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援助要請
父の生家
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チュ家の屋敷は他の屋敷とは様相が大きく異なっていた。門の造りは堅牢だが、一部に人の頭ぐらいの大きさの穴がある。恐らく門で敵を迎え撃つためのものだ。さらに周囲の貴族の屋敷よりも塀は遥かに高く、小規模の要塞と言っても間違いない。
門の前で直立している兵士は恐らくチュ家の私兵だが、身に纏う武具は王城でも使われているような高価で実用性のあるものだ。
チュ家が由緒正しい家だと言うのは知っていたが、改めて見ると圧倒される。
(私がチュ家の縁者だと言うのはわかってもらえるのかな)
見ず知らずの女が、とうに死んだチュ家の者の娘だと言って、まず門番が取り合ってくれるのかも謎である。
しかしここまで来れば実行するしか無い。
ハヨンは門番達の前に立った。
「何用だ。」
「私はソンヒョンの娘、ハヨン。叔母のドゥナ様に会いに来ました。」
門番達はハヨンを上から下、下から上と何度か舐めるように見回した後、目配せをしている。
嘘をついているわけでは無いが、この時勢である。不審を抱かれる方が自然だ。流石に即武力行使されるとは思わないが、ハヨンはドゥナに援助を求めに来たのだ。ここで追い返されては目的はどう足掻いても達成できない。
緊張で鼓動が早まるのを感じ取る。まるで自身が悪事を働いているかのような気持ちになってきた。
「申し訳ないですが、身分を証明できなければお通しできません。」
「私はこの服を見ればわかりますが、白虎隊に所属しています。そして剣は父の遺作で、誰の手にも渡らなかった品だ。チュ家の出で刀鍛冶になった男がいたのは知っているでしょう。」
ハヨンは不審に思われないよう、外套の下に白虎隊の制服を纏っている。孟に着いてからは目立たぬよう、仕舞っていたため、袖を通した際は入隊直後の誇らしさや期待などの感情が湧き、涙が出そうになった。ただ現状を悲観しているのではなく、懐かしさや城内で良くしてくれていた隊の上官や、
現在のチュ家は叔母のドゥナが主人で、他の貴族から婿を迎えている。この国は基本的に男子が家を継ぐため、今の状態は特殊と言える。チュ家に仕えているのであれば、ある程度の内情は知っているはずだ。
「確認させてもらいます。」
ハヨンは頷き、二人の門番に手渡した。二人は剣を鞘から少し抜いたり、鞘を裏返したりして紋章を確認する。
「確かに、この紋章はソンヒョン様のものです。そして素晴らしい剣だ。あなたが嘘をついているとも思いません。しかし、この時勢です。易々と通すわけにはいきませんので、ドゥナ様に確認してまいります。」
門番の一人が門に据え付けられた小さな鐘を鳴らす。カランカラン、と軽やかな音が響いた。すると脇戸から男が顔を出す。身に纏う武具が門番と同じため、彼もチュ家の私兵だろう。
門番が何やら男に耳打ちをすると、男は驚嘆の眼差しをハヨンに向けた。しかし、彼が何か言葉を発するわけでもなく、ただ頷いて脇戸を閉める。
どうやら彼が屋敷に託けるようだ。
「しばらくお待ちください。」
門番の言葉にハヨンは頷いた。いつの間にか彼らの態度は恭しくなってきている。ハヨンの身元にある程度信憑性があると考えたのだろう。
とはいえハヨン達は世間話をするような間柄ではない。返答があるまで、しばらく沈黙が続いた。
そうして気まずい時間を過ごしていると、伝言役の男が顔を出した。再び門番と話している。
「お通りください。ただし、屋敷の中でも何度か確認いたしますので、ご承知ください」
どうやら面会の許可が出たらしい。ハヨンはほっと胸を撫で下ろす。伝言役の男の言葉は理にかなっているため、ハヨンは頷いた。
燐国でも有数の武家が、この時勢で油断することはないだろう。協力を仰ぐために来ているというのに、隙だらけでは心許ない。この状況は想定内である。
ハヨンは反逆者と言われているリョンヘについているが、チュ家の人間が操られていないのであれば、ハヨンの言葉に耳を傾けてくれるはずた。
(何とかなる。いや、何とかするしかない)
ハヨンは姿勢を正し、案内をする男についていく。
やはりチュ家の屋敷は広く、孟の城と敷地の大きさはそう変わらない。美しく手入れされた庭は池や木々があり、小さな自然を模されている。王城内にもこのような庭園はあったが、他の貴族の屋敷も同じなのだろうか。
庭を歩いていくと、建物の一部が見えてきた。屋根は豪奢な飾り瓦が使われているため、恐らく本殿に違いない。案内役の男もそちらに進んでいく。
近づくにつれ、ハヨンは本殿の規模の大きさを実感した。まず庭が一望できるような縁側があり、ハヨン達はそこを沿うようにして歩いている。しかし、その廊下の果てがどこに位置するのか目視できない。そして縁側から後ろに伸びるようにして、さまざまな通路がある。しかし、その通路も複雑に入り組んでおり、全体像は把握できなかった。
いつまで庭を歩くのだろうかと考えていると、廊下に複数の人が立っていることに気がついた。遠いため、殆ど棒のように見えていたが、次第に一人は赤い衣を纏う女人で、その他は兵士の出立をしている。
ハヨンはその人物が誰なのか理解した瞬間に、はたと足を止めた。
門の前で直立している兵士は恐らくチュ家の私兵だが、身に纏う武具は王城でも使われているような高価で実用性のあるものだ。
チュ家が由緒正しい家だと言うのは知っていたが、改めて見ると圧倒される。
(私がチュ家の縁者だと言うのはわかってもらえるのかな)
見ず知らずの女が、とうに死んだチュ家の者の娘だと言って、まず門番が取り合ってくれるのかも謎である。
しかしここまで来れば実行するしか無い。
ハヨンは門番達の前に立った。
「何用だ。」
「私はソンヒョンの娘、ハヨン。叔母のドゥナ様に会いに来ました。」
門番達はハヨンを上から下、下から上と何度か舐めるように見回した後、目配せをしている。
嘘をついているわけでは無いが、この時勢である。不審を抱かれる方が自然だ。流石に即武力行使されるとは思わないが、ハヨンはドゥナに援助を求めに来たのだ。ここで追い返されては目的はどう足掻いても達成できない。
緊張で鼓動が早まるのを感じ取る。まるで自身が悪事を働いているかのような気持ちになってきた。
「申し訳ないですが、身分を証明できなければお通しできません。」
「私はこの服を見ればわかりますが、白虎隊に所属しています。そして剣は父の遺作で、誰の手にも渡らなかった品だ。チュ家の出で刀鍛冶になった男がいたのは知っているでしょう。」
ハヨンは不審に思われないよう、外套の下に白虎隊の制服を纏っている。孟に着いてからは目立たぬよう、仕舞っていたため、袖を通した際は入隊直後の誇らしさや期待などの感情が湧き、涙が出そうになった。ただ現状を悲観しているのではなく、懐かしさや城内で良くしてくれていた隊の上官や、
現在のチュ家は叔母のドゥナが主人で、他の貴族から婿を迎えている。この国は基本的に男子が家を継ぐため、今の状態は特殊と言える。チュ家に仕えているのであれば、ある程度の内情は知っているはずだ。
「確認させてもらいます。」
ハヨンは頷き、二人の門番に手渡した。二人は剣を鞘から少し抜いたり、鞘を裏返したりして紋章を確認する。
「確かに、この紋章はソンヒョン様のものです。そして素晴らしい剣だ。あなたが嘘をついているとも思いません。しかし、この時勢です。易々と通すわけにはいきませんので、ドゥナ様に確認してまいります。」
門番の一人が門に据え付けられた小さな鐘を鳴らす。カランカラン、と軽やかな音が響いた。すると脇戸から男が顔を出す。身に纏う武具が門番と同じため、彼もチュ家の私兵だろう。
門番が何やら男に耳打ちをすると、男は驚嘆の眼差しをハヨンに向けた。しかし、彼が何か言葉を発するわけでもなく、ただ頷いて脇戸を閉める。
どうやら彼が屋敷に託けるようだ。
「しばらくお待ちください。」
門番の言葉にハヨンは頷いた。いつの間にか彼らの態度は恭しくなってきている。ハヨンの身元にある程度信憑性があると考えたのだろう。
とはいえハヨン達は世間話をするような間柄ではない。返答があるまで、しばらく沈黙が続いた。
そうして気まずい時間を過ごしていると、伝言役の男が顔を出した。再び門番と話している。
「お通りください。ただし、屋敷の中でも何度か確認いたしますので、ご承知ください」
どうやら面会の許可が出たらしい。ハヨンはほっと胸を撫で下ろす。伝言役の男の言葉は理にかなっているため、ハヨンは頷いた。
燐国でも有数の武家が、この時勢で油断することはないだろう。協力を仰ぐために来ているというのに、隙だらけでは心許ない。この状況は想定内である。
ハヨンは反逆者と言われているリョンヘについているが、チュ家の人間が操られていないのであれば、ハヨンの言葉に耳を傾けてくれるはずた。
(何とかなる。いや、何とかするしかない)
ハヨンは姿勢を正し、案内をする男についていく。
やはりチュ家の屋敷は広く、孟の城と敷地の大きさはそう変わらない。美しく手入れされた庭は池や木々があり、小さな自然を模されている。王城内にもこのような庭園はあったが、他の貴族の屋敷も同じなのだろうか。
庭を歩いていくと、建物の一部が見えてきた。屋根は豪奢な飾り瓦が使われているため、恐らく本殿に違いない。案内役の男もそちらに進んでいく。
近づくにつれ、ハヨンは本殿の規模の大きさを実感した。まず庭が一望できるような縁側があり、ハヨン達はそこを沿うようにして歩いている。しかし、その廊下の果てがどこに位置するのか目視できない。そして縁側から後ろに伸びるようにして、さまざまな通路がある。しかし、その通路も複雑に入り組んでおり、全体像は把握できなかった。
いつまで庭を歩くのだろうかと考えていると、廊下に複数の人が立っていることに気がついた。遠いため、殆ど棒のように見えていたが、次第に一人は赤い衣を纏う女人で、その他は兵士の出立をしている。
ハヨンはその人物が誰なのか理解した瞬間に、はたと足を止めた。
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