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孟へようこそ
戦支度 弍
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信頼されることは良いことだ。しかし、今でも手一杯で必死に手だてを探しているリョンヘには、かなりの重圧だった。
「あぁ…。わかっている。何としてもお前達を守り抜かねばな。お前達には国に歯向かわせるような形にしてまで守ってもらっているのだから。」
ハヨンはリョンヘの、王子としての立場の重さを改めて感じていた。群長に礼を言うその姿に、にこやかな笑顔に、どれだけの不安が隠されているのかハヨンには到底、推し量れなかった。
「では私たちは戦の備えに向けて、帰らせてもらう。何としてもお前達を守り抜かねばなならないからな」
孟の砦や城の警備についての意見を出し合ったあと、リョンヘはそう言って席を立った。ハヨンとセチャンも群長に会釈してその場を去る。
「セチャン。先程、群長が言っていた義勇軍に志願した民達はどれ程いるんだ。」
リョンヘは隣を歩くセチャンにそう声をかける。群長が「私達も守られるばかりではなく、力になりたいと思いまして…」と今回の戦に自ら出兵したいと望んだ男達の血判書を出してきたのだ。武士がやるように自身の血で押したその血判書は、彼らの団結力を意味しているようにも感じた。
「はい。ざっと見ると五、六百人はいるかと…。」
書物のように綴じられた血判書をぺらぺらとめくりながらそうセチャンが答えた。ふーっとリョンヘがため息のように息を吐く。
「…私としては義勇軍をやめて欲しいと思うのだが…」
「何をおっしゃいます!」
セチャンが噛みつきそうな勢いで抗議の声をあげる。彼がこれほど声を荒げるのは珍しかったため、ハヨンは驚いた。
「リョンヘ様が犠牲を厭う気持ちは私もよくわかります。しかし、こうして自ら志願してくれた者達は、覚悟はしてあるのだと私は思います。これは彼らの意思を軽んじていると変わらないのではありませんか?」
セチャンが先程よりは少し声を抑えてそう言う。しかし、表情からは憤りが見てとれた。
「私はリョンヘ様を素晴らしい方だと思っております。ですからあなた様について行こうと思い、今ここにいるのです。しかし、リョンヘ様。私はあなたのこういったところが、弱点だとも思うのです。優しさは大事です。しかし、優しさというものも限度があります。」
セチャンはそうまくしたてる。リョンヘはそれを表情1つ変えず、じっと聴いていた。ハヨンはいつもリョンヘに従順な印象だったセチャンのその姿を見て仰天していた。もしかすると、セチャンもリョンヘを慕っているために、己と義勇兵を重ね合わせているのかもしれない。
そしてセチャンはさらに言い募った。
「リョンヘ様は王子であらせられます。王族というものは、国の頭です。国を守らねばならないのです。今危機に瀕しているというのに、義勇軍の彼らの意思を拒否してまで優しさを大事にせねばならぬのですか。私は王の優しさとは、民に手を煩わせないと言うことではなく、彼らをどう使うか彼らのことを思いやりながら使うことだと思います。」
そこまで早口で言いきったセチャンは、息継ぎをする間も無かったのか、ほうっと息をつく。そしてリョンヘがどう反応するのかをうかがうようにちらりと彼を見る。ハヨンも部下にここまでもの申されるリョンヘを初めて見るので、緊張していた。
「民をどう使うか…。なるほど。私のために犠牲を払われると言うのが一番苦手だと思っていたが…。そうだな、王族としての役目を軽んじている、か。…わかった、義勇軍の者達を仲間に加えよう。」
リョンヘの言葉に、セチャンは次は安堵の息をつく。緊迫していた空気が緩やかに流れ出した。
「ただ、どう義勇軍の者を使うかは少し時間をくれ。やはり無駄な犠牲は出したくないからな。」
「はい…!!」
先を歩き出したリョンヘの後ろを、セチャンがついていく。ハヨンも慌てて後を追った。
これから始まる戦は確かにかなり不利ではある。しかし、全てが絶望的と言うわけではない。こうやってリョンヘを慕うものもいるし、力になりたいと思う者もいる。こうした中でも、少しでも希望をもって戦いたいとハヨンは思うのだった。
「あぁ…。わかっている。何としてもお前達を守り抜かねばな。お前達には国に歯向かわせるような形にしてまで守ってもらっているのだから。」
ハヨンはリョンヘの、王子としての立場の重さを改めて感じていた。群長に礼を言うその姿に、にこやかな笑顔に、どれだけの不安が隠されているのかハヨンには到底、推し量れなかった。
「では私たちは戦の備えに向けて、帰らせてもらう。何としてもお前達を守り抜かねばなならないからな」
孟の砦や城の警備についての意見を出し合ったあと、リョンヘはそう言って席を立った。ハヨンとセチャンも群長に会釈してその場を去る。
「セチャン。先程、群長が言っていた義勇軍に志願した民達はどれ程いるんだ。」
リョンヘは隣を歩くセチャンにそう声をかける。群長が「私達も守られるばかりではなく、力になりたいと思いまして…」と今回の戦に自ら出兵したいと望んだ男達の血判書を出してきたのだ。武士がやるように自身の血で押したその血判書は、彼らの団結力を意味しているようにも感じた。
「はい。ざっと見ると五、六百人はいるかと…。」
書物のように綴じられた血判書をぺらぺらとめくりながらそうセチャンが答えた。ふーっとリョンヘがため息のように息を吐く。
「…私としては義勇軍をやめて欲しいと思うのだが…」
「何をおっしゃいます!」
セチャンが噛みつきそうな勢いで抗議の声をあげる。彼がこれほど声を荒げるのは珍しかったため、ハヨンは驚いた。
「リョンヘ様が犠牲を厭う気持ちは私もよくわかります。しかし、こうして自ら志願してくれた者達は、覚悟はしてあるのだと私は思います。これは彼らの意思を軽んじていると変わらないのではありませんか?」
セチャンが先程よりは少し声を抑えてそう言う。しかし、表情からは憤りが見てとれた。
「私はリョンヘ様を素晴らしい方だと思っております。ですからあなた様について行こうと思い、今ここにいるのです。しかし、リョンヘ様。私はあなたのこういったところが、弱点だとも思うのです。優しさは大事です。しかし、優しさというものも限度があります。」
セチャンはそうまくしたてる。リョンヘはそれを表情1つ変えず、じっと聴いていた。ハヨンはいつもリョンヘに従順な印象だったセチャンのその姿を見て仰天していた。もしかすると、セチャンもリョンヘを慕っているために、己と義勇兵を重ね合わせているのかもしれない。
そしてセチャンはさらに言い募った。
「リョンヘ様は王子であらせられます。王族というものは、国の頭です。国を守らねばならないのです。今危機に瀕しているというのに、義勇軍の彼らの意思を拒否してまで優しさを大事にせねばならぬのですか。私は王の優しさとは、民に手を煩わせないと言うことではなく、彼らをどう使うか彼らのことを思いやりながら使うことだと思います。」
そこまで早口で言いきったセチャンは、息継ぎをする間も無かったのか、ほうっと息をつく。そしてリョンヘがどう反応するのかをうかがうようにちらりと彼を見る。ハヨンも部下にここまでもの申されるリョンヘを初めて見るので、緊張していた。
「民をどう使うか…。なるほど。私のために犠牲を払われると言うのが一番苦手だと思っていたが…。そうだな、王族としての役目を軽んじている、か。…わかった、義勇軍の者達を仲間に加えよう。」
リョンヘの言葉に、セチャンは次は安堵の息をつく。緊迫していた空気が緩やかに流れ出した。
「ただ、どう義勇軍の者を使うかは少し時間をくれ。やはり無駄な犠牲は出したくないからな。」
「はい…!!」
先を歩き出したリョンヘの後ろを、セチャンがついていく。ハヨンも慌てて後を追った。
これから始まる戦は確かにかなり不利ではある。しかし、全てが絶望的と言うわけではない。こうやってリョンヘを慕うものもいるし、力になりたいと思う者もいる。こうした中でも、少しでも希望をもって戦いたいとハヨンは思うのだった。
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