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援助要請
宣布作戦 參
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あの招集の日から三日後、ムニル達が滓国へと向かう日となった。
「この三日で随分と朱雀の姿を使いこなせるようになったわね。」
「それはムニルのお陰だよ。出立直前までありがとう。」
ムニルは出立する前に、城内の裏庭で最後の稽古を付けていた。
彼は既に、リョンヘの使いとしての衣装に身を包んでいる。青龍を彷彿とさせる青碧の衣と官吏のように高く結い上げた髪は、普段は中性的な美しさのある彼を、より男性らしく魅せていた。
普段は黒く艶やかな髪を下ろしており、横顔は髪で部分的に隠されているからか、彼の顔の骨格もわかりづらかったのだろうか。
「いいわよ。だって、四獣の力の使い方を知ってるのは、同じ四獣しかいないもの。そして、ソリャは変化せずに力を振るうし、ジイルのことはまだよくわからないしね。」
ハヨンが姿を変え、火を操る能力は、ムニルが水を扱うことと似通っている。そして彼の言う通り、ソリャは自身の手足を部分的に変化させ、近接的な戦いをする。餅は餅屋と言うことで、ムニルには度々助言を貰っていた。
そして何より、彼は明朗快活だが穏やかで、人の機微にも聡い。四獣の中では年長者として、頼もしい。ハヨンに兄弟はいなかったが、彼に抱く尊敬の念や親しみは、それに似ているのかも知れない。
「私、白虎隊に入った時はかなりの自信家だったんだ。今まで女の武官はいなかったし、他国から来た師匠に教えてもらって、不意を突く戦法も得意だった。だから、いつか女だからと侮った人たちを見返して、助けてもらった王子にも、立派な姿を見せるんだって。でも、こうしていると、武官としても朱雀としてもまだまだ未熟な所が沢山ある。」
ハヨンは唐突に話し始めてしまったが、ムニルは黙って聴いてる。弱音も安心して話ができてしまうことが、彼の不思議な能力にも思えた。
「王城を出たからこそ、その事に早く気づけたし、良かったと思うよ。これから、もっとこの国の争いは苛烈になる。一人前とは言えないかも知れないけど、武官としても、四獣としても精一杯頑張るから、これからもよろしく。ムニルが帰って来た頃には、もっと逞しくなってるね。」
「ええ、楽しみにしているわ」
ムニルの優しい笑みにハヨンはほっとした。四獣の力を持っているとはいえ、今は滓に向かうこともかなりの危険が伴う。ムニルなら無事帰還するだろうと信じているが、それでも少し心配になった。
ハヨンは己の決意を宣言するように言ったが、本音は自ずと滲んでいた。
「ハヨンも他の兵士と同じで、元は王城に居たわけだし、あなたはあなたなりに出来ることが沢山あると思うわ。私が帰ってきたら、どんなことがあったかお話ししましょう」
「そうだね。」
ハヨンはムニルと手を取って約束を交わすのだった。
_________________________________
滓国へ向かう一行を皆で見送った後、ハヨンは人気のない場所に移動した。それは城を囲む塀の前である。ここであれば草木等の燃えやすい物は無く、仮に変化に失敗して炎が多少出てしまっても何とかできると考えたのだ。
ムニルが側にいるのであれば、即座に水で消化してくれるだろうが、今回はそうもいかない。念のため、水を汲んだ桶を傍に置いていた。
ハヨンは目を閉じ、丹田に力を込める。
「あなたが炎について一番思い出す事は何?そこから集中することが、一番手っ取り早く変化できるわ。」
「ムニルはどんなことを思い出すの?」
「そうねぇ、私は自由と解放かしら。」
ハヨンは変化の特訓の際、ムニルに最初にもらった助言を思い起こした。彼がなぜ、水に対してそんな思いを抱いているのかはわからないが、ハヨンにとっても炎は思い出深いものだった。
ゆっくりと幼い頃の記憶を思い起こす。
金属のぶつかり合う音、広い背中、飛び散る火の粉__________。それは刀鍛冶をしていた父だった。
ハヨンは危ないからと、近寄る事は出来なかったが、鍛冶場の入り口から頻繁に父の姿を見ていた。炉から出てきた、熱されて真っ赤な鉄が、父の手によって鏡のように反射する剣と変化していくのは、いくら見ても見飽きる事はなかった__________。
ハヨンは炉で燃え盛る炎を強く思い浮かべる。そして、その炉に飛び込むような想像をした。体にちりちりとした痛みがあったが、それはすぐに温かい湯に包まれたような感覚に変わった。
ハヨンがそっと目を開けると、城の塀は聳え立つほど高くなっている。正しくはハヨンの背丈が縮んだのだ。己の姿を確認しようと頭を動かすが、胸元が赤い羽毛に覆われている事しか分からない。手を動かしてやっと、視界に燃えるように赤い羽が映った。
(上手く出来た…)
ハヨンはほっと息をついたが、本題はここからだ。
「この三日で随分と朱雀の姿を使いこなせるようになったわね。」
「それはムニルのお陰だよ。出立直前までありがとう。」
ムニルは出立する前に、城内の裏庭で最後の稽古を付けていた。
彼は既に、リョンヘの使いとしての衣装に身を包んでいる。青龍を彷彿とさせる青碧の衣と官吏のように高く結い上げた髪は、普段は中性的な美しさのある彼を、より男性らしく魅せていた。
普段は黒く艶やかな髪を下ろしており、横顔は髪で部分的に隠されているからか、彼の顔の骨格もわかりづらかったのだろうか。
「いいわよ。だって、四獣の力の使い方を知ってるのは、同じ四獣しかいないもの。そして、ソリャは変化せずに力を振るうし、ジイルのことはまだよくわからないしね。」
ハヨンが姿を変え、火を操る能力は、ムニルが水を扱うことと似通っている。そして彼の言う通り、ソリャは自身の手足を部分的に変化させ、近接的な戦いをする。餅は餅屋と言うことで、ムニルには度々助言を貰っていた。
そして何より、彼は明朗快活だが穏やかで、人の機微にも聡い。四獣の中では年長者として、頼もしい。ハヨンに兄弟はいなかったが、彼に抱く尊敬の念や親しみは、それに似ているのかも知れない。
「私、白虎隊に入った時はかなりの自信家だったんだ。今まで女の武官はいなかったし、他国から来た師匠に教えてもらって、不意を突く戦法も得意だった。だから、いつか女だからと侮った人たちを見返して、助けてもらった王子にも、立派な姿を見せるんだって。でも、こうしていると、武官としても朱雀としてもまだまだ未熟な所が沢山ある。」
ハヨンは唐突に話し始めてしまったが、ムニルは黙って聴いてる。弱音も安心して話ができてしまうことが、彼の不思議な能力にも思えた。
「王城を出たからこそ、その事に早く気づけたし、良かったと思うよ。これから、もっとこの国の争いは苛烈になる。一人前とは言えないかも知れないけど、武官としても、四獣としても精一杯頑張るから、これからもよろしく。ムニルが帰って来た頃には、もっと逞しくなってるね。」
「ええ、楽しみにしているわ」
ムニルの優しい笑みにハヨンはほっとした。四獣の力を持っているとはいえ、今は滓に向かうこともかなりの危険が伴う。ムニルなら無事帰還するだろうと信じているが、それでも少し心配になった。
ハヨンは己の決意を宣言するように言ったが、本音は自ずと滲んでいた。
「ハヨンも他の兵士と同じで、元は王城に居たわけだし、あなたはあなたなりに出来ることが沢山あると思うわ。私が帰ってきたら、どんなことがあったかお話ししましょう」
「そうだね。」
ハヨンはムニルと手を取って約束を交わすのだった。
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滓国へ向かう一行を皆で見送った後、ハヨンは人気のない場所に移動した。それは城を囲む塀の前である。ここであれば草木等の燃えやすい物は無く、仮に変化に失敗して炎が多少出てしまっても何とかできると考えたのだ。
ムニルが側にいるのであれば、即座に水で消化してくれるだろうが、今回はそうもいかない。念のため、水を汲んだ桶を傍に置いていた。
ハヨンは目を閉じ、丹田に力を込める。
「あなたが炎について一番思い出す事は何?そこから集中することが、一番手っ取り早く変化できるわ。」
「ムニルはどんなことを思い出すの?」
「そうねぇ、私は自由と解放かしら。」
ハヨンは変化の特訓の際、ムニルに最初にもらった助言を思い起こした。彼がなぜ、水に対してそんな思いを抱いているのかはわからないが、ハヨンにとっても炎は思い出深いものだった。
ゆっくりと幼い頃の記憶を思い起こす。
金属のぶつかり合う音、広い背中、飛び散る火の粉__________。それは刀鍛冶をしていた父だった。
ハヨンは危ないからと、近寄る事は出来なかったが、鍛冶場の入り口から頻繁に父の姿を見ていた。炉から出てきた、熱されて真っ赤な鉄が、父の手によって鏡のように反射する剣と変化していくのは、いくら見ても見飽きる事はなかった__________。
ハヨンは炉で燃え盛る炎を強く思い浮かべる。そして、その炉に飛び込むような想像をした。体にちりちりとした痛みがあったが、それはすぐに温かい湯に包まれたような感覚に変わった。
ハヨンがそっと目を開けると、城の塀は聳え立つほど高くなっている。正しくはハヨンの背丈が縮んだのだ。己の姿を確認しようと頭を動かすが、胸元が赤い羽毛に覆われている事しか分からない。手を動かしてやっと、視界に燃えるように赤い羽が映った。
(上手く出来た…)
ハヨンはほっと息をついたが、本題はここからだ。
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