華の剣士

小夜時雨

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援助要請

父の生家 參

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「さて、本題は何かしら。」

 ハヨンは話を切り出そうかと思ったがドゥナの側に控えている護衛の男達が気になった。朱家に仕える人間とは言え裏切られる保証もないのに複数人に話を打ち明けることは危険だと思ったからだ。

「あの…。護衛の人に席を外してもらうことは可能ですか?」

 ハヨンはドゥナと彼女の座った椅子の背後に立つ護衛役の男の一人を交互に見る。
 護衛役からすれば、いきなり朱家の者だと名乗る人間がこうして二人きりで話したいと言うのは度し難いことだろう。ハヨンもリョンヤンの護衛役をし、今はリョンヘについている立場だ。この提案が却下される可能性が高いことは理解している。

「そうね…。あなたが手持ちの武器を全て預けてくれるならいいわよ。私も同じようにするから。それでいいわよね」

 ドゥナの後ろに立つ男はドゥナとハヨンにちらりと視線を向けていたが、ドゥナが確認するように振り仰ぐと、頷いた。
 ハヨンは常に懐には暗器を仕込んでいる。他者の目につく武器は剣のみだったので、そこを見透かされているあたり流石である。
 懐に手を入れ、鉄扇から飛刀のような小さな暗器まで全てを取り出し、目の前の卓上に並べた。

「では一時預かります。」

 護衛役はそっと音も立てずに暗器を回収した。回収し終えた後、ハヨンは父の形見である剣を渡す。彼は両手で受け止った。丁寧な武器の扱いを見るからに、朱家の武人は指導が徹底され、武人としての矜持を持ち、それに恥じることのない行動をしているのだと良く伝わってきた。

「では私も。」

 ドゥナは簪や針などの暗器を結えた髪や袖から取り出す。華麗な衣装に身を包む反面、攻撃的な部分を隠し持っていることがよくわかる。例え叔母とは言えど油断ならない相手である。


「私は部屋の外で控えておりますゆえ。」

 二人の武器を受け取った護衛役は、他の護衛役の男達にも目配せをし、一斉に退出した。
 彼らは部屋の外で待機しているとは言え、物音一つ立てない。ハヨンとドゥナは静寂に包まれた。

「こうしてお話しする機会を作っていただきありがとうございます。」
「そんな遠慮することはないわ。あなたは私の姪だもの。」
「とは言え、今の時勢では警戒せざるをえません。叔母様は私が今、何処にいるのかご存知ですか。」
「その口ぶりだと、今は白虎隊にいないのね?」

 ドゥナの表情は僅かに険しくなった。表向きは王族が燐国を分裂させるかのように対立している状況だ。王城にいれば多少は影響を受けることは明らかだが、実質除隊処分されたとは思っていなかったのだろう。
 どう伝えれば誤解なく説明できるのか、ハヨンは一瞬言葉に詰まった。

「…。現状ではそうなります。しかし何処にいたとしても、私は王族の護衛です。謀反を起こしたわけでもありません。滓国から帰還したところ、無実の罪でリョンヘ様と私達は王城に立ち入ることもできなかったのです。」
「あなたはあの時、滓国の使者の一人だったのね…。突然、前王の崩御とリョンヘ様の謀反が公となったけれど、詳細がわからないままだったのよね。何か探りを入れようにも、白虎隊や王族に近しい官僚は姿を見せることが極端に減ったし、実質現王であるリョンヤン様においては、あの日以来全くお姿を拝見していないわ。」

 朱家は古くからの名門貴族とも言える。朱家の当主であるドゥナですら王城内の状況を把握できないのであれば、内部がどれほど混乱しているのか、もしくは閉ざされた環境であるのかが伝わってくる。

「私達は王城から追放されたようなものですが、恐らく叔母様よりは状況を把握できていると思います。ただし信じられないような出来事の連続だったので、叔母様にとっては眉唾物に思われるかもしれません」
「教えてくれるかしら。例え怪しげな話であっても、その情報を精査して間違えた判断をとったとしても私の責任だから。」

 ドゥナの返答は冷静に状況を見極め、強い責任感のある、正に当主と言えるものだった。どんな話になろうと取り乱さないという自信が伝わってきた。
 ハヨンは老婆のこと、四獣のこと、そしてイルウォンの陰謀やヘウォンが孟に逃れたことをかいつまんで説明した。

「古の建国伝記のような話が次々と出てきたから、なかなか理解が追いつかないけれど…。反逆したと言われるリョンヘ王子に付いた貴方も同様に反逆者と言えるわ。そんな中、屋敷に単身でやってきて、壮大な作り話をする利点はない。貴方を信じましょう。今から疑問に思ったことを訊いていいかしら?」

 ドゥナはハヨンの説明に一切口出しすることなく聴き終え、そう尋ねてきた。内容を頭の中で噛み砕いているのか、眉間にうっすら皺が寄っていた。
 身内だからという理由を抜きにして話の信憑性を考えるのは流石である。


 
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