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四獣
奉謝の儀 弐
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リョンヘが剣を正面に構える。ちりん、と涼やかな鈴の音が響いた。そのまま流れるようにリョンヘは舞っていく。
時折、上り始めた朝日に照らされて、剣がきらりと光を放つ。それは自然と調和した美しさがあり、ハヨンは息を呑んだ。
例年の奉謝の儀では鮮やかな衣装に身を包み、楽隊の演奏に合わせながら剣舞を披露するらしい。そんな奉謝の儀も素晴らしいことは間違い無いだろうが、ハヨンとしては今のこの儀式に心を動かされた。
ハヨン達はリョンヘの舞を見守っていたが、彼は躊躇う素振りもなくただ軽やかに、鋭い刃も光に照らされて銀の糸のように滑らかに動いた。その動きを見るだけで、時間も忘れるほどだった。
彼が静かに剣を鞘に収めた頃、太陽は水平線から大部分を覗かせていた。まさに計算され尽くしたかのような行程で、儀式の場が王城に変わろうとも、この黎山の石舞台で行われた舞は何一つ変わっていなかったのだとわかった。
リョンヘは石舞台を降りた瞬間、思い出したかのように身震いする。集中していたため、今まで寒さも感じなかったのだろう。
ハヨンは事前に用意していた薪の山に火をつける。薪は冬の空気で乾燥しており、小さな火種はすぐに燃え広がった。
「ありがとう。温かいよ」
リョンヘがそう言って息を吐く。そして力なく焚き火の前に座り込んだ。彼の額には汗が光り、頬は上気している。
「良かったわよ」
ムニルが労うように、座り込んでいるリョンヘの肩へ手を置いた。
「ありがとう。二年前にやったきりの上に、短期間で復習したからどうなるかと思った」
ムニルの言葉で緊張の糸が完全に切れたのか、放心したような表情でリョンヘは黙り込んでしまった。
ハヨン達もそれ以上は何も言わず、リョンヘが気力を取り戻し、話し出すまで待っていた。
「待たせたな。そろそろ行くか」
「はい」
リョンヘが衣に着いた土を払いながら立ち上がった。もう太陽は完全に顔を出し、土に生えた霜が反射されて煌めいていた。焚き火も小さな炎がゆらいでおり、消えるまでそう時間もかからない。ハヨンは周囲の地面を蹴るようにして土をかけ、火を消した。
「行きは周りが見辛くて仕方なかったけど、今なら大丈夫ね。」
ムニルが大きく伸びをして立ち上がった。神経を張り巡らせるようにして、暗闇の中を登山することに嫌気がさしたようだ。彼の言う通り、太陽に照らされた中を下山するのであればそう時間はかからないだろう。
「これでも楽な道を選んだつもりだったんだがねぇ。やはり夜道はきつかったかの。」
老婆は首を傾げている。これほどの感覚の違いに、ますます彼女の謎は深まるばかりだ。
ハヨン達は山を下り始めた。ハヨンはリョンヘの舞はあまりにも神秘的だったため、先程のことは現実だったのか、と思わず考えてしまう。
ふと振り返ると、あの石舞台は変わらず山頂に鎮座しており、朝日に照らされていた。儀式が終わり、燃え尽きた篝火の跡に囲まれた岩はどこか寂しげにも見えた。あの岩はこれからも儀式のために山頂でひっそりと待ち続けるのだろう。
そう考えると何故か胸がざわついたが、ハヨンは踵を返しみなの跡を追ったのだった。
時折、上り始めた朝日に照らされて、剣がきらりと光を放つ。それは自然と調和した美しさがあり、ハヨンは息を呑んだ。
例年の奉謝の儀では鮮やかな衣装に身を包み、楽隊の演奏に合わせながら剣舞を披露するらしい。そんな奉謝の儀も素晴らしいことは間違い無いだろうが、ハヨンとしては今のこの儀式に心を動かされた。
ハヨン達はリョンヘの舞を見守っていたが、彼は躊躇う素振りもなくただ軽やかに、鋭い刃も光に照らされて銀の糸のように滑らかに動いた。その動きを見るだけで、時間も忘れるほどだった。
彼が静かに剣を鞘に収めた頃、太陽は水平線から大部分を覗かせていた。まさに計算され尽くしたかのような行程で、儀式の場が王城に変わろうとも、この黎山の石舞台で行われた舞は何一つ変わっていなかったのだとわかった。
リョンヘは石舞台を降りた瞬間、思い出したかのように身震いする。集中していたため、今まで寒さも感じなかったのだろう。
ハヨンは事前に用意していた薪の山に火をつける。薪は冬の空気で乾燥しており、小さな火種はすぐに燃え広がった。
「ありがとう。温かいよ」
リョンヘがそう言って息を吐く。そして力なく焚き火の前に座り込んだ。彼の額には汗が光り、頬は上気している。
「良かったわよ」
ムニルが労うように、座り込んでいるリョンヘの肩へ手を置いた。
「ありがとう。二年前にやったきりの上に、短期間で復習したからどうなるかと思った」
ムニルの言葉で緊張の糸が完全に切れたのか、放心したような表情でリョンヘは黙り込んでしまった。
ハヨン達もそれ以上は何も言わず、リョンヘが気力を取り戻し、話し出すまで待っていた。
「待たせたな。そろそろ行くか」
「はい」
リョンヘが衣に着いた土を払いながら立ち上がった。もう太陽は完全に顔を出し、土に生えた霜が反射されて煌めいていた。焚き火も小さな炎がゆらいでおり、消えるまでそう時間もかからない。ハヨンは周囲の地面を蹴るようにして土をかけ、火を消した。
「行きは周りが見辛くて仕方なかったけど、今なら大丈夫ね。」
ムニルが大きく伸びをして立ち上がった。神経を張り巡らせるようにして、暗闇の中を登山することに嫌気がさしたようだ。彼の言う通り、太陽に照らされた中を下山するのであればそう時間はかからないだろう。
「これでも楽な道を選んだつもりだったんだがねぇ。やはり夜道はきつかったかの。」
老婆は首を傾げている。これほどの感覚の違いに、ますます彼女の謎は深まるばかりだ。
ハヨン達は山を下り始めた。ハヨンはリョンヘの舞はあまりにも神秘的だったため、先程のことは現実だったのか、と思わず考えてしまう。
ふと振り返ると、あの石舞台は変わらず山頂に鎮座しており、朝日に照らされていた。儀式が終わり、燃え尽きた篝火の跡に囲まれた岩はどこか寂しげにも見えた。あの岩はこれからも儀式のために山頂でひっそりと待ち続けるのだろう。
そう考えると何故か胸がざわついたが、ハヨンは踵を返しみなの跡を追ったのだった。
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