華の剣士

小夜時雨

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覚悟

つけ狙う者

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 ハヨン達はその後、もと来た道を進む。

「今、私が考え付く案では、義勇軍の者達には、主に後方支援か孟の入り口を固めてもらう役目を任せようかと思うのだが…。武術の心得のある者は例の山の部隊に参加してもらい、囮である陣にも入ってもらいたい。」
「そうですね…。戦に不馴れだと山での戦は特殊ですから混乱を招きかねません。」

 リョンヘの案にセチャンが賛同する。その二人のやり取りを見て、ハヨンは少し歯がゆさを感じていた。

(私は戦場での戦いを知らない…。二人に比べればここで出せる案など限られてはいる…。)

 ここ最近、己のいたらなさを何度も痛感している。ハヨンは元来勝ち気な性格であるし、己の実力を過小にも過大にも評価せず、きちんと把握している。城の中では期待の新人とされ、実力を認められた後は上司にも目をかけてもらっていた。
 しかし、ここでは皆忙しく、ハヨンも新人ではなく、一人の兵士として様々なことを求められる。その環境の落差があるため、この事はハヨンの実力不足と言う理由だけとは言えない。ただ、ハヨンがリョンヘに頼ってもらいたい、力になりたいという焦りからこんなにも悩みを抱える状況となっているのだ。

(私はみんなよりも若い。その分努力で補わないと。)

 ハヨンは近頃、自主練習と勉強の時間を増やしている。ただ睡眠時間を削り、ひたすら打ち込むだけでは意味がないこともわかってはいたが、それほど焦っているのだ。
 馬に揺られながら、今日の夜は兵法について復習しようと考えたとき、胸騒ぎがした。

(この感覚…!!前にも感じたことがある。)

 ハヨンは素早く辺りを見渡した。そう、あれは確か、リョンヤン王子が暗殺されかけたときや、そして崩御した国王が狙われたとき、そしてつい最近、リョンヘが赤架の祭りの櫓に下敷きになりそうだった時と全く同じである。

「お二人とも、警戒なさってください。何者かが狙っている気配を感じます。私が合図しますから、その後、全速力で馬を走らせてください。」

 ハヨンはどこから見ているかわからない敵に、口の動きを見られないよう隠しながらそう囁いた。一瞬、二人とも表情をこわばらせたが、その後は手綱をしっかりと握り、いつでも早駆けに移れる体勢になった。
 何か微かにでも妙な音がしないか、ハヨンは耳をそば立てた。何者かが触れたら一瞬で糸がきれるような緊迫感が辺りを包む。

(今だ!)

 ハヨンは二人に合図を送る。その瞬間、背後から矢が飛んできた。ハヨンは振り返りもせずに剣で凪ぎ払う。
 一本、二本。早駆けに移った二人を追撃するように矢がハヨンを追う。二人の背はもう遥か向こうだ。恐らく悪足掻きである。

(この暗殺者を捕らえなければ。捕らえたら何か有力な情報が引き出せるかもしれない…!!)

 ハヨンは馬をくるりと後ろを向かせ、暗殺者が潜んでいる気に向かって走り出す。轡に重心をかけ、馬の背を膝で挟むようにして立ち上がた。そして懐に忍ばせていた暗器を連続して二、三投げた。それと同時にハヨンに向かって矢が放たれ、ハヨンはそれを腕の籠手で弾く。
 その瞬間に、どさっと地面に何か落ちる音と、人の呻き声が聴こえた。木の根本に男が一人、うずくまっている。肩、腕、腹に暗器が刺さってはいたが、ハヨンの暗器は針型ではなく、ヨウからもらった風車型の独特なもので、殺傷能力は低い。それにも関わらず、暗殺者にしてはなぜか戦闘気力が削がれていたようなので、ありがたく捕縛した。
 ハヨンは暗殺者をどのようにして連れ帰ろうかと暫し悩んだ。とりあえず、気絶させて抵抗しないようにした後、どうにか馬にもたせかけるように背中にのせ、ハヨンが馬をひく形でゆっくりと進み始めた。
 すると、遠くから三、四人が馬に乗ってやって来る。助っ人を連れたリョンヘとセチャンだった。

「怪我はないか…!?」

 合流した矢先、リョンヘがそう慌てたようにハヨンに尋ねる。

「はい、問題ありません。この通り元気です。」

 ハヨンは笑顔でそう答えた。久々にリョンヘの役に立てたと思えたからだ。我ながら単純だと心の隅で苦笑する。

「で、こいつが暗殺者か??」

 怪我の割にあまり威勢がないな…。と服の上からの出血の様子を見ながら、セチャンが呟いた。

「す、すみません。もし仮に馬の上で暴れられたら面倒だと思って、気絶させた後、肩を外しておいたんです。」
「!?」

 さらりとハヨンの告げた内容は、彼女の落ち着いた声とは反対に、衝撃的だった。
 たしかに、馬は繊細なので、驚かせれば暴れる可能性は高い。落馬や怪我の危険性を考慮したので、適切であったが、彼らが思う以上に、ハヨンはしたたかであった。
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