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四獣
孤独な神様
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「僕は一年の半分は雪に覆われている雪国で生まれました。」
ジイルはどう話すべきなのかを必死に言葉を探る。
先ほど出会った王子と名乗る男が隣を歩きながら時折視線を向けてくるが、他の皆は辺りを警戒するように見渡しながら歩く。しかし、ジイルを見ていないとは言え、自身の言葉一つ一つを聞き漏らさないよう注意しているのは感じ取っていた。
「そのため、この能力は村の人間にとって生き延びるための手立てとなり、僕は神のような扱いを受けました。そのため、その村の見知った人から無理難題な頼み事や、私利私欲に走った願い事をされるようになりました。信頼したいと思っていても、結局は便利な存在とみなされ、失望すると言うことを繰り返したんです。」
そう一息に話し切り、ジイルはやっとまともに王子の表情を観察することができた。彼はざっくばらんに話しかけていた時の笑顔とは打って変わり、真剣そのものだった。
(この人は二面性でもあるんだろうか)
と思わず考えたが、周りの人間も慣れた様子だった。ジイルにとって王子は掴みどころがなく、どちらを本性と捉えて話していいものか悩みどころだった。
「俺が…」
王子が言葉を発したため、ジイルは緊張しながら言葉の続きを待つ。
「この国の争いが落ち着いた頃、お前にこの国の民や自然を守るために、一時的に力を貸してほしいと言ったらどうする?」
(どうする?つまりはそれが望みなんだろうけど…)
ジイルは今まで多くの人の願いを聞いてきた。その願いの本心は自身が楽になりたいから、幸せになりたいから、と自己中心的なものばかりだった。
(やっぱり、王族にもなると要求する内容も違うんだな。多くの人のために僕の力を欲しているんだ)
ジイルにとってそれは奇妙なことだった。それと同時に今までの願い事について、思わず思い返してしまった。
_________________________________
ジイルが自身の力の片鱗を見せたのは、齢五つの頃だった。
一年の大半が冬のこの村では、花が咲くのはほんのひと時で、ジイルは家の前に芽吹いたたった一輪の花が咲くのを楽しみにしていた。名前も分からず、おそらく人々からは雑草と呼ばれるものだったが、咲いた時は白と茶で覆われた世界では鮮やかで、目を奪われた。
しかし、その花も数刻もすれば寒さに耐えきれず萎れて行った。視界を彩った鮮やかな花が、息絶えようとし、明度を失っていくのは辛かった。
そのためジイルは大人たちが農作物を作る時の様子を思い出し、見様見真似で水やりをした。
「もう今から水をやっても花は枯れたままよ」
水やりをするジイルを見て、ジイルの母は悲しげに眉を寄せながら首を振った。
「そんなの分からないよ」
ジイルは振り返って、やや強い口調でそう言った。幼いながらジイルは母親の言うことも理解していた。しかし、万が一があると願い、反論する。
その時母親が目を瞠り、驚愕の表情を浮かべた。ジイルの肩越しに何かを見たようだ。ジイルは慌てて花の方へと視線を向ける。
先程まで枯れて、すっかり色褪せていた花が、真っ直ぐ太陽を見上げながら誇らしげに咲いていた。ジイルの掛けた水を弾き、煌めいている。
「ほら!言った通りでしょ!」
ジイルが頬を上気させながら、興奮気味に母親に捲し立てると、母親はジイルを抱きしめた。ジイルは予想外の出来事に言葉を詰まらせる。
「お、お母さん…?」
「今のことは絶対に誰にも言ってはいけないわよ。」
「何で…?」
「あなたを守るためよ。本当ならこんなこと、起こり得ないの。」
ジイルは大人たちと違って、植物について詳しくない。しかし、この出来事が珍しい事象であるのは薄々感づいていた。
ジイルはどう話すべきなのかを必死に言葉を探る。
先ほど出会った王子と名乗る男が隣を歩きながら時折視線を向けてくるが、他の皆は辺りを警戒するように見渡しながら歩く。しかし、ジイルを見ていないとは言え、自身の言葉一つ一つを聞き漏らさないよう注意しているのは感じ取っていた。
「そのため、この能力は村の人間にとって生き延びるための手立てとなり、僕は神のような扱いを受けました。そのため、その村の見知った人から無理難題な頼み事や、私利私欲に走った願い事をされるようになりました。信頼したいと思っていても、結局は便利な存在とみなされ、失望すると言うことを繰り返したんです。」
そう一息に話し切り、ジイルはやっとまともに王子の表情を観察することができた。彼はざっくばらんに話しかけていた時の笑顔とは打って変わり、真剣そのものだった。
(この人は二面性でもあるんだろうか)
と思わず考えたが、周りの人間も慣れた様子だった。ジイルにとって王子は掴みどころがなく、どちらを本性と捉えて話していいものか悩みどころだった。
「俺が…」
王子が言葉を発したため、ジイルは緊張しながら言葉の続きを待つ。
「この国の争いが落ち着いた頃、お前にこの国の民や自然を守るために、一時的に力を貸してほしいと言ったらどうする?」
(どうする?つまりはそれが望みなんだろうけど…)
ジイルは今まで多くの人の願いを聞いてきた。その願いの本心は自身が楽になりたいから、幸せになりたいから、と自己中心的なものばかりだった。
(やっぱり、王族にもなると要求する内容も違うんだな。多くの人のために僕の力を欲しているんだ)
ジイルにとってそれは奇妙なことだった。それと同時に今までの願い事について、思わず思い返してしまった。
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ジイルが自身の力の片鱗を見せたのは、齢五つの頃だった。
一年の大半が冬のこの村では、花が咲くのはほんのひと時で、ジイルは家の前に芽吹いたたった一輪の花が咲くのを楽しみにしていた。名前も分からず、おそらく人々からは雑草と呼ばれるものだったが、咲いた時は白と茶で覆われた世界では鮮やかで、目を奪われた。
しかし、その花も数刻もすれば寒さに耐えきれず萎れて行った。視界を彩った鮮やかな花が、息絶えようとし、明度を失っていくのは辛かった。
そのためジイルは大人たちが農作物を作る時の様子を思い出し、見様見真似で水やりをした。
「もう今から水をやっても花は枯れたままよ」
水やりをするジイルを見て、ジイルの母は悲しげに眉を寄せながら首を振った。
「そんなの分からないよ」
ジイルは振り返って、やや強い口調でそう言った。幼いながらジイルは母親の言うことも理解していた。しかし、万が一があると願い、反論する。
その時母親が目を瞠り、驚愕の表情を浮かべた。ジイルの肩越しに何かを見たようだ。ジイルは慌てて花の方へと視線を向ける。
先程まで枯れて、すっかり色褪せていた花が、真っ直ぐ太陽を見上げながら誇らしげに咲いていた。ジイルの掛けた水を弾き、煌めいている。
「ほら!言った通りでしょ!」
ジイルが頬を上気させながら、興奮気味に母親に捲し立てると、母親はジイルを抱きしめた。ジイルは予想外の出来事に言葉を詰まらせる。
「お、お母さん…?」
「今のことは絶対に誰にも言ってはいけないわよ。」
「何で…?」
「あなたを守るためよ。本当ならこんなこと、起こり得ないの。」
ジイルは大人たちと違って、植物について詳しくない。しかし、この出来事が珍しい事象であるのは薄々感づいていた。
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