君に王になる覚悟はあるかい?」
「ないです」

 ないです(ないです)
 即答である。
 その速さに苦笑しながらも女王は頷き、私の肩を改めて軽く叩いた。
 気軽な王様だ。

「じゃあ私が女王を続けるので安心してね」
「……そう、ですか」

 先ほどのインパクトが強すぎて、もう何が何だか分からなくなってきた。
 とにかく私は王にならなくていいらしい。
 よかったよかった。
 一件落着だと肩の力を抜きかけて、

「それで、晩餐会はどういうドレスがいい? 好みもあるだろうし色々と用意してあるけど」
「あっタキシードでお願いします」
「えー??」

 女王が高らかに指を鳴らすと、色とりどりのドレスがズラリと部屋に現れた。
 杖を持っている様子はなく、その手の甲に白い紋様が光っている。
 エル・デルスター王国では道具だけでなく人も紋様で魔術を行うのか、と目を瞠った。
 そこまでは流石にどの書物にも記されてはいなかった。

 ブーブーと唇を尖らせ不満を表す女王の頭をメイドが軽く叩いた。
 メイドの態度ではなく、それにすら驚いてしまうのだけど。

「申し訳ありません、ジョー様。ウルバノ様は少々アレでして、お望み通りのタキシードをご用意いたします」
「えーん、メイドちゃんに頭がアレしてるって言われたよー! 我王ぞ? いいのかそんな態度して!」
「まぁ躾のなってないダメメイドにお仕置き、でしょうか。ご主人様ったらドスケベですね」
「そんなこと言ってないよ!?」

 キャアキャアと言いながら、女王がメイドに部屋から追い出されていく。
 身分差の割りにあまりに気安い2人の距離感に、何となくカツラギとプリムラ、アイリスを見ている心地にさせられる。

「騒がしくしてしまい、改めて謝罪いたします。ジョー様、あの方は己がどのように周囲へ影響を与えるのか未だに理解されていないところがあるのです。私どもから王に悪気はなかった、と代わりに弁明させていただきます」
「いえ……わたくしこそ大げさに怖がってしまって、恥ずかしいところをお見せしましたわ。どうかこのことは仲間たちには内密に」
「かしこまりました」

 褐色のメイドが礼をする。
 メイドの敬語につられて、ついつい口調がジョゼフィナに戻ってしまう。
 今はいいけどハーレム一行と合流したら気をつけなきゃ。

「ところで貴女はジウロンの……?」
「ご存知でしたか。えぇ、亡き父の祖国でございます」
「そう……」

 黒髪にもしやと思い聞いてみれば、なんとも言えない空気になってしまった。

 と、他のメイドたちがタキシードを手にやって来て、私はああでもないこうでもないと着せ替え人形にさせられる。
 流石にタキシードについては詳しくないので、メイドたちにお任せしたのだ。


 ロイヤルブルーのジャケットにネイビーのベストとグレーの蝶ネクタイだ。
 瞳と髪の色に合わせたようで、センスが光っている。
 うーん、私ってやっぱりイケてるのでは?

 メイドたちに連れられ、晩餐会の会場へと案内される。

 カツラギとプリムラ、アイリスたちも正装に着替えていた。

 カツラギの姿にプリムラはポッと頰を染めアイリスはドレスを纏う自分が落ち着かないのか気恥ずかしそうにモジモジとしている。
 カツラギはカツラギで可愛らしく着飾った女性陣に見惚れているようだ。

 ……うん、いつも通りだな!


 晩餐会ではマナーは気にするなと女王からのお墨付きがあり、カツラギとアイリスも何とか料理を楽しめているようだった。

「うむ! 短くとも多くの経験をして良い旅だったようだな! そなたたちは何故我がエル・デルスター王国へ?」

 3人が聖剣、魔術、社会見学と自分の目的を口にしていく。
 私の番が来て、女王の視線が私に移る。


「オズの国へ行くためです」
「……それはまた、タイミングの悪いことだな」
「え、?」
「オズへの貿易船はつい3日前に出発したばかりだ」

 3日、前……。口の中で繰り返す。
 エル・デルスター王国の魔術紋を利用した船でも、オズまで海を渡るのに最短でも17日はかかると聞いている。
 長ければ1ヶ月以上もかかるらしいけれど……つまり、それだけオズの国が遠いということだ。
 と、いうことは、苦笑を浮かべる女王を見つめた。


「次の貿易船は半年後だな」
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