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揺らぎ
王城にて 陸
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「お前が正気を保っていられるとしても、私はその他の人間を操ることができる。そうなるとお前を犯人に仕立て上げることも可能だ。」
「…何が言いたい。」
「お前が真実を言おうとすれば、白虎隊の者は私の術によって捨て駒にされるだろう。」
ヘウォンは貴族の出ではあるが、両親は早くに亡くなった上に、血のつながりが濃い親戚はほとんどいない。そして独身であるため、今まで大きな後ろ盾もなかったが、家族を利用するような取り引きに巻き込まれることもなかった。
そんなヘウォンにとって、手塩にかけて育てた部下がいる白虎隊は家族のようなものだった。また、王族を守る部隊として創られた白虎隊は隣国でも屈指の武人が所属している。捨て駒にされてはこの国にとって大きな損失だ。ヘウォンは激昂したいのを抑えるために、奥歯を食い縛る。
「悔しいが、俺には選択肢が無いようだな。」
唸るような低い声でヘウォンがそう答えると、イルウォンは勝ち誇ったような表情を浮かべた。ヘウォンはその顔を見てますます苛立つ。手を伸ばせば届く距離に、己の主人を殺した張本人がいるというのに、手出しもできず、言いなりになる__________。この国で最強の武将とも言われるヘウォンにとって屈辱以外の何物でもなかった。
「ではこれから私のすることに余計な口出しはしないでいただこう。そうすればお前も部下の身も保証してやる。」
これは先程脅してきた内容と大差ないように聴こえるが、イルウォンが今後起こす行動に、歯向かう術を全て失うということだ。追加の条件を要求してきたようなものである。こうして脅されてしまった状況ではどうすることもできない。
「…ああ」
絞り出すように返事をすると、イルウォンは満足そうな笑みを見せた。そして彼は指を鳴らす。すると、どこからともなく2人の男が現れた。彼らは夏だというのに黒い外套を深く被っている。そのため、何者なのかは全く判別がつかなかった。
「この者たちの死体を処理しろ。前王は埋葬の行事があるから丁重にな」
「はい」
「…おい。」
イルウォンの部下が王に触れようとした瞬間、ヘウォンは反射的にどすの効いた声で呼びかける。イルウォンの部下は伸ばした手をびくりと止めた。
「王は俺に運ばせろ。」
黒い外套の男たちはちらちらとイルウォンを伺うようにしている。それを見てイルウォンはため息をついた。
「しょうがないですね。それが終わったら大人しくしてもらいますよ。」
冷たく横たわる主人に近づき、抱え上げる。筋が脱力しきった感触が伝わり、それとともに悲しみが込み上げてきた。
「さらばだ、我が王よ」
ヘウォンはそう聞こえるはずもない別れの言葉を、囁いたのだった________。
その後はヘウォンは己の館を出る度に何者かがこっそりと後をつけてくるようになった。白虎隊の訓練も、白虎隊の長として城のあちこちに出向く時も、姿は現さないもののどこからともなく視線を感じる。
挙げ句の果てにはヘウォンが文を保管している引き出しを漁った痕跡まであった。おそらく監視していることを主張するためにわざと残されたものだろう。これでは誰かに真実を伝えることも難しい。隊独自の暗号を用いたやり取りも、下手をすれば解読の術を既に知られている可能性もあるため、その危険を冒して白虎隊の者たちを危険に晒すことも十分あり得た。
その結果、ヘウォンは必要時以外は自身の館に籠る時間が増えてしまったのだ。
(こんなこと、俺らしくないことは分かっている…だが…)
ヘウォンはイルウォンとのやりとりを思い出し、もどかしさに思わず頭を抱えた。もうこれを何度繰り返したのか分からず、ヘウォンの苛立ちと焦燥感は増すばかりだった。
そんな時に、自室の窓際に何者かが近づいてくる気配がした。窓は暗幕が貼ってあるため、肉眼では寝台に座っているヘウォンを見ることはできないが、またイルウォンの部下が監視に来たのだろうか。
(今まで館を出ない限り近づいて来なかったのだがな…。)
一層監視の目が強くなっているのかと、ヘウォンがうんざりしていると一瞬にして視界は黒煙に覆われ、爆発音と突風がヘウォンを通り過ぎていった。
「なんだ…!?」
寝台の脇に立てかけてあった愛刀に反射的に手を伸ばす。目を凝らそうにも粉塵のために目を開けるのもやっとだ。火薬の匂いがつんとヘウォンの鼻腔を刺激する。
そして黒煙の中から足音が聞こえて来た。一歩一歩踏みしめるようにやってくる。
(あいつの部下か…いや、それにしては…)
王が死に、秩序が無くなったこの城の中ではどんなに武力に長けたヘウォンでも安全は保証されない。予想外の出来事に緊張が走る。
その上、煙幕の向こうには見知った気配がするのだ。これ以上誰かに裏切られたくないという思いから、胸が痛む。ソクジュンや今は亡き主人の亡骸が脳裏に浮かんだ。
「…何が言いたい。」
「お前が真実を言おうとすれば、白虎隊の者は私の術によって捨て駒にされるだろう。」
ヘウォンは貴族の出ではあるが、両親は早くに亡くなった上に、血のつながりが濃い親戚はほとんどいない。そして独身であるため、今まで大きな後ろ盾もなかったが、家族を利用するような取り引きに巻き込まれることもなかった。
そんなヘウォンにとって、手塩にかけて育てた部下がいる白虎隊は家族のようなものだった。また、王族を守る部隊として創られた白虎隊は隣国でも屈指の武人が所属している。捨て駒にされてはこの国にとって大きな損失だ。ヘウォンは激昂したいのを抑えるために、奥歯を食い縛る。
「悔しいが、俺には選択肢が無いようだな。」
唸るような低い声でヘウォンがそう答えると、イルウォンは勝ち誇ったような表情を浮かべた。ヘウォンはその顔を見てますます苛立つ。手を伸ばせば届く距離に、己の主人を殺した張本人がいるというのに、手出しもできず、言いなりになる__________。この国で最強の武将とも言われるヘウォンにとって屈辱以外の何物でもなかった。
「ではこれから私のすることに余計な口出しはしないでいただこう。そうすればお前も部下の身も保証してやる。」
これは先程脅してきた内容と大差ないように聴こえるが、イルウォンが今後起こす行動に、歯向かう術を全て失うということだ。追加の条件を要求してきたようなものである。こうして脅されてしまった状況ではどうすることもできない。
「…ああ」
絞り出すように返事をすると、イルウォンは満足そうな笑みを見せた。そして彼は指を鳴らす。すると、どこからともなく2人の男が現れた。彼らは夏だというのに黒い外套を深く被っている。そのため、何者なのかは全く判別がつかなかった。
「この者たちの死体を処理しろ。前王は埋葬の行事があるから丁重にな」
「はい」
「…おい。」
イルウォンの部下が王に触れようとした瞬間、ヘウォンは反射的にどすの効いた声で呼びかける。イルウォンの部下は伸ばした手をびくりと止めた。
「王は俺に運ばせろ。」
黒い外套の男たちはちらちらとイルウォンを伺うようにしている。それを見てイルウォンはため息をついた。
「しょうがないですね。それが終わったら大人しくしてもらいますよ。」
冷たく横たわる主人に近づき、抱え上げる。筋が脱力しきった感触が伝わり、それとともに悲しみが込み上げてきた。
「さらばだ、我が王よ」
ヘウォンはそう聞こえるはずもない別れの言葉を、囁いたのだった________。
その後はヘウォンは己の館を出る度に何者かがこっそりと後をつけてくるようになった。白虎隊の訓練も、白虎隊の長として城のあちこちに出向く時も、姿は現さないもののどこからともなく視線を感じる。
挙げ句の果てにはヘウォンが文を保管している引き出しを漁った痕跡まであった。おそらく監視していることを主張するためにわざと残されたものだろう。これでは誰かに真実を伝えることも難しい。隊独自の暗号を用いたやり取りも、下手をすれば解読の術を既に知られている可能性もあるため、その危険を冒して白虎隊の者たちを危険に晒すことも十分あり得た。
その結果、ヘウォンは必要時以外は自身の館に籠る時間が増えてしまったのだ。
(こんなこと、俺らしくないことは分かっている…だが…)
ヘウォンはイルウォンとのやりとりを思い出し、もどかしさに思わず頭を抱えた。もうこれを何度繰り返したのか分からず、ヘウォンの苛立ちと焦燥感は増すばかりだった。
そんな時に、自室の窓際に何者かが近づいてくる気配がした。窓は暗幕が貼ってあるため、肉眼では寝台に座っているヘウォンを見ることはできないが、またイルウォンの部下が監視に来たのだろうか。
(今まで館を出ない限り近づいて来なかったのだがな…。)
一層監視の目が強くなっているのかと、ヘウォンがうんざりしていると一瞬にして視界は黒煙に覆われ、爆発音と突風がヘウォンを通り過ぎていった。
「なんだ…!?」
寝台の脇に立てかけてあった愛刀に反射的に手を伸ばす。目を凝らそうにも粉塵のために目を開けるのもやっとだ。火薬の匂いがつんとヘウォンの鼻腔を刺激する。
そして黒煙の中から足音が聞こえて来た。一歩一歩踏みしめるようにやってくる。
(あいつの部下か…いや、それにしては…)
王が死に、秩序が無くなったこの城の中ではどんなに武力に長けたヘウォンでも安全は保証されない。予想外の出来事に緊張が走る。
その上、煙幕の向こうには見知った気配がするのだ。これ以上誰かに裏切られたくないという思いから、胸が痛む。ソクジュンや今は亡き主人の亡骸が脳裏に浮かんだ。
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