華の剣士

小夜時雨

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形単影隻

仲間 參

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「そうねぇ…。私も最初はただの言い伝えだと思ってたわよ。でもね、自分が普通とは違うことを自覚してから龍の姿に変化できるようになった…。流石に信じない訳にはいかないでしょう?あなたに私の変化した姿をみせれば手っ取り早いんでしょうけど、ここで変化してもねぇ…」

 ちらりとムニルが貴族風の青年に目配せする。彼が慌てて手を振って駄目だという合図を送っていた。

(そんなに変化したらまずいもんになるのか…?)

 自身もそのような姿になるのでは、という不安を感じる一方、ムニルがどのような姿になるのか、ほんの少し興味が生まれた。白虎が色んな感情がないまぜになり、黙り込んでしまった。

「…まぁまぁ、色々あったんだし、急に情報詰め込んでも混乱するだけよ。この事はまたおいおい話しましょう。」

 白虎の様子を見て悟ったのか、ムニルは白虎の肩に手をおき、あやすような声で告げた。白虎は黙ったまま首肯く。何もかもが変わってしまった今、とりあえずは流れに身を任せるしか術はない。そう思うと、考えすぎて混乱していた脳内は幾分か落ち着いた。
 その時、貴族風の青年がこちらを振り返りびくりと反応してしまう。

「そうだ、あんた名前は?」
(名前か…)

 もう何年も己の名前を呼ぶ者は現れなかった。皆あいつだとか、奴などと呼ぶため、己の名前が何であったのか自信が持てない。しかし、孤児院の楽しかった頃のこと、そして院長が己の頭を優しく撫でたあの手の温かさ、そして撫でながら優しい声で名前を呼ばれた時のことを思い出した。

「…ソリャ。」

と白虎は遠い記憶を噛みしめるように、静かに、答える。久々に聞いた自身の名前は、どこか懐かしい。

(そうだ、俺はソリャだ…)

 ソリャはずっと大切なものを何か見失っていたような気がした。
 街の人々に疎まれ、人の目を避けるようにして生活し、自分はどこに行けば良いのか分からず、途方に暮れてその街に留まり続けた。そうして行くうちに、己が人であるのか、人ならざるものなのかも分からなくなった。しかし、本当は一人の人として接してほしいと願い続けていたのだ。

(俺のことを人間だって言ってくれる奴がいるわけねぇとずっと考えてた。いつの間にか俺自身も俺を化け物扱いしてたな。)

 ソリャはずっと大切なことを見落としていたような気がした。
 まだここにいる者が何者なのかも、これからどうして行くのかも全く見当がつかない。しかし、この大切なことを忘れずに過ごしていけば、今までよりも己が望むように過ごすことができると言う予感がしているのだった。
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