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覚悟
何者
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「どうだ、奴は何か吐いたか?」
次の日、兵士全員での朝礼の時間に、セチャンは昨日の暗殺者の尋問を任せた部下に尋ねた。
「…吐きません…。と言うよりも、なぜ自分がここにいるのかも全くわかっていないようでして…。」
おかしな話だが、ほとほと困り果てた様子の部下を見る限り、嘘のようには思えなかった。
「それは、奴の演技などではないのか?」
「それならば彼は大した役者です。彼曰く、彼は城に食料などを売る商人の元で働いていて、昨日も城に食料を運び込んでいたのだとか。その後記憶がなく、私達に連れ去られたのだと思っていて…。むしろ私達が詰られているというおかしな状況に…。」
その場にいた一同は首をひねった。以前にもこのような話を聴いたことがあったからだ。セチャンも話を聴いてぴんときた。
「以前、宴会でヒチョル様の暗殺未遂事件の時の実行者も似たような状況でしたよね。」
ハヨンがはっとして思わず声をあげる。彼女はその折護衛役として暗殺者と刀を交えた。セチャンの所属は白虎ではないものの、事が事であったため、この事件の全容は全部隊に公開されていた。
それだ、とその場にいた者達はざわざわと口々に言う。
「以前にチェヨンさんがおっしゃっていたことを、みなさんは覚えていらっしゃいますか??」
ハヨンがセチャンに問いかけてくる。彼女の目はとても真剣で、何かに気づいたようだった。チェヨンとは、あの不思議な老婆のことだ。彼女はなぜか建国伝記に載っていない、国の歴史について明るい。
「チェヨン殿が言っていたこと…。それは魔物に関することか?」
セチャンは数少ない、思い当たる節を探り当て、ハヨンに返した。彼女はそれに頷く。
「チェヨンさんは以前、魔物は人を操ることができると仰っていました。そのせいで記憶が抜け落ちているのなら、辻褄が合いませんか?もし仮に暗殺者が捕まってしまっても、自分とは関わりの薄く、何も証言できない者を使えば情報が漏れない利点がありますし。」
セチャンはハヨンの言ったことをもう一度頭で繰り返した。様々な荒波に揉まれて生きてきたこの頭は固くなっているからだ。
「たしかに、それが事実なら今まで説明がつかなかったことも筋が通る。しかし、彼が嘘をついていると言うことも、無きにしもあらずだ。引き続き尋問を続けてくれ。ただし、無実の場合もあり得るから、手は出すなよ。」
「は。」
セチャンはそう部下に指示した。城でも尋問は何回もしたことがあったが、どうしても力ずくになることが多い。今回の件で、尋問の方法も一度話し合って統一しなくてはならないな、とセチャンは考えた。
(しかしまぁ、王都に戻れるのはいつのことかわからないが…)
そもそも戻れるかということすらわからない。一生、得体の知れない者と敵対し、神経を擦り減らし続けるのかも知れない。
(せめてこの国の謎が少しでも解明されたら、ましなんだが。)
自分が信じてきたものが一夜にして崩れ去る。セチャンは王都から逃亡した日、その絶望感に直面した。王族を敬い、神聖視することはセチャンにとって日常そのものだった。それが反逆者と、不思議な老婆の言葉によって不確かなものへと変貌したのだ。
そんな中、唯一変わらないのはリョンヘと、その周りにいる者だけに感じられた。
(私はリョンヘ様を幼い頃から見守ってきた…。国内で小さな内乱が起きたとき、共に戦地に赴いたこともあった…。あの方以上に民を思う気持ちが強いかたは見たことがない。私は臣下として、リョンヘ様の民として、最期までついていこう。この混乱している国と民を救えるのはきっとリョンヘ様だけだ…)
ますますこの国に異変が起こり、それを感じ取れるようになった今、セチャンはそう誓ったのだった。
次の日、兵士全員での朝礼の時間に、セチャンは昨日の暗殺者の尋問を任せた部下に尋ねた。
「…吐きません…。と言うよりも、なぜ自分がここにいるのかも全くわかっていないようでして…。」
おかしな話だが、ほとほと困り果てた様子の部下を見る限り、嘘のようには思えなかった。
「それは、奴の演技などではないのか?」
「それならば彼は大した役者です。彼曰く、彼は城に食料などを売る商人の元で働いていて、昨日も城に食料を運び込んでいたのだとか。その後記憶がなく、私達に連れ去られたのだと思っていて…。むしろ私達が詰られているというおかしな状況に…。」
その場にいた一同は首をひねった。以前にもこのような話を聴いたことがあったからだ。セチャンも話を聴いてぴんときた。
「以前、宴会でヒチョル様の暗殺未遂事件の時の実行者も似たような状況でしたよね。」
ハヨンがはっとして思わず声をあげる。彼女はその折護衛役として暗殺者と刀を交えた。セチャンの所属は白虎ではないものの、事が事であったため、この事件の全容は全部隊に公開されていた。
それだ、とその場にいた者達はざわざわと口々に言う。
「以前にチェヨンさんがおっしゃっていたことを、みなさんは覚えていらっしゃいますか??」
ハヨンがセチャンに問いかけてくる。彼女の目はとても真剣で、何かに気づいたようだった。チェヨンとは、あの不思議な老婆のことだ。彼女はなぜか建国伝記に載っていない、国の歴史について明るい。
「チェヨン殿が言っていたこと…。それは魔物に関することか?」
セチャンは数少ない、思い当たる節を探り当て、ハヨンに返した。彼女はそれに頷く。
「チェヨンさんは以前、魔物は人を操ることができると仰っていました。そのせいで記憶が抜け落ちているのなら、辻褄が合いませんか?もし仮に暗殺者が捕まってしまっても、自分とは関わりの薄く、何も証言できない者を使えば情報が漏れない利点がありますし。」
セチャンはハヨンの言ったことをもう一度頭で繰り返した。様々な荒波に揉まれて生きてきたこの頭は固くなっているからだ。
「たしかに、それが事実なら今まで説明がつかなかったことも筋が通る。しかし、彼が嘘をついていると言うことも、無きにしもあらずだ。引き続き尋問を続けてくれ。ただし、無実の場合もあり得るから、手は出すなよ。」
「は。」
セチャンはそう部下に指示した。城でも尋問は何回もしたことがあったが、どうしても力ずくになることが多い。今回の件で、尋問の方法も一度話し合って統一しなくてはならないな、とセチャンは考えた。
(しかしまぁ、王都に戻れるのはいつのことかわからないが…)
そもそも戻れるかということすらわからない。一生、得体の知れない者と敵対し、神経を擦り減らし続けるのかも知れない。
(せめてこの国の謎が少しでも解明されたら、ましなんだが。)
自分が信じてきたものが一夜にして崩れ去る。セチャンは王都から逃亡した日、その絶望感に直面した。王族を敬い、神聖視することはセチャンにとって日常そのものだった。それが反逆者と、不思議な老婆の言葉によって不確かなものへと変貌したのだ。
そんな中、唯一変わらないのはリョンヘと、その周りにいる者だけに感じられた。
(私はリョンヘ様を幼い頃から見守ってきた…。国内で小さな内乱が起きたとき、共に戦地に赴いたこともあった…。あの方以上に民を思う気持ちが強いかたは見たことがない。私は臣下として、リョンヘ様の民として、最期までついていこう。この混乱している国と民を救えるのはきっとリョンヘ様だけだ…)
ますますこの国に異変が起こり、それを感じ取れるようになった今、セチャンはそう誓ったのだった。
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