219 / 221
援助要請
父の生家 參
しおりを挟む
「さて、本題は何かしら。」
ハヨンは話を切り出そうかと思ったがドゥナの側に控えている護衛の男達が気になった。朱家に仕える人間とは言え裏切られる保証もないのに複数人に話を打ち明けることは危険だと思ったからだ。
「あの…。護衛の人に席を外してもらうことは可能ですか?」
ハヨンはドゥナと彼女の座った椅子の背後に立つ護衛役の男の一人を交互に見る。
護衛役からすれば、いきなり朱家の者だと名乗る人間がこうして二人きりで話したいと言うのは度し難いことだろう。ハヨンもリョンヤンの護衛役をし、今はリョンヘについている立場だ。この提案が却下される可能性が高いことは理解している。
「そうね…。あなたが手持ちの武器を全て預けてくれるならいいわよ。私も同じようにするから。それでいいわよね」
ドゥナの後ろに立つ男はドゥナとハヨンにちらりと視線を向けていたが、ドゥナが確認するように振り仰ぐと、頷いた。
ハヨンは常に懐には暗器を仕込んでいる。他者の目につく武器は剣のみだったので、そこを見透かされているあたり流石である。
懐に手を入れ、鉄扇から飛刀のような小さな暗器まで全てを取り出し、目の前の卓上に並べた。
「では一時預かります。」
護衛役はそっと音も立てずに暗器を回収した。回収し終えた後、ハヨンは父の形見である剣を渡す。彼は両手で受け止った。丁寧な武器の扱いを見るからに、朱家の武人は指導が徹底され、武人としての矜持を持ち、それに恥じることのない行動をしているのだと良く伝わってきた。
「では私も。」
ドゥナは簪や針などの暗器を結えた髪や袖から取り出す。華麗な衣装に身を包む反面、攻撃的な部分を隠し持っていることがよくわかる。例え叔母とは言えど油断ならない相手である。
「私は部屋の外で控えておりますゆえ。」
二人の武器を受け取った護衛役は、他の護衛役の男達にも目配せをし、一斉に退出した。
彼らは部屋の外で待機しているとは言え、物音一つ立てない。ハヨンとドゥナは静寂に包まれた。
「こうしてお話しする機会を作っていただきありがとうございます。」
「そんな遠慮することはないわ。あなたは私の姪だもの。」
「とは言え、今の時勢では警戒せざるをえません。叔母様は私が今、何処にいるのかご存知ですか。」
「その口ぶりだと、今は白虎隊にいないのね?」
ドゥナの表情は僅かに険しくなった。表向きは王族が燐国を分裂させるかのように対立している状況だ。王城にいれば多少は影響を受けることは明らかだが、実質除隊処分されたとは思っていなかったのだろう。
どう伝えれば誤解なく説明できるのか、ハヨンは一瞬言葉に詰まった。
「…。現状ではそうなります。しかし何処にいたとしても、私は王族の護衛です。謀反を起こしたわけでもありません。滓国から帰還したところ、無実の罪でリョンヘ様と私達は王城に立ち入ることもできなかったのです。」
「あなたはあの時、滓国の使者の一人だったのね…。突然、前王の崩御とリョンヘ様の謀反が公となったけれど、詳細がわからないままだったのよね。何か探りを入れようにも、白虎隊や王族に近しい官僚は姿を見せることが極端に減ったし、実質現王であるリョンヤン様においては、あの日以来全くお姿を拝見していないわ。」
朱家は古くからの名門貴族とも言える。朱家の当主であるドゥナですら王城内の状況を把握できないのであれば、内部がどれほど混乱しているのか、もしくは閉ざされた環境であるのかが伝わってくる。
「私達は王城から追放されたようなものですが、恐らく叔母様よりは状況を把握できていると思います。ただし信じられないような出来事の連続だったので、叔母様にとっては眉唾物に思われるかもしれません」
「教えてくれるかしら。例え怪しげな話であっても、その情報を精査して間違えた判断をとったとしても私の責任だから。」
ドゥナの返答は冷静に状況を見極め、強い責任感のある、正に当主と言えるものだった。どんな話になろうと取り乱さないという自信が伝わってきた。
ハヨンは老婆のこと、四獣のこと、そしてイルウォンの陰謀やヘウォンが孟に逃れたことをかいつまんで説明した。
「古の建国伝記のような話が次々と出てきたから、なかなか理解が追いつかないけれど…。反逆したと言われるリョンヘ王子に付いた貴方も同様に反逆者と言えるわ。そんな中、屋敷に単身でやってきて、壮大な作り話をする利点はない。貴方を信じましょう。今から疑問に思ったことを訊いていいかしら?」
ドゥナはハヨンの説明に一切口出しすることなく聴き終え、そう尋ねてきた。内容を頭の中で噛み砕いているのか、眉間にうっすら皺が寄っていた。
身内だからという理由を抜きにして話の信憑性を考えるのは流石である。
ハヨンは話を切り出そうかと思ったがドゥナの側に控えている護衛の男達が気になった。朱家に仕える人間とは言え裏切られる保証もないのに複数人に話を打ち明けることは危険だと思ったからだ。
「あの…。護衛の人に席を外してもらうことは可能ですか?」
ハヨンはドゥナと彼女の座った椅子の背後に立つ護衛役の男の一人を交互に見る。
護衛役からすれば、いきなり朱家の者だと名乗る人間がこうして二人きりで話したいと言うのは度し難いことだろう。ハヨンもリョンヤンの護衛役をし、今はリョンヘについている立場だ。この提案が却下される可能性が高いことは理解している。
「そうね…。あなたが手持ちの武器を全て預けてくれるならいいわよ。私も同じようにするから。それでいいわよね」
ドゥナの後ろに立つ男はドゥナとハヨンにちらりと視線を向けていたが、ドゥナが確認するように振り仰ぐと、頷いた。
ハヨンは常に懐には暗器を仕込んでいる。他者の目につく武器は剣のみだったので、そこを見透かされているあたり流石である。
懐に手を入れ、鉄扇から飛刀のような小さな暗器まで全てを取り出し、目の前の卓上に並べた。
「では一時預かります。」
護衛役はそっと音も立てずに暗器を回収した。回収し終えた後、ハヨンは父の形見である剣を渡す。彼は両手で受け止った。丁寧な武器の扱いを見るからに、朱家の武人は指導が徹底され、武人としての矜持を持ち、それに恥じることのない行動をしているのだと良く伝わってきた。
「では私も。」
ドゥナは簪や針などの暗器を結えた髪や袖から取り出す。華麗な衣装に身を包む反面、攻撃的な部分を隠し持っていることがよくわかる。例え叔母とは言えど油断ならない相手である。
「私は部屋の外で控えておりますゆえ。」
二人の武器を受け取った護衛役は、他の護衛役の男達にも目配せをし、一斉に退出した。
彼らは部屋の外で待機しているとは言え、物音一つ立てない。ハヨンとドゥナは静寂に包まれた。
「こうしてお話しする機会を作っていただきありがとうございます。」
「そんな遠慮することはないわ。あなたは私の姪だもの。」
「とは言え、今の時勢では警戒せざるをえません。叔母様は私が今、何処にいるのかご存知ですか。」
「その口ぶりだと、今は白虎隊にいないのね?」
ドゥナの表情は僅かに険しくなった。表向きは王族が燐国を分裂させるかのように対立している状況だ。王城にいれば多少は影響を受けることは明らかだが、実質除隊処分されたとは思っていなかったのだろう。
どう伝えれば誤解なく説明できるのか、ハヨンは一瞬言葉に詰まった。
「…。現状ではそうなります。しかし何処にいたとしても、私は王族の護衛です。謀反を起こしたわけでもありません。滓国から帰還したところ、無実の罪でリョンヘ様と私達は王城に立ち入ることもできなかったのです。」
「あなたはあの時、滓国の使者の一人だったのね…。突然、前王の崩御とリョンヘ様の謀反が公となったけれど、詳細がわからないままだったのよね。何か探りを入れようにも、白虎隊や王族に近しい官僚は姿を見せることが極端に減ったし、実質現王であるリョンヤン様においては、あの日以来全くお姿を拝見していないわ。」
朱家は古くからの名門貴族とも言える。朱家の当主であるドゥナですら王城内の状況を把握できないのであれば、内部がどれほど混乱しているのか、もしくは閉ざされた環境であるのかが伝わってくる。
「私達は王城から追放されたようなものですが、恐らく叔母様よりは状況を把握できていると思います。ただし信じられないような出来事の連続だったので、叔母様にとっては眉唾物に思われるかもしれません」
「教えてくれるかしら。例え怪しげな話であっても、その情報を精査して間違えた判断をとったとしても私の責任だから。」
ドゥナの返答は冷静に状況を見極め、強い責任感のある、正に当主と言えるものだった。どんな話になろうと取り乱さないという自信が伝わってきた。
ハヨンは老婆のこと、四獣のこと、そしてイルウォンの陰謀やヘウォンが孟に逃れたことをかいつまんで説明した。
「古の建国伝記のような話が次々と出てきたから、なかなか理解が追いつかないけれど…。反逆したと言われるリョンヘ王子に付いた貴方も同様に反逆者と言えるわ。そんな中、屋敷に単身でやってきて、壮大な作り話をする利点はない。貴方を信じましょう。今から疑問に思ったことを訊いていいかしら?」
ドゥナはハヨンの説明に一切口出しすることなく聴き終え、そう尋ねてきた。内容を頭の中で噛み砕いているのか、眉間にうっすら皺が寄っていた。
身内だからという理由を抜きにして話の信憑性を考えるのは流石である。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

もう散々泣いて悔やんだから、過去に戻ったら絶対に間違えない
もーりんもも
恋愛
セラフィネは一目惚れで結婚した夫に裏切られ、満足な食事も与えられず自宅に軟禁されていた。
……私が馬鹿だった。それは分かっているけど悔しい。夫と出会う前からやり直したい。 そのチャンスを手に入れたセラフィネは復讐を誓う――。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる