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第一章 逆行した公爵令嬢

もう1人の逆行者

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 数年に1度の頻度で人口の少ない地域ではスタンビートという魔物の大発生が起きてしまう。
 起こる理由は単純に魔物を狩るハンターの少なく魔物の際限なく増えてしまうからなのだが、起こるたびに被害は甚大で帝国でも度々問題視されている現象だった。

「なんだ、スタンピードか……」

 ドラモンド卿の隠し事の内容が分かり、肩の力が抜けて思わず声に出ていた。
 国へ忠誠を誓う騎士たちの職務には、国民と帝国自体に大きな被害をもたらすスタンピードの対処も含まれる。
 つまり騎士たちはスタンピード対策の専門家でもあるのだ。
 領主であるバルトロッツィ侯爵が不在なのは前線で指揮をとっているからだろうし、そこにドラモンド卿もいれば何も心配はいらないだろう。


 いくら性格がアレでも、騎士の位を与えられた実力者だからね。

 布の鳥にかけていた魔術を解いて刺繍していた手を止める。

 息を吐き出しながら凝ってしまった肩を叩いてソファーから立ち上がった。

 もう寝よう。
 明日もバルトロッツィ夫人にジウロン国について話を聞かせてもらうんだ。
 というか明日からが本番だ。
 私が聞きたいのはジウロン国に住む一族が龍の血を引くというところなんだから。


「ジウロンの民が龍の血を引く……? 申し訳ございません、ジョゼフィナ様、そのようなことは初めて耳にしましたわ」

 翌日、同じ東屋で夫人と向かい合いお茶をしながら話を聞くこととなった。
 肝心の知りたかったことを質問すれば、夫人はきょとんと瞬きをする。
 誤魔化されている……?
 しかしとても嘘をついているようには見えない。

 自分の身の上も含むジウロン国の滅亡の真実を話しておきながら今更、私に何を隠そうというのだろう。
 ということは、つまり夫人は本当に知らないのだ。


 父はバルトロッツィ夫人が知っていると言っていたのに、どういう事なんだ。
 父の思い違い?
 それとも私が何か重大なことを見逃してしまっているのだろうか。

「あぁ、そうでしたわ。今日はジョゼフィナ様に紹介したい者がおりますの」
「わたくしに?」

 私の困惑を知ってか知らずか、夫人は別の話題を切り出してくる。
 昨晩すでに子息がたは紹介されているけれど、他にも何かあるのか。

 花壇の影から麦わら帽子が見えた。

「ジンジャー、挨拶するときは帽子をおぬぎ下さい」
「ん、こんにちは。ジョゼフィナお嬢様」

 夫人の注意に人影は素直に麦わら帽子を脱ぐ。
 帽子の下から露わになったのは、美しい黒髪に魔物のような真っ赤な瞳をした同い年くらいの少女だった。

「庭師の娘、ジンジャー・ロウです。こうしてお会いできて光栄です、……ジョゼフィナ皇后陛下」

 続く少女の言葉に頭が真っ白になった。
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