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Session02-08 加護の印

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「アイル殿どの。話がある。ここにいる皆も聞いてくれ。」

 ブルズアイが皆を見て、そう口にし、椅子イスに座った。ラークスは数名の部下に辺境伯邸まで連れて行くように指示を出して出発させている。ここにいるのは、ある意味、アイルの関係者のみであった。

「ここからは少しくずすぞ。……お前さん、首座神しゅざしんから”加護かご”を受けたのか?」

 一言ひとことことわりの言葉を入れてから、ブルズアイは確認の言葉を口にした。その視線は、アイルの手の甲に向いていた。右手の甲には首座神のしるしが、左手の甲には戦女神いくさめがみの印が焼印やきいんようしょうじているが見て取れる。この世で神々から加護をさずかった際に生じる。それは色々な物語に加護の話が出てくる事もあり、そうありふれては居ないが、それでも有り得る話であった。”戦女神”の加護だけであれば。

「……マーリエをめとると首座神と戦女神に誓った時に、”首座神の名をもって誓約せいやくをなさん。そなたと、そなたの嫁にわずかながら加護を授けん。”と首座神様より、”そなたが願う物が大きければ大きいほど、試練は難事なんじとなろう。そなたの誓い、我が信徒しんとを介して見守ろう。”と戦女神様より、お言葉をいただきました。」

 アイルが隠さずに、印と共にもたらされた言葉を皆に伝えた。マーリエとルナは近くに居たこともあり、その言葉を聞いていた。……聞いたと言うよりも、頭に入ってきたと言うべきだったが。ルナに至っては、その時、改めて戦女神へ祈りをささげた程であった。加護を受けた人物……勇者と言えるであろう。それに仕える……神官としては一番の望みなのだ。
 二人は、アイルの発言が正しいことを補足するように頷いて見せた。その様子を見た後、ブルズアイはあごに手を当てて少し考え込んだ。そして、考えがまとまったのか、自身の頭をきながら指示を出す。

「ダール、ルー、ターニャ、ケイ。お前たちは、この事を絶対に話すな。らすかもと不安を感じるなら、”誓約”の魔法を使える奴を呼んでやる……誓えるか?」

 ダール、ルー、ターニャ、ケイの四人は躊躇ちゅうちょなく口外しないことを誓った。その姿を見て頷いたブルズアイは、アイル、ルナ、ピッピ、マーリエに向き直って言った。

「アイル。辺境伯家の御用商家ごようしょうかの一つで”フォルミタージ工房”というのがある。他国の商家ではあるが、それ故に隠す必要がある時は役に立つ。そこで、首の印を隠せて、ハーレムのメンバーが揃って身につけて、周囲に見て分かるような装飾品を用意してやれ。……首輪は流石にどうかとは思うが、革製のチョーカー辺りが良いんじゃないか? あそこは注文も受け付けているから、少し装飾を入れた物を用意すれば良いと思うぞ。……まぁあくまでも決めるのはお前たちだ。」

「ご忠告ありがとうございます。明日にでも早速、伺います。」

「……いや、ちょっと待て。」

 アイルがブルズアイの忠告を受け入れて返事をするが、ブルズアイに別の考えが思いついたのが制止の声があがる。机に置いた手の人差し指と中指で、トトンッ、トトンッ、と等間隔で音を出す。ピッピには、彼が長考ちょうこうに入った時のくせである事を知っていた。自身の口元に人差し指を立てながら持ってきて、シーッと静かにする様にジェスチャをしてみせた。それを見た皆は、一度頷くと、ブルズアイの長考が終わるまで待つのであった。

「……ダール、お前は三人を連れて、騎士団曲輪きしだんくるわにあるアイル達が逗留とうりゅうしている屋敷へ行け。そして、戻っているであろうお仲間にフォルミタージ工房まで来ていただくようお伝えしろ。その後は、アイル達が戻るまで留守るすを守れ。……屋敷の場所は騎士団曲輪の当直とうちょくに聞けば分かる。俺の名前を出せ。行け!」

 その言葉に、否応いやおうなしに立ち上がり、四人は走って店を出ていった。指示は出ており、今は悩む場所ではない。上官からの指示として、最善の行動を取った。それを見たブルズアイは、ピッピに向き直り指示を出す。

「ピッピ。お前は、先に出てフォルミタージ工房へ向かえ。俺の名前を出して、辺境伯とその家族が内々で来られることを伝え、準備をしろ。お前も首にスカーフなりを巻いて隠すのを忘れるな。行け!」

 頭領とうりょうからの指示に、ピッピはすぐに反応し、腰のポーチに入れてあったスカーフを取り出し、首筋に巻きつける。そして、そのまま駆け出していった。駆けているというのに音がしないのは流石さすがの技量と言えよう。それを見送った後、アイル達三人にブルズアイは向き直って言った。

「アイル、ルナ、お嬢様。三人はこのままフォルミタージ工房へ向かってください。私は一度辺境伯邸へ顔を出し、辺境伯様を工房へお連れします。そこで、今回の経緯を含めて、お嬢様の婚約についてもお話いただくべきでしょう。宜しいですね?」

 その言葉に、三人はしかりと頷いた。今回の経緯について、いつかは辺境伯への報告をしなければならいのだ。であれば、早いに越したことはない。何よりも、普通ではない事が多すぎた。それを見たブルズアイは、一度頷いて席を立った。酒場の奥の方に行き、戸棚からスカーフを二枚と手袋一組を取り出す。そして、アイル達の前にそれを置いた。

「スカーフは、ルナとお嬢様が使ってください。アイルは手袋をしろ。……そこまで離れてないとは言え、油断はするな。お前の嫁は、お前が守るんだ。良いな?」

 アイルは、ブルズアイの言葉に対して、相手のひとみを見ながら一度強く頷くことで応えた。それを見て、フッと笑みをこぼすブルズアイ。ピッピが見たら、あの頭領が!?と驚いたであろう。マーリエには不器用ながらも笑顔を見せることがあったので、驚きはしなかった。だが、マーリエ以外に見せているところを見たことがないのはたしかだったので、アイルに笑みを見せたことには驚いていた。

「……貴方あなたも、そうやって笑うことがあるんですね。ブルズアイ?」

「……ゴホンッ!……では、私は辺境伯邸へ参ります。また後で。」

 マーリエの言葉をごまかすように咳払いをした後、完璧な礼をしてブルズアイは店を出ていった。それを見送った後、三人はスカーフ、手袋を各々おのおのが身につけて、店を出ていくのであった。
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