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四獣
冬の芽吹き 參
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(どう彼に話しかけようか)
ハヨンは玄武の能力に気を取られていたが、今からどうすれば良いのか悩んでいた。彼の風にさえ怯え、ひょろりとした体型や立ち振る舞いから、声をかけると逃げられてしまう気がした。
とりあえず皆を呼ぼうと考え、ハヨンは手招きする。音を立てず、身振りで合図をしているのを見てか、誰も声を出すこともなくゆっくりと近づいてきた。
後から来た面々も、青年の立っている周囲は青々としているのに、その先は戦の跡が生々しく残っているため、この現象が彼に起因するのだと察したようだ。
「突然話しかけると逃げられてしまいそうな気がして、まずは皆を呼ぶべきかと思ったんです。」
ハヨンは声を潜めながら説明する。
「見ず知らずの人間に力のことを聞かれるのは怪しすぎて嫌だな」
経験があるからかソリャが頷き、暫し間を置いてこう言った。
「なら俺が話しかけるのはどうだ?見るからに普通の見た目じゃねえし、少しは話を聴く気になるかもしれねぇし」
ハヨンは彼の提案に驚嘆した。以前の彼は己の見た目や能力に否定的だった。しかし今ではそれを逆手に取るような考えを持っている。彼の中で己の認識が段々と変わってきているのだろうか。そう考えるとハヨンは嬉しかった。
「確かに私達の中で四獣と信じてもらいやすい見た目なのはソリャね」
賛同したムニルは背中に鱗があるため、衣服を脱がなければ気づかれないし、ハヨンも瞳の色が赤い他は外見に四獣の特徴は現れていない。初対面で突然に衣服を脱ぐなど不審な人物の印象を持たれ、余計に抵抗があるだろう。
「彼には申し訳ないが、ソリャなら逃げられても追いつけるだろうしな。とは言え、怯えさせないように気をつけることが前提だけど」
リョンヘがソリャに視線を向けると、任せてくれと言う様に彼は頷いた。
ソリャは立ち上がり、青年の背後へ駆け寄った。彼の動きは軽やかで、足音も小さい。そのためかソリャが声をかけるまで、青年は気づかなかった。
「なぁ、お前は何者だ?」
突然、そう声をかけられた青年は振り向きざまに数歩後ずさった。
「な、なに?」
そう言って視線を彷徨わせたが、途中ではっとしてソリャの姿を頭から爪先まで舐める様にして見ている。そしてまた数歩後退した。
「あなたこそ何者なんですか…!」
青年は声を張り、背中は丸めたかのように縮こまっている。警戒し、今にも逃げ出しそうだと一目見て分かった。
ハヨン達が今、ソリャの手助けで現れたり、何かしら刺激されると彼は完全に拒絶するに違いない。皆、息を潜めて二人のやりとりを見守るしかなかった。
「俺はソリャ。人から化け物と疎まれ続けた存在さ。」
自身への皮肉たっぷりな物言いに、青年は気圧されたようだった。彼はほんの一瞬瞠目するが、再び警戒を強める。
「お前は自分の力を不思議に思ったことはねぇか?何故俺だけこんな力を持ち、人に怖がられ、妬まれ、疎まれ生きなきゃいけねぇのか。」
「力って…。僕は何も…」
「悪いがさっき、お前が力を使っているのを見た。だからしらばっくれても無駄だ。あの平原からここまでの草花はお前の力によるものなんじゃねえか?」
青年はソリャの言葉で押し黙ってしまった。
「仮に僕のその力を見たとして、あなたはどうしたいのです?」
恐れの入り混じった青年の声は震えている。第三者から見ると、ソリャは得体も知れず物言いもきついため、悪事に手を染めている人物と勘違いされても仕方がない。しかし、青年は恐れながらもソリャの話に耳を傾けて逃げる素振りがない。今が彼を仲間に引き入れる千載一遇の機会であることは間違い無いだろう。
ソリャもそのことがわかっていて緊張しているのか、尾が忙しなく揺れている。
(ソリャ…。頑張って)
ハヨンは思わず握りしめた手に力がこもった。
「俺は、お前に力を貸して欲しい。この国は今にも壊れそうな状態だ。そのためにも俺達やお前のような力が必要なんだ」
「つまりは僕を利用したいと言うことですね」
彼は瞳を潤ませながらも、屹然とした態度でそう言った。
「そうとも言えるが、俺たちは別に強要したりしねぇよ。俺は今、恐れたり、崇めるような特別扱いはされてねぇ。俺の個性として見てくれる奴らばっかりだ。それに、俺が答えを出すまで待ってくれたしな。だから、利用されてるなんて思ったことはねぇよ。」
「最初はそうかもそれません。ですが、いずれ人は強欲になり、気がつけば協力関係は消えているなんて十分ありえる話です。」
「そうか。お前も力を持つことで、傷つくことがあったんだろうな。じゃあ何故俺達がこんな力を持つことになったのか知りたくはねぇか?」
ソリャの言葉で青年の瞳が揺れ動き、葛藤が垣間見える。ソリャ自身も己のことを知りたくないかと言う問いに心を動かされていたのなとハヨンは思い出した。
何故己は力を持って生まれたのか。何故天はそう定めたのか。問いたくとも天から答えは返ってこない。
「俺達の他にも力を持っているやつがあと二人いる。そいつらも今は共に動いてる。この巡り合わせは偶然なんかじゃねえ。四人が集まれば何かわかってくることがあるんじゃねぇか?」
今、この燐国は危機に直面している。その中で四獣が集まると言うこと。それが謂わゆる天の思し召しと言うものなのかもしれない。
ハヨンは玄武の能力に気を取られていたが、今からどうすれば良いのか悩んでいた。彼の風にさえ怯え、ひょろりとした体型や立ち振る舞いから、声をかけると逃げられてしまう気がした。
とりあえず皆を呼ぼうと考え、ハヨンは手招きする。音を立てず、身振りで合図をしているのを見てか、誰も声を出すこともなくゆっくりと近づいてきた。
後から来た面々も、青年の立っている周囲は青々としているのに、その先は戦の跡が生々しく残っているため、この現象が彼に起因するのだと察したようだ。
「突然話しかけると逃げられてしまいそうな気がして、まずは皆を呼ぶべきかと思ったんです。」
ハヨンは声を潜めながら説明する。
「見ず知らずの人間に力のことを聞かれるのは怪しすぎて嫌だな」
経験があるからかソリャが頷き、暫し間を置いてこう言った。
「なら俺が話しかけるのはどうだ?見るからに普通の見た目じゃねえし、少しは話を聴く気になるかもしれねぇし」
ハヨンは彼の提案に驚嘆した。以前の彼は己の見た目や能力に否定的だった。しかし今ではそれを逆手に取るような考えを持っている。彼の中で己の認識が段々と変わってきているのだろうか。そう考えるとハヨンは嬉しかった。
「確かに私達の中で四獣と信じてもらいやすい見た目なのはソリャね」
賛同したムニルは背中に鱗があるため、衣服を脱がなければ気づかれないし、ハヨンも瞳の色が赤い他は外見に四獣の特徴は現れていない。初対面で突然に衣服を脱ぐなど不審な人物の印象を持たれ、余計に抵抗があるだろう。
「彼には申し訳ないが、ソリャなら逃げられても追いつけるだろうしな。とは言え、怯えさせないように気をつけることが前提だけど」
リョンヘがソリャに視線を向けると、任せてくれと言う様に彼は頷いた。
ソリャは立ち上がり、青年の背後へ駆け寄った。彼の動きは軽やかで、足音も小さい。そのためかソリャが声をかけるまで、青年は気づかなかった。
「なぁ、お前は何者だ?」
突然、そう声をかけられた青年は振り向きざまに数歩後ずさった。
「な、なに?」
そう言って視線を彷徨わせたが、途中ではっとしてソリャの姿を頭から爪先まで舐める様にして見ている。そしてまた数歩後退した。
「あなたこそ何者なんですか…!」
青年は声を張り、背中は丸めたかのように縮こまっている。警戒し、今にも逃げ出しそうだと一目見て分かった。
ハヨン達が今、ソリャの手助けで現れたり、何かしら刺激されると彼は完全に拒絶するに違いない。皆、息を潜めて二人のやりとりを見守るしかなかった。
「俺はソリャ。人から化け物と疎まれ続けた存在さ。」
自身への皮肉たっぷりな物言いに、青年は気圧されたようだった。彼はほんの一瞬瞠目するが、再び警戒を強める。
「お前は自分の力を不思議に思ったことはねぇか?何故俺だけこんな力を持ち、人に怖がられ、妬まれ、疎まれ生きなきゃいけねぇのか。」
「力って…。僕は何も…」
「悪いがさっき、お前が力を使っているのを見た。だからしらばっくれても無駄だ。あの平原からここまでの草花はお前の力によるものなんじゃねえか?」
青年はソリャの言葉で押し黙ってしまった。
「仮に僕のその力を見たとして、あなたはどうしたいのです?」
恐れの入り混じった青年の声は震えている。第三者から見ると、ソリャは得体も知れず物言いもきついため、悪事に手を染めている人物と勘違いされても仕方がない。しかし、青年は恐れながらもソリャの話に耳を傾けて逃げる素振りがない。今が彼を仲間に引き入れる千載一遇の機会であることは間違い無いだろう。
ソリャもそのことがわかっていて緊張しているのか、尾が忙しなく揺れている。
(ソリャ…。頑張って)
ハヨンは思わず握りしめた手に力がこもった。
「俺は、お前に力を貸して欲しい。この国は今にも壊れそうな状態だ。そのためにも俺達やお前のような力が必要なんだ」
「つまりは僕を利用したいと言うことですね」
彼は瞳を潤ませながらも、屹然とした態度でそう言った。
「そうとも言えるが、俺たちは別に強要したりしねぇよ。俺は今、恐れたり、崇めるような特別扱いはされてねぇ。俺の個性として見てくれる奴らばっかりだ。それに、俺が答えを出すまで待ってくれたしな。だから、利用されてるなんて思ったことはねぇよ。」
「最初はそうかもそれません。ですが、いずれ人は強欲になり、気がつけば協力関係は消えているなんて十分ありえる話です。」
「そうか。お前も力を持つことで、傷つくことがあったんだろうな。じゃあ何故俺達がこんな力を持つことになったのか知りたくはねぇか?」
ソリャの言葉で青年の瞳が揺れ動き、葛藤が垣間見える。ソリャ自身も己のことを知りたくないかと言う問いに心を動かされていたのなとハヨンは思い出した。
何故己は力を持って生まれたのか。何故天はそう定めたのか。問いたくとも天から答えは返ってこない。
「俺達の他にも力を持っているやつがあと二人いる。そいつらも今は共に動いてる。この巡り合わせは偶然なんかじゃねえ。四人が集まれば何かわかってくることがあるんじゃねぇか?」
今、この燐国は危機に直面している。その中で四獣が集まると言うこと。それが謂わゆる天の思し召しと言うものなのかもしれない。
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