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四獣
己の力 弐
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「その可能性が高いわね。」
ムニルがハヨンに対してあっさり頷く。自分の意識していないところでも四獣の証明となるものはあるのだ。思い返せば、心当たりがあるものが幾つか出てくるかもしれないなとハヨンは考えた。
「俺は…。ムニルやハヨンみてえに姿を変えることができない。でもそのくせ、普段の姿がこんなんだ。どう言うことなんだろうな…」
ソリャは不思議そうに己の体を見下ろしている。尻尾が頼り情けに下を向き、ゆらゆらと揺れていた。
「でもあんたこの前、前足が虎になってたじゃない」
「前足って…!本当に虎みたいな…いや、俺白虎なんだよな…?」
ムニルの切り込んだ返しに、ソリャは噛みつきかけたが、納得して黙り込む。
「全身を変えることは出来ねぇけど、一部が自由にできるのは、俺の特徴ってことか」
納得したようにソリャは人の手と獣の足に交互に変えて見せるが、奇妙な光景である。骨張った手が徐々に丸みを帯びていき、白い毛が生える光景は、なかなかお目にかからない。そのせいか背筋がぞわりとする。
「私の場合は街中で変身したら街を破壊する羽目にならないから、ソリャは逆に手狭なところでは有利かもしれないわね。」
なるほど、言われてみれば木々の多い森や、街中ではムニルは変身してもあまり本領を発揮できない。向き不向きというものはどんなに大きな力を持っていても有るものなのだ。
それは人となんら変わりない。白虎隊で王族を警護していた時も、ハヨンは隊員よりも力は弱かった。その代わりに身軽さやヨウから教わった武術があったし、警戒されにくいと言う理由で宴会での警護を任されたこともあった。要は自身の持つ力を上手く活用することが大事なのだ。
「それを言えばハヨンも朱雀の姿であれば飛べるわけだから、色んなところで活躍できそうだな」
今まで黙って話を聴いていたリョンヘが、そうハヨンへ会話の矛先を向ける。とうとう来たかとハヨンは口を開いた。
「そう…だね。戦の記憶は断片的だけど…。火で火傷は負わないし、ムニルみたいに火を操ることもできていたね。あとは、空を飛んだり、鉤爪で攻撃したりとか」
「確かに小回りも効くし、汎用性が高そうね。」
そうムニルが言うあたり、青龍の場合は開けた土地の方が良いと言うことを真剣に悩んでいるのかもしれない。
ハヨンは彼の表情をちらりと確認したが、相変わらず彼の真意はいまいち掴めない。
別に彼がハヨン達から距離を置こうとしているわけでもなく、誰に対してものらりくらりとかわしているからだということも分かっている。それが今までの彼の処世術だったのだろう。
「まぁ、各々これからわかって来ることがあるかもしれないから、そこまでお互いの違いについて気にしなくてもいいかもな」
リョンヘの結論に、各々が頷く。
「あと気になるのは四獣の残りの一人のことよね…」
ムニルの言葉から、ハヨンは王城の謁見室にある壁画を思い出した。玉座の後ろに、王を見守るように描かれた四獣の壁画を。朱雀、青龍、白虎、そして…
「玄武、だね」
「一般的には亀に近い姿が有名だよな」
リョンヘがそう情報を付け加える。
「亀…」
その妙に含みのあるソリャの返答から、皆が同じことを考えていると言うことが手に取るようにわかった。
(亀の姿とか、一番見つけづらそう…)
玄武がどれほどの大きさをしているのか定かではないが、一般的な亀とさほど変わらなければ見つかりにくそうだ。蛇が体に巻き付いている姿で描かれていることが多いため、それを目印にするといっても見つけにくさはそう変わらないだろう。
「わしが知ってる玄武は普通の亀より断然大きかった。ただ彼の場合は見た目で探しても見つからんと思うなぁ。」
「ハヨンや私みたいに、人の姿でも異なる部分はないの?」
「黒い髪に黒い目の者ばかりだったからの。難しいのではないか?」
とはいえ、その口ぶりからすると老婆は玄武を見つけ出したことがあるのだ。燐国は広い。一人で見つけ出すのは、時間をかけたとしてもかなり難しいだろう。きっと何か目立つ特徴があるに違いないのだ。
「何か他に手がかりはねぇのか?」
ソリャの問いかけに、老婆はふふんと得意げに笑った。
「玄武の力はね、神聖視されやすいのさ。だから変わった噂や風習のある村に行くといる可能性が高いね」
「言っちゃなんだけど、私たちの力もかなり特殊じゃない。それよりもってこと?」
神聖視と言われると宗教のようなものが思い浮かぶが、どう言った力なのか。
「そうじゃな。あとは玄武はどちらかというと戦闘向きではないの。」
老婆の言葉にますます疑問点が増えていく。
「変わった噂のある村か…。城にはそう言った話は上がってこなかったが…。城下は色んなやつが集まってくるから、話は聞いたことがあるな。その村は農耕も盛んで、特に問題はなかったから、気に留めていなかったが。」
「どういった噂だったの?」
リョンヘの心当たりのある口ぶりに、皆が反応した。
ムニルがハヨンに対してあっさり頷く。自分の意識していないところでも四獣の証明となるものはあるのだ。思い返せば、心当たりがあるものが幾つか出てくるかもしれないなとハヨンは考えた。
「俺は…。ムニルやハヨンみてえに姿を変えることができない。でもそのくせ、普段の姿がこんなんだ。どう言うことなんだろうな…」
ソリャは不思議そうに己の体を見下ろしている。尻尾が頼り情けに下を向き、ゆらゆらと揺れていた。
「でもあんたこの前、前足が虎になってたじゃない」
「前足って…!本当に虎みたいな…いや、俺白虎なんだよな…?」
ムニルの切り込んだ返しに、ソリャは噛みつきかけたが、納得して黙り込む。
「全身を変えることは出来ねぇけど、一部が自由にできるのは、俺の特徴ってことか」
納得したようにソリャは人の手と獣の足に交互に変えて見せるが、奇妙な光景である。骨張った手が徐々に丸みを帯びていき、白い毛が生える光景は、なかなかお目にかからない。そのせいか背筋がぞわりとする。
「私の場合は街中で変身したら街を破壊する羽目にならないから、ソリャは逆に手狭なところでは有利かもしれないわね。」
なるほど、言われてみれば木々の多い森や、街中ではムニルは変身してもあまり本領を発揮できない。向き不向きというものはどんなに大きな力を持っていても有るものなのだ。
それは人となんら変わりない。白虎隊で王族を警護していた時も、ハヨンは隊員よりも力は弱かった。その代わりに身軽さやヨウから教わった武術があったし、警戒されにくいと言う理由で宴会での警護を任されたこともあった。要は自身の持つ力を上手く活用することが大事なのだ。
「それを言えばハヨンも朱雀の姿であれば飛べるわけだから、色んなところで活躍できそうだな」
今まで黙って話を聴いていたリョンヘが、そうハヨンへ会話の矛先を向ける。とうとう来たかとハヨンは口を開いた。
「そう…だね。戦の記憶は断片的だけど…。火で火傷は負わないし、ムニルみたいに火を操ることもできていたね。あとは、空を飛んだり、鉤爪で攻撃したりとか」
「確かに小回りも効くし、汎用性が高そうね。」
そうムニルが言うあたり、青龍の場合は開けた土地の方が良いと言うことを真剣に悩んでいるのかもしれない。
ハヨンは彼の表情をちらりと確認したが、相変わらず彼の真意はいまいち掴めない。
別に彼がハヨン達から距離を置こうとしているわけでもなく、誰に対してものらりくらりとかわしているからだということも分かっている。それが今までの彼の処世術だったのだろう。
「まぁ、各々これからわかって来ることがあるかもしれないから、そこまでお互いの違いについて気にしなくてもいいかもな」
リョンヘの結論に、各々が頷く。
「あと気になるのは四獣の残りの一人のことよね…」
ムニルの言葉から、ハヨンは王城の謁見室にある壁画を思い出した。玉座の後ろに、王を見守るように描かれた四獣の壁画を。朱雀、青龍、白虎、そして…
「玄武、だね」
「一般的には亀に近い姿が有名だよな」
リョンヘがそう情報を付け加える。
「亀…」
その妙に含みのあるソリャの返答から、皆が同じことを考えていると言うことが手に取るようにわかった。
(亀の姿とか、一番見つけづらそう…)
玄武がどれほどの大きさをしているのか定かではないが、一般的な亀とさほど変わらなければ見つかりにくそうだ。蛇が体に巻き付いている姿で描かれていることが多いため、それを目印にするといっても見つけにくさはそう変わらないだろう。
「わしが知ってる玄武は普通の亀より断然大きかった。ただ彼の場合は見た目で探しても見つからんと思うなぁ。」
「ハヨンや私みたいに、人の姿でも異なる部分はないの?」
「黒い髪に黒い目の者ばかりだったからの。難しいのではないか?」
とはいえ、その口ぶりからすると老婆は玄武を見つけ出したことがあるのだ。燐国は広い。一人で見つけ出すのは、時間をかけたとしてもかなり難しいだろう。きっと何か目立つ特徴があるに違いないのだ。
「何か他に手がかりはねぇのか?」
ソリャの問いかけに、老婆はふふんと得意げに笑った。
「玄武の力はね、神聖視されやすいのさ。だから変わった噂や風習のある村に行くといる可能性が高いね」
「言っちゃなんだけど、私たちの力もかなり特殊じゃない。それよりもってこと?」
神聖視と言われると宗教のようなものが思い浮かぶが、どう言った力なのか。
「そうじゃな。あとは玄武はどちらかというと戦闘向きではないの。」
老婆の言葉にますます疑問点が増えていく。
「変わった噂のある村か…。城にはそう言った話は上がってこなかったが…。城下は色んなやつが集まってくるから、話は聞いたことがあるな。その村は農耕も盛んで、特に問題はなかったから、気に留めていなかったが。」
「どういった噂だったの?」
リョンヘの心当たりのある口ぶりに、皆が反応した。
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