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四獣
己の力
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「ハヨンの意識が戻ったって聞いたから来たのに、何だよ。みんなで喋くってんじゃねぇか」
「ソリャ!」
顔をのぞかせた彼は、少し不機嫌だった。どうやら自分だけが置いてけぼりを食らった状態になっていたのが嫌だったらしい。ソリャがこの城にやって来てからまだ日は浅いが、彼は意外と寂しがり屋なところがあるのを、ハヨンは気づいていた。
「ごめん。私が目を覚ましたり、リョンが体調悪くなったりした流れでこうなってたから。」
ハヨンは慌てて、弁明する。
「今、四獣の話をしていたところだし、あんたもこの中に入りなさいな」
ずっと戸口に立っているソリャに向かって、ムニルが手招きする。ソリャはその不機嫌な顔のまま、壁にもたれた。しかし、先ほどよりは表情も和らいでいる。
戦の始まる前に、ソリャとハヨンの二人きりで話したことがあった。その日から少しずつ、彼は表情が豊かになっている気がする。しかめ面など、機嫌の悪い時は前からも顔に出ていたが、嬉しい時や寂しい時なども分かるようになって来て、ハヨンは嬉しかった。
「んで?何の話をしてたんだ?」
「お前たちの代の四獣は今までとは少し違うという話をしていたところさ。」
老婆の言葉に、ソリャはぴくりと眉を動かした。彼は人と違うということに、やはりまだ恐れや嫌悪があるのかもしれない。
「それは…今までと違うのは悪いこと、なのか?」
「いや、こうやってこの国にいざこざが起きるのを見越して、こうなったんだね。自分は元凶になるって考え、いい加減にやめな。あんたの悪い癖だよ」
そう老婆に言われて、ソリャが肩を揺らす。どうやら図星らしい。
「んなっ!べ、別にそんなこと…思ってねーよ」
だんだんと尻すぼみになっていく声は、言葉よりも雄弁に語っていた。しかし、そのあと拗ねたような表情を見せるあたり、思ったことが顔に出るようになっているし、深く悩んでいる様子もないため、ソリャも少しずつ変わってきているのかもしれない。
「ねぇ。今までの四獣と違うのなら、自分が持ってる能力の情報、みんなでちゃんと共有しない?」
「そうだな、お互いに能力のことをしっかりと知っておくことで、いざって時に役立つかも知れないしな。俺ももっと四獣について知りたい。」
ムニルの提案に、リョンヘもそう賛同した。
確かに、今まではムニルは青龍で、水を操ることが出来るというのは知っていたが、具体的にどう操るのかを知らなかった。
ハヨンも、二人の話を聞くうちに自身が四獣であることを自覚できる何かを思い出すかも知れない。そのため、四獣の能力というものに、大いに興味があった。
ソリャはどう思っているのか、とハヨンがちらりと見ると、
「俺も四獣のことで知らねぇことが山ほどあるからな。俺も賛成だ」
と頷いた。
「じゃあソリャもハヨンも自分の力について判別するのはまだ難しそうだし、私から言おうかしらね。」
そう口火を切ったムニルに、ハヨンは感謝した。ハヨンは自分の出来ることを必死に思い返していたのだが、イルウォンに向かって火を放ったこと、飛んでいたことぐらいしか思い出せなかったからだ。ムニルのようにそんな大層なことが出来ただろうか、とぐるぐると考え込む。
「と言ってもこの城に来て結構時間も経ったし、私についてもいくらかは知ってると思うんだけどね。私は水を扱えて、青龍の姿では体内から生み出すことも出来る。試したことはないけど、近くに川とかがあれば、氾濫とかも起こせると思うわよ。あとは人の姿のままでも水面を歩いたり、水中にいつまでも潜れるとか。」
特に大したことではない、というようにさらりとムニルは言ったが、ハヨンは新たに知った情報にとても驚いた。人の姿のままでも出来ることはあるのだ。
確かに、ソリャも人の姿のままでも、人の何倍もの高さを跳躍したり、獣のように俊敏だった。しかし、ムニルが人間の姿で何か能力を使うところを見たことがなかったので、考えたこともなかった。
「あっ」
そんな時、リョンヘが何か気になるところがあったようで、声をあげた。
「俺たちが王城から追い出された時に偶然ムニルと会ったよな。それでムニルは友達が城の堀に落し物をしたから、それを探していた最中にいきあったって。どうやって探してたんだと思っていたんだが、それは水面を歩いていたってことか?」
「そうよ。水回りの探し物を時々依頼で引き受けていたの。でもその途中で王族のあなたの身に危機が迫ってたから、四獣の本能でそっちに行っちゃったし…。結局見つけられなかったんだけどね。」
ムニルは肩をすくめる。ハヨンもようやくあの時のことに合点がいった。そして、ムニルの言葉にはっとする。
「そういえばリョンヘやその他の王族の方に危機が迫った時、気がついたらその方を庇っていたなと思ってたんだけど…。あれは、四獣の本能だったのかな」
ハヨンは初めてリョンヤンに出会った時や、宴会で王を庇ったことを思い出す。あの時は、反射的に動いていたと考えていたが、もっと深い意味が隠されていたのかもしれない。
「ソリャ!」
顔をのぞかせた彼は、少し不機嫌だった。どうやら自分だけが置いてけぼりを食らった状態になっていたのが嫌だったらしい。ソリャがこの城にやって来てからまだ日は浅いが、彼は意外と寂しがり屋なところがあるのを、ハヨンは気づいていた。
「ごめん。私が目を覚ましたり、リョンが体調悪くなったりした流れでこうなってたから。」
ハヨンは慌てて、弁明する。
「今、四獣の話をしていたところだし、あんたもこの中に入りなさいな」
ずっと戸口に立っているソリャに向かって、ムニルが手招きする。ソリャはその不機嫌な顔のまま、壁にもたれた。しかし、先ほどよりは表情も和らいでいる。
戦の始まる前に、ソリャとハヨンの二人きりで話したことがあった。その日から少しずつ、彼は表情が豊かになっている気がする。しかめ面など、機嫌の悪い時は前からも顔に出ていたが、嬉しい時や寂しい時なども分かるようになって来て、ハヨンは嬉しかった。
「んで?何の話をしてたんだ?」
「お前たちの代の四獣は今までとは少し違うという話をしていたところさ。」
老婆の言葉に、ソリャはぴくりと眉を動かした。彼は人と違うということに、やはりまだ恐れや嫌悪があるのかもしれない。
「それは…今までと違うのは悪いこと、なのか?」
「いや、こうやってこの国にいざこざが起きるのを見越して、こうなったんだね。自分は元凶になるって考え、いい加減にやめな。あんたの悪い癖だよ」
そう老婆に言われて、ソリャが肩を揺らす。どうやら図星らしい。
「んなっ!べ、別にそんなこと…思ってねーよ」
だんだんと尻すぼみになっていく声は、言葉よりも雄弁に語っていた。しかし、そのあと拗ねたような表情を見せるあたり、思ったことが顔に出るようになっているし、深く悩んでいる様子もないため、ソリャも少しずつ変わってきているのかもしれない。
「ねぇ。今までの四獣と違うのなら、自分が持ってる能力の情報、みんなでちゃんと共有しない?」
「そうだな、お互いに能力のことをしっかりと知っておくことで、いざって時に役立つかも知れないしな。俺ももっと四獣について知りたい。」
ムニルの提案に、リョンヘもそう賛同した。
確かに、今まではムニルは青龍で、水を操ることが出来るというのは知っていたが、具体的にどう操るのかを知らなかった。
ハヨンも、二人の話を聞くうちに自身が四獣であることを自覚できる何かを思い出すかも知れない。そのため、四獣の能力というものに、大いに興味があった。
ソリャはどう思っているのか、とハヨンがちらりと見ると、
「俺も四獣のことで知らねぇことが山ほどあるからな。俺も賛成だ」
と頷いた。
「じゃあソリャもハヨンも自分の力について判別するのはまだ難しそうだし、私から言おうかしらね。」
そう口火を切ったムニルに、ハヨンは感謝した。ハヨンは自分の出来ることを必死に思い返していたのだが、イルウォンに向かって火を放ったこと、飛んでいたことぐらいしか思い出せなかったからだ。ムニルのようにそんな大層なことが出来ただろうか、とぐるぐると考え込む。
「と言ってもこの城に来て結構時間も経ったし、私についてもいくらかは知ってると思うんだけどね。私は水を扱えて、青龍の姿では体内から生み出すことも出来る。試したことはないけど、近くに川とかがあれば、氾濫とかも起こせると思うわよ。あとは人の姿のままでも水面を歩いたり、水中にいつまでも潜れるとか。」
特に大したことではない、というようにさらりとムニルは言ったが、ハヨンは新たに知った情報にとても驚いた。人の姿のままでも出来ることはあるのだ。
確かに、ソリャも人の姿のままでも、人の何倍もの高さを跳躍したり、獣のように俊敏だった。しかし、ムニルが人間の姿で何か能力を使うところを見たことがなかったので、考えたこともなかった。
「あっ」
そんな時、リョンヘが何か気になるところがあったようで、声をあげた。
「俺たちが王城から追い出された時に偶然ムニルと会ったよな。それでムニルは友達が城の堀に落し物をしたから、それを探していた最中にいきあったって。どうやって探してたんだと思っていたんだが、それは水面を歩いていたってことか?」
「そうよ。水回りの探し物を時々依頼で引き受けていたの。でもその途中で王族のあなたの身に危機が迫ってたから、四獣の本能でそっちに行っちゃったし…。結局見つけられなかったんだけどね。」
ムニルは肩をすくめる。ハヨンもようやくあの時のことに合点がいった。そして、ムニルの言葉にはっとする。
「そういえばリョンヘやその他の王族の方に危機が迫った時、気がついたらその方を庇っていたなと思ってたんだけど…。あれは、四獣の本能だったのかな」
ハヨンは初めてリョンヤンに出会った時や、宴会で王を庇ったことを思い出す。あの時は、反射的に動いていたと考えていたが、もっと深い意味が隠されていたのかもしれない。
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